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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部2章

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(9)巫女の条件

 地下(?)にある女神の祭壇から戻ってきたセイヤとアーロンを見て、マグスは首を傾げた。
 アーロンが無に近い表情になっているのはともかく、それを見ているセイヤがにやけた表情になっているのだ。
「どうした? 助言はもらえなかったのか?」
 セイヤの顔からそれはないだろうなと思いつつ、マグスはそう聞いた。
 そのマグスに、セイヤはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、話し始めた。
「それはないですよ、父上。リムセルマ様は、きちんと話してくださいました。それが、ですね……」
「ちょっ。マテ、セイヤ!」
 喜び勇んで話そうとするセイヤを、アーロンはなぜだか慌てて止めようとする。

 相変わらず意味が分からないマグスは、そのアーロンを無視して、セイヤを見た。
 ことは領地の将来に関わることだけに、きちんと事情は知っておいたほうが良い。
 アーロンが何を嫌がっているのかは分からないが、この際当人の感情はほとんど関係ない。

 マグスに視線を向けられたセイヤは、笑顔のまま頷いた。
「父上の巫女に当たる者が誰だったかは、既にご存知でしょう?」
 マグスの巫女は、今はセイヤになっているが、生まれる前は母親であるアネッサだった。
 そのことは既にリムセルマから話を聞いていたので、マグスはすぐにその名前を出そうとした。
 だが、その前にマグスは、脳裏にとある予感がひらめいた。

 もう一度、セイヤとアーロンの様子を見たマグスは、その予感(想像ともいう)が正しいことを悟った。
「ああ、なるほど。そういうことか」
 マグスがそう言いながら楽しそうな笑みを浮かべた瞬間、アーロンは絶望の表情になった。
「確かに、アーロンと相手方からは打診を受けているが、その娘がそうなのか?」
「ああ、いいえ。恐らく父上が考えている方とは違うと思いますよ。その方は別の領地の貴族ですよね?」
「それはそうだが?」
 セイヤの言葉に、マグスは首を傾げた。

 先ほどからマグスが話をしているのは、アーロンが結婚を打診してきた侯爵家の令嬢のことだ。
 早い話が、将来の領主の巫女となる存在は、ほぼ例外なしにそういう関係になっているのである。
 勿論、長い歴史の間には、その例外が発生していることもある。
 ただし、アーロンに限って言えば、リムセルマがはっきりと断言をしたというわけだ。

 マグスの様子を見て、セイヤが付け加えるように説明をした。
「私はその女性の方を知りませんが、恐らくリムセルマ様の文様は持っていらっしゃらないのではないでしょうか? 領地に深い関係が無いと付かないそうですから」
「むっ。……確かにその可能性は高いな」
 勿論、領地外の貴族だからといって、リムセルマの文様を持っていないとは一概には言えない。
 だが、その女性が文様を持っている場合は、基本的にはその領地に関係する文様か、ヘムクトリーゼの文様を持っているはずなのだ。
 このことから、アーロンの巫女となる条件は、リムセルマの文様を持っていることが必須なので、そのお相手が巫女である可能性は限りなく低いと考えられる。

 マグスが十分に理解できたのを見て取ったセイヤは、ことさらに笑顔を浮かべて言った。
「というわけで、アーロン兄上は、これから別の女性を探さなければいけないわけです」
「そういうことか。納得した。これに関しては私も反対はしない。存分に探すといい」
 基本的に貴族の結婚は、当主の了承を得て行われる。
 場合によってはそこが一番の障害になるのだが、マグスからのお墨付きを得ている今回は、なんの問題もなく探し出せる。
 もっとも、巫女捜しは領地運営に大きく関わってくるので、マグスが反対することはほとんど考えられないのだが。

 マグスのその宣言に、能面のような表情になっていたアーロンが、ようやく口を挟んできた。
「父上。それからセイヤも。……いい加減、私をからかうのは止めてもらえないかな?」
「いやいや。別にからかっているわけではないぞ? 領地の大事だからな」
「そうですよ。別に兄上が、既に決まっているお相手に対して、気が引けているなんてことはまったく考えていません」
 言葉とは裏腹の表情を浮かべているセイヤとマグスに、アーロンは顔に手を当てて大きくため息をついた。

 そのアーロンを見て小さく笑い声を上げたマグスだったが、すぐに真面目な表情になった。
「巫女捜しに関しては、領地の大事であることは間違いない。こればかりは領主として譲ることは出来ないからな? それに、アーロンの場合は、事情が事情だからな」
 領主の顔になってそう言ったマグスに、アーロンも渋々ながら頷いた。
 アーロンも自分の巫女を探すことが領地の将来を左右することは十分にわかっているのだ。
 問題なのは、そのことを心に決めている相手に話すことが出来ないということだ。

 苦悩するアーロンを見ながら、今度はセイヤが止めを刺した。
「どうするかは兄上次第です。私としては先送りしても構わないと思いますよ?」
「…………そんなことは出来ないと知っていて、わざと言っているだろう?」
 軽い調子で言ってきたセイヤに、アーロンはジト目を向けながらもう一度大きなため息をつくのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 巫女と将来どうこうなるかどうかは、見事に棚に上げたアーロンは、フェイルの街の神殿長に話をしに行った。
 以前の騒ぎでマグスの手が入っている神殿長は、反抗的な(?)態度を示すことなく、すぐに本題に入ってきた。
「巫女に関しては、私も話を聞いております。ただ、私どもでもまだアーロン様の巫女は見つけておらず…………」
「ああ、誤解なさらないでください。貴方たちが、私の巫女を見つけたとは考えていませんから」
 アーロンのその返答に、神殿長はキョトンとした表情になった。
「と、申しますと?」
 成人の儀も終えて、これからいよいよ次代の領主として動き始めるアーロンだからこそ、神殿長は巫女を求めてやってきたと考えていたのだ。
 だからこそ、アーロンが言った言葉の意味がわからなかったのだ。

 首を傾げる神殿長に、アーロンは頷きながら続けた。
「私が知りたいのは、そちらで把握しているであろう文様の取得者の情報です」
「文様、ですか」
 洗礼の儀にしろ成人の儀にしろ、取り仕切っているのは教会になる。
 貴族の子弟に関する情報はともかく、平民の情報を確実に持っているのはそれぞれの地の神殿なのだ。
 とくに今回はリムセルマの文様の情報が欲しいので、一番詳しいのはフェイルの街の神殿ということになる。

 事情を詳しく話したアーロンに、神殿長は頷きを返した。
「そういうことでしたか。それでしたら確かに私どもが情報を持っておりますね。……少々お待ちください」
 神殿長は一言断ってから、セイヤとアーロンがいる部屋を出て行った。
 誰がどの文様を得たかまでは教会も把握はしていないのだが、文様を持ったかどうかまでは儀式のときの様子でわかる。
 その情報を記した書類を取りに行ったのだ。

 神殿長から書類を受け取ったアーロンは、写しを終えたあとですぐに返すことを約束してその場を辞した。
 当然ながらセイヤもその後について行ったのだが、書類を確認して思った以上に対象者が多かったことに驚いた。
 まあ、その書類に書かれている者は、これまでのすべての文様取得者が載っているのだから当然かもしれない。
 そしてアーロンは、その書類を見て、この先に気が遠くなりそうな作業が待っていることを理解して、大きくため息をつくのであった。
巫女捜し開始!
……の、前に、アーロンをからかいました。

神殿に資料を取りに行ったセイヤたちですが、意味はほとんどなかったといえます。
その理由は、次話で。
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