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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部3章

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(8)他との違い

「綺麗なねーちゃん、俺たちに何か用かい?」
 クリステルとネネから逃げられないと悟ったアヒムは、すぐに開き直って先に声を掛けることにした。
 逃げみても構わないが、別になにか悪いことをしていたわけでもないので、わざわざ面倒なことをする必要はないと判断した。
 ついでに、セイヤからも知り合いだということは言われているが、話しかけたりするなとは言われていないのだ。

 一方で、先にアヒムから話しかけられたネネは、表情を変えることなく頷いた。
「はい。少しだけ話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「話、ねえ。それは構わないんだが、その話し方はどうにかならないのか?」
 アヒムはれっきとした(?)スラム街の住人だ。
 ここまで馬鹿丁寧な対応をしてくる者を、アヒムは一人しか知らない。
 端的に言えば、あまり丁寧語に慣れていないのだ。

 対するネネは、少しだけ首を傾げた。
「話し方、ですか。これが私の普通なのですが……」
「ああ、いや、それならそれでいいんだ。単に俺たちが聞きなれていないってだけだから」
 アヒムが少しだけ慌ててそう言い訳をすると、隣に立っていたボーナが、一緒にするなという顔になっていた。
「そうですか。では、すみませんが、このままでいかせてもらいます」
 ネネのその言葉に、アヒムとボーナは、同時に頷いた。

 ふたりの顔を見て、誰かに何かを言われているようなところが無いと判断したネネは、そのまま話を続けることにした。
「ではお聞きしますが、ここのスラムはなぜこんなにも明るいのですか?」
「は? 明るいって、日の光はどこも同じだと思うが?」
「そうじゃないわ! 街の様子が良いって言いたいの!」
 聞きようによってはとぼけたことを返してきたアヒムに、思わずクリステルが口を挟んできた。

 ここでアヒムは、初めてクリステルの目がオッドアイであることに気付いた。
 たとえスラムの住人であっても、オッドアイについての曰くは知っていたので、少しだけ怯んだ。
 むしろ、それだけで済んだのは、アヒムが様々な人間と触れることになるスラム街の住人だからだ。
「……ああ、そういうこと。でも、そんなに良いか? 所詮はスラムだぜ?」
「当たり前だけれど、向こうのほうがいいわよねえ?」
 アヒムとボーナは、顔を見合わせながら首を傾げた。

 そもそもフェイルの街のスラムは、元が王都ということもあり、歴代の統治者がなるべくあくどい犯罪者が出ないように様々な手を打っていた。
 人々が犯罪に手を染めるのは、仕事が無いためだと早いうちから理解しており、彼らを救済するための仕事を与えていたのである。
 そのため、他のスラムの様子など見たことが無いアヒムやボーナにとっては、これが当たり前のスラムの光景なのだ。
 さらにいえば、セイヤが行った小遣い稼ぎは、あくまでも力仕事などができない子供たちに対してのものなのだ。
 単純労働ができなくて、モンスターが倒せるのはおかしくないかという説も出たが、そもそもスラムの子供に仕事を与えようとする者がいない上に、領主が与えている仕事には限りがあるのでそういうことになっている。

 首を傾げるふたりを見て、ネネは彼らにとってはこれが普通の光景なのだと理解した。
 逆にいえば、これ以上聞いても自分たちがほしい答えは得られないということになる。
「そうですか。貴方たちにとっては、これが当たり前なのですね」
 そう言いながら頷くネネに対して、クリステルは納得がいかないという顔になった。
「どうして? だって、普通じゃないわよ!?」
 ここでクリステルのまだ子供らしいところが出たといえるだろう。
 自分がこれまで見て来たものが当たり前で、それ以外のものが『普通』であるということが信じられないのだ。

 クリステルの言葉に戸惑うアヒムとボーナは仕方ないとして、ネネはすぐにそのことを察して首を左右に振った。
「クリステル、貴方にとっては普通ではなくとも、彼らにとってはこれが普通なのです。いまはとりあえずそれで納得してください」
「…………わかったわ」
 ネネにそう言われてしまっては、クリステルとしても渋々であるとはいえ、頷くしかない。
 そのふたりの様子に、アヒムとボーナは、意味が分からずに首を傾げることしかできなかった。

 あからさまに不機嫌になっているクリステルをそのままにして、ネネはアヒムとボーナに頭を下げた。
「お話を聞いていただきありがとうございます。お陰で知りたかったことが知ることができました」
「えっ? いや、こんなもんで良かったんだったら別にいいんだけれどな」
「大したことは話していないわよね?」
 そう言いながら相変わらず首をかしげたままのふたりに、ネネはそっと銅貨を一枚ずつ渡した。
「いえいえ。私たちにとっては、それが知りたかったことなのです。これは話をしていただいたお礼です」
「いや、こんなもんのために銅貨なんてもらえねえよ!」
「そうよね。むしろ、他から睨まれるから辞退するわ」
 アヒムとボーナはそう答えながら手をパタパタと振った。

 銅貨を受け取ることに及び腰になっているアヒムとボーナに内心で驚きながら、ネネは表情を変えずに頷いた。
「そうですか。余計なトラブルに巻き込まれるのであればそうしたほうがいいでしょうね」
「ああ、そうしてくれ。……ああ、そうだ。ついでだからひとつ言いたかったんだ」
「…………なんでしょう?」
 首を傾げて聞き返してきたネネに、アヒムは折角だからとばかりに話を付け加えた。
「これ以上先に行くのはよした方がいいぜ? ……さすがに、お嬢さんの教育にとってはよくないものがある」
 アヒムはそう言いながら、ちらりとクリステルに視線を向けた。
 早い話が、このまま今の道をまっすぐに進むと、所謂歓楽街に足を踏み入れることになる。
 ちなみに、歓楽街へはスラムを通らなくても行ける道がある。
 クリステルたちは、たまたまスラム街を通って行く道を選んでしまっていたのだ。

 ネネは、アヒムの仕草ですぐに言いたいことを理解した。
「そうでしたか。教えていただきありがとうございます」
「いや、別にこれくらいはいいさ。……それで? これ以上の質問はなしか?」
「ええ、もう十分です。ありがとうございました」
 そう言って頭を下げたネネに、アヒムが頷いた。
「そうか、じゃあな。俺たちはもう行くよ」
「バイバイ」
 アヒムとボーナは、手を振りながらその場を離れて行った。
 その仕草はとても自然で、どうにかふたりから離れようとタイミングを図っていたとは思えなかった。
 現に、ネネでさえもふたりの意図には気づいていなかった。

 
 そのままアヒムとボーナを見送ったネネは、明らかに不貞腐れているクリステルを見た。
「それでは私たちもそろそろ戻りましょうか」
「えっ? どうしてよ!? まだ何もわかっていないじゃない!」
 抗議してきたクリステルに、ネネは首を左右に振った。
「そんなことはありませんよ。詳しい話は戻ってからします。とりあえずは、この場を離れましょう」
 アヒムたちと話をするのに、ちょっとした時間を使ってしまった。
 スラム街に限らず、それは人に情報が伝わるには十分な時間だ。
 多くの人間に囲まれてしまえば、ネネでも対処しきれない可能性もある。

 そう説明してきたネネに、クリステルは仕方がないという表情で頷いた。
 流石にこれ以上言えば、ただの子供の我がままになってしまうと理解できたのだ。
 そう理解できるだけで普通の子供とは一線を画しているのだが、そのことには気づけないクリステルなのであった。
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