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異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部2章

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(1)二年後(七才)

 セイヤが前世の記憶持ちであることを、マグスとアネッサにカミングアウトしてからすでに二年近くが経った。
 すでにセイヤは七歳の誕生日を迎えており、体も成長……しているとは言い難かった。
「あの……母上。私もいい加減七歳になってのですから、これはいい加減止めてほしいのですが……」
 無事に生まれた妹であるマリーを愛でに来たセイヤは、アネッサにつかまっていつもの通り膝の上で頭を撫でられていた。
 一向に成長の兆しを見せないセイヤは、未だにアネッサにつかまってはこうして膝の上に収まっているのだ。
「む? 嫌か?」
「いえ、嫌かと聞かれればそうではないと答えますが……いえ、そうではなく!」
 つい、いつものように答えてしまったセイヤは、思い切り声を上げてしまった。
 いつもこのパターンで煙に巻かれていたので、次のときは誤魔化されないぞと決意していたのだ。
 本来であれば、前世の記憶があってうん十年以上の精神年齢であるはずなのだが、なぜだかこういうときには、まったく役に立っていない。
 前世の記憶よりも、セイヤとしての人生の経験のほうが優先されている感じなのだ。
 それはそれで悪くないと思っているところが、いつまで経っても改善されない要因なのかもしれないが。

 いつもと違った対応をしてきたセイヤに、アネッサは意外そうな顔になった。
「ではなんだ? お前は母の愛情が受け入れられないのか?」
 親の愛情としては過剰すぎだとか、いつまでも子供扱いするなとか、いろいろといいたいことはあったが、なんだかんだで誤魔化されることはわかっているので、セイヤは別の方向から攻めた。
「ですから、そうではなく。私は、マリーを構いに来たのです」
「おや。そうだったのか」
 セイヤがマリーを猫かわいがりしていることは、アネッサもよく知っている。
 更に、セイヤがマリーをかわいがるときは邪魔しないのだ。

 今回セイヤは、それを楯(理由)にして母からの愛情を躱そうとしていたのだが、残念ながらまだアネッサのほうが一枚上手だった。
「だが、残念だな。マリーならついさっき寝たばかりだ」
「げっ! ほ、本当ですか?」
 アネッサからの攻撃(笑)を躱すための理由にはしていたが、マリーを愛でたかったのも本当なのだ。
 それができなくなって、セイヤはガクリと肩を落とした。

 いくら相手が可愛いからと言って、寝ている子を起こすような性格をしていないセイヤは、
「もういいです。父上のところに行きます」
「なんだ。怒ったのか?」
 アネッサにそう問いかけられたセイヤは、驚いた顔になって振り向いた。
「いえ、違いますよ! もとからマリーを可愛がったあとは、父上のところに行く予定だったのです」
「なんだ。そうだったのか」
「そうなのです。ああ、ついでなので、母上も一緒に行きませんか? 一緒に話したいことがあるのです」
「それは構わないが……一体、何の話だ?」
 セイヤは、その知識を生かしてマグスと何やらやっていることを知っているアネッサは、てっきりその方面での用があるのかと考えていたのだ。
 それが、自分も用があると言われて、なんの思い当たりもなく首を傾げていた。

 そのアネッサの様子を見て、セイヤは少し真面目な表情になった。
「おそらく母上も間接的か、直接的に関係することになるので、聞いておいた方がいいと思うのです」
「なるほど。そういうことなら一緒に行こう」
 息子セイヤの言葉に、アネッサはすぐに頷いた。
 前世の記憶の話をしてから二年。セイヤがこういう顔をした時は、大抵何かしらをやらかしていることを、母親であるアネッサはよく知っているのであった。

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「父上、セイヤです。母上も一緒です」
 セイヤは、マグスの執務室のドアをノックしてからそういうと、部屋の奥からすぐに返事が返ってきた。
「ああ。入ってきていいぞ」
 客人を迎える部屋は別に用意されているため、執務室はマグスの作業用の机と簡単な書棚が用意されている小さな部屋だ。
 セイヤがドアを開けて部屋に入ると、マグスが作業の手を止めて入室を待っていた。
「どうしたんだ? アネッサまで一緒に」
「卵の件がどうなっているかの確認と、今後について話をしに来ました」
 セイヤがそう答えると、マグスは緩めていた顔を引き締めて、父親の顔から領主の顔になった。

 二年前、前世の記憶があることを話したセイヤは、領主であるマグスに養鶏についての話をしていた。
 といっても、元の世界にあるような大規模な養鶏場を提案したわけではない。
 最初は、一農家と契約をして、家で使う分の卵を常時確保できるようにしたのだ。
 なぜ卵かといえば、色々な料理やお菓子に使える上に、そもそもの栄養価が高いためである。
 もともと個人で飼っているところも多かったので、手を出しやすかったということもある。

 今では領主の屋敷での定量確保が上手くいったので、その農家にはさらに手を広げてもらって、小規模な養鶏場を運営してもらっている。
 もちろん、そこで得た卵や鶏肉は、直接領主に卸してもらい、そこからさらに市場へと出回っているのだ。
 間に領主が入っているのは、たとえ事業が失敗したとしても、生産農家の最低限の生活を保障するためだった。
 流石に領主の屋敷で確保するだけの数を飼育していたときは赤字経営だったが、いまでは生産農家の最低限の生活ができるくらいの生産は確保していた。

「卵に関しては順調に行っているぞ。家に入って来る量は、セイヤも把握しているだろう?」
 マグスの言葉に、セイヤも頷いた。
「はい。量はともかく鮮度がどうなるかが心配でしたが、特に問題も起きていないようですね」
「そうだな。いまのところ事故も起きていないから、流通に関しても問題はないだろう」
 大量生産が可能になった結果、それまで個人個人でやり取りされていた卵は、領主館がある街――フェイルでは市場に出回るようになっていた。
 といっても、一般の市場ではなく、宿屋や食堂などある程度まとまって消費する場所に限ってのことだ。
 それでも、まだまだ量は足りていないというのが現状だった。

 父親から渡された資料を見ていたセイヤは、小さくため息をついた。
「……思ったよりも他の農家で手を出そうとするところが少ないようですね」
 セイヤの予想では、他の農家も養鶏に手を出すと考えていたのだが、いまのところその予兆すら無いようだった。
「一家として儲けが出るようになったのは最近のことだからな。様子見というところが大きいだろう。それに、初期投資が馬鹿にならないしな」
 借金という大きなリスクを負ってまで新しい事業に手を出すくらいなら、いままで通り多少貧しくても農業を続けた方がいい。
 そう考えるのは、ある意味当然といえば当然の心理だ。
「別に、いきなり農業を捨てて養鶏だけにする必要はないのですがね」
 農業の片手間に、世話できる範囲の数の鶏を増やしてくれればそれでいいのだが、どうもそういった発想にはなっていないらしい。

 不満げな表情をするセイヤに、マグスは苦笑を返した。
 そもそも領地経営など十年単位で考えるのが普通なのだ。
 マグスにしてみれば、たった二年で結果を出したことの方が驚きなのである。
 それでもまだ不満げな息子の様子に、マグスは以前から提案されていた次の策を許可することにした。
「それじゃあ、次の計画を行ってみるか?」
「えっ!? いいのですか?」
 一気に機嫌を回復させたセイヤに、マグスは頷いた。
「ああ、十分すぎるほどの結果が出たからな。しかも、さらにまだまだ伸びる可能性があるとなれば、手を出さないわけがあるまい?」
「ありがとうございます!」
 領主としての決断を聞いたセイヤは、満面の笑みでそう答えるのであった。
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