挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界で魔法を覚えて広めよう 作者:早秋

第1部1章

10/94

(9)五歳児

本日二話更新の一話目です。
 セイヤが元の世界に戻ると、そこは扉が出現させたマグスの執務室で、鬼がふたりいた。
「え? あ、あれ?」
 鬼二人は、セイヤの実の父母であるマグスとアネッサだった。
 アネッサがこの場にいる理由は、セイヤにもすぐわかった。
 なぜなら、セイヤが別世界に行く前に、マグスの判断でアネッサには自分の話をしてもいいと言っていたためだ。
 そのため、マグスはさっそくアネッサを呼んでその話をしたのだということはわかる。
 だが、なぜふたり揃って、セイヤの背中に冷や汗を流させるような顔をしているのかが分からない。
 ――――いや、実際にはわかっていたのだが、理解しようとするのを拒否していたのだ。

 扉から出て来たセイヤを見て、アネッサはニコリと表情を変えた。
(あっ。これは駄目ですね。生まれたときから育てられた実績は強いということでしょうか)
 冷や汗を流しながらそんなどうでもいいことを考えるセイヤだったが、現実が無くなるはずもなく。
「なあ、セイヤ。新しく手に入れた道具おもちゃに熱中するのはいいのだが、親を心配させるのはよくないと思うのだが?」
 マグスとアネッサは、扉の中に入ったっきりいつまで経っても戻ってこないセイヤを心配していたのだ。
 ところが、その当人は、満足気な顔を浮かべて満面の笑みをしていた。
 実の親であるがゆえに、セイヤがなにをしていたのかすぐに察したふたりは、鬼の顔になっていたというわけだ。

 セイヤ自身も少し熱中しすぎたという自覚があったために、反論する余地はない。
「え、あ、はい。ごめんなさい?」
「そこで、はっきりしないのがセイヤらしいな。まあ、いいか。アネッサ、思いっきりやっていいよ」
「あ、いや、ちょっ、まっ!」
 マグスの号令(?)とともに、アネッサがセイヤに向かってきて、逃げる間もなく捕まえた。
 そして、あっという間に自身の膝の上にセイヤをうつぶせの状態で寝かせた。
 ここまで十秒もかかっていない。流れるような早業だった。

 母子でこの体勢になれば、あとはすることはひとつである。
「あー! ごめんなさい!」
「もう、遅い!」
 アネッサがそういうと、右手を振りかぶってそのままセイヤの体のとある場所(・・・・・)へと振り下ろした。
 ――パッチーン! 「あ、痛っ!」
 見事にアネッサの手のひらがクリーンヒットした音と、セイヤの悲鳴が部屋に響き渡った。

 その音を聞いたマグスは、感心した顔で頷いている。
「うむ。さすがアネッサだな」
「ち、父上! 助け……!」
 続けられるアネッサの尻たたきの刑に、セイヤがたまらず助けを求めるが、マグスはそれをきれいに無視した。
「悪いことをしたのに、反省もせず、助けを求めようとする子に育てた覚えはないよ!」
 ――パッチーン! 「うひゃい!」
 容赦なく打ち付けられる平手打ちに、ついにセイヤが根負けした。
「ごめんなさい、ごめんなさい! もう、しませんから!」
 さすがに泣きはしなかったが、セイヤは悲鳴交じりで謝罪をすると、アネッサはようやくその手を止めたのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 アネッサから解放されて立ち上がったセイヤは、ズボンの上から自身のお尻をさすっていた。
「あー。ひどい目にあいました」
「誰のせいだい……まったく」
 ギロリとにらんできた実の母(アネッサ)に、セイヤはわざとらしく視線を逸らして、口笛を吹くふりをした。
 だが、すぐにアネッサが微妙な顔になったことに気付いたセイヤは、少しだけ言いにくそうな顔になって問いかけた。
「やっぱりほかの人の記憶があるというのは、気持ち悪いですか?」
 そう問いかけると、アネッサはすぐにパチンとセイヤの頭を叩いた。
 基本的にアネッサは、肉体言語で語る人である。

