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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部1章

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(3)これまでとこれから

本日四話更新の三話目です。
ご注意ください。
 いまのセイヤにとっては、元の世界の人生に関しては二の次だった。
 それは、セルマイヤー家に生まれ落ちてから今まで、それなりに良い人生を送ってきたという実感があるためだった。
 それに、元の人生の記憶には曖昧な部分があって、あまり実感がわいていないという部分もある。
 だからこそ、セイヤの思考は、元の世界に戻る云々よりも今の世界のことに意識が向いていた。
「それで、わざわざ私の前にお見えになったということは、なにか伝えたいことがあるということでしょうか?」
「ふむ。では、まずそれから伝えようかの」
 セイヤの問いに、老人の姿をした神は、顎に蓄えたひげを撫でた。
「では、そなたが生まれる前から色々と試していたそれじゃが、他の者たちにも伝えてくれぬかの?」
「……はい?」
「ふむ。そこから説明したほうがいいかの」
 そう前置きをした神は、セイヤが小さいときから検証していた魔法についての話を始めた。

 神の話によると、そもそも今いる世界では魔法という現象は一般的には知られていないそうだ。
 この「一般的には」というのがみそで、過去には魔法を使える者もいた。
 ただ、そうした者たちは、他者に対してその力を秘匿するか、あまり役立たない力しか使えなかったのである。
「――少しお待ち下さい。確かこの世界には魔物が出てきたはずです。それなのに、魔法が役に立たなかったのでしょうか?」
「それはそうじゃよ。薪に火をつけられる程度の力など、魔物相手に役に立つことなどないじゃろう?」
 神のあっさりとした説明に、セイヤは思いっきり納得の表情になった。
 この世界に魔物が出ることは、いままで読んできた書物の中に書かれていた。
 確かに、その程度の力しかないのであれば、魔物相手に使うのは自殺行為でしかないだろう。
 過去の英雄譚などには、人々を襲う魔物を倒してその名を馳せた者たちが数多くいる。
 セイヤは魔物が出る場所に行ったことはないので、魔物の具体的な強さはわからないが、そう簡単に倒せるような相手でないことはわかる。

 この世界で魔法が広まらなかった理由が分かったセイヤは、大きくため息をついた。
「それは、確かに無理ですね。ですが、なぜそれを私に?」
 セイヤ自身もさほど大きな力が使えるというわけではない。
 そもそもほとんどを屋敷の中で過ごしてきたセイヤは、大きな魔法の力を試せなかった。
 試そうにも、危なくて仕方ない上に、変な力を持っている子供とみられる恐れがあったので、おいそれと実験ができなかったのだ。
 それくらいなら、基礎の力を高めようと目立たないところの努力を重ねていたのである。
「なにも儂は、今すぐ其方に広めて欲しいと思っているわけではないのじゃ。其方が納得できるほどまで成長してからでもよいと考えておる」
「……なるほど、そういうことですか。それに、私が過去の記憶を持ったまま転生した理由も納得できました」
「ふむ。話が速くて助かるの」
 実はセイヤの記憶には、成人して理系の教師をしていたというものがある。
 だからこそ、魔法を広めるという役目において、自分を選んだのだろうと推測ができたのだ。

 ただし、セイヤにはひとつの疑問が浮かんできた。
「それはわかったのですが、なぜ、年を取ったときの記憶が曖昧なのでしょうか?」
 セイヤが持つ過去の記憶は、はっきりしているものとそうでないものがある。
 特に、個人情報の部分になると途端に曖昧になっているのだ。
 どんなものを食べていたのかとか、あれはどういう理屈になっているかなどははっきり覚えていたりするのにである。
「人は成長するにつれて、必要のない記憶もの思い出さないように(・・・・・・・・・)なって行くじゃろう? それと同じことじゃ。それに、其方の今の体に記憶が引っ張られているというのもあるのじゃ」
 小さな子供の体で、十分に成長したときの記憶を万全な状態で持っていても、身体にとっては阻害する要因になる。
 そのため、身体の大きさに合わせて、記憶や性格、というよりも気持ちの在り様が引きずられているというのが、神の説明だった。

