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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部4章

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(1)初めての王都(もうすぐ十歳)

本日二話更新の二話目です。
最新話から来た場合はご注意ください。
 セイヤが十歳を迎えることになる年の春。
 セイヤは、両親、マリーとともに王都プラーバへの馬車に乗っていた。
 目的は、セイヤの洗礼の儀を行うためだ。
 貴族の子弟たちは、十歳の儀式を王都の神殿で行うことになる。
 これは、王都の神殿が、国の守護神であるヘムクトリーゼの本神殿に当たるためだ。
 洗礼の儀では、場合によっては守護神やその眷属神の守護(文様)を得ることがある。
 眷属神まで含めると四~五人に一人の割合で得ることがあるので、かなり重要な儀式なのだ。

 神の守護を得たかどうかは、儀式を得た当人の体のどこかに神の文様が現れることで知ることができる。
 ただ、いまのところどの国でも、得た文様が何のために役に立つのかはわかっていない。
 それでも儀式の際に得ることがわかっているので、それなりに重要視されている。
 貴族の子弟がわざわざ王都の本神殿で儀式を行うのは、ヘムクトリーゼの文様を得る可能性が高いためだ。
 神の守護を得ることができれば、貴族にとってはその後の立場を得るために有利になることがあるので、昔の貴族たちはこぞって主都へと子弟を向かわせていた。
 結果として、いまではそれが慣例となって残っているのである。

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「へえ。あれが王都ですか」
 馬車から見える王都の様子に、さすがのセイヤも感嘆の声を上げた。
 セイヤの隣では、マリーが夢中になって声を上げている。
 さすがにプラーバの街は、リーゼラン王国の王都だけあって、国一番の人口を誇っている。
 そのため、街の大きさもフェイルの街と比べてもかなり大きかった。

 珍しく(?)子供らしい顔になっているセイヤを見て、向かいに座っていたアネッサが笑っていた。
「お前がそこまで素直に感動するところを見るのは、久しぶりだな」
「……それは流石に少し傷つくのですが……。私だって、凄いと思うときは、きちんと凄いと思います」
 少しだけ口をとがらせてそう言ったセイヤに向かって、今度はマグスがクツクツと笑い出した。
「そう思ってほしいんだったら、少しは子供らしいところをみせてみるんだな」
「……………………考えてみます」
 マグスの言葉に、セイヤは熟考を重ねた結果、そう答えるにとどめた。
 もうすでに前世の記憶と混ざって、いまの「セイヤ」が完成しているので、いまさら子供らしくと言われてもどうすればいいのか分からない。
 出来るかどうか分からないことを出来ると言って見栄を張るのは、正直なところ無理と言わざるを得ない。

 
 セイヤが、そんな小さな葛藤をしながらも馬車は順調に王都に向かって進み、貴族用の門を通って街の中へと入った。
 流石に王都だけあって、馬車や行き交う人の数は、フェイルの街と比べても明らかに上だった。
「流石に王都だけありますね。活気があります」
 王の治世が悪ければ、たとえ王都であっても活気が無かったりするのだが、少なくとも現国王であるフランク二世の治世は、噂通り良いものであることがわかる。
「人の数も容れ物の数も段違いだからな」
 自分の領地の街と比べているのか、マグスも眼を細めながら街の様子を観察していた。
 マグスはセイヤたちとは違って、年に何回かは王都に来るのだが、そのたびに変化が起こっていないかをきちんと見ているのだ。

「なにか変わっていることはありますか?」
 前回マグスが王都に来たのは、三カ月ほど前のことだ。
 反乱や戦争などの噂を聞いていない以上、さほどの変化はないはずだが、それでも今後はどうなるかわからない。
 王都の様子を見れば、そのために微細な変化が出ている可能性もある。
 だが、セイヤの心配を見抜いてか、マグスは首を左右に振った。
「いや。少なくとも悪い方の変化は起きていないように見えるな」
「随分と引っかかる言い方をしますね」
「いや、なに。大したことではないさ。数年前と比べれば、確実に街の規模が大きくなっている。いまもそれは継続しているようだな」
 王都ほどの規模になれば、よほどの変革が起きない限りは、人口の増加はほとんど見込めない。
 だが、それでも着実にフランク二世は、王都の人口を増やしているようだった。
「なるほど。確かに良い国王のようですね」
 セイヤは、心の底からそう思いながら大きく頷いた。

