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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部2章

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(7)セイヤへの信頼

 自慢げにどや顔をして我が子(セイヤ)をほめるアネッサに、デニルは心底疲れ果てたような顔になった。
「そこまでの強さがあるとなると、俺が教えられることは少ないと思うが?」
「そんなことはないだろう? 戦闘以外にお前が教えられることはあると思うが?」
 素の顔になってそう答えて来たアネッサに、デニルはため息を返した。
「あのなあ。すでに索敵に関しては俺以上、傭兵としての心得なんてものは、数回教えればあとは実地で覚えるしかない。となれば、教えることなんてほとんどないと思うが?」
 そう言ってきたデニルに、アネッサはようやく自分の考えとのすれ違いが起こっていることを理解した。
「何を言っている。お前が教えられることは、それだけじゃないだろう?」
 何やら含みを持たせてそう言ったアネッサに、デニルはピクリと眉を動かした。
 ようやくアネッサが何を言いたいのか、セイヤに何を教えるべきなのかを理解したのだ。
「………………本気かい?」
「あたしがこの手の話で、冗談を言ったことがあるかい?」
 アネッサが小さな笑みを浮かべながらそう答えると、デニルは大きくため息をついた。

 さらにデニルは、もう一度ため息をついてから息を付くようにして言った。
「なんとも厳しい母親だな」
「何を言っているんだい。母親だからこそ、だよ。心配するな。セイヤは、この程度のことじゃ潰れないさ」
 そう言いながらニヤリとした笑みを浮かべるアネッサに、デニルは肩をすくめた。
「こういう場合は、親バカというべきなんだろうな」
「いいだろう?」
 なぜか自慢するように胸を張ったアネッサに、デニルは苦笑することしかできなかった。

 そして、諦め顔になったデニルは、まじめな顔になってからアネッサを見た。
「……わかった。俺ができる限りのことは教えよう。ただ、潰れても知らないからな?」
「ああ。そこはお前の責任にするつもりはないさ。……とはいっても、フェイル周辺で教えるのは、さすがに少し無理があるか?」
 アネッサがそう言うと、デニルは少し考え込むような顔になり、少ししてから頷いた。
「確かに、マグス侯の御威光が特に効いているこの辺りは厳しいな」
「混ぜっ返すな。だが、確かにそうだろうな。……わかった。そこはあたしがどうにかしよう」
「どうにかって……はあ、まあいいか。じゃあ、準備ができたら教えてくれ。俺もそのつもりで動くから」
 完全に諦め顔になったデニルに、アネッサは大きく頷いた。

 その後、デニルは部屋を退出して行ったが、アネッサはしばらく何かを悩むような顔で考え込んでいた。
 そしておもむろに、侍女のひとりを呼んでから、マグスに時間を取ってもらうように使いを出すのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 アネッサが執務室内に入ってきたのを確認して、マグスはすぐに声をかけた。
「アネッサ、どうしたんだ? 今度の遠征で、問題でも発生したか?」
 普段のアネッサであれば、よほどの緊急の用事でなければ、余裕を持って時間を取ってから会いに来る。
 ところが、今回はすぐに会いたいという内容になっていたため、今度の遠征に何か問題がでたのかと考えたのだ。
 ちなみに、遠征というのは、モンスターの氾濫を防ぐため定期的にモンスターが発生しやすい場所に行って、間引きを行うことだ。
 アネッサの最大の役目は、領の騎士団を率いて遠征を行うことなのだ。

 マグスの問いに、アネッサは一度首を左右に振ってから、すぐに首を傾げた。
「いいや、そうじゃないさ。……いや、そういうことになるのか?」
「アネッサ?」
 珍しく歯切れが悪いアネッサに、マグスは不思議そうな表情になる。
 そんなマグスを見て、アネッサは苦笑を浮かべてわずかにうつむき加減になった。
「我が子のこととなると、なかなか決断できないものだね」
 そう呟いてから、クイと顎を上げてから言った。
「今度の遠征、セイヤも連れて行っていいかい?」
「なに?」
 いいかいと聞いておきながら、アネッサの中ではすでに連れて行く心づもりになっているのがわかったマグスは、わずかに驚きの表情を浮かべた。

 貴族の子供が、領内の遠征に赴くことはさほど珍しいことではない。
 ただそれは、あくまでも学園に通う直前か、卒業したあとのことで、セイヤの年齢を考えればありえないことなのだ。
 だからこそマグスは初めに驚きの顔になったのだが、すぐに考えを改めていた。
 セイヤ本人が、自分たちに向かって「傭兵になる」と言ってきたときのことを思い出したのだ。

「アネッサは、子供に甘いのか厳しいのか、よくわからないな」
 最終的に苦笑を浮かべながらそう言ってきたマグスに、アネッサはプイと横を向いてから答えた。
「子供は大事だが、夢をかなえてやる手助けをするのも、親の役目じゃないか」
「ハハハ、それはそうだね」
 それなりに長い付き合いになるアネッサのその態度が、マグスには照れているせいだとわかった。
 そして、やはりアネッサは、子供には極甘だということを再認識した。

 ひとしきり笑ったマグスは、顎に手を当てて考え込むような顔になった。
「……そういうことなら、アーロンも連れて行ってもらおうか」
「なに? ……ああ、いや。そういえば、そろそろ連れて行っても問題ないのか」
 長兄であるアーロンの年齢は十一歳。
 来年には学園に通うことになるので、いまのうちに遠征に行っておくというのは、別におかしなことではない。
 勿論その場合は、現場に出るのではなく、指揮官という形で後方にいることになる。
 もっともそれは、総指揮をとることになるアネッサも同じだ。
 どちらかといえば、初めての遠征参加は、モンスターとの戦闘の空気に触れさせるという意味合いのほうが大きいのである。

 アネッサの言葉に、マグスは小さく頷いた。
「うむ。考えてみれば今が一番いいだろうな。すぐにシェリルに確認を取ろう」
 一応、マグスはセルマイヤー家の当主とはいえ、子供のことに関しては、それぞれの母親の同意も取っている。
 場合によっては、家長権限で押し通すこともできるが、諸々のことを考えれば確認しておくのがベストなのだ――と、マグスは考えている。
 これが貴族の一般的な考え方かといえば、微妙なところがある。
 中には、家長が絶対だという考え方を持つ貴族家も存在しているためだ。
「そのほうがいいだろうね。ただ、言っておくけど、セイヤはモンスターとの戦闘には参加させないからね?」
「なに?」
 言っていることが矛盾しているアネッサに、マグスは眉を寄せた。

 そんなマグスにアネッサは肩をすくめて、
「遠征との同行はついでさ。本来の目的は、別にある」
「……そういうことか」
 アネッサの目的をすぐに察したマグスは、そう言いながらため息をついた。
「やはり、厳しい母親だな」
 先ほどとは全く逆の評価をするマグスに、アネッサはフンと鼻を鳴らした。
「なにを言っているんだい。セイヤならこの程度のことは乗り越えられるさ」
 そんなことを言いながらも、目の奥に不安が揺れていることを、マグスはしっかりと見抜いていた。
 ただ、敢えてそれを指摘することはしない。
 言ったところでアネッサはすぐに否定するだろうし、なによりも自分もアネッサと同じ気持ちなのだ。

 ――――セイヤなら乗り越えられる。
 心の中でそう考えていたことに気付いたマグスは、自分も大概だなと思いつつ、そろそろやってくるシェリルをどう説得するのか、頭を悩ませるのであった。
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