 これまでの話で、いままで不思議に思っていたことが氷解していく中で、セイヤはふと湧いてきた疑問を口にした。
「それにしても、なぜ転生前にこの話をしなかったのでしょうか?」
 こうしてわざわざある程度成長してから別の場所に呼び出してまで話をするくらいなら、最初から説明すればよかったのではないか、というのがセイヤの疑問だった。
「それは簡単じゃ。前もって吾が説明してしまえば、そなたにその力が目覚めることが無かったかもしれぬからじゃ」
 最初から目的を持って転生してしまうと、それに囚われてしまった上に、過去の記憶に縛られて力に目覚めない可能性があったのだ。
 だからこそ、ある程度は自主性に任せて、きちんと力に目覚めたあとで、神はこうしてセイヤに会いに来たというわけだった。

 納得して頷くセイヤに、神が問いかけて来た。
「質問は以上かの?」
「……はい。いまは特に思いつきません」
「そうか。それじゃあ、其方にこれを渡しておこうかの」
 神がそう言うと、セイヤに向かってひょいと小さなものを投げて来た。
 それがなにかを確認する前に、慌てて受け取ったセイヤは、手の中にある輪っかのような物を見て首を傾げた。
「これは?」
「其方はその力の訓練をする場所を探すのに苦労しておったじゃろう? それは、その場所を提供するものじゃ。……ここでは使えぬから後から試してみるとよい」
 どうやって使うのか試そうとしたセイヤに、神は後ろにそう付け足した。
「あとは、ここでは着けずにあとから着けるとよい。……今から着けると、厄介な奴に見つかるかもしれぬからの」
 その言葉の意味を理解したセイヤは、少しばかり呆れたような顔になった。
「あの人は、貴方の信徒の一人だと思うのですが?」
「それはそうじゃがの。だからといって、吾の望みどおりに動いてくれるわけではなかろうよ」
 そのもっともな神の答えに、セイヤは神は神で苦労しているんだなと、どうでもいいことを考えるのであった。

 セイヤがそんなことを考えているのを知っているのかいないのか、神はさらに話を続けた。
「それから、これで最後になるのじゃが、其方はもう少し其方の親を信用してもいいと思うぞ?」
 その神の言葉に、セイヤは思わず相手の立場を忘れてジト目を向けてしまった。
「それは、成人した記憶を持たせたまま転生なんてさせたのが悪いのでは?」
「ホッホ。そうともいうの」
 大人になっている記憶を持っているということは、人としての独立心を持っているということで、それがたとえ相手であっても時に信用できないと思うこともある。
 それが立場のある人間であればなおさらそう思うだろう。
 だからこそセイヤは、肝心なことは親には隠して、こそこそと行動していたのである。
「ただ、確かにあなたの言う通りの部分もあったと思います。――――ありがとうございます」
「いやなに。それこそ礼を言われる必要などないの。其方の言う通りじゃからの」
 神もセイヤの言い分が分かったうえで、記憶を持たせたままセイヤを転生させたのだ。

 本来であれば責められてもおかしくはないのに、礼を言ってきたセイヤの態度に好ましいものを感じたのか、神は笑みを浮かべつつ目を細めながら言ってきた。
「では、これで本当に最後じゃ。折角じゃからの――――」
 神が最後の忠告(?)セイヤに行うと、徐々にその姿が曖昧になって行った。
 それに気付いたセイヤは、感謝の念を込めて神に向かって頭を下げるのだった。
神との邂逅。
この神は、セイヤを新たな世界へと誕生させた張本人(神?)です。
この世界の神の在り様については、後程説明があります。

次話更新は本日の20時になります。
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