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奥様をこよなく愛する者たち

1人の旦那(ストーカー)と5人の溺愛者たち

作者:さくらぶし
早速嘘を吐きました。すんまへん。
年始に見たテレビの某タレント夫婦の話を聞いて思い付いた話。わかる人はわかります。
奥様とお義母さまの『私』は『わたくし』と読んで下さい。彼らのは『わたし』でいいです。

作中に『奴隷』表現が出てきますので、苦手な方はUターンでおねがいします。
 (わたくし)の旦那さまは浮気性です。
結婚する前から女遊びが激しいことで有名だったし、夜会やらの集まりで女の方といつの間にかいなくなるのは常でしたので、結婚したところでそれが変わるとも思っていませんでしたが。

 元々、お互い望んだ結婚ではありませんでした。
言うならば、家同士の繋がりのためです。
ですので、私も旦那さまも、愛情を持っていた訳ではありません。
 えぇ。初夜の時に侍女に着せられたセクシーな下着とかにドキドキなんてしませんでしたよ。結婚する前は少しずつお互いのことを知っていければいいななんて思ったりしたこともございません!えぇ、決してありませんとも!

 ……こほん。失礼いたしました。取り乱してしまいましたわね。
 旦那さまはとても見目麗しゅうございます。
社交界では知らない方などいないぐらいの名家ですし(私もその一員となりましたが)、その美貌と物腰の柔らかさから、言い寄ってくる女性など掃いて捨てるほどおります。
ですから、こうなることは予想の範囲内でしたの。

 今、私は旦那さまのご実家、お義母さまの前に座っております。
お義母さまの表情はとても暗いもの。

 …当然ですわね。
つい先日、旦那さまの浮気相手の1人であるとある女性の方から、『旦那さまとのお子を宿した。別れてほしい』という手紙が届きましたもの。
 いつかはこういう時が来るのではないかと思っておりましたが、まさかその手紙が結婚記念日に届くとは思いもしませんでしたわ。
 でも、一番吃驚したのは、それで離縁を申し出られるということを落胆でも悲嘆でもなく、安堵している自分にです。
どこか心の中で、望んでいたのかもしれませんわね。

 何もおっしゃらないお義母さまにかわり、私がお話を切り出すことにいたしました。

「お義母さま、先のことですが…」
「ほんっとうにごめんなさい!」
「えっ?」
「あの愚息(ばかむすこ)のせいで貴女には大変な苦労をかけてしまって…。本当になんとお詫びすれば…」
「いえ、そんなことは」
「でも私考えたの!だったら同じことをすればいいじゃないと!」
「あの、お義母さま?」

 お義母さまは私の話を聞きもせず、手を叩いて『こちらへ』と誰かをお呼びになられました。
 その声に合わせて、扉から5人の男性が部屋に入ってこられたんですが、どのお方も旦那さまに負けずとも劣らない美しい方で、私は呆気に取られてしまいました。

「さぁさ!この中から貴女のお相手をお選びなさいな!あの愚息が女遊びするんですもの。貴女がしちゃいけないなんてことはないでしょう?この者たちに貴女の憂いを取って頂きましょうよ!」

そのお言葉で我に返った私は、お義母さまにお断りを入れようかと思ったのですが、

「あら!私がいてはお邪魔ですわね!ふふっ。たっぷり時間を使って選んでいいのよ。なんなら全員をお相手にしても構わないわ。それぐらいなら、私にはちょちょいのちょい!ですからね!決まったら教えてちょうだいね。すぐに向こうに言って『買って』きますからね!」

 そのお言葉で、すぐに私にはこの方々が『奴隷』なのだとわかりました。
 この社会は身分制度がはっきり分かれた社会。ということは、上がいれば、下級以下の者も存在するということです。
下級以下の者は『奴隷』となり、身を粉にして働く人たち。その中には『花を売る者』、つまりは『身体を売る者』たちも含まれております。
 身体を売る者たちでも、女性は割りと丁重に扱われているそうです。傷がない方が高く売れるとのことですし、女性は体が弱く、すぐに死してしまうからだそうです。
 特に綺麗な方は、貴族の愛人や商人に囲われたりして、贅沢三昧で暮らすことも夢ではないとか。

