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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第2部1章

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(2)領地でなければならない理由

 聞いた話を一度頭の中で整理したマグスは、大きくため息をついてからセイヤを見た。
「……それで? セイヤが話をしたいのは、国の成り立ちや歴史的背景だけではないのだろう?」
「勿論です。というか、ここまでの話で気付きませんか?」
 突然セイヤにそんなことを言われて、マグスは眉をひそめた。
 確かにセルマイヤー領が、自分が思っていたよりも重要な立ち位置にいたということは分かるが、マグスにとってはそれだけでしかない。
 何故なら、神々の関係はともかくとして、今はあくまでもリーゼラン王国の一領地でしかないのだ。

 意味が分からないと首をかしげているマグスに、今度はセイヤがため息をついた。
「そもそも、何故私がこの話を父上にしているかを考えましょうか」
 セイヤは、あくまでも領地に帰ってきてからこの話をすることにこだわった。
 先ほどまでの話は、確かに常識を覆すような内容だったが、別にそこまで厳重にする必要があることでもない。
 逆にいえば、セイヤが領地で話をすることにこだわった理由があるということだ。
「…………すまん。まったく分からないのだが?」
 ジッと自分を見てくるセイヤに、マグスは首を左右に振った。

 困惑する視線を向けてくるマグスに、今度はセイヤがため息をついた。
「そうですか。……お爺様は本当に父上には何も話していなかったのですね」
「……どういうことだ?」
 唐突すぎる人物の登場に、マグスは眉をひそめた。

 セイヤの祖父、つまりマグスの父親であるブランドンは、前セルマイヤー辺境伯である。
 ブランドンは、マグスが若いときに事故で亡くなっているため、セイヤはまったく面識がない。
「本来であれば、こうした話は領主あるいは国王が次代に話すべき内容なのです。お爺様の事故は、本人にとっても本当に唐突だったのでしょうね」
「それはそうだろうが……いや、そうではなく、その話とこれまでの話に、なんの関係があるのだ?」
 色々な意味で混乱してきたマグスに、セイヤはこれ以上状況を探るのを止めて、直接的な行動に出ることにした。

 今まで座っていた椅子から立ったセイヤは、マグスが座っている執務机まで近づいて行った。
「……セイヤ?」
 突然すぎるセイヤの行動にマグスは疑問の表情になる。
「この執務室は、この屋敷が建ったときから代々の領主が使ってきて、一度も変わったことがありません。……なぜだかわかりますか?」
「いや、考えたこともないな。そもそも理由があるとも思っていなかった」
 率直すぎるマグスの回答に、セイヤもそうだろうなと頷いた。
 自分も裏の事情をリルセルマから聞かなければ、そんなことに意味があるとは考えもしなかっただろう。

 戸惑うマグスを無視して、セイヤは備え付けられた執務机の天板の裏側をごそごそと探り出した。
 そして、何かを見つけたような顔になったセイヤは、今度はいきなりマグスの右手を取った。
「父上、ここの仕掛けをよく覚えておいてくださいね。本来は、正式に跡継ぎと決まった時に、そのときの領主から教えられるものですから」
 セイヤのその言葉が入って来ると同時に、マグスは確かに机の裏に何かがあることがわかった。
 それは、普通であれば絶対に見つからないようにつけられた、小さなボタンのようなものが付いたくぼみだった。
「なんの仕掛けだ、これは?」
 ただ、押しても何の反応もないそのボタンに、マグスは首を傾げる。

 そのマグスにセイヤは一度手を放すように言って、今度は自分でそのボタンを押した。
 すると、マグスが押したときには何も起こらなかった室内に、何かがずれるような音が聞こえて来た。
 その音は、セイヤとマグスがいる場所のちょうど背後から聞こえて来た。
 それにつられるようにして後ろを見たマグスは、今までなかったはずの空間ができているのを見て、目を丸くした。
「……これは?」
「代々セルマイヤー家の当主が引き継いできた一番重要な場所への入り口です。とりあえず、行きましょうか」
 驚くマグスを促すようにして、セイヤはその空間に向かって歩き始めた。
 そしてマグスは、慌てて椅子から立ち上がって、セイヤのあとに着いて行った。

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 マグスが知らなかった空間は、人一人が通れる幅の下へと向かう階段になっていた。
 一階や二階では済まないような段数を降りた先には、扉が一つある小部屋があった。
 不思議なことに、灯りを取る窓がないにも関わらず、今まで通ってきた階段室も含めて、その部屋には光が通っている。
 どういう理屈でそうなっているのか分からない光景に、マグスはその部屋をきょろきょろと見回していた。
「セイヤは驚かないんだな。初めから知っていたのか?」
「あ~、いえ。知りませんでしたが、誰がここを創ったのかは知っているので、これくらいはできて当然だと思っていました」
「……何となく答えを聞くのが怖い気もするが……誰が作ったんだ?」
 そう聞いてきたマグスに、セイヤは首を左右に振って、小部屋にある扉に近付いて行った。
「今私が答えなくても、この先に行けば分かるはずです」
 セイヤはそう言いながら、何気なく扉を開けた。
 含みを持ったようなセイヤの答えに、マグスは少しだけ嫌な予感を覚えつつ、あとに着いて行った。
 この時のマグスは気付いていなかったが、実はこの扉を開けるためには条件がある。
 その条件を満たしていないと絶対に開けることができないのだ。

 扉の先は少し広めの部屋になっていた。
 そして、扉とは反対側の部屋の奥には、教会にある祭壇のような物が置かれていた。
「セイヤ、ここは一体……」
 なんだ、と問いかけようとしたマグスだったが、突然現れた別の存在に目を奪われることになった。
「ようやく来たわね」
 美人を見慣れているはずのマグスが目を奪われるほどの美貌を持ったその存在は、明らかに普通の人間とは別の雰囲気を漂わせていた。

 いなかったはずの者が突然現れたことに驚くマグスを放置して、セイヤはまずはその存在に向かって頭を下げた。
「遅くなって申し訳ありません。これでも急いだつもりなのですが……」
「仕方ないわね。人には人の事情というものがあるのですから」
 セイヤの言葉に頷きつつそう答えた美女は、まぎれもなくセルマイヤー領の守護神であるリルセルマであった。

 
 セイヤからリルセルマを紹介されたマグスは、慌てて頭を下げた。
「我が領地であるセルマイヤーのリルセルマ様に置かれましては……」
「ああ、待って待って。そんなまどろっこしい挨拶はいらないわ」
 長々とした口上を述べようとしたマグスを、リルセルマは慌てて止めた。
「そんなことよりも、今は先にしておきたいことがあるので、わざわざセイヤに連れてきてもらったのよ」
「しておきたいこと、ですか?」
「そうよ。だって貴方、本当・・当主・・としての登録を済ませていないでしょう?」
 リルセルマがそう言うと、マグスは驚きの表情になった。

 リルセルマが言いたいことはその言葉だけで分かった。
 だが、そんな手続きがあるなんてことは、マグスは父から聞いたことは一度もなかったのだ。
 だとすれば、自分は父から跡継ぎではないと思われていたとも考えられる。
 一瞬そんなことを考えたマグスに、リルセルマが首を左右に振った。
「変なことは考えないようにね。別にブランドンは、別の者を跡継ぎにしようなんてことは考えていなかったわよ。単に後回しにした結果、貴方に伝えられなかったというだけね」
 話だけ聞けば何ともお粗末としか言いようのない状況に、マグスはそうでしたかとしか答えようがなかった。
王家はともかく、すべての領主が神との登録の儀を行うわけではありません。
土地神が、いまでも守護神としての役割が残っている領地だけです。
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