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小説家になろうに住む、ID二桁の生き物の話

作者:月永こん
 まず一本の木があった。
 青々とした葉が茂り、日の光をそれらが1枚1枚反射してきらきら光った。
 まだ若木はほそく、けれどしっかりと天を指した。
 角の生えた生き物は目を細めてそれを見上げて、そして頬を撫でる風の匂いをすんと吸い込むと、ここで暮らそうと決めた。
 周りは草原で、吹き渡る風が豊かな草を揺らす。


 その場所は見つけにくかったけれど、確かな光を浴びていて、通りがかる者たちがふと足を止めるようになった。
 いろんな者たちが、そこで暮らそうと荷物を降ろす。
 角の生えた生き物は住人が増えたことを喜んだ。彼らはとても歌がうまかったから、お互いの暮らした日々を夢を故郷を、綴り暮らしていた。
 数年が過ぎると、木の周りにはたくさんの木が育ち始めた。
 森は豊かになり、ますます栄える。
 一声あげればたくさんのものが返事をするような、一つの世界になっていく。


 角の生えた生き物は森を通じて知り得た外の世界の話に耳を傾け、とても一夜では聞ききれぬほどの歌を聞くようになる。
 彼らの声は大きくなり、さらなる遠くの地へ彼らの歌を届けた。
 そこからまた彼らを求めて、また、彼らの生の歌が聞きたくて、多くの者が集まり、木を植え荷を運び、また新しい歌を歌う。


 森はどんどん深くなった。もう、最初の一本がどこにあるのか、探すことも難しくなった。
 その最初の一本の根元に、あの角の生えた生き物は寝転びながら歌を聞く。
 けれどその声はいつも新しく、歌に応える暇もない。彼らはどうしたろうか。ふと顔を上げる。かつて頬に零れた陽の光は、もうここまで届かない。


 歌に歌で答え、語り合った日々はいつしか遠くなっていた事に、角の生えた生き物は気付いた。新しい歌は絶え間なく、声の主はいつも新しく、懐かしいこの木に住まった彼らはいったいどこへ行ってしまったのだろう。
 いつの間にか見知った顔が見当たらなかった。誰を尋ねても、それは新しい者たちで、皆古くからいるこの角の生えた生き物を驚いて振り返った。
 耳を澄ませば次々に訪れる新しい絶え間のない歌とおしゃべりが、色のついた風のように行き過ぎていく。


 遠くを見据えても、もう森の出口がどこかわからなかった。太陽がいつ巡るのかもわからなくなった。
 深い森で、角の生えた生き物は、またその体を根元に横たえ新しい声に耳を澄ます。
 いつか懐かしい彼らが帰ってきたときに、とっておきのお話を彼らに伝えるその時まで。
 彼らは褒めてくれるだろうか、またいつものように辛辣な感想を口走るのだろうか。
 そんなことを一人考えて、角の生えた生き物は幸せそうに笑った。



 角の生えた生き物の知らぬうちに、実は最初の一本は幹を伸ばし枝を広げ、いよいよ地上を見下ろした。
 小説家になろうというその花は、ただ目を喜ばせるだけでなく、結実し、その手につかむことができるようになっていたのだ。
 今もあなたの手の中にそれが握られているのは、最初の一本の若木があの時、しっかりと天を指していたから。

 
小説家になろうID二桁の皆様、お元気でしょうか。
おかげさまで私はこの10年細々と、特にパッとした作品もないながらも書き続けてまいりました。
ふりむけば、見かけるIDは驚くような数字ばかりで、今皆さまがどうしておられるのか知る由もありません。
私はこれからもここで末端ながら、皆様のご活躍を祈っております。

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