 対して男性の扱いはそれは酷いものと聞き及んでおります。
体が丈夫ということに加えて、傷がある方が女性には人気があるかららしいです。それに、女性の方が嗜虐嗜好があるらしく、鞭を打ったりするのが好きだそうです。
 私はそういう場所に出入りしたことなどありませんが、上流階級の奥様やお嬢様の中には足繁く通う方もいるそうです。お茶会などで楽しそうにお話されてる姿をよくお見かけいたしますもの。

 この方たちもその奴隷の一部でしょう。身形は整えてありますが、所々に見える身体からは傷痕が窺えます。そして何より、目が死んでいるようなのです。
 私は愚かにも、彼らのその姿に自分を重ねてしまいました。旦那さまに見向きもされない私と。
 彼らにしてみれば、私なんかと一緒にしないで欲しいとお思いになるでしょうが、私にはその時そう見えてしまったのです。だからでしょう。あのような提案をしたのは。

「若奥様、どれかお選び下さいませ。」

 5人の中の1人がそう私に話しかけてきました。本来であれば、身分の低い者が先に話しかけることはご法度なのですが、私があまりにも口を開かなかったので業を煮やしたのでしょう。

「それよりも、ソファーに座ってくれませんこと?」
「いえ、私ども奴隷には許されていないことですので。」
「『私が』そうしてほしいと言っているんです。この部屋には他に誰もおりませんのよ。私の命に従いなさいな。」

 彼らは困惑しながらも座って下さいました。高圧的に聞こえたでしょうが、こうでも言わないと座ってくださらないかと思ったんですもの。仕方ありませんよね。
 そして、考えついた案を彼らに投げかけたんです。

「私は、全員を買おうかと思っております。ですが、それはあなた方を縛るものではなく、むしろ自由にするためです。私の元に来てくだされば、どんなことをしても構いません。仕事がしたいと言うのならば、職を探しますし、旅に出たいと言うならばその資金も多少なりとも援助いたしましょう。もちろん、強制ではありませんので買われたくないならそうおっしゃって下さい。」

 お義母さまはとても良い方です。私を本当の娘のように可愛がって下さいますし、縦社会の貴族同士でも分け隔てなく接することが出来る尊いお方です。
 ですが、その無邪気さ故にたまにとんでもないことを思い付く方でもあります。このことも、私が余りにも不憫だったから良かれと思ったのでしょう。……この方々にはとんでもない災難なのですが。
 彼らは奴隷です。男性の奴隷が囲われることはそうそうありません。上流階級の女性がそのようなことをするはずがないのです。(通うこと自体は公然の秘密ですが)
 ですから、このような機会は売る側からすればまたとない好機なのです。しかも買うのは貴族社会のトップクラス。逃すことなど絶対に出来ません。なので、もし私が誰も選ばなかった場合、もしくは誰かを選んだ場合、選ばれなかった方の対応は今まで以上に酷いものとなるでしょう。
 なので、私は確信を持ってこの提案をしたのです。誰も断ることはないだろうと。そして、その予想は外れてはおりませんでした。

「……なぜ私どものような奴隷にそんなご慈悲を?」
「これはきっと私の自己満足なのですわ。あなた方を助けて、私も救われたいという。…本当は離縁を申し出てこられることを覚悟していたのに、そうはならなそうですからね。だったら少しでも誰かの役に立ちたいと思うのは人間の通りでしょう?」

 長い沈黙の後、どなたかが口を開きました。

「……………おれは、失礼しました。わたしは」
「良いのです。あなたの本来の話し方をしてください。ここには咎める者などおりませんから。」
「なら…おれは、若奥様についていきます。この身が堕ちてから、人間扱いされたのは初めてです。この一瞬の間に若奥様はおれを絶望の淵から救ってくれました。この身を捧げても悔いはありません。」

