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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部3章

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(1)新しいお店と研究機関

※本日二話更新の二話目です。
 セイヤが初の山賊退治をしてから一年ほどが経った。
 山賊退治後、アネッサが待つ拠点に戻ってから思いっきり慰められたセイヤは、後々やっぱり肉体に精神が引っ張られていることを実感したりしていた。
 それはともかくとして、この一年の間に、セイヤの周りでいろいろな変化が起きていた。
 そのうちの一つは、山賊退治のときに助けた一家が、フェイルの街に腰を落ち着けたことだろう。
 これは単に、そこに住むようになったというだけではなく、辺境伯としてのマグスの意見とセイヤの意見が合わさった結果でもある。

 あの山賊退治のときに、セイヤはフラビオとアラナ夫妻に魔法を使うところを見られている。
 あれだけでは魔法だと特定するのは難しいだろうが、それでもどこかで違和感を覚えていたはずだ。
 夫妻ともにセイヤに大きな感謝の意を示していたので、不用意に他人に話すことはしないだろうが、それでも箍が無ければ不用意に話してしまかもしれない。
 出来ることなら手元に置いておきたいというのが、マグスの意見だった。

 その話をマグスから聞いたセイヤは、すぐにある提案をした。
 それは、拠点を移したがっていた夫妻をフェイルの街に住ませるというものだった。
 マグスとしては足元においておけるので願ってもない提案だったが、問題はあった。
 それは、いくら住居を用意したところで、夫妻が生活を続けられるかどうかが分からないという点だ。
 そもそもフラビオは行商であり、大きな資産やフェイルの街につてを持っているわけでもないのだ。

 そこでセイヤは、マグスと夫妻にとある提案をした。
 それは、セイヤが近隣の森で狩ってきたモンスターを夫妻の店に卸して、それを元手に夫妻が稼ぐというものだった。
 これであれば、セイヤは事情を知る夫妻を盾にしてその実力を隠すことができ、夫妻もセイヤという強い傭兵と繋がりを持てる。
 マグスの希望である手元に置いておきたいという希望も叶えることができ、誰にとっても利のある提案だった。
 夫妻が開くことになる店が、どこからモンスターの素材を手に入れているのかと勘繰る者は出てくるだろうが、それくらいは苦労のうちのひとつだと夫妻は笑っていた。
 結局、三者の希望が合致したことにより、夫妻は晴れてフェイルの街に小さな店を持つことができたのである。

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 その日の狩りを終えたセイヤは、いつものようにモンスターを『アラナ商会』へと持ち込んでいた。
「あら、セイヤ様。今日も狩りに行かれたのですか?」
 突然目の前に姿を現したセイヤに驚くことなく、アラナが笑顔になってそう聞いてきた。
 狩りに行くときのセイヤは、辺境伯の実子が護衛をつけることもなく街をうろちょろするわけにはいかないので、魔法を使って姿を隠しているのだ。
 アラナであればすでに山賊退治のときに同じ魔法を使っているので、使いやすいということもある。
「今日()というというところが気になりますが、間違ってはいません」
 若干渋い顔になってセイヤがそう答えると、アラナはクスクスと笑い出した。

 アラナ商会を専属として使い始めるようになって、セイヤは頻繁にモンスターの素材を持ち込むようになっていた。
 最初はその頻度に驚いていた夫妻だったが、慣れてくると体はまだ子供に過ぎないセイヤを心配して、忠告するようになっていった。
 そして、いまは半分諦めているのか、お小言めいたことを言うようになっていた。
 始めのうちは旦那であるフラビオが「辺境伯の子に」と注意をしていたのだが、ついセイヤがそんなに気にしなくてもいいというようなことを言ってしまったので、いまではそれもなくなっている。
 さらに、アラナは自分の子供であるように接してくるので、嫌な気がしないというのがセイヤの本音だったりする。

 いつものようにセイヤがモンスターの素材を出して、アラナがそれの鑑定を始めようとしたが、ふと思い出したよう顔になった。
「そういえば、今朝、主人がセイヤ様と話をしたいと言っておりました。少々お時間を頂けますか?」
「フラビオさんが? ……なんでしょうか? とりあえず、時間は大丈夫です」
 首を傾げながらセイヤがそう答えると、アラナは店の奥に向かって多少大きめの声を上げた。
「あなた! お客様がいらっしゃっていますよ!」
 店内で話す分にはいいのだが、さすがに声を張り上げると外に聞こえてしまうかもしれない。
 セイヤが店に来ていることは秘密なので、アラナもその辺りはきちんと気を使っているのだ。

