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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部3章

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(6)早速の行動

 マリーの天才っぷりが発覚した次の日。
 セイヤは自室で、マリーにどうやって魔法を教えていくかを考えていた。
 そもそも侍女に完全に隠れて魔法の練習をすることは不可能なのだ。
 たとえ、マリーが『遊び場』に入れたとしても、長時間行方不明になれば疑われてしまう要因になる。
 かといって、アネッサやエーヴァと協力して時間を作れたとしても、毎日は無理だろう。
 だが、マリーの様子を見る限りでは、週に二、三回程度に抑えるのは不可能だと思われる。
 なにより、マリーに頼まれれば、セイヤが断れる気がしない。
 では、どうすればいいのだろうかと、ウンウンと悩んでいるのだ。

 朝食を終えてから少しの間そんなことをしていたセイヤだったが、ふと昨日から仕掛けていたとある(・・・)魔法に反応があったことに気が付いた。
「……なんというか、早速ですか。お転婆という情報は、本当のことだったようですね」
 そう呟いたセイヤは、少しばかりあきれたような顔になって、寝転がっていたベッドから起き上がり、マグスの執務室へと向かった。

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「父上、少しばかりお時間をください」
 執務室のドアをノックして、返事があってから室内に入ったセイヤは、すぐに要件に入った。
「何があった? ……と、聞くまでもないか」
「はい。例の対象が、早速動き出したようです」
 苦笑しながら答えたセイヤに、マグスがこめかみに右手の人差し指をトントンと当てた。
「長旅で疲れたから休み時間がほしいと部屋にいるはずなんだがな……」
 ため息をついてそう言ってきたマグスに、セイヤはこれからどうするかを聞くことにした。
「それで、いかがいたしますか? 兵に連絡して捕まえてもらうことも可能ですが?」
「ふむ…………」
 セイヤの問いに、マグスは考えるような顔になった。

 ただ、実際に考えてはいたのだろうが、その時間は短かった。
「いや、折角のお楽しみを邪魔することもあるまい。大きなけがが無いように見張ってくれればいい」
「大きな怪我、ですか」
 念を押すようにして言ってきたセイヤに、マグスはわざとらしく真面目くさった顔で頷いた。
「そうだ。それでいい」
「畏まりました」
 マグスの返答に一礼をして返したセイヤは、すぐに部屋を出て行こうとしたが、ふと立ち止まってから振り返った。

「そういえば、父上。母上から話を聞いていると思いますが、マリーのための環境を考えてあげてください」
「むっ………………」
 セイヤがなんのことを言っているのかすぐに察したマグスは、短く唸って顔をしかめた。
 マグスもマリーのために魔法の勉強場所を用意してあげたいのだが、侍女を排した場所を用意するのが難しいのはセイヤと同じなのだ。
 マリーの侍女は、マグスが認めたあとにリゼに情報を流すようになっているので、防ぐこともできなかった。
 ついでにいえば、リゼの影響力を排したいという理由だけで侍女をマリーの傍から退けられないのは、家長という立場上、セイヤ以上に難しかったりする。
 この辺りは、貴族という家同士の複雑怪奇な関係も影響しているのだ。

 セイヤもそのことは理解しているので、それ以上無理な注文はしなかった。
「まあ、少なくとも例のお嬢様が帰るまでは時間があると思いますので、それまでには……」
「そうだな。何とか良い案をひねり出してみよう」
 セイヤの言葉に、マグスは思案顔で頷いた。
 なんだかんだ言いながら、マグスもセイヤと同じように、マリーには甘いのである。

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 マグスの執務室を出たセイヤは、すぐに傭兵モードになって屋敷を出た。
 セイヤの場合は、次女のエーヴァと口裏を合わせるのができるので、抜け出すことも簡単だ。
「というわけで、対象に追いついたわけですが……なるほど、さすがに公爵というわけですね。中々いい人材をお持ちのようです」
 セイヤの視線の先には、ちょっとした商会のお嬢様に扮したクリステルと侍女として付き従っている女性がいた。
 セイヤが言った人材というのは、その侍女のことだ。

