挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部2章

66/177

(10)巫女捜しのために?

 神殿長から巫女候補一覧を得ることが出来たセイヤは、アーロンの部屋で候補者らしき名前を見ていた。
 だが、その候補の多さに、早々に音を上げてしまった。
「…………駄目ですね、これは。範囲が無駄に広い上に、書き出すにしては数が多すぎます」
「……セイヤ。出来ることなら、その現実から目を背けておきたかったよ」
 アーロンとしては自分の将来に関わることなので、たとえどんなに時間がかかったとしてもやり遂げなければならない。
 ただ、セイヤが言った通り、現実的に考えれば、これだけの人数の中から一人だけを絞り込むなど不可能に近い。
 そもそも、本当にこの資料の中に存在しているのかも分からないのだから、希望が見えないというのはこういうことをいうのだろうと、アーロンは実感していたところだった。
 次期領主だからという義務感だけで資料と相対していたのだが、セイヤの今の言葉で、一気にやる気がそがれてしまった。

 とはいえ、アーロンとしては、今更巫女捜しを放り出すわけにはいかない。
「だからといって、このままやめるわけにはいかないよ。それとも、セイヤには何かいい考えが浮かんでいるのかい?」
「いえ。今のところ思いつきませんね」
 きっぱりとそう答えて来たセイヤに、アーロンはジト目を向けた。
 知識も戦闘力も飛び向けているセイヤだが、自分の興味の向かないときには、怠惰な性格になることはよく知っているのだ。

 セイヤの言葉と態度から、このままでは駄目だと判断したアーロンは、矛先を別の方向に向けてみることにした。
「そうはいっても、例の方は急ぐように言っているのだろう?」
 ここでアーロンが言った「例の方」というのは、リムセルマ神のことではない。
 アーロンは既に、セイヤとリムセルマの会話からさらに上位の神がいるということを察していた。
 そんな存在がいることは、この世界では知られていないことなのだが、実際に神を目の当たりにしているアーロンにとってみれば、今更という感覚だった。
 しかも、リムセルマ神と相対するだけでも震えあがるような威圧感があるというのに、それよりも上位の存在の意向に逆らうことなど考えたくもない。
 アーロンにしてみれば、セイヤがこれほどまでにゆったりと構えていられるほうが不思議なのだ。

 そんなアーロンの焦りなどどこ吹く風で、セイヤがゆったりとした口調で答えて来た。
「それはそうなんですが。あの方にしてみれば、一年や二年なんて、誤差の範囲内ですよ?」
「そうなのかい? ……ん? 一年や二年?」
 セイヤの台詞に納得しかけたアーロンだったが、途中で聞き逃せない言葉があることに気が付いた。
「いや、一年や二年も経ってしまったら、駄目だろう?」
「そんなことはないですよ。それこそ世界の初めからいるような神ですから……」
 首を振りながらそう言ってきたセイヤを、アーロンは手を振りながら止めた。

 そんなアーロンをセイヤは不思議そうな顔で見た。
「……兄上?」
「そうではなくて。一年や二年も経ってしまっては、セイヤが学園に行ってしまって、領地でまともに動ける時間は限られるだろう?」
「……え? 週末ごとには帰って来るつもりでしたが?」
「……え?」
 セイヤの返答に、アーロンはぽかんとした表情になってしまった。
 ちなみに、セイヤも同じような表情を浮かべている。

 アーロンは、自分たちの間に認識の齟齬があることがここでようやくわかった。
「いや、セイヤ。王都と領地の間を一週間ごとに行き来するのは、どう考えても無理だろう? それに、いくら成績優秀で授業が免除されても、長い期間学園を不在にするのは許されないよ?」
 学園のルールをよくわかっていないと考えてのアーロンの説明だったが、残念ながらその程度のことはセイヤも知っている。
 古い物にはなるが、マグスやシェリルが通っていた時の学園規則は、既に確認しているのだ。
 そして、だからこそセイヤは、アーロンがとある事実を知らないことに、今更ながらに気が付いた。
「いえ、そういうことではなくて。魔法を使えば、王都からこの屋敷への転移も可能なのですが?」
「………………へ?」
 セイヤの言葉に、アーロンは思わず間の抜けた答えを返してしまうのであった。