 アラナの声が聞こえたのか、奥から多少バタバタとした音が聞こえたあとで、フラビオが姿を見せた。
「セイヤ様、いつもありがとうございます!」
 そのフラビオの満面の笑みは、決して商人としてのものだけではなく、心の底から見せているものだった。
 確かにセイヤは、アラナ商会の第一の顧客で多くの利益を与えている存在だが、それだけでこの笑顔になるとは思えない。
 フラビオの笑顔を見たセイヤは、内心で首を傾げながら問いかけた。
「いえ。こちらこそ。……何かありましたか?」
「分かりますか? いえ、この態度でそれはあまりにも白々しいですね。そうなんです! ついに結果が出たんですよ!」
 結果が出たというフラビオの言葉に、セイヤは始めは意味が分からなかったが、徐々にわかってきた。

 そして、完全にフラビオの言葉の意味を理解したセイヤは、同じように笑顔になって、
「本当ですか!?」
「ええ! 彼らが、見事にやってくれました!」
「それは凄いですね!」
 思ってもみなかったフラビオの報告に、セイヤは興奮気味に答えた。

 実は、モンスターの素材買取店として店を構えているアラナ商会は、セイヤの以前からの要望を汲み取るため、別の部門も立ち上げていた。
 それがなにかといえば、モンスターの素材を新たな原料として利用できないかということを探る研究機関――シンエイ研究所だ。
 ただし研究機関は、すぐさま金になるような利益を生み出すわけではない。
 始めのうちは結果を度外視するつもりで、セイヤの稼ぎを使ってその部門を立ち上げたのである。
 正確には、セイヤがオーナーで、アラナ商会が人員と資金を管理する役目を担っている。
 もっとも、今はまだ小さな機関なので、金を出しているのがセイヤで、フラビオが表に出て数人の研究員を雇っているという組織でしかない。

 セイヤが最初にシンエイ研究所に与えた研究課題は、フェイルの街周辺に出現することがあるブラッドウルフの毛皮の利用方法だった。
 これまでブラッドウルフは、肉を食用としている以外はすべて廃棄していたのだが、毛皮も利用できるとなると更に利用価値が上がる。
 ちなみに、毛皮だからといって、コートなどの贅沢品としての利用方法を探っていたわけではない。
 初級の傭兵では剣の刃を通すことが苦労するほどの固い性質を利用して、防具として使えないかと研究していたのだ。
 フラビオの報告は、それが見事に叶ったということなのだ。

 ひとしきり騒いで落ち着くことができたセイヤは、真面目な顔に戻ってフラビオを見た。
「そうですか。予想外に早かったですが……これで大手を振って父上に報告できますね」
 セイヤが研究機関を作ったことは、すでにマグスも知っている。
 ただし、それはあくまでも家族間での個人的な報告ということにしてある。
 だが、シンエイ研究所が今回見事に結果を出したことで、領地から正式な機関として認められる可能性が出て来た。
 ということは要するに、領地から正式に研究機関として資金が引き出せるということになる。
「そうですか。……ますます忙しくなりますね」
「ハハハ。その辺りは頑張ってもらうしかありませんね。早めに任せられる人と見つけるといいかもしれませんよ? フラビオさんに倒れられては、私が困りますから」
「わかっております。ご安心ください」
 心配されて苦笑をしたフラビオだったが、セイヤが言っていることは間違ってはいない。
 ただし、フラビオも気楽にモンスター狩りに行くセイヤのことを常に心配しているので、結局のところお互い様なのである。
セイヤ専用の商会ができました。
当然、アラナ夫妻にはいろいろと頑張ってもらうことになります。
ただ、アラナ夫妻は平民なので、わざと与える情報は制限しています。
まあ、セイヤが魔法を使っているということを知っているだけで、かなり危ないのですが、その辺はマグスむ含めていろいろと脅……ではなく、言い含めています。

※明日からまた一日一話更新に戻ります。
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