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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部1章

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(6)物件購入

 アヒムとボーナがセイヤに連れられて行った場所は、アラナ商会だった。
「なんだ、兄貴。アラナ商会に用事か?」
「何か素材でも売るの?」
 二人にとっては、アラナ商会は素材引き取り屋と思っているようで、店に着くなりそんなことを言ってきた。
「別にアラナ商会は、モンスターの素材だけを扱っているわけではないのですけれどね。まあ、それはともかく、姿を隠さずこの店に入るのは、どこか新鮮ですね」
 セイヤがこれまでアラナ商会に来るときといえば、大抵が狩ったモンスターの素材を持ってきている時くらいだ。
 それ以外の時は、基本的に名目上は父親の使いとして来ている時なので、護衛が付くのが必須だった。
 そのため、こうしてまともな方法(?)で店に入るのは、初めてのことなのだ。

 そのことを裏付けるように、正面の入り口から店に入ってきたセイヤを見て、アラナが少し驚いた顔になっていた。
 さらにいえば、見習いとして隣にいたダニエルが、さらに驚きを露わにしている。
「セイヤ様。普通に表から入って来るなんて、どうされたのですか?」
 そのアラナの一言で、アヒムとボーナが笑い出し、セイヤは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「……確かに、この店にこうしてまともに入るのは初めてのことですが、そこまで驚くことですか」
 多少落ち込んだ表情でそう言ったセイヤに、アラナは真面目な顔で頷いた。
「それはそうですよ。領……お父上からは、正式な活動は認められていないのですよね? 大丈夫なのですか?」
 どうやらアラナの驚きは、店の入り方というよりも、セイヤの心配のほうが強かったようだ。

 それがわかったセイヤは、心の中で謝罪をしながらアラナに頷いた。
「ええ。洗礼の儀を受けたことで、父上からも認められることになりました。これで大手を振って街を歩けます」
「あら、そうだったんですか。早くても学園入学直前と仰っていたと思うのですが……」
 セイヤは、もともと学園に入る前にはマグスからの許可をもらえるのではないかと考えていた。
 それよりも早くマグスから正式に傭兵として活動できる許可を得たのは、セイヤにとっては予想外の早さだったのだ。
「そうですね。ですが、予想よりも早く父上から許可を得ました。お陰で、前倒しで色々と進めることができます」
「あらあら。それは、お父上も苦労なさっているようですね」
 セイヤの答えに、アラナは苦笑しながらそう言ってきた。

 アラナはいつも当人から素材を受け取って鑑定をしているので、セイヤがどれくらいの実力があるかはよくわかっている。
 それでも、まだ十歳という年齢を考えれば、マグスが言っていることも理解できていたのだ。
 その上できちんとマグスが許可を出したということは、セイヤがそれだけのことをやったということでもある。
 他の人よりも色々な事情を知っているアラナだからこそ、複雑な感情を持っているのだ。

 アラナから微妙に視線を逸らしたセイヤは、わざとらしく話題を変えた。
「それで、以前から頼んでいた件は進んでいますか?」
「以前からというと、どの件でしょうか?」
 セイヤは、アラナ商会に様々な頼みごとをしている。
 表立って活動することができないセイヤにとっては、アラナ商会は交渉事も含めて便利な窓口になっているのだ。

 首をかしげているアラナに、唐突すぎたと反省したセイヤは、さらに付け加えて説明した。
「傭兵団の拠点になりそうな建物を捜してもらうようにお願いしていた件です」
「あら。もう作られるのですか? ……ああ、そうですね。お父上に認められたのでしたら、特に問題はないですからね」
 アラナは、セイヤが表だって傭兵として活動できるようになれば、傭兵団を作ることは前もって聞いていた。
 それに合わせて団の拠点になるような場所を見繕っていてほしいというお願いもしていたのだ。
 勿論その時は、すぐのことではなく、数年かかると話していたので、ゆっくりでいいとは言っていた。
 それでもアラナ商会に来たのは、フラビオのことだから先んじて物件を抑えているのではと考えたためだ。

 セイヤの言葉に頷いたアラナは、店のカウンターの裏側で何かを探し始めた。
「ええと、少々お待ちください。確かフラビオがいくつか物件を見繕っていたはずですから」
 セイヤの予想通り、フラビオは早速動いていたようだった。
 そして、すぐに目的の物を見つけたアラナは、セイヤに数枚の紙を差し出した。
「――これに、候補の物件が書かれております」
「そうですか。では、少し見させてもらいます」
 セイヤはそう言いながら、真剣な顔になって、その書類を見始めた。

 
 数分を掛けて書類を見たセイヤは、アラナに笑顔を見せた。
「さすがフラビオですね。どれもいい物件のようです。しかも、きっちりと一階は店舗として使えるようなものですか」
 含むように言ってきたセイヤに、アラナは少しだけ慌てた様子になった。
 実は一階を店舗にして、その上に傭兵団の拠点を置くというのはよくある形態なのだ。
 勿論、店舗の上にいる傭兵団は、店の護衛の役目を兼ねている。

「私は露骨すぎないかと止めたのですが……」
 事前にセイヤに話なくそうした物件を選んだフラビオに、アラナは苦言を呈していたようだった。
 だが、そんなアラナにセイヤは首を左右に振った。
「いえ、別に怒っていませんよ。私も元よりそのつもりでしたから。それよりも、そのことをきちんと言っていなかった私が悪いです。」
 セイヤにしても、今までと同様にアラナ商会が商業側の窓口として動いてもらうつもりでいたのだ。
 どのみち今の店舗では小さすぎると思っていたので、傭兵団の設立と同時に広めの店舗を持ってもらうことは、提案するつもりだったのだ。

 セイヤの言葉にホッとした表情を見せたアラナは、視線を息子のダニエルに向けた。
「ダニエル。セイヤ様をケント商会へご案内してあげなさい。その書類を持っていけば、分かるはずです」
「うん。わかった」
 アラナの指示に、ダニエルは素直に頷いた。
 ダニエルは、フラビオが物件を選びに行ったときに一緒について行っているので、すぐに話が分かるようになっているはずだ。

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 フラビオのさすがの手際の良さに感心していたセイヤは、ダニエルに連れられて、アヒムとボーナと一緒にケント商会へといった。
 ケント商会では子供にしか見えないセイヤに訝し気な視線を向けられたが、アラナの予想通りにフラビオがいたことと、セイヤが書類を持っていたことで、無事に物件を紹介してもらうことができた。
 ただし、幾つか見た物件の中でこれはという物はあったが、すぐにその場で決めることはしなかった。
 少なくとも表向きは子供にしか見えないセイヤが交渉をしようとしても、そもそも話を聞いてくれるはずもない。
 一般常識として、かなりの大金を使うことになる物件を購入、もしくは借りる場合に、子供と応対する商会などあるわけがないのだ。

 そういうわけで、一度アラナ商会に戻ったセイヤは、気に入った物件を伝えることにした。
 そのときにはフラビオも店に戻っていて、すんなりと購入の手続きを進めることになった。
 その際に、子供であるセイヤが名義を持つことに、ケント商会が難色を示していたが、フラビオが一括で現金を出したために、最終的には笑顔での契約となっていた。
 ちなみに、その現金は、もともとセイヤが稼いだものであるのだが、そんな余計なことはセイヤもフラビオも言わなかった。
 とにかく、セイヤは無事に傭兵団の拠点となる物件を手に入れることができたのである。
フェイルの街での拠点を手に入れました。
ついでに、セイヤに近しい者たちには、彼の悪行(?)が浸透しつつありますw
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