 その言葉に他の方も賛同してくれたようです。なので、私は一つの約束をいたしました。

『やりたいことが見つかったらいつでも申し出ること』

 せっかく奴隷から脱出したのに、私という檻に囚われたままなら意味がないでしょう?ですからこの約束は絶対に破ることを許さない誓約にしたのです。

 そこからはあっという間でした。
お義母さまに『全員欲しい』という旨を伝え(なんだかとてもお喜びになっておりましたが)、すぐに手続きを行い、まずは我が家に来てもらい『側付き』の教育を受けてもらいました。
 表向きは私の側付きとして雇うことになりましたので。
 彼らはとても優秀で、一言えば十先を理解する、いえそれ以上に予想して行動することが出来る方々でした。しかも全員が元は身分を持っていたとか。各々の理由によって『奴隷』という立場に堕ちてしまいましたが、今はそれを回復させようと色々調べたりする日々も私には刺激があって楽しいんですの。(楽しいなんて不謹慎ね。と言ったら彼らは自分たちのために私が動いてくれるのがとても嬉しいとおっしゃってました。)

 しかも彼らは私をとても甘やかして下さいます。『夫に見向きもされない妻』は使用人には敬遠れてしまうのか、今まで必要以上に使用人たちと交流をもったことがございませんでしたので、彼らが毎日私の周りにいてくれる日々が嬉しくて、ついつい私も彼らに甘えてしまうのです。

 ……分かってはいるのです。彼らはいつかは旅立ってしまう方たち。こんな日々に慣れてしまっては、後が辛くなってしまうと。
 彼らは今は私に義理でお付き合いしてくださいますが、元々優秀な方ですもの。いつ私の傍からいなくなってもおかしくはありませんわ。
 でも最後の日まで。私は彼らと一緒にこの日常を楽しんでいきたいのです。ほら、今日だって。

「ラディナ様、朝ですよ。お目覚め下さい。」

 誰かが優しく起こして下さいます。きっとネーロね。昨晩の付き添いは彼でしたもの。

「んっ…もう?まだ眠いわ……」
「いけませんよ。お寝坊さんは。今日はラディナ様が大好きなパイを料理長が焼いて下さっていますのに。」

 その言葉で目が覚めてしまいましたわ。だって、あのパイは絶品でも手間隙がかかるからとあまり焼いてもらえないんですもの。

「ふふっ。我が主はずいぶんと食いしん坊さんですね。」
「しょうがないじゃない。好きなんだもの。というより!あなたが悪いのよ?中々寝かせてくれないから。」
「おや。それは心外ですね。私はラディナ様が『もっと』とねだるのでそれにお応えしたまでですよ。」
「それこそ心外だわ。あなたがいつもイイトコロで止めようとするからじゃない。」

 彼らは日替わりで私が寝るまで付き添いをして下さいます。ネーロはその際寝物語として、この国の神話や歴史を話して下さいますの。彼は本が好きでとても博識なので。
 でも、いっつも気になるところで止めるのよ。だからついつい先をねだってしまうの。ネーロは意地悪さんです。なんだかもう寝物語じゃなくなってる気がするのは私だけかしら?

 ネーロだけではなく、皆それぞれの得意とするもので私を深い眠りに就かせるんですの。
 ある者は歌を歌い、ある者はマッサージをしてくださいます。どの方もお上手で、私はいつの間にか夢のなかに入ってしまうんです。

 着替えをするためにネーロを部屋の外に出します。いくら側付きとは言え、さすがに着替えは侍女の手を借りますわ。彼らは自分たちも出来るとおっしゃいましたが、私が恥ずかしいもの。

「あら?またこんなところに虫刺されが…。そこのあなた、塗り薬を取ってもらえるかしら。」

 最近何故か目が覚めると胸の近くに虫刺されがあります。そんな季節でもないのに困ったものですわね。一緒の部屋にいる彼らは大丈夫かしら?

