表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

野良怪談百物語

私だけ?

作者: 木下秋

 私が高校二年生の時。美術の授業で、写生をすることになった。私たちはスケッチブックと筆記用具を持って近くにある公園に行って、早速作業に取り掛かった。


 私は当時仲の良かった三人組で、ブランコの正面にあるベンチに座って目の前の景色を描き始めた。「何から書けばいいんだろぉー」「私、絵めっちゃヘタクソ!」などとキャイキャイ言いながら、鉛筆を紙の上で滑らせる。



 ――しばらくすると美術の先生がやってきて、



「どう? 書けてるかい?」



 と、訪ねてきた。



「えー」



 私たちは揃いも揃って絵を見せるのを嫌がったが、結局三人とも先生に絵を手渡した。



「おぉ、意外とうまく描けてるじゃないか」



 「“意外と”は余計だから!」そんなことを言って、私たちは笑い合った。


 ……すると、三枚の絵を見比べていた先生が、



「ん?」



 と、首を傾げた。


 「何?」と私達が聞くと、



「なぁ佐々木、お前は“あの子”、描かなかったのか?」



 と言って、三枚の絵を差し出してきた。



「えっ……?」



 見ると、三枚中二枚の絵には、人が描かれていた。四つ並んだブランコの、一番左に座っている少女が描かれている。


 残りの一枚には、その少女はいない。……佐々木とは私のことであり、つまり少女を描いていないのは私だけだったのだ。



 ブランコの方を、先生含めて四人が一斉に向いた。……そこには、誰もいない。



「……女の子なんて、いた……?」



「えっ、いるよね。フツーに」「うん」



 全く、気が付かなかった。私も私なりに、真剣に風景を書いていたはずだったのに……。


 混乱する私に、先生が言った。



「今もあそこに、いるだろう」



 ――。



 ……私には、見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 間の取り方や、読後感がホラーチックで、独特なノリが面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