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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部2章

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(2)これからの事

 セイヤが提案した次の策というのは、領主直営の食堂を街に開くことだ。
 ある食材を広めたいのであれば、そもそもその食材の料理が広まらないと始まらない。
 上から広まるのを待ってもいいのだが、それだとどうしても時間がかかるので、それならばそうした料理を売りにする食堂を作ってしまえということである。
 この場合、食堂そのものの売り上げも大事だが、それ以上に目的の食材を使った料理を広めることの方が重要なのだ。
 極論すれば、食堂の売り上げは赤字であってもかまわない。
 もっとも、赤字経営の食堂の料理が、一般に広まるとは思えないので、その場合は根本から目論見が失敗したことになる。
 ただし、セイヤには食堂の経営が上手くいくという確信があった。
 なぜなら、セイヤが作るように指示した料理を食べたときの領主一家の反応を見ているからである。
 領主一家が初めて口にしたという食事を、一般の人間が食べているとは思えない。
 できれば、市場調査を行って確信したいところだったが、それは駄目だと却下されてしまっていた。
 まあ、屋敷の料理長が知らないと言っていたので、大丈夫だろうとセイヤは考えている。

 
 セイヤが長々とマグスと話をしていると、アネッサがちょいちょいと腕をつついてきた。
「なあ? あたしはなぜ連れてこられたんだ?」
 アネッサには関係のない話が続いたことで、若干飽きが来たらしい。
 そもそもセイヤも養鶏に関わる話だけをしに来たわけではないのだ。
 ようやくそのことを思い出したセイヤは、ポンと手を打った。
「ああ、そうでした。ついうっかり話し込んでしまいましたが、その話をするためだけに来たわけではないのです」
「ふむ。何かあったか?」
 二年前のあの時からセイヤが突拍子もないことを言い出すことは、マグスもよくわかっている。
 今度は何だと、若干の警戒の色が見えた。
 セイヤにしてみれば、子供の無邪気なお願いという範疇に収めているつもりだったが、養鶏という実績がある以上、説得力は皆無だった。

 マグスの表情に気付かなかったふりをしたセイヤは、両親を交互に見ながら続けた。
「私の進路ですが、まずは傭兵を目指そうと思います」
 セイヤがそう言ったときのふたりの反応は見事に別れた。
 母親であるアネッサは考えてもしなかったという顔になり、父親であるマグスは考え込むような顔になった。
「セ、セイヤ。どういうことだい? やっぱり、私が剣術を教えたのがいけなかったのかい?」
 実は前世の記憶持ちをカミングアウトして以降、セイヤは傭兵であるアネッサから剣術を教わっていた。
 ちなみにアネッサは、その道で名を馳せたからこそマグスと知り合い、辺境伯の第二夫人の座を射止めるという偉業(?)を成し遂げている。
 ただし、元傭兵が強さを見込まれて貴族に取り込まれることは、珍しい話ではない。

 ちなみに、この世界に冒険者という職業はない。
 モンスターを倒すのは、国か領主が抱えている騎士団か、そのどちらかから依頼を受けて討伐を行う傭兵のどちらかになる。
 傭兵の役割は、モンスター討伐だけではなく、いわゆる国同士の戦争にも関わる金をもらって戦闘を行うプロ集団なのだ。
 もっとも、その性質から一部の人間からは毛嫌いされていたりもする。

 セイヤに剣術を教えてはいたが、まさか傭兵になると言い出すと考えていなかったアネッサは狼狽えている。
 そんなアネッサを右手で落ち着くようにしながら、マグスはジッとセイヤを見た。
「…………理由を聞いてもいいのか?」
「おや。案外落ち着いていますね。まずは反対されると思っていたのですが」
 アネッサは当然だが、マグスの親バカぶりもセイヤは重々承知している。
 その上で、いろいろと対策を練ったうえで話を切り出したのだが、その対策の半分は無駄になってしまった。

