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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部2章

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(1)重要な情報

 リムセルマを交えての話し合いでは、巫女捜しはアーロンが学園を卒業してから、ということになった。
 その話し合いの後も魔法の講習は続いていたが、そのうちにアーロンとエリーナが王都へと戻らなければならなくなる時期になった。
 それまでの間に教えたことは、内気法の部分強化と全身強化、それに外気法の基本だけだ。
 外気法の基本と言うのは、一番簡単な呪文を唱えて、小さな火や水を出すといったものだ。
 これであれば、何かが起こったとしても被害が小さくて誤魔化しやすいし、何よりも誰かに見つかったときに隠しやすい。
 それに、小さな魔法ではあるが、基本中の基本の魔法だけあって、基礎を鍛えるには丁度いいのである。
 最初は外気法を覚えられずに王都に行くことになると考えていたアーロンとエリーナは、殊の外喜んでいた。

 家族に魔法を教えていたセイヤだが、彼自身にも収穫があった。
 それが何かといえば、外気法を教えていたときにわかったことなのだが、人にはそれぞれの使える属性があるということだ。
 『旭日』に教えていたときにも気付いてはいたのだが、教えた人数が増えたことによって、ほぼ間違いないと確証を得ることが出来た。
 最初のうちから属性をつけてしまうのはどうかとセイヤは思っていたのだが、人によって明確に差が出てしまった以上、どうしようもない。
 とりあえず、基本属性をゲームなどでよく見る四属性として、それぞれ学習方法を考えて練習するように伝えておいた。
 ちなみに、マグスは風属性、アネッサは火属性しか使えないが、セイヤとマリーはすべての属性が使える。
 このことから、それぞれの属性は血筋とは関係ないようにも思えるが、今のところ判断は保留にしている。

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 春になるのに合わせてアーロンとエリーナは王都に戻ったが、それにシェリルにとっての次男であるジェフリーもついて行った。
 彼はこの年で十二才になるので、夏から学園に通わなくてはならない。
 といっても、一応試験はあるので、春の間は王都で勉強することになっている。
 ちなみに、試験といっても貴族であればほとんど落ちることがないようなものだ。
 ただし、その試験によって順番は付けられることになるので、手を抜く者はほとんどいないのだが。

 アーロンたちが王都に向かい、うっすらと積もっていた雪が解けたころには、『旭日』の面々は実戦レベルで外気法が使えるようになっていた。
 この場合の実戦レベルというのは、中級魔法を使えるようになったということで、固い外皮を持つモンスターにも大きなダメージを与えられるようになるということだ。
 ちなみに、こうした魔法のレベルわけもセイヤが勝手に行っている。
 この辺りのことは、後の研究者がきっちりと分けていくだろうと考えているので、セイヤもざっくりとしか決めていない。

 
 家族への魔法の講習もひと段落して、久しぶりに自由な時間を得たセイヤは、フェイルの町にある酒場を訪ねた。
 別に酒を飲むために来たわけではなく、酒場は傭兵が集まるので、モンスターの情報も集まりやすい。
 傭兵として大手を振って活動できるようになったセイヤは、時折こうして酒場を訪ねてはモンスターの情報を集めているのだ。

 セイヤが行きつけの(?)酒場に入ると、一瞬視線が集まったが、すぐにそれらの視線は自分たちのテーブルへと向けられていた。
 時間はそろそろ夕焼けになりそうな時間帯だ。
 セイヤの昔の感覚でいえば、そんな時間から酒を飲んでいるのかと言ってもいい時間だが、そもそも夜の灯りがない世界では、このくらいの時間に飲み始めるのはごく普通の感覚だ。
 そして、だからこそセイヤもこの時間に合わせて店に来たのだ。

