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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部3章

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(3)ご挨拶

 セイヤたちは、キティ、イアンと知り合った翌日には、予定通りに王都に着いていた。
 そして、屋敷の前ではいつもの通りにリザを始めとした家人たちが揃っている。
 そこまではセイヤの予想通りだったのだが、ひとつだけ予想外のことがあったのだ。
「久しぶりですね、セイヤ」
 セイヤに向かってそう言いながら、これぞ淑女としてのお手本! といった感じで頭を下げて来たのは、クリステルだった。
 その隣では、姉のエリーナが苦笑しながら立っていた。
 ちなみに、呼び捨てになっているのは、何度目かの領地の屋敷への遊びに来たときに、お互いにそうするように約束させられていた。
 もっとも、セイヤの側は、未だになれていなかったりする。
「これはお久しぶりです、クリステルさ……っ」
 危うく「様」付けそうになったセイヤだったが、一瞬だけクリステルから睨まれそうな雰囲気を感じて慌てて口を閉じた。

 下げていた頭を上げたセイヤは、なぜこの場にクリステルがいるのかと周囲を見回した。
 だが、一番理由がわかっていそうなエリーナはセイヤの視線を受けてついと顔を逸らして役に立ちそうにない。
 家人の中で一番立場が上のリザは、無表情でその場に立っている。
 ただ、これまで何度もやりあって来たセイヤには、その顔が苦虫を噛み潰したような顔を押し殺している状態だということが分かった。
 それを見れば、リザにとってもエリーナの訪問が予定外だったことは理解できる。

 これは自分から聞かなければ駄目かと判断したセイヤは、クリステルを見ながら聞いた。
「クリステル、なぜここにいるのでしょうか?」
 本来であれば、エリーナも含めて学園に行っていなければいけない時間のはずなのだ。
「あら。それはセイヤも知っているのではありませんか? 最終学年は、単位さえ取れていれば、行動は自由なのですよ?」
「それはそうなのですが……」
 流石にそのことはセイヤも知っている。
 そういう制度があるからこそ、アーロンはその年に自由な旅に出る事ができたのだ。

 リーゼラン王国の学園は、前世の記憶があるセイヤにとっては不可思議な制度を取っている。
 新入学の学生は、春の決められた日に試験を受けて、夏の初めに正式に入学をする。
 そして、その直後に最終学年の卒業式がある。
 卒業式の段階で単位が足りていない学生は、その後で残って単位を取得するのだ。
 勿論、無事に単位が取れている学生は、アーロンのように自由に活動することが出来る。
 余談だが、最終学年の冬を超えても単位が取れなかった場合は、はれて留年ということになる。

 セイヤが知りたかったのは、なぜこの場にクリステルがいるのかということだったのだが、見事に聞きたかったものとは別の答えが返ってきた。
 もう一度理由を聞こうかと考えたセイヤだったが、敢えてこの場で聞くことは諦めた。
 その代わりに、あいさつ代わりに貴族たちが良く使う手段で、お茶を濁すことにした。
「それにしても、クリステルはまた美人度が上がったのではないでしょうか?」
 実際、この年に成人を迎えるクリステルは、女性らしさが増して色気さえ感じるようになってきた。
 セイヤにとっては神秘性を感じるオッドアイの瞳も、それに一役買っている。
「そっ!? ……い、いきなり何を言うのですか!!」
 セイヤの所謂おべんちゃらに、なぜかクリステルが顔を赤くしながら大きく反応した。

