挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部1章

6/177

(5)父と子の話し合い(前)

本日四話更新の一話目です。
 屋敷についたマグスは、すぐにセイヤを呼び出した。
 ただし、セイヤが外出着から室内着へと着替える時間は与えてある。
 貴族である以上、体面は必要なので、外出着と室内着は完全に別れている。
 ちなみに、マグス自身はこのあとも執務が控えているので、外出着のままだ。
 現に今も机の上にある書類を処理している。
 そして、ちょうど区切りのいいところで、執務室のドアがノックされる音が聞こえて来た。
「父上、来たよ~」
 馬車の中とは全く違う、普段通りの声の調子に苦笑しつつマグスはセイヤに入室の許可を出した。
「入りなさい」
 マグスがそう声を掛けると、ドアが開いてセイヤが室内に入ってきた。

 そのセイヤの態度は、どこからどう見てもいつものセイヤで、先ほどのセイヤは幻であったのではないかと錯覚するほどだった。
 だが、だからといって、それで油断するほどマグスは落ちぶれていない。
 先ほどのセイヤは、無理をしたものではなく、ごく自然に板についているように感じられた。
 そのことを今までセイヤは家族に隠し通してきたのだ。
 油断できる相手ではないことは、それだけでも分かる。

 ただ、それでもやはり先ほどとの違いで違和感がありすぎて、マグスは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「…………セイヤ?」
 そんなマグスに対して、セイヤは子供らしからぬ苦笑を浮かべた。
「父上、とまどうのはわかるけれど、どっちが本質かといわれれば、やっぱりこっちのほうだと思うんだよね。なにしろ、楽だし」
 二パッと笑顔になってそう言ったセイヤに、マグスは頭痛をこらえるようにこめかみを抑えた。
「……そうか。それで? 話してくれるのか?」
「それは勿論。約束したしね。ただ、うーん……。どこから話したほうがいいかなあ」
 もうすでにすべてのことを話す覚悟をしているセイヤだったが、一体どう話したものかと頭を悩ませた。

 しばらく悩んだセイヤは、戸惑うマグスを見て、そもそもの根本から話すことにした。
「父上。僕は転生者なんだよね」
「………………なんだと?」
 セイヤの言葉に十秒ほど固まっていたマグスは、絞り出すように声を出した。
「だから、転生者。前世の記憶持ち」
 この世界にも一応、転生という言葉は存在している。
 ただし、それは当然物語の中であって、実際にそんなことを言おうものなら精神異常者かよくて白い目で見られることになる。

 当然、疑うような視線を向けて来たマグスに、セイヤは肩をすくめた。
「信じる信じないは父上に任せるけれど、これを信じてくれないと、先に進めないんだよね。なにしろこれが大前提だから」
「……よかろう。とりあえず真実だと仮定して話を進めようか」
 そのマグスの言葉を聞いたセイヤは、上手い言い方だと思った。
 信じ切れていないものを信じているといわれても心には響かないが、そう言われれば前向きに話を聞いてくれると理解できる。
 さすがに若くして辺境伯をやっていると、セイヤはそう考えていた。

 マグスの言葉に頷いたセイヤは、さらに話を進めた。
「というわけで、前世の記憶を持って生まれた僕は、それこそ生まれたときからあること(・・・・)をやっていたんだよね」
「生まれたときからって、お前……。それに、あること、だと?」
 マグスにとっては、少なくとも神殿に行く前のセイヤはごく普通の子供でしかなかった。
 隠れてなにかをやっていた気配はまったく感じていなかったので、驚いていた。

