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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部2章

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(6)後処理と報告?

 デニルから「とんでもない」と評されたセイヤだったが、実はさほど余裕を持って戦っていたわけではない。
 母親アネッサ譲りの剣術は、同世代の子供たちに比べれば、確かにあり得ないほどの技術を持っている。
 ただ、いくら技術があっても七歳児の体格では、どうやっても筋力など物理的に足りないものがある。
 そのため、セイヤはデニルにはばれないように、内気法を使って筋力などの強化を行っていた。
 ただ、内気法にも問題があって、あまりにも魔力を強くしすぎると地面まで抉ってしまうことになる。
 それだと、どう頑張っても誤魔化すことが無理なので、一般的な攻撃の範囲内に収めているのだ。
 持っている力を隠しながら戦うのも楽じゃないと思いつつ、三体目のライトボアに向かう頃には、どうにかその調整も上手く行くようになっていた。

 セイヤが三体目のライトボアを倒すころには、デニルはちゃっかりと始めの頃に倒していたライトボアの処理を始めていた。
 しかも、その処理ももう終わりそうな気配だった。
 慌ててその作業を見ようとしたセイヤに、デニルはちらりと視線を向けた。
「こっちはもう終わるから気にするな。他ので、きちんと最初から見せる。それよりも、他の二体を近くに並べて置け」
「はい!」
 デニルの手際の良さから学ぶべきことはたくさんあるとわかったセイヤは、慌てて返事をして自分が倒した獲物に向かった。

 
 デニルは言葉通り、二体目以降のライトボアを使って、後処理の仕方を説明し始めた。
 ちなみに、一頭目はきっちりと血抜き処理をされて地面に転がっている。
 実はセイヤは、モンスターの後処理をするのは、初めてのことになる。
 神から貰った別世界のモンスターは、倒した後はそれこそゲームのように消えてしまうのだ。
 ついでにいえば、あの世界にある自然物を外に持ち出すこともできないようになっていたりする。

 近くに吊るすための木などはないので、セイヤはどうするのかと考えていたのだが、しっかりとそのための技術があるらしい。
 そういった方法を学びながら、セイヤはライトボアの後処理を進めていった。
 流石に初めてのことなので、時間はかかっていたが、デニルは特に怒るでもなく淡々とセイヤに指示を出していた。
 それでもやはり、熟練のプロと初心者の手による作業はまったく違っていて、見比べればその差が歴然としていた。
 それを見てため息をついていたセイヤに、デニルはガハハと笑いながら言った。
「そもそもお前さんの年で、これだけ戦えるほうが凄いのさ! まあ、俺が教えることがあって良かったよ」
 そのデニルの言い方に、セイヤは苦笑を返すことしかできなかった。

 後処理が完全に終わったのを確認したデニルは、セイヤを見て言った。
「よし、それじゃあ、街へ戻るぞ」
「えっ!? もうですか?」
「馬鹿野郎。これだけの大物を三体も倒しておいて、どうやって他のも持って帰るつもりだ」
 言われてみれば当然のことで、思わずセイヤは赤面していた。
 ただ、そのセイヤの態度に何か思うところがあったのか、デニルはジト目でセイヤを見た。
「……まさか、なにか裏技があるとかはないよな?」
「いやですねえ。ソンナコト、アルハズナイジャナイデスカ」
 思わず棒読みになってしまったのは、当然その手段があるためだ。
 それは魔法によるアイテムボックスを使うということなのだが、そんなものをここで大っぴらに使うわけにはいかない。

 わざとらしく答えてきたセイヤに、デニルは大きくため息をついた。
「まあいい。とにかく帰るぞ」
「はい!」
 深く追求してこなかったデニルに安堵して、セイヤは殊更に大きな声を答えるのであった。
 デニルの顔を見れば、聞きたいことがあるのはわかっていたが、あとはアネッサに任せようと押し付けることにしたのである。
 そして、この三頭のライトボアが、セイヤのこの世界における初めての実践結果ということになるのであった。

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 狩ったモンスターをどうやって金に換えるかも、傭兵の腕の見せどころである。
 フェイルの街のような大きな街では、丸々買い取ってくれる場所もあるが、村規模になればそんな施設は望めない。
 そのため、長期保存できるようにしたり、必要としているような場所へ卸したりと、教えることはいくらでもある。
 場合によっては、町でも小売りにした方が儲けが出る場合もあるので、それはそれぞれの傭兵の選択次第ということになるのだ。
 デニルは、そうしたことをセイヤに教えながら、『鋭牙』の事務所へと向かった。
 『鋭牙』の事務所では、傭兵たちが狩ったモンスターを一括で買い取るシステムがあるため、それを利用することにしたのである。
 事務所に持ち込んだ際に、三頭のライトボアを倒したのがセイヤだと説明すると、その担当者が笑いながら「面白い冗談だ」と言っていたが、デニルは敢えて訂正はしなかった。
 担当者の言いたいことを十分に理解していたのと、その場での説明に時間を取られるのが嫌だったためだ。

 『鋭牙』の事務所でライトボアの処理を行ったあとは、そのまま辺境伯の屋敷へと直行した。
 セイヤが残念そうにしていたが、デニルがこれから外に行っても遅くなると言いくるめたのである。
 実際には、デニルの気分がそれどころではなく、早くアネッサと話をしたかったということがあったのだが。

 
 そんなわけで、セイヤを無事に屋敷へと送り届けたデニルは、アネッサを前にして声を上げた。
「姉さん! あれは、一体何なんだ!」
 この場にはセイヤはいないため、デニルはいままでの思いをぶつけるようにアネッサに向かって怒鳴った。
「おいおい。あたしの可愛い息子をあれとは何だい。きちんとセイヤという立派な名前があるんだぞ?」
「そんなことはどうでもいい! ……ああ、いや済まない」
 アネッサにギロリと睨まれたデニルは、すぐに謝って頭を下げた。

 そんなデニルに、本気で怒っていたわけではないアネッサはニヤリとした表情を向けた。
「お前さんにそんな言い方をさせるということは、かなりはっちゃけたか?」
「はっちゃけたどころじゃねえよ! なんであんな子供が、ライトボア三体を余裕で倒せるんだ!」
 そのデニルの言葉を聞いたアネッサは、キョトンとした顔になった。
「なんだ? その程度のことか?」
「その程度って……あのなあ」
 呆れたような顔になったデニルに、アネッサは真顔になって続けた。
「はっきり言っておくが、セイヤが本気で戦えば、お前も危ないかもしれないからな?」
「……オイ?」
 半眼になって自分をにらんでくるデニルに、アネッサは肩をすくめた。

 だが、残念ながらアネッサは本気で言っているのだ。
「嘘や冗談でもなんでもないからな? なにしろ、いまのあたしでも五回に一回は一本取られるからな」
 参った参ったと続けたアネッサに、デニルは大きくため息をついてからあきれ顔になった。
 ちなみに、アネッサが言っているセイヤの本気というのは、魔法を使ったうえでのことだ。
「姉さんに勝てるって……どんだけだよ」
「流石のあたしの息子だろ?」
 胸を張ってそう答えたアネッサに、デニルはもう一度大きなため気を吐いた。

 ちなみに、それだけの実力があるセイヤに、アネッサがなぜあんな条件を出したのかといえば、単に手放したくないという思いもあるが、それ以外にもある。
 それは、できることなら我が子が独り立ちするのであれば、自分を超えて行ってほしいという親としての思いだ。
 そして、それだけのことをセイヤならできると確信しているからこそのあの条件なのであった。
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