 マグスは、息子の言葉にため息をついてから答えた。
「お前はこれまで、失敗しようと成功しようと、意味のなかったことは言ってこなかったからな」
「失敗のことは忘れてもらってもいいのですよ?」
 セイヤはこれまで、養鶏場のことも含めていろいろなことを提案してきていた。
 その中には、世界の常識や価値観の違いで馴染めなかったお陰で、失敗してきたものもある。
 そのたびにセイヤは、案外知識チートも役に立たないものだなと思っていたりしていた。

 セイヤの茶化しに、マグスは「フン」と鼻を鳴らしながら、先を続けるように促した。
「ハア。せっかく場を和ませようと思ったのですが……。まあいいです。理由はいくつかありますが、まずは私自身の立場作りのためでしょうか」
 セイヤはセルマイヤー辺境伯家という立場で見れば、四男ということになる。
 これでは、領内での将来的な立場はほとんど見込めないと言っていい。
 勿論、長兄が継いだ領地を補佐していくということもできるが、次兄、三男がいる以上はそれも邪魔になることだろう。
 セイヤは、その二人を蹴落としてまで、領地内の立場に固執するつもりはない。

 さらに、領地内で立場を作って行くには大きな問題がある。
「レオ兄様がいなければ、アーロン兄様の補佐でも良かったのですがね……」
 わざとらしくぽつりと呟かれたセイヤの言葉に、マグスとアネッサは同時には大きなため気をついた。
 現状でさえ目の敵にしているリゼとレオが、セイヤが領地内で立場を作って行くことを邪魔しないはずがない。
「では、国の役人を目指すというのは?」
 セイヤの能力と辺境伯子息という立場があれば、かなり高位の地位につけるだろうと考えてのマグスの言葉に、セイヤは首を左右に振った。
「それも同じことでしょう。リゼ母上は、社交は得意のようですからね」
 母上と違って、とセイヤは心の中で付け加えた。
 セイヤは別にアネッサを責めようと思っているわけではない。
 そもそも元傭兵のアネッサに、貴族社会の社交をしろという方が無茶だということはわかっている。

「だ、だが、国の役人になれば、命の危険は……!」
 アネッサは、傭兵が常に命のやり取りをしている存在だということをこの中で一番よく知っている。
 だからこそ、我が子が傭兵なんて職業に付くことは反対したいのだ。
 だが、アネッサの言葉に、セイヤは首を左右に振った。
「母上は、大事なことを忘れていますよ」
「……なんのこと?」
 首を傾げるアネッサを確認してから、セイヤはマグスを見た。

 息子の視線の意味がわかったマグスは、何度目かのため息をつきながらアネッサを見て言った。
「セイヤの持つ魔法の力のことだ。そのことがばれれば、間違いなく国に取り込まれる」
 マグスがそう言っただけで、アネッサは彼がなにを言いたいのかすぐに理解した。
 傭兵という戦闘力で、国や貴族と渡り合ってきたアネッサだからこそ、すぐに気付けたと言ってもいい。
 そんなアネッサに、セイヤがさらに付け加えた。
「私は、国の操り人形になるつもりはありません。それであれば、ある程度自由に動ける傭兵になったほうがいいですよね?」
 傭兵としてある程度の力を持ってしまえば、貴族や国も簡単に手を出せる存在ではなくなる。
 それに加えて、セルマイヤー辺境伯という後ろ盾が付けばなおさらだろう。

 もっとも、この世界における魔法という力は、辺境伯としての後ろ盾も吹き飛ばしてしまうような影響力がある。
 だからこそセイヤは、傭兵という実力社会の中で早めに立場を作って行きたいのだ。
 できれば、傭兵として確固たる地位を築くまで、魔法の力と辺境伯子息としての立場がばれなければなおいい。
 そうそう都合よくはいかないだろうが、出来る限りうまく立ち回ってい行きたいとセイヤは考えているのである。
ちょこちょこ知識チートもどきは挟んでいきますが、細かい内容(そのときの会話など)は省きます。
一応、知識チートメインの話ではありませんからw
いまのところセイヤにとって重要なのは、知識チートそのものではなく、父親に与える信用(影響も)です。
なので、結果はすべてマグスの功績となっています。
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