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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部4章

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(9)招待状(どちらかといえば召喚状)

いつもよりも少し長めです。
 セイヤとアネッサが戦った日の夜。
 セイヤはマグスに呼ばれて、彼の私室に向かった。
 ドアをノックすると返事が来たので、セイヤはすぐに開けて部屋に入った。
「父上、呼ばれたので来たのですが……あれ? 兄上?」
 部屋に入ると、そこにはマグスだけではなくアーロンがいた。
 学園に通っているアーロンと共通の話題になるようなことが思い浮かばずに、セイヤは首を傾げた。

 そんなセイヤを見て、アーロンは笑顔になった。
「やあ、セイヤ。私もお前が来ると聞いて、驚いていたところだよ」
 アーロンもマグスから話を聞いて、セイヤと同じ感想を持ったようだった。
 どうやらアーロンは、まだその理由を聞いていないようだったので、セイヤは視線をマグスへと向けた。
 この状況を説明できるのは、二人を呼び出した張本人しかいない。

 セイヤとアーロンから視線を向けられたマグスは、わずかに苦笑しながら首を左右に振った。
「何だ。お前たちと親子の語らいをしたいと思ったとは、考えないのか?」
「「あり得ません」」
 マグスの言葉に、セイヤとアーロンが同時にそう答えた。
 確かに子煩悩なマグスであれば、わざわざ話をするために呼び出すということは考えられないことではない。
 だが、いまの状況を考えれば、それはあり得ないことなのだ。

 アーロンも同じことを考えているとわかったセイヤは、解説(?)をアーロンに譲ることにした。
「兄上、どうぞ」
「そうかい? それじゃあ……といってもそんなに面倒なことではないけれど、父上がレオをのけ者にしてまで、そんな話をするとは思えません」
 領地の屋敷ならいざ知らず、王都の屋敷にはリゼ親子もいるのだ。
 息子たちと語らいたいという言い訳は、リゼの息子であるレオがこの場にいなければ、成り立たないのだ。
 マグスがそんな不用意な行動を取るとは思えなかった。
 逆にいえば、レオをのけ者にしてまで伝えなければならないことが起こったということになる。
 そのマグスは、アーロンの答えになにも言わなかったが、代わりに二人に向かって何かを差し出してきた。

 マグスが差し出して来た物は、クリスマスカードほどの大きさの招待状だった。
「これは……」
 そこに書かれている名前を確認したセイヤは、思わず驚きで声を上げてしまった。
 隣に立っているアーロンに至っては、驚きすぎて声も出ないようだった。
 セイヤとアーロンの反応を見て、マグスはため息をつきながら二人に言った。
「私がレオを呼ばなかった理由がわかったか? 流石にこの場に呼んでいたら、嫌味すぎるだろう」
 セイヤは、マグスの言葉で、レオはこの招待状の相手から呼ばれていないということがわかった。
 そして同時に、その相手の目的も何となく察することができた。

 そのセイヤとは対照的に、アーロンは驚いた様子のまま、思わずといった様子で呟いた。
「なぜ、国王が私たちを……?」
 そうなのだ。セイヤたちを招待した相手は、リーゼラン王国の国王であるリチャード三世だったのだ。
 この国の国王を相手に、呼ばれていない相手を一緒に連れて行くわけにはいかない。
 マグスがこの場にレオを呼ばなかったのは、当然といえるだろう。

 呆然とした様子のアーロンに、マグスが首を左右に振って見せた。
「このタイミングで私たちを呼ぶ理由といえば、ひとつしかないだろう?」
 マグスがそう言うと、ほぼ同時にマグスとアーロンが、セイヤを見て来た。
「……一体、二人は私のことをどう思っているのか、一度きちんと話し合わないといけない気がします」
「いや、だってセイヤだからね」
「そうだな。セイヤだからな」
 揃って頷く親子を見て、セイヤは大きくため息をつくのであった。

 
 マグスとアーロンの態度に思うところはあるセイヤだったが、否定することはできない。
 それに、そんなことよりも、いまは招待状に関する話のほうが先だ。
 マグスが何かを話そうとするのを身振りで止めたセイヤは、無詠唱で音が漏れないようにするための結界を張った。
 実質、初めてセイヤが魔法を使うところを見ることになったアーロンは、目を丸くしてそれを見ていた。
 結界は色が付いているわけではないのだが、なんとなく気配を感じ取れたのだ。
 そのアーロンの様子を見たセイヤは、とある予想を得たが、いまはそれどころではないので考察は後回しにした。

 きっちりと結界が張られることを確認したセイヤは、満足げに頷いた。
「これで大丈夫でしょう。声が外に漏れる心配はありません」
「そこまでしなければならないことか?」
 セイヤが具体的に何をしたのか分かっていなくても、魔法を使ったことを察したマグスがアーロンを気にしながらそう聞いてきた。
 だが、セイヤはその必要があると判断してわざわざ結界を張ったのだ。
 どうしても国王と会う前に、三人で認識を合わせておく必要がある。