 今日は薄いグリーンのドレスを着せてもらい(この色も彼らが決めます)、朝食の席に着きます。ここからの世話は全て彼らがやってくれるので、侍女たちは皆下がって部屋の外で待機しているんですが、彼らはそれを好機と見ているのか、とことん私を甘やかします。そろそろスプーンも取り上げられてしまいそうですわ。
 そういえば、以前こんなこともありました。

 私は一応名家と呼ばれるところの娘です。礼儀作法は彼らにだって劣りはしません。なのに、私の口の周りにクリームが付いているといって舐めましたのよ!ナフキンで拭くとかではなく!
 私は夫のある身(一応ですが)。今後こういうことはしないようにって注意しましたのに、当の本人であるアランはどこ吹く風。他の方よりも年下なせいか、子供っぽいところがありますの。私がしっかり言い聞かせなくてはいけませんね!

 あと、ローゼオは私の足下に跪いて足にキスしようとしますわね。『やめて』というと悲しそうにするのでされるがままになってますが、これも治さなくちゃいけませんわね。
 他にも、ヴェルデは私を歩かせたくないのか、抱き抱える癖がございます。私の足はちゃんと動きますのにねぇ。
 アッズローは私を全身コーディネートしたいみたいで、頭の先から足の先まで眺めてその日の装飾品を決めます。もしかしたら私よりも私の身体の変化を知っているかもしれませんわね。

 このように、困った癖がある方ばかりですが、私には大切な方たちなのです。

 今日も今日とて、ネーロがパイを切り分ければ、それをアッズローが口に運ぼうとしますし、飲み物が熱くないようにヴェルデが冷ましてくれ、ローゼオが嬉々として私が汚さないようにナフキンをかけ、アランは果物の皮を剥いてくれます。

「んもう!私だって、食事ぐらい自分で出来ますわ!あなた方は私に何もさせないつもり?」

 と問えば皆とても良い笑顔で『はい』という始末です。どれだけ甘やかせば気が済むのかしら。

 そんな風に楽しく食事をしていれば、ドアを叩く音が聞こえてきました。
 ネーロが対応してみれば、それはこの屋敷の家令でした。……もしや。

「奥様、お早うございます。本日は旦那さまの執務が早く終わりそうとのことですので、夕食はご一緒にとの仰せでした。宜しいでしょうか。」

 質問口調ではありますが、断ることなど出来ません。私は旦那さまの『妻』なのですから。

「…わかりました。楽しみにしているとお伝え下さい。」

 下がった家令を見て思わずため息を吐いてしまいました。ここ最近、頻繁にこのようなことがあるのです。今までは一緒にお食事なんて数えるほどしかなかったのに…。

 彼らを引き取ってもうすぐ4ヶ月になりますが、旦那さまと彼らが顔を合わせたのはつい先日のことです。
 それまで領地に赴いてたとのことで、一度も帰ってらっしゃらなかった旦那さまですが、彼らと私の顔を見た瞬間、すごい剣幕で『解雇しろ』と仰いました。いつもは柔和な方(私には見せたことはありませんが)なので、ひどく驚いてしまいましたが、雇い主は私でも旦那さまでもなく、お義母さまです。なので解雇は出来ません。
 ですが、それから旦那さまは彼らを毛嫌いするようになりました。加えて、私を監視するようになったのです。

 それはとてもあからさまで、いい気分ではありませんが、旦那さまの言うことに逆らえるはずはありませんもの。仕方ありませんわ。
 しかも、こうやって私と食事をしようとしたり、お出掛けになろうとします。その時の旦那さまはとても優しく紳士的なのですが、私にはそれが怖くて、どうにも苦手なんです。

 私は彼らと一緒にいるのが一番心が休まります。出来ることならずっとそうしていたいくらい。彼らは、『もうすぐラディナ様の願いが叶いますよ。』と言ってくれますが、そんな日は訪れないでしょうね。

 ともかく、旦那さまの監視に怯えながら、彼らが甘やかしてくれる時間を今は楽しみたいと思います。

 あっ、こら、そんなところ舐めないでちょうだい。もう。
全くもってお正月に相応しくないお話でした。
3日ぐらいに分けて書いてしまったので、所々奥様の口調が違うのは見逃して下さい。

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