 当然マグスが気付いていなかったのにはわけがある。
「だって、室内で出来ることだから。侍女さえそばにいなければ、いくらでもできるからね。…………ウーン。違和感が凄いな」
 神と話して昔の記憶のことを刺激されたからか、それとも先ほど馬車の中で敬語を使ったからか、いつもの口調で話すと変な違和感がある。
 息子セイヤの言葉に納得しかけたマグスだったが、いきなり顔をしかめて首を振り始めたのを見て首を傾げた。
「どうした?」
「いや、なにか、さっきの会話で敬語を使ったせいか、口調が安定しなくて……父上、敬語で話していいですか? 一番これがしっくりきます」
「それは、まあ、構わないが……そこまで違和感はひどいのか?」
 心配そうな顔で見てくるマグスに、セイヤはちょこんと首を傾げた。
「先ほどの会話で、体面を気にした話し方をしたお陰か、どうにも大人だった時の感覚が一気に出て来たみたいです。といっても、物理的に体に何かがあるわけではないので、心配しないでください」
「そうか。わかった」
 セイヤの説明に、マグスはホッとした表情を浮かべて頷いた。

 少しだけ父親の顔を見せたマグスは、すぐに領主としての顔に戻った。
「それで? あることとはなんだ?」
「んー。そのことを説明する前に、話を先に進めさせてください。そのほうがきっと理解できると思います」
 一度言葉を区切ったセイヤに、マグスは話を進めるように手で促した。
「とにかく、ほかにはばれないように五年間そんなことを続けて、先ほど洗礼を迎えたわけですが、そこで神と出会いました」
 なるべくあっさりと受け止められるように気をつけて言ったセイヤだったが、その努力虚しく、マグスはその場でカチリと固まった。
 先ほどの転生者云々の比でなはい。

 そもそもこの世界においては、土地神のようにそれぞれの国で神が信仰されている。
 何故だかはわからないが、神に特定の名はなく、ただ「神」と呼ばれているだけだ。
 そのため実際には、本当にそれぞれの国で信仰されている神が別の存在なのか、それとも同じ存在なのかは全くわかっていない。
 実際に神と出会ったセイヤの感覚では、この国で信仰されている神と、神殿で出会った神とは別の存在ではないかと考えている。
 もっといえば、セイヤの前に現れた神は、土地神(?)よりも上位に位置する神だとも思っていた。
 ただし、こればかりは説明を求められても答えようがない。
 あのとき、神を前にしてそう直感してしまったので、言葉での説明などできるはずもない。

 固まるマグスの前で、のんびりとそんなことを考えていたセイヤだったが、いい加減飽きたのでマグスを正気に戻すことにした。
「父上、そろそろ戻ってきてもらってもいいですか?」
「はっ!? う、うむ。すまなかった」
 なんとか取り繕うように答えたマグスは、なんともいえない顔になって額に手を当てた。
「よりによって神か……。証拠は? と聞いても無駄なんだろうな」
 いくらなんでもそんなものはないだろうと考えてのマグスの言葉だったが、セイヤは首を左右に振った。
「一応それらしいものはありますよ?」
「…………なんだと?」
「あのとき、神に拝謁したときに、なにか道具を預かっています。何に使うための物なのかは、まだ試していませんが」
 神殿から出てすぐにマグスとの話し合いになったので、神から受け取った道具を使ってみるタイミングは一度もなかった。

 セイヤが差し出した腕輪(のようなもの)を受け取ろうとしたマグスだったが、触れるか触れないかのところでバチッと音がして思わず手をひっこめた。
 まるで静電気に触れたときのように、若干手にしびれがある。
「あら。防犯対策もされていましたか。大丈夫ですか、父上? すみません。こんな機能があるとは知りませんでした」
「いや。突然呼び出したのは私た。お前が知らなくても無理はないだろう。謝る必要はない」
 神殿を出てからここまでの間に、神から貰った道具を調べる余裕がなかったことはマグスも知っている。
 そのため、頭を下げて謝るセイヤに、マグスは首を振ってそう答えるのであった。
さっさとぶっちゃけました。
ちなみに、この時点でのマグスは、半信半疑といったところです。

次話更新は本日の12時です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