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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部2章

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(4)魔力についてと師匠

 マリーが自力で魔力を動かしていることに気付いたセイヤは、二重の意味で驚いていた。
 ひとつは勿論マリーが魔力を使っていることだが、もうひとつは、自分が他人の魔力を視ることが出来るということだ。
 これまで何度もマグスとアネッサに請われて、魔力の扱い方を教えて来たセイヤだったが、他人の魔力は視れないと思っていた。
 少なくともマグスとアネッサの魔力を視れたことはない。
 だが、現実としてマリーの魔力を視れた以上、ふたりの魔力が視れない理由があるということにもなる。
 今のところセイヤが考えているのはふたつある。
 ひとつは魔力を持つ者と持たない者がいるということで、もうひとつは、魔力が動いているからこそ視ることができているということだ。
 今のところセイヤは、絶対の根拠ではないが、後者が正解ではないかと考えている。

 現にセイヤは、マリーが魔力を動かしているところを視ている。
 そのため、マリーに魔力がもともとなかったとは考えづらい。
 いきなりマリーに魔力が出て来たにしては、その予兆が無かったためだ。
 後天的に魔力が体に入ってきて、それをいきなり動かし始めたとなると、本当の意味でマリーは天才ということになる。
 それよりは、もともとあった魔力を動かせるようになったと考えた方が自然である。
 加えて言えば、この説の根拠となっているのが、自分がこの世に出る前に感じていた魔力についてだ。
 あのときも、いきなり魔力をコントロールできるようになったわけではなく、いろいろと試しているうちにできるようになった。
 おそらくマリーも同じような過程を経て、いまがあるのではないかと考えているのである。

「――――と、仮説を立ててみたは良いですが、結局、実証する方法が無いのですよね」
 マリーをボーッと見ながら、セイヤはそう呟いた。
 いくらなんでも、目の前にいるマリーに対して実験するつもりは毛頭ない。
 この場合、どうあがいても人体実験にしかならないのがつらいところだ。
 さらにいえば、セイヤ自身もそんなこと(人体実験)をしてまで、知りたいとは考えていないのだ。

 そんなことを考えていたセイヤに、アネッサが笑いながら近寄ってきた。
「また何か悩んでいるのか? いまからそんな顔をしていると、すぐに眉間にしわが寄って来るぞ」
「えっ!?」
 アネッサの忠告に、セイヤは慌てて眉間に右手の人差し指を当てた。
 さすがにこの年で、眉間にそんなものを作るつもりはない。

 その様子を見て大笑いをし始めたアネッサを一睨みしたセイヤは、
「それよりも、いい加減傭兵は選んでくれたのですか?」
 セイヤが傭兵になりたいと両親に申し出てからすでに一週間ほどが経っている。
 その間、セイヤはアネッサをつついていたのだが、のらりくらりと躱されていた。
 そろそろ、アネッサがセイヤを傭兵にさせたくないがために遅らせているのではないかと疑い始めていた所だったのだ。
「ああ、それならそろそろ連絡が来るんじゃないか?」
「えっ!?」
 そんなことを考えていたからこそ、セイヤはアネッサの返答に驚いた。

 そのセイヤの顔を見て、アネッサは不満そうな顔になった。
「なんだい、その顔は。お前は、あたしが嘘をついているとでも思っていたのか?」
 そのとおりです、と答えるわけにはいかず、セイヤは曖昧な笑みを浮かべた。
 ただ、さすがにアネッサは、実の母親だけあって、すぐにその顔の意味に気付いたようだった。
 アネッサはセイヤの両頬を両手で引っ張りながら、
「随分と正直な息子だね」
「こめんなひゃい」
 こればかりは自分が悪いので、セイヤは素直に謝るのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 セイヤが新たに生まれた世界での知人への連絡手段は、基本的に手紙となる。
 そのため、遠方になればなるほど、どうしてもやりとりには時間がかかるのだ。
 アネッサは、マグスとの結婚のために以前に所属していた傭兵団は辞めたが、連絡は欠かさず取っていたようだった。
 その傭兵団は、辺境伯領を活動の拠点としていて、辺境伯夫人とのつながりが必要だったということがある。
 アネッサ――というよりも辺境伯家も傭兵を必要とすることはあるので、どちらにとってもメリットがある。
 というよりも、そういった関係を作れるからこそ、貴族ではないアネッサがマグスとの結婚を許されているのだ。

