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転生王子と白虹の賢者 作者:楠 のびる

第三章

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第三章 シロと魔法オタクと異端 その二

 演習場は騎士や兵士達の訓練場の側にある建物のことだ。訓練場は主に兵士達の肉体的な鍛錬の場だが、演習場は魔法士達の訓練場とも言える。
 建物の外周には多重に結界が張られ、内部の演習場の周りにも何重も結界が張られているその場所は、外からでも中からでも魔法攻撃では破壊されない。王城内で魔法に関してのみの防御を比べるなら、この場所が随一だろう。
 そんな魔法士の為にある建物に入ったハーシェリクとシロを呼び止める人物がいた。                                                                                                                            
「ハーシェリク、来てくれたんだな!」
「レネット兄様、お邪魔します。」

 手を振りつつ駆けてくるレネットにハーシェリクはお辞儀をする。
 ハーシェリクの元に辿りついたレネットは、顔を上げた彼の頭をぽんぽんと撫でながら言葉を続けた。

「誘っといてなんだけど来てくれるとは思ってなかったから嬉しい。セシリーとアーリアを呼ぶから待っていろ。」

(呼ぶ?)

 すぐ側にいるのだろうか、それとも人を呼びにいかせるのか。そう思いハーシェリクはあたりを見回したが、自分達以外はいない。首を傾げるハーシェリクを余所に、一分も経たないうちに二人が姿を現した。

「ほんとだ、ハーシェリクがいる! 魔法全然ダメだからこないと思ったのに!」
「……セシリー、君は少し他人を気遣う言葉使いを学んだほうがいいと思う。」

 姉の歯に衣着せずな言葉がハーシェリクを貫く。先ほど魔法が一切使えない自分に落ち込んだばかりなので効果絶大だ。

(うん、あれだよね。邪気のない子供のストレートな言葉ほどダメージはでかいよね……)

 ハーシェリクは目に見えないボディブローを喰らったように錯覚をした。だが今、ハーシェリクは自分のことよりも気になることがあった。

「レネット兄様はどうやってお二方を呼んだのですか?」