挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部3章

25/150

(2)マグスへの報告

「父上、いまよろしいでしょうか?」
「入れ」
 セイヤがマグスの執務室をノックすると、中から返答が来た。
 すぐにドアを開けて、ぺこりと頭を下げる。
「お忙しいところ申し訳ありません。報告することができましたので」
 辺境伯という貴族に対応するように言ってきたセイヤに、マグスは顔をしかめた。
「セイヤ。この場ではいつも通りでいいと言っているだろう?」
「そうは言いましても、父上にも立場というものがありますでしょう?」
 普通なら逆の言い方になるのだが、この親子の場合は、これがいつものやり取りだった。
 月日を重ねるごとにセイヤの言い回しは固くなっているが、これは別にマグスに対して隔意を抱いているわけではなく、単に周囲の目を気にしてのことだ。
 政務に関わらないときは、多少緩くなっているのだ。
 もっとも、子供に甘いマグスは、それが不満だったりするのだが。

 大きくため息をついたマグスを無視して、セイヤはそのまま話を続けた。
「例の研究室ですが、結果が出たようです」
「なんと? もうか!?」
 セイヤの報告に、マグスは驚きの顔になった。
 研究所を作る際に、セイヤは結果が出るまである程度の時間がかかるだろうと話をしていて、マグスもそれに同意していた。
 というよりも、有益な活用方法が出るとはほとんど考えていなかったのだ。
 なぜなら、そんなに簡単に見つかるのであれば、国がとっくに研究所なりを作っているだろうと思い込んでいたためである。
「はい。思い込みとは恐ろしいものですね」
「…………まったくだな」
 セイヤの答えに、マグスはもう一度ため息をつきながら答えた。

 そもそもこの世界では、モンスターを素材として活用する方法は、ある程度知られている。
 ただし、それはあくまでも「ある程度」であって、隅から隅まで活用されているというわけではないのだ。
 セイヤからすれば、まだまだ利用できる物はたくさんあるのではないか、と考えた結果が研究所の設置だった。
 ついでにいえば、金を生みにくい研究所は、民間では作られることはまったくと言っていいほどない。
 結局、国に頼るしかないのだが、いまでも十分活用していると思い込んでいるがために、わざわざ予算をつけてまで研究所を作ろうという発想にはならないのである。

「それで? 結果が出たからには、うちで正式な機関にするのか?」
 このこともマグスはすでにセイヤと話し合っていた。
 領地にとっていい結果が出るのであれば、十分予算をつぎ込む価値がある。
 それには、民間ではなく、辺境伯の運営する機関として抱き込んでしまったほうがいい。
 だが、この問いには、セイヤは首を左右に振った。
「いいえ。まだそれはよした方がいいでしょう。十分に人が育っているわけではありませんし、なによりも国に目をつけられると痛いのでは?」
「……むっ」
 セイヤの言葉に、マグスは短く唸って考え込む表情になった。

 人が十分に育っていないうえで国に組織ごと買い取られてしまうと、使いつぶされてしまう可能性がある。
 セイヤの目的は、たとえ長期間成果が出なくても一定以上の予算をつけてもらえるようにすることなので、いまの段階で国の手が入るのは速すぎるのだ。
 もっといえば、研究室の体力が付くまでは、辺境伯の影響力が強まるのも避けたいほどだった。
 これは単に、公権力を嫌っているというだけではなく、他の民間の組織からの影響力を避けたいということもある。

 そんなことをつらつらと説明をしているセイヤを見ていたマグスは、じろりとにらんだ。
「そんなことを言いながら、せっかく手に入れたおもちゃを取り上げられるのはたまらないという顔をしているようだがな?」
「ハッハッハ! 何を仰いますか、父上。そんなわけないじゃないですか!」
 セイヤは、わざとらしく大仰に両手を広げながら答えた。
 どこからどう見ても図星を衝かれたという顔をしている。
 本人もその自覚があるので、敢えて大げさな態度に出ているのだ。
 こういうときばかりは、前世の記憶はどこ行ったと恨みたくなってくるが、現実として感情を隠せていない以上、どうしようもない。

 そんなセイヤを、マグスはジト目になって見た。
「……まあ、いい。それよりも、最近のアラナ商会はどうだ?」
「どう、というのは、どういうことでしょう?」
 まさか、領主が一商会の経営状態を気にするはずがないので、マグスが何のことを言っているのか分からずに、セイヤは首を傾げる。
「ああ、すまない。ゴブリン共の大量買いは上手くいっているのか?」
「そのことでしたか」
 具体的に聞きたいことを言い直したマグスに、セイヤは納得したように頷いた。

 セイヤの傭兵としての活動を隠すために用意したアラナ商会だが、表向きには別の大きな商売を行っている。
 それがなにかといえば、一言でいえばゴブリンの常設依頼だ。
 通常、ゴブリンの討伐といえば、巣が見つかった場合にそれをつぶしに行くというのが主なものになる。
 だが、それだと見つけたときには既に大きくなりすぎていて、その分依頼を出す大元の領主がかなりの金額を出さなければならなくなるのだ。
 その問題を解消するために、アラナ商会を作るときにセイヤが提案したのが、ゴブリンの常設依頼だ。

 アラナ商会は、傭兵たちがたまたま遭遇したゴブリンの討伐証明を買い取ることにより、それをまとめて行政――この場合は領主に売り込むのだ。
 その仕組みがあれば、倒しても金にならないと敬遠していたゴブリンの討伐を傭兵たちが行うようになる。
 そうなれば、大きな巣になるまえにゴブリンの数を減らす、もしくは抑制ことができ、結局ゴブリン討伐のための予算を削ることができる。
 セイヤにしてみれば、なぜ今までその仕組みが無かったのかと首を傾げるようなことだったが、ギルドのような大きな組織が無ければ、思いつかないのかもしれないと思い直した。
 とはいえ、この方法が有効なのはわかるので、せっかくアラナ商会を作るのであれば、それを目玉にすればいいと考えたのだ。

 先ほどセイヤがアラナ商会に行ったときには、特になにも言われなかったので、それをそのままマグスに話すことにした。
「特になにも言っていなかったので、順調なのではないでしょうか? なにか問題でもありましたか?」
「いや、問題と言うほどでもないのだがな。最近、少々討伐数が少ない気がしてな」
「それでしたら、傭兵が積極的に狩ったおかげで、減ってきただけでは?」
 なにか問題でもあるのかとセイヤは、首を傾げた。
「そうなのかもしれないが、この街の周辺でゴブリン共がいなくなっただけで、別の場所に移動したとかは考えられないか?」
「ああ、それはあるかもしれませんが……どうでしょうね? 彼らには彼らなりの縄張り争いだってありますよね?」
「むっ。それは確かにそうだが……」
「結局、初めてのことですから、きちんとした結果が出るまではもう少し時間がかかると思いますよ。あとは、一か所に集まって巣を作っていないかなどの偵察の依頼を出すとかでしょうか」
 ごくごく当たり前のセイヤの提案に、マグスは渋い顔になった。

 実はもうすでに、その程度の策は打ってあるのだ。
 セイヤに聞いたのは、それ以外の妙案があるのではないかと期待してのことだ。
「……それくらいしかないか」
「父上。いくらなんでも、すべてを見通すなんてことはできませんよ」
 次々と新しい政策を出してくる息子セイヤに、マグスは期待しすぎているところがある。
 セイヤにいわれて、ようやくそのことを自覚したマグスは、苦笑しながら「それはそうだな」と答えるのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