 マグスの言葉に頷いたセイヤは、
「はい。本当であれば、私が領地で父上に話して、そこから兄上に伝えてもらえればいいと思ったのですが、国王からの招待状が来た以上、そうもいっていられなくなりましたからね。ただ、ここで話せることは、限られたことだけです」
「むっ……それほどのことか」
 厳重すぎるほど警戒しているセイヤに、マグスは顔をしかめて、アーロンは身構えるように顔を引き締めた。
「そうですね。ですが、その前に、兄上。失礼ですが、兄上が授かった文様を見せてもらえますか?」
「文様を……? 別に構わないが…………ッ!? もしかしなくても、今回の招待は神々が関係しているのかい?」
 鋭すぎるアーロンに問いかけに、セイヤはニヤリとした表情を浮かべた。
 そして、それを見たマグスとアーロンは、予想以上の話の大きさに驚きの顔になった。

 その反応を見たセイヤは、とりあえず二人を放っておいて、差し出されたままのアーロンの右手の手の甲を見た。
 そこには紛れもなく、セイヤやマグスと同じリムセルマの文様が刻まれている。
「良かった。とりあえず兄上にも同じ文様が刻まれていますね」
「ああ、そうか。言っていなかったか。アーロンもリムセルマの文様は、十歳の時に刻まれていたぞ」
 セイヤとマグスの会話を聞いたアーロンは、二重の意味で驚いていた。
 一つはセイヤが同じ文様を授かったことと、もう一つはこの文様がリムセルマのものだと特定していることだ。
 アーロンが授かったときには、マグスは何の文様かはわからないと言っていたので、その後で知ったということはすぐにわかった。
 それだけではなく、二人の様子からマグスが誰からそのことを聞いたのかも、察することができた。

 一瞬でそこまで理解したアーロンは、セイヤに視線を向けた。
「わざわざ今それを確認するということは、リムセルマに関する話になるということかい?」
「リムセルマ様もそうなんですが、そこから領地に関する話になると予想しています」
「……どういうことだ?」
 セイヤの言葉にピクリと眉を動かしたマグスに、セイヤは首を左右に振った。
「すみません。具体的にはやはりここでは言わない方がいいと思います」
 セイヤがそう言うと、マグスとアーロンは不可解そうに眉をひそめた。
 ここまでセイヤが頑なに情報を公開しようとしない理由がわからなかったのだ。

 それを十分に理解したうえで、セイヤは二人を交互に見てから続けた。
「ただ、可能性のひとつとしてですが、王との話し合いで揺さぶりをかけてくることが考えられます」
「揺さぶり?」
 セイヤの言葉にアーロンは首をかしげたが、マグスはすぐに理解して顔をしかめた。
「………………そういうことか。セイヤは、それほどの話し合いになると考えているのだな?」
「はい」
 はっきり頷いたセイヤに、マグスは短く呻くような声を出した。

 マグスの様子を見てただ事ではないとわかったアーロンは、恐る恐るセイヤを見た。
「どういうことかな?」
「はっきり言えば、領地の後継問題に、王が口を挟んでくる可能性があるということです」
「なっ……!?」
 通常、貴族家の後継に関してはその家の問題であって、よほどのことが無い限りは王が口を挟んでくることはない。
 だが、今のセイヤの言葉は、そのよほどのことが起こっていることを示していた。

 驚くアーロンに、セイヤは安心させるように首を左右に振った。
「心配しないでください。あくまでも揺さぶりであって、具体的にどうこうという段階ではありませんよ」
 まずはそう言って二人を安心させたセイヤは、更に続けて言った。
「そもそも私は、兄上がいるのに、領地を継ぐなんてことは欠片も考えていませんし、そのつもりもありません。ですので、王が何を言おうとも惑わされないようにしてください。今言えることは、これだけです」
 セイヤがはっきりとそう断言すると、アーロンは何とも複雑そうな顔になった。

 その顔を見たセイヤは、一度ため息をついた。
「兄上。とある目的がある私にとっては、領主の地位は重荷でしかありません。それは、父上がよく知っています」
 魔法をこの世界に広める。それは、神からセイヤがお願いされている新しい人生の目的だ。
 マグスはそのことをよく知っているので、驚いた表情で見て来たアーロンにはっきりと頷いた。
「ああ。私もセイヤに後を継がせる気はこれっぽっちもない。……少なくともお前やジェフリーに何かが起こらない限りはな」
 ここでマグスがレオの名を出さなかったのは、セイヤには意図的に見えた。
 マグスの中では、レオは後継者として考えていないということだ。

 マグスの宣言にアーロンは完全に安心したのか、それ以上は先ほどまでのような表情になることはなかった。
 セイヤがわざわざこの場に結界を張ってまで話をしたのはこのためだったので、十分に目的は果たしたと言える。
 あとは、翌日の本番に向けて、セイヤ自身が色々と考えなければならない。
 ただ、それはあくまでもセイヤのやることなので、マグスやアーロンにはこれ以上の話をしなかった。
 そして翌日には、セイヤたちは招待状に従って、王城へと向かうのであった。
王様に招待されました。
具体的にどんな話になるかは次話です。
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