 セイヤがカウンターに向かって歩を進めている間に、とある方向からセイヤに関する話題が聞こえて来た。
「なんだぁ、あのガキは? ふざけているのか?」
 言葉は乱暴だが、ごく当たり前のことを言って顔をしかめたその男に、仲間の男が首を振って答えた。
「なんだ、お前はまだ見たことがなかったのか? あれが『孤影』だぞ」
 仲間のその言葉に、顔をしかめた男は、今後はぎょっとした表情になった。
「嘘だろ? あれが? ……信じられんな」
「その気持ちはよくわかるがな。実際にアラナ商会で、獲物を出す姿を見た者がいるんだ。お前も余計な手を出すなよ?」
「そんなことするかよ。噂が本当であれば、俺なんて、あっという間に返り討ちじゃねえか」
 その言葉に、忠告していた男は深く頷いていた。

 男たちの話に出て来た『孤影』というのは、いつの間にかセイヤに付けられていた二つ名だ。
 由来としては、ふらりと一人で現れては、大物の獲物の素材を売っているということから来ている。
 その獲物を狩る姿は誰も見ていないのに、どこからともなく現れては素材を提供しているという意味もある。
 更には、セイヤが名前を出して活動する前に、アラナ商会に大量に高品質の素材を提供していた人物ではないかという噂もされていた。
 だとすれば、ただでさえ子供にしか見えないセイヤが、もっと小さいときから大物を狩っていたことになる。

 そんな相手に手を出そうとするほど、フェイルの町の傭兵たちは、愚か者ではない……といいたいところだが、実際には二つ名が広まったころに何度か絡まれたこともあった。
 ただ、そのたびに返り討ちにしてきたことと、セイヤが『旭日』の頭だという噂が広まるとともに、その手合いはほとんどいなくなった。
 傭兵団としては若すぎるメンバーしかいない『旭日』だが、その実力に関してはすでに誰もが認めるものになっているのだ。

 
 客の一部からの注目を集めつつ、セイヤは気にすることなく酒場の親父へと話しかけた。
「親父さん、何か面白い情報は入っていませんかね?」
 セイヤはそう言いながらカウンターへ、一枚の銀貨を差し出した。
 セイヤの場合は、酒場でなにかを頼むわけではないので、情報料として渡しているのだ。
 差し出された銀貨を慣れた様子で受け取った親父は、少し考えるようにしてから話し始めた。
「……そうだな。ゲッタの森でグレイトウルフの群れを見たという情報があるな」
「……はい?」
 酒場の親父からの情報に、セイヤは思わず間抜けな声を出してしまった。

 そして、すぐに真顔に戻って更に質問を重ねた。
「それはいつのことです? 場所はどのあたりで?」
「ここにその情報が入ってきたのは、つい数時間前だ。何とか見つからないように逃げ出せた奴の話では、深淵部に入る手前らしいな」
 深淵部というのは森の奥のことで、出てくるモンスターのレベルがその手前よりも各段に上がる場所のことを指している。
 明確な線引きはされていないのだが、傭兵たちにとっては命を分ける場所でもあるので、ある程度の一致した認識があるのだ。

 ここで重要なのは、グレイトウルフの群れが深淵部から出てきているということだ。
「それは……ずいぶんと大事になりそうですね。動いている傭兵団はあるのですか?」
「いや。どこも今は遠征中だからな」
 さらに頭の痛い事実に、セイヤは実際に頭を抱えた。
 よく見れば、他の者たちも親父の話に注目していることがわかった。
 グレイトウルフの群れというのは、傭兵たちにとっては、それほどまでの強敵なのだ。
 それが、森の浅瀬に出てきているとなれば、これからの狩りに影響を与えることは間違いない。

 背後からの視線を感じながらセイヤは、頭を左右に振りながら言った。
「そうですか。それ以外にグレイトウルフに関する情報はありますか?」
「いや、今のところはそれで全部だ。……行くのか?」
 短い親父のその問いかけに、セイヤはもう一度首を左右に振った。
「いえ。恐らく私が出る必要はないでしょう」
「…………そうか」
 短いセイヤの答えだったが、それだけで何を言いたいのか察したのか、親父はそれだけを答えて来た。
 そして、親父に短く礼を言ったセイヤはすぐに酒場を出て、『旭日』の拠点へと足を進めるのであった。
お兄ちゃんたちとはしばらくのお別れです。
さらに、セイヤが重要な情報を得ました。

そして、いつの間にやら二つ名を手に入れていたセイヤでしたw
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