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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部1章

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(3)情報の断絶

 前セルマイヤー辺境伯領主であるブランドンは、他領地への移動中に、がけ崩れに巻き込まれる事故で亡くなっている。
 当時は他殺も疑われたりもしたそうだが、がけ崩れの規模の大きさから、とても人為的には起こせないという判断が下っていた。
 マグスも以前現場に行って確認したこともあるが、実際にあれだけの範囲のがけ崩れを人為的に起こすのは不可能だろうと考えていた。
 ただし、今となってはその判断が正しいかどうかはよくわかっていない。
 何しろ、セイヤという超常的な力を使うことができる存在を知ってしまったのだ。
 絶対に起こせないというわけではないだろう。
 ただし、それだけの力を持つ者がいるのであれば、絶対に噂にはなっているということも考えられるので、ほとんどその可能性はないとも考えているのだが。
 あくまでも可能性があるというのは、限りなくゼロに近いものでしかない。

 セイヤによってセルマイヤー家の領主が守護神と会えるということがわかったマグスだったが、だからこそ疑問に思うことがあった。
「……神であるのに、父の事故は防げなかったのか」
 これは、当時の思いがよみがえってしまったがために思わずついて出てしまった言葉であり、愚痴のようになってしまっていた。
 それに対して、セイヤは何とも言えない表情になり、言われた本人であるセルマは、淡々とした表情で返してきた。
「私はブランドンに、旅に出てはいけないと止めたわよ? それでもブランドンは行くと決断したわ。それを止める権利は、私にはないわ」
 その言葉に、マグスは自分が言った言葉の意味を理解して、思わず内心で赤面しながら頭を下げた。
「申し訳ありません。言いすぎました」
「いいのよ。それに、あの事故のせいで、貴方と直接話す機会が失われてしまったのも確かだからね」
 マグスの謝罪に、セルマはまったく気にしていない様子で、首を左右に振った。

 何とも微妙な空気になってしまった両者に、セイヤが割り込むように話し始めた。
「本来であれば、お家の断絶にならないように、リムセルマ様も手を打っているそうですが、今回ばかりは特殊事情でそれができなかったそうです」
 王国だった時代も含めて、セルマは情報の断絶が起こらないように、ある手を打っている。
 その手というのは、セルマイヤー領の領主となるべく人間の近しい場所に、巫女と呼ばれる存在を置いて、自身セルマとの橋渡しをしてもらうのだ。
 巫女の存在がいれば、領主の屋敷ではない別のところで今回行ったような登録の手続きを経ることができる。

 ところが、マグスの代に限っては、今までそれができなかったのだ。
 その理由というのは、
「本来は、アネッサが巫女になるはずでした。ところが、セイヤができてしまったので、そっくりそのまま力の移譲が起こってしまったのです」
「……なんだ。やはりセイヤのせいだったか」
「ちょっと待ってください父上。どうしてそこでやはりとなるのですか?」
 ようやく調子を取り戻してきたのか、軽口をたたいてきたマグスに、セイヤは唇を尖らせながら抗議をした。

 マグスの第二夫人となったアネッサは、そのときから巫女としての資格を得ていたのだが、マグスを導くための力を得る前にセイヤをその身に宿していた。
 その結果として、セイヤに巫女としての力が流れ込んでしまって、今の今までマグスに登録の手続きをすることができなかったのである。
 そして、これらは別にセルマイヤー家だけで行われていることではない。
 守護神と呼ばれる土地神を有している領地(当然王家も含む)は、皆似たり寄ったりの体系を持っているのだ。

 そこまで話を聞いたマグスは、はっとした表情になった。
「ということは、あの時の王の会話は……」
「他の人たちはともかくとして、王は完全にわかったうえで試していたのでしょうね」
 ようやくそのことに思い至ったマグスは、何とも言えない顔になった。
 セイヤの情報をリーゼラン王国の守護神であるヘムクトリーゼから聞いていたのであれば、わざわざ脅しをかけてまで手に入れようとした意図がよくわかる。
 ついでに、セイヤを「友」と呼ぶようにした理由も同じだ。

 ようやく一連の流れの意味が分かったマグスは、大きくため息をついた。
「……そういうことだったのか」
 あの時の会話では、王がセイヤを手に入れたがっていることは分かっていても、ここまで詳しい事情は分からなかった。
 話を聞いてみれば、セイヤが持つ魔法の力のことを含めて、更に王が欲しがる理由が分かった。
「そうです。まあ、私としても、結果的には良かったと思っていますよ」
 セイヤにしてみれば、王の友という立場を手に入れたことは、今後のことを考えれば僥倖だったといえる。
 別に立場を乱用するつもりはないが、セイヤの持つ魔法の力を手に入れようとする輩から、一定の盾にはなってくれるだろう。
 マグスもそのことには気づいていたので、だからこそあの場では余計な口を挟まなかったのだ。

 これまでのことで納得の表情を浮かべたマグスに、セイヤはさらに続けて言った。
「これまでのことはこれでいいでしょう。あとは、これからのことを話し合いましょう」
「これからのこと?」
 意味が分からずに首を傾げたマグスに、セイヤはため息をついた。
「領主もしくは領主となるべく存在には、家が断絶しないように巫女となるべく存在がいると言ったではありませんか」
「ああ、そうだったな。……ということは?」
「ええ。当然、アーロン兄上にもジェフリー兄上にも、同じような存在がいます。もっとも、実際に領主にならない限りは、巫女としての力が発現することは無いそうですが」
 セイヤはそう言いながら、セルマを見た。

 セイヤからの視線を受けたセルマは、コクリと頷いた。
「そうね。マグスがどちらを選んでも良いようにはなっているわ。もっとも、どっちにするべきかは、もう決めているみたいだけれど」
 セルマはそう言ったが、次代のセルマイヤー領主がアーロンであることは、今のところ誰も疑っていないだろう。
 それは、内外どちらを取っても同じ評価なのだ。
 マグス自身も、アーロン以外に自分の跡継ぎを考えたことなど一度もない。

 セルマの言葉を聞いたマグスは、なるほどと頷いた。
「そうですね。では、早速アーロンにも知らせて……」
 そう早まったことを言おうとしたマグスを、すぐにセルマが止めた。
「待ちなさい。人の世では、それこそブランドンの時のようになにが起こるのか分からないのだから、マグスがいる今すぐに決めてしまうのはお止めなさい」
「これは……早まったことを言ってしまい、失礼いたしました」
 神の理ではなく、人の世の理屈で説いてきたセルマに、マグスは内心で赤面をしながら頭を下げた。

 そんなマグスをニマニマとした表情で見ていたセイヤが、一転してまじめな表情になった。
「今父上が行うべきは、次代の巫女となるべく存在を探すことです」
「そんなことができるのか?」
「勿論です。何のために教会という組織があると思うのですか?」
 ここでようやくマグスは、教会の本来の存在意義を知った。
 同時に、本当に自分の代で情報の断絶が起こっているのだという意味も実感できた。

 ここでため息をついたマグスは、セイヤに向かって言った。
「よし。では、この件に関しては、セイヤに任せる」
「いや、駄目ですよ。少なくとも最初のうちは、父上が動かないと教会は首を縦に振らないと思います」
「……どういうことだ?」
 またしても首を傾げることになったマグスに、セイヤは教会を動かすための事情を話し始めた。
神様関係&領地事情が続いていますが、これもセイヤの立場作りの一環ですので、もう少々お付き合いください。
(神様関係はあと一話で終わり、かな?)
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