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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部2章

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(3)事前調査と今後のこと

 セイヤが情報を仕入れた翌日の昼頃には、フェイルの街の関係者、すなわちきっちりと情報を仕入れる傭兵や領主の騎士たちに、グレイトウルフの情報が出回ることとなった。
 その要因としては、深夜から翌朝にかけて街に帰ってきた傭兵たちの証言がある。
 一組だけの傭兵の言葉であればまだわからなかったが、複数の傭兵の目撃情報が上がれば、噂として広まるのは当然だろう。
 ただし、噂が広まったといっても、その範囲は街の防衛を担うことになる者たちの間だけだった。
 理由は簡単で、そうした者たちは、基本的に噂で街がパニックになることをよく知っているのだ。
 だからこそ、きっちりとした対応策が出来るか、結果が出るまでは余計な話はしないのだ。
 勿論、傭兵の中には、自分の価値を高めると勘違いをして吹聴をする者もいるが、そうした者の言動は信用されないのが常である。
 結果として、グレイトウルフの噂は、必要なところに静かに、そして確実に広まっていた。

 街に噂が広まっていた頃。
 『旭日』のメンバーは、セイヤの指示通りに森へと向かうための準備を進めていた。
 噂によれば、一日がかりで行くような場所ではなさそうだが、何があるかわからないので、きちんと野営の準備もしておく。
 とはいえ、準備自体は半日もかからずに終わっていた。
 あとはセイヤからの指示待ちという状態になっていた。

 そして、当のセイヤが何をしていたかといえば……。
「全部で十五体ですか。それなりの大所帯ですね。街に直接向かう雰囲気はなさそうですが……」
 魔法を使って空に浮かびながら、グレイトウルフの調査を行っていた。
 確実な情報を手に入れるために自ら出張ってきた形だ。
「まあ、とりあえず彼らであればよほどのことが無い限りは討伐できますか」
 グレイトウルフの動きを見ていたセイヤは、そう結論付けてその場から姿を消した。
 使ったのは転移魔法で、向かったのは勿論、『旭日』のメンバーが待っているはずの拠点である。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

「あ、兄貴! どうだった?」
 転移魔法で姿を現したセイヤを見て、アヒムは驚きもせずにそう問いかけて来た。
 アヒムたちは、セイヤが転移魔法を使うのを見るのは、これが初めてではないのだ。
 さらに、セイヤがグレイトウルフの偵察に行くことも事前に聞いていた。
「問題ありません。貴方たちであれば討伐は可能でしょう」
「と、いうことは?」
 僅かに緊張を漂わせた顔をしてそう聞いてきたサイラスを見て、セイヤは小さく頷いた。
「今すぐに出発してもらいます。準備は終わっていますね?」
 セイヤがそう問いかけると、メンバー全員が緊張した面持ちで頷いた。

 彼らのその顔を見たセイヤは、フッと笑って見せた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。いつもの通りに動けばいいだけです」
「そうはいってもよう」
 そう言いながら珍しく自信なさげな顔をするアヒムに、セイヤは首を左右に振った。
「相手が今までよりも格上だからといって、緊張で身を固くしては、倒せる相手も倒せなくなりますよ? それに、今回は私も一緒に行きますから」
「え? 兄貴も来るのか?」
 『旭日』が出来たばかりのことはともかく、ここ最近はセイヤが討伐に付いてくることはなかった。
 だからこそセイヤの言葉に、一同は驚きの顔になっていた。

 そんなメンバーに、セイヤは頷いてみせた。
「まあ、大丈夫だとは思いますが念のためです。ですから、貴方たちはいつも通り思いっきり戦えばいいのです。あと、一体や二体逃してもきっちり警備体制は整えているので、大丈夫ですよ」
 昨夜のうちにマグスに話を通しておいたのは、街の警備を整えるためだ。
 セイヤが言った通り、一体や二体のグレイトウルフが近付いてきたところで、どうこうなるわけではない。