 アネッサがセイヤに付けるために選んだ人物は、たまたま遠方に出向いていたために、連絡に時間がかかっていたようだった。
 それでもフェイルの街に拠点を構えているその傭兵団――『鋭牙』に連絡を取ってもらって、どうにか当人を捕まえることに成功した。
 その時は、まだ仕事をしている最中だったのですぐに現場を離れるわけにはいかず、結局当人が屋敷来たのは、セイヤが傭兵になると話をしてから一月後のことだった。
 そして、その男――デニルは、いまセイヤとアネッサの前で、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 もし、この場にセイヤ以外の子供がいれば、その迫力に泣き出す子がいたかもしれない。
 残念ながらセイヤは、その顔を見ても何の反応を示さなかったのだが。
「やあ、姉さん。わざわざ俺を呼び出すってことは、なにかあったのかい?」
 セイヤの反応に若干拍子抜けしたような顔をしたデニルは、気にしなかったふりをしてアネッサを見た。
 デニルが子供に対して、いつも今のようないたずらしていることを知っているアネッサは、内心で笑いながらまじめな顔を取り繕って頷いた。
「ああ。ちょいとお前さんに仕事を頼みたくてね」
 普段から貴族に嫁いだとは思えない言葉遣いをしているアネッサだが、昔の仲間と会うとさらにそれが崩れるらしい。
 だからといってどうということはないのだが、傍に控えている何人かの侍女が顔をしかめるのをセイヤは見逃さなかった。

 そんな周囲の様子に気付いているのかいないのか、アネッサはまったく気にした様子もなくデニルに話し続けていた。
「というわけで、頼んだよ」
「おい、こら待て!」
 いきなり結論を言ったアネッサに、デニルが慌てたように止めた。
「なんだい?」
「いや、姉さん。なんだいじゃないだろう? せめて依頼の内容くらい話してくれや」
 依頼を受けるのはいいんだという突っ込みは、セイヤは心の中にしまっておいた。
 自分が余計な発言をして、話をこじらせてしまってはややこしくなってしまうと考えたのだ。

 デニルの言葉に、アネッサはわざとらしく驚いた顔になった。
「おお! お前もそれらしいことを言うようになったな。昔は、仕事なんて金になれば何でもいいんだよとか言っていたんだが」
「姉さん! 一体いつの話だよ!?」
 つい悲鳴のような声を上げたデニルに、アネッサは真面目くさった顔で頷いた。
「かれこれ十数年ほど前か?」
 そのアネッサの答えに、デニルはげんなりとした顔になり、セイヤは思わず吹き出してしまった。
 ふたりの会話から、気安い関係だということは分かる。
 それに、普段のセイヤが知る屋敷にいるときのアネッサとは違った一面が見れて、それはそれで嬉しかったのだ。

 これ以上突っ込んでも話が進まないと判断したのか、デニルがセイヤを見て言った。
「わざわざこの場に連れてきているってことは、その子が関係しているんだよな?」
「おお、鋭いな! まったくもってその通り! それで、依頼というのはな。セイヤに、傭兵としてのノウハウを教えてほしいんだな」
「………………はいっ!?」
 てっきり貴族の子供の護衛かと考えていたデニルは、驚きの顔になって交互にセイヤとアネッサを見た。
 それを見て満足げな表情を浮かべたアネッサは、駄目押しのように続けた。
「というわけで、死なない程度によろしく頼む。拒否は認めん!」
 この瞬間、セイヤにとっての傭兵としての師匠は、デニルに決定したのであった。
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