 セイヤが自分で頭を撫でているの見ながら、アネッサは首を左右に振った。
「いや、そういうわけじゃなくてね。セイヤのその口調に納得している自分がいて、不思議に思っただけだよ」
「あ~。五歳児がこの口調はおかしいですか?」
「いや? 別にいいと思うぞ? むしろ合っていると思うが?」
 アネッサがそう言いながらマグスを見ると、見られた当人も深く頷いた。
「そうだな。別に無理して前の口調に戻す必要はない。周りもそのうち慣れるだろう。儀式を行ったタイミングでちょうどいいしな」
 子供が背伸びをして口調を変えることなど、それこそよくあることだ。
 気にする必要はないとマグスは続けた。

 したり顔でそう言ってきたマグスに、セイヤは敢えて爆弾を落とすことにした。
「それはわかるのですが、リゼ母上は大丈夫ですか?」
 そのセイヤの問いかけに、マグスは「うっ」と詰まり、アネッサはわざとらしく含み笑いをした。
 リゼというのはマグスの第三夫人で、端的に言えば、(今のところ)セイヤの母親であるアネッサを目の敵にしている。
 その影響は、セイヤのところにまで及んでいて、嫌がらせの一歩手前のようなちょっかいの掛けられ方をしている。
 もっとも、セイヤ自身は前世の記憶があるため、その程度のことでどうこう思うことはないのだが。

 ちなみに、リゼがアネッサやセイヤに決定的なことをしてこないのは、第一夫人であるシェリルが目を光らせているためだ。
 もともとシェリルとアネッサは、マグスと結婚する前から仲が良かった。
 貴族の出ではないアネッサが、リゼを差し置いて第二夫人に収まっているのも、シェリルの力によるものが大きい。
 もっとも、リゼが嫌みたらしい態度を取っていることはマグスも知っているので、現在リゼとその子供たちはセルマイヤー家の本館にはおらず、王都の屋敷に居を構えている。
 伯爵家の出であるリゼにとっては、辺境という田舎(あくまでもリゼの感覚)にいるよりも、王都にいた方が華やかな生活ができると、喜んでいたりする。

 セイヤの言葉に、マグスは嫌そうな顔になった。
「お前なあ。ここでそれを言うか。あれは、私も頭が痛いのだ」
「まあ、父上の女性関係は、息子である私がどうこういうことではないですけれどね」
 前世の記憶があることを話してしまったセイヤには、すでに怖い物はない。
 五歳児らしからぬことを言いながら、セイヤは睨むマグスの視線から自分のそれを外した。

 父子の会話を笑いながら聞いていたアネッサは、ここでようやく仲裁(?)に入った。
「まあ、セイヤもその辺にしておけ。マグスも立場上、どうしようもないこともあるからな」
 辺境伯という立場に付いているマグスには、どうしても断れない貴族関係の申し出というものがある。
 リゼとの関係もそのうちのひとつなのだ。
 ただし、政略結婚だからといって、リゼに対して愛情がまったくないわけではない。
 もしそうなら、王都に住まわせるなんていう遠回りなことはせずに、さっさと離縁なりなんなりしているだろう。
 リゼのアネッサとセイヤに対する態度はともかく、辺境伯の夫人としてのふるまいは、さすがに貴族の出だけあって文句のつけようがないのだ。

 アネッサの言葉に、セイヤもそれ以上マグスを責めるのは止めることにした。
「母上がそう言うのでしたら。命の危険が無い以上は、どうとでもなりますしね。それに、そのときは反撃してもいいのでしょう?」
 どこまでも五歳児らしくない息子の言葉に、マグスはこめかみを抑えつつ頷いた。
「そうなって欲しくはないのだがな。ただ、本当にそうなったときは……できれば命は残しておいてくれるとありがたい」
「当たり前じゃないですか。父上は、私を何だと思っているのです?」
 達観したような顔になっているマグスに、セイヤは憮然とした表情でそう答えるのであった。
お互いに説教されつつ説教する、といったところでしょうか。
ちなみに、話題の人が作中登場するのは、だいぶ先です。

次話更新は本日の20時です。

※評価、ブックマークありがとうございます!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