 その時、セイヤの袖が横から引っ張られた。
 犯人は当然マリーだ。
「にいさま、むずかしい」
「ああ、マリーには少しだけ難しすぎましたか。ごめんね」
 セイヤは、可愛らしく顔をしかめているマリーの頭をなでながらさらに付け加えた。
「そろそろ王都の屋敷に着きます。先ほど教えたことの復習ですよ。屋敷ではどうするのでしたか?」
「リゼおかあさまの前では、余計なことはいわない!」
 マリーの言葉に、セイヤは満足げに頷いた。
「そうです。他には?」
「できるだけ、にいさまやおかあさまと一緒にいる!」
「はい。正解です。きちんと言うことを聞くのですよ?」
「うん!」
 セイヤがそう言い聞かせると、マリーは嬉しそうな顔になって大きく頷いた。

 その兄妹のやり取りを見ていたアネッサは、笑いをこらえるように口元を押さえて、マグスは何とも言えない表情になっていた。
「セイヤ。出来ればそういうことは、私のいないところでやってくれないか?」
「おや。一緒の馬車が良いと言い出したのは父上ではないですか。それに、文句があるのでしたら、リゼ母上をきちんと言い聞かせてください」
 セイヤの反論に、マグスは渋い顔になった。
 この件に関しては、マグスも頭の痛い問題となっている。
 今のところアネッサ親子に直接的な被害が無いので、あまり強い態度に出ることもできないのだ。
 リゼが辺境伯家にとって周囲に悪影響を与えているのであれば大手を振って処分もできるのだが、せいぜいが嫌味たらしい小言くらいで収まっているので、そのたびに注意をすることくらいしかできない。
 それでも今の状況が続いているので、マグスにも手が無いというのが本当のところだった。

 この話では自分に分が悪いことがわかっているので、マグスはそれ以上はなにも言ってこなかった。
 そんなことをしているうちに、馬車が目的地であるセルマイヤー家の王都の屋敷へと着いた。
 この日に当主が着くことは、前もって連絡済みなので、馬車が敷地内に入るなりきちんとした出迎えが並んでいる。
 セイヤたちが馬車から降りると、噂のリゼが人の壁の中央に立っていた。
 両脇には、彼女の子供たちや学園に通っているシェリルの子供たちがいた。

 マグスを中心に、セイヤたちが馬車から降りて立つと、リゼが一歩前に出てきて最初の挨拶をしてきた。
「長旅、ご苦労様でした」
「ああ。屋敷は変わりないか?」
「勿論でございます」
 マグスの返答に頷いたリゼは、続いてアネッサへと視線を向けた。
「貴方も変わりないようですね。このたびはご子息の成長、喜ばしいことです」
「ああ、ありがとう。其方たちも変わりないようで良かった」
「セイヤ、無事に洗礼の儀を迎えられることをお祝いいたします」
「……ありがとうございます」
 セイヤがそう言いながら頭を下げると、リゼは鷹揚に頷きながらマグスへと視線を向けて屋敷へと誘った。

 それを見ていたセイヤは、内心で首をかしげていた。
 今までの経験から言えば、一言二言嫌味の言葉が来るはずなのだ。
 一応身構えていたのだが、それが無かったことに拍子抜けしていた。
(祝福の儀の前だから自重した? いやいや、油断できませんね)
 心の中でそんなことを考えていたセイヤは、十歳の子供にあるまじき黒さなのであった。
初めての王都です。
同母の兄弟がいれば王都の来ることもあったのでしょうが、セイヤはアネッサにとっての長子なので、これまでは来ることがありませんでした。

最後に黒いと言っていますが、きちんとした教育を受けて育った貴族の子であれば(とくに同じような境遇で育った場合)、似たようなことを考えるような子は普通にいたりします。
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