 アーロンは既に、セイヤが瞬間移動のような転移魔法を使えることを知っている。
 何しろ、戻ってきてから何度か行った模擬戦のときに、実戦例として使われているのだ。
 それを目の当たりにした時には、反則技すぎるだろうと、思わず悲鳴のような抗議の声を上げてしまった。
 だからこそしっかりと覚えていたのだが、だからといって、まさか王都と領地の屋敷を行き来できるような魔法まで使えるとは考えてもいなかった。

 アーロンとしては、セイヤなしで巫女捜しをするのは骨が折れると考えていたからこそ、学園に行く前に見つけてしまおうしていたのだ。
 だが、長距離転移を使って、週末ごとに領地に戻って来れるのであれば、なんの問題もない。
 時間的制約が大幅に改善されたとわかったアーロンは、気の抜けたような顔になった。
「……そういうこと。だったら、別にそこまで急がなくてもいいか」
 そんなことを言ってきたアーロンに、今度はセイヤがジト目を向けた。
「兄上。安心するのは構いませんが、早くご令嬢との話を進めてくださいね。主にそっちが原因で、やり辛くなっているのですから」
「ウグッ!? ……それは、まあ、わかっているよ」
 セイヤからの突っ込みに、アーロンは視線を逸らしながらそう答えた。

 巫女は、代々領主のお相手として、第○夫人の座に収まっていることがほとんどだ。
 それは、頻繁に巫女とのやり取りが発生して、対外的にごまかすためにも必要な措置なのだ。
 なんだかんだ言いつつ、ずっと一緒にいることになる相手の相性が悪いはずもなく、収まるところに収まっているという話でもあるのだが。
 だからこそアーロンには、早く婚約話を進めてもらわなくては困るのだ。
 何しろ、正式に結婚が決まる前に、その娘以外の女性と頻繁に会っていたとなっては、あとから当人同士で解決をしたとしても、外聞的には非常によろしくない。
 そうした意味で、セイヤが言っていることは、限りなく正しいのだ。

 この件に関しては、アーロンは非常に分が悪いので、セイヤに言えることはなにもない。
 セイヤもそれがわかっているので、それ以上は突っ込まなかった。
「というわけですから、巫女捜しは、さほど焦って行う必要はありません。勿論、前に進めていく必要はありますが」
 さすがにリムセルマ神にも宣言している以上、何もせずにほっぽり出すわけにはいかない。
 そのくらいのことは、セイヤにも十分わかっている。

 セイヤの言葉に頷いたアーロンは、少しだけホッとした様子でため息をついた。
「それはそうだね。……そうか。セイヤが領地に頻繁に戻ってこれるのであれば、そこまで焦る必要なないか。それにしても大丈夫なのかい?」
「なにがでしょう?」
 唐突なアーロンの話題転換について行けず、セイヤは首を傾げた。
「いや、そんな魔法を週末ごとに使って」
「ああ、そのことですか。特に心配いりませんよ。長距離転移は、今でも頻繁に使っていますから」
 『旭日』の遠征のときには、セイヤも長距離転移を使いながら時折顔を出しているので、問題が起きないことは分かっている。
 だからこそ、週末ごとに戻って来るなんていう選択肢が取れるのだ。

 セイヤの言葉に納得の表情になったアーロンだったが、ふと不思議そうな顔になった。
「それにしても、わざわざ巫女捜しのために戻って来るのかい?」
「そんなわけがないでしょう? マリーに泣かれたので、魔法を教えるために戻って来るのですよ」
「ああ、そういうこと」
 きっぱりと、はっきりと言い切ったセイヤに、アーロンは半分呆れ、半分は納得の表情になるのであった。
ここで「巫女捜しのためじゃないのか」と突っ込まないアーロンも、マリーにはそれなりに毒されて(?)いますw
というわけで、巫女捜しは引き延ばし作戦。
実際問題、文様は多くの人が得ているので、一月やそこらで探し出すのは不可能です。
それよりは、マグスとアネッサのときのように、自然に出会うまで待った方がいいと、セイヤは考えています。
(マグスやアーロンは別)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