 万全の体制が整えられていることを知った一同の表情は、先ほどとは違って、緊張がほぐれたものになっていた。
 そんな彼らに、セイヤがさらに追い打ちをかけた。
「それから外気法の使用も許可します。好きなように使ってください。まあ、森の中なので、出来れば火系統は押さえてほしいですが」
 セイヤがそう付け加えると、一同の顔が驚きのものになった。
 その彼らを代表して、シェリーが問いかけて来た。
「いいのですか? 私たちが出れば、付いてくる者もいると思うのですが?」
 『旭日』がグレイトウルフの討伐に向けて準備をしていたことは、すでに街に広まっているだろう。
 彼らが討伐に向かえば、おこぼれを狙って付いてくる者もいるかもしれない。
 そうした者たちに魔法を見られてもいいのかという意味での問いかけだった。

 シェリーの問いかけに、セイヤははっきりと頷いた。
「ええ。構いません。むしろ、そろそろ魔法を使っての戦闘に慣れなくてはなりませんからね。今回はちょうどいいタイミングです」
 実はそれ以外にも目的はあるが、この場では言わなかった。
 それよりもセイヤは、彼らにとっては重要なことを今のうちに伝えておくことにした。
「問題は、グレイトウルフの討伐が終わったあとですが、もし何かあれば私の名前を出して構いません」
 その言葉に、一同の顔が引き締まった。
 セイヤの名前を出していいということは、例え貴族を相手にしたとしても、なにも情報を漏らしてはいけないということを意味している。
 勿論、『旭日』のメンバーは魔法について話を漏らすつもりはないが、実力行使に及ぶ可能性も出てくるのだ。
 もし、貴族が本気になってそうした手段を取って来るとなれば、とても個人個人では対応できないことも出てくるだろう。

 グレイトウルフとは別の意味で緊張しだした一同に、セイヤはフッと笑った。
「いくら隠し立てしても、いずれはばれることになります。遅いか早いかの違いでしかないですよ。それに、いまの貴方たちであれば、十分に対応もできるでしょう。それから、これも渡しておきます」
 セイヤはそう言いながら懐からごそごそとなにかを取り出した。
 そして、取り出したそれを、順番に渡していった。
「指輪?」
 セイヤから渡された物を見て、ボーナが首を傾げる。

 セイヤが彼らに渡したのは、何の飾り気もない指輪だった。
 ボーナから疑問の表情を向けられたセイヤは、頷きながら説明をした。
「もし、自分に対処できないような身の危険を感じた場合は、その指輪に魔力を通してください。それで私に危険があったと知らせることが出来ます。範囲は国内ですので、それだけは注意してくださいね」
 基本的にはセイヤの指示で動いている『旭日』は、今のところ国外に出ることはないだろう。
 そういう意味では、十分すぎるほどの範囲だった。

 セイヤの完全なバックアップがあるとわかって、一同に安心したような表情が浮かんだ。
 それを見たセイヤは、笑いながら付け加えた。
「出来ることならいずれは自分だけの力で対処できるようになってくださいね。それは、あくまでも保険でしかないですから」
 どこまでも高い要求をしてくるセイヤに、『旭日』のメンバーは苦笑を返してきた。
 常に上を目指すように言ってくるのはセイヤの性分なのだろうが、それに付いていくのもそれなりに大変なのだ。
 もっとも、今までそれに脱落した者はいないので、セイヤも絶対に無理なことは言っていない。
 彼らもそれがわかっているので、苦笑をするだけにとどめたのである。

 大幅に話がそれたが、とにかくグレイトウルフの討伐に向けての準備はこれで完全に整った。
 あとは、実際に討伐に行くだけだと、『旭日』のメンバーは気を引き締めて拠点から出て行くのであった。
次回は対グレイトウルフ戦です。
といってもセイヤの出番は……あるのでしょうか?w

その前に事前準備をしっかりとしての出発でした。
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