 クリステルがそんなに反応するとは思っていなかったセイヤが慌てるほどだ。
「え、えーと?」
 セイヤが、困ったような顔でエリーナを見ると、やれやれという感じでクリステルの肩をポンと叩いた。
「クリス、そんな反応を返しても、セイヤは困るだけよ?」
 エリーナがそう言うと効果は劇的で、クリステルはピタリと口を閉じた。
 エリーナは、それを確認してからさらに続ける。
「積もる話もあるだろうから、ここから先は部屋に戻ってからにしましょうね」
 そのエリーナの言葉に反対する者はおらず、少し長かった外での挨拶はそこで幕を閉じるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 屋敷に入ったセイヤは、落ち着く暇もなくエリーナの招待を受けて、彼女の部屋へと向かった。
 勿論、庭先での会話の続きを落ち着いて行うためだ。
「失礼します、姉上」
 訪ねる場所がエリーナの私室ということで、堅苦しい挨拶は抜きだ。
 部屋にはクリステルもいるのだが、そもそも敬称を省略する約束をさせられたときに、そういう形式めいたことは抜きにすると言われているので失礼には当たらない。

 セイヤが椅子に腰かけると、待ってましたとばかりにクリステルから話しかけて来た。
「それで、セイヤ。なぜ私が、あなたの到着を待ち構えているのか、でしたね?」
「はい。そうです」
 クリステルからその話題を振られたことに多少驚きつつ、セイヤは素直に頷いた。
 セイヤにとっては一番知りたかったことは、そのことなのだ。

 頷くセイヤを見ながら、クリステルはなんということはないという様子でこう言ってきた。
「簡単なことです。貴方に唾をつけておくためですよ」
「はあ……って、えっ!?」
 あまりにも堂々と言われたので、一瞬聞き逃すところだったセイヤだったが、言葉の意味を理解して呆けたような顔になった。

 そのセイヤの顔を見たクリステルとエリーナは、揃ってクスクスと笑い出した。
「セイヤもそんな顔ができるのね」
「珍しい顔のセイヤが見れて、私も満足です」
 いたずらが成功したような顔になっている二人を見て、セイヤは思わずため息をついてしまった。
「お二人とも。そういう冗談は、心臓に悪すぎですよ?」
 そんなことを言いながら、呆れたような顔になっているセイヤだったが、すぐにクリステルは首を左右に振った。
「あら。唾つけ云々は、冗談ではありませんよ?」
「えっ!?」
 真顔になってそう言ってきたクリステルに、セイヤはもう一度驚きの顔になった。
 今のクリステルは、本当に冗談を言っているようには見えなかったのだ。

 困ったような顔になったセイヤは、そろっとエリーナを見たが、なぜか姉も助けてくれる様子はなかった。
 それどころか、ため息をついて言った。
「セイヤ。いい加減、現実逃避をするのはお止めなさい。そもそも領地の屋敷に来るたびに、あれだけセイヤのことを構っていたクリスが、何も思っていないはずがないでしょう?」
「そうですよね」
 エリーナの言葉に、クリステルが同意するようにウンウンと頷いている。
「いや、それは、そう……なのですか?」
 よくわからないという顔で首を傾げたセイヤに、エリーナとクリステルは顔を見合わせてから同時にため息をついた。
 その顔は、鈍いにもほどがあるとはっきりと語っていた。

「そうなのよ。……まったく。これはやっぱり、計画通りに事を進めるしかなさそうね」
「あら。ようやくエリーナもやる気になってくれたようで、私も嬉しいです」
 なぜかクリステルの「やるき」が「殺る気」に聞こえたセイヤは、椅子に座ったまま身震いをした。
「え、えっと、姉上。何やら不穏な感じがするのですが?」
「仕方ないでしょう。このままセイヤを学園に入学させてしまったら、間違いなく道を踏み外してしまうわ。しかも、悪い方に」
 そう言ったエレーナの言葉の意味が分からずにセイヤは首を傾げたが、クリステルは同意するように頷いている。

 ただ何故かこのときのセイヤは、どうにも自分の力では逃れられない話に巻き込まれたのだと直感するのであった。
あ、あれ? おかしいですぞ?
やんちゃな少女だったクリステルは、セイヤに恋い焦がれるうちにおしとやかな美しい女性に変貌を遂げる、はずだったのですが……。
なぜか、肉食系に変わっていました。

ちなみに、なぜクリステルとエレーナがこんなことを言い始めたのかは次話できちんと語ります。
クリステルが肉食系になったのには、ちゃんとした(?)理由がありますので、ご安心(?)くださいw
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