 セイヤは屋敷からふたりのところまで追いつけるように、多少駆け足で近付いていた。
 ところが、セイヤの気配を感じたのか、あるいは足音に気付いたのかは分からないが、ある程度の距離に近づいたところで、その侍女が自然な感じで辺りを探るような仕草をしたのだ。
 それは、明らかにふたりを追いかけて来たセイヤを探している感じだった。
 念を入れて姿を隠していなければ、セイヤと認識するかは別にして、確実に見つかっていただろう。
 今ではさらに警戒度を上げて、音も漏れないように結界を張っている。

「どんな相手でも油断は禁物ですね。…………それにしても、どうしてこう、行ってほしくない方角に的確に進んでいるのでしょうか?」
 セイヤが言っている行ってほしくない方角には、所謂スラム街がある。
 どう頑張ってもトラブルに巻き込まれる未来しか見えないのだ。
「あの侍女がいるからどうにかなると思って……いや、これはどう考えてもそうなんでしょうね。明らかにスラム街、目指してますよね?」
 セイヤはそう独白してみたが、当然答えは返ってこない。
 街の様子を見ながら、的確にスラム街を目指して歩くふたりにを見て、セイヤはため息をついた。
 どうせ行くことがわかっているのであれば、打てる手を取っておくべきだろうと、セイヤは行動を開始することにした。

 
 一方で、まさか辺境伯の子息に見張られているとは考えていない二人組は、公爵領以外に街の散策を楽しんでいた。
「…………むっ?」
「ネネ、どうかしましたか?」
 突然周囲を見回したネネに、クリステルは何気ない顔で聞いた。
 初めての街を見回すように、自然な感じで辺りを見ていたネネは、クリステルに向かって首を振った。
「……いえ。なんでもございません。誰かが後を付けているように感じたのですが……」
「そうですか。ネネ以上に力がある者は考えにくいのですが……」
 考えるようにして言ったクリステルに、ネネは首を左右に振った。
「いえ。油断してはいけません。強者はどこにいてもおかしくは無いのですよ?」
「ハイハイ。わかりました」
 侍女であるとともに、クリステルにとっての武の教師でもあるネネの忠告に、クリステルは素直に同意した。

 監視の気配を感じてからしばらくの間、周囲を警戒していたネネは、ふと思い出したようにクリステルに問いかけた。
「本当にスラム街に行かれるのですか?」
「ええ、行くわ。ネネは、あの光景が不思議ではなかったのかしら?」
 クリステルの言葉に、ネネは街に入るときに見たスラム街の光景を思い出していた。

 どんな街にもスラム街は存在している。
 だが、大抵の街では、貴族たちが通るような道沿いには、スラム街は作られていない。
 身分が高い者たちには、そうした黒い部分が目に入らないようになっているのが、普通なのだ。
 ところが、フェイルの街はそれらと違って、少しだけであるがスラム街を目にすることができた。
 しかも、そのスラム街は、他の街にあるものと違って、明るい雰囲気を感じたのである。
 クリステルが、スラム街を見ることができたのは一瞬ではあったが、それでもとても気になる光景だった。
 だからこそ、実力も信頼もあるネネを連れて、表面だけではない奥のスラム街を見に行きたくなったのだ。

 言い出したらてこを持ち出しても動かないクリステルの性格ことを知っているネネは、大きくため息をついた。
「気持ちはわからないではありませんが……いざとなれば、私の言うことだけは聞いてくださいね」
「あら。わたくしがネネの言うことに逆らったことは、あったかしら?」
 わざとらしく小さく笑みを浮かべたクリステルを見ながら、ネネは心の中だけで、たくさんありますと呟くのであった。
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