私だけ?
私が高校二年生の時。美術の授業で、写生をすることになった。私たちはスケッチブックと筆記用具を持って近くにある公園に行って、早速作業に取り掛かった。
私は当時仲の良かった三人組で、ブランコの正面にあるベンチに座って目の前の景色を描き始めた。「何から書けばいいんだろぉー」「私、絵めっちゃヘタクソ!」などとキャイキャイ言いながら、鉛筆を紙の上で滑らせる。
――しばらくすると美術の先生がやってきて、
「どう? 書けてるかい?」
と、訪ねてきた。
「えー」
私たちは揃いも揃って絵を見せるのを嫌がったが、結局三人とも先生に絵を手渡した。
「おぉ、意外とうまく描けてるじゃないか」
「“意外と”は余計だから!」そんなことを言って、私たちは笑い合った。
……すると、三枚の絵を見比べていた先生が、
「ん?」
と、首を傾げた。
「何?」と私達が聞くと、
「なぁ佐々木、お前は“あの子”、描かなかったのか?」
と言って、三枚の絵を差し出してきた。
「えっ……?」
見ると、三枚中二枚の絵には、人が描かれていた。四つ並んだブランコの、一番左に座っている少女が描かれている。
残りの一枚には、その少女はいない。……佐々木とは私のことであり、つまり少女を描いていないのは私だけだったのだ。
ブランコの方を、先生含めて四人が一斉に向いた。……そこには、誰もいない。
「……女の子なんて、いた……?」
「えっ、いるよね。フツーに」「うん」
全く、気が付かなかった。私も私なりに、真剣に風景を書いていたはずだったのに……。
混乱する私に、先生が言った。
「今もあそこに、いるだろう」
――。
……私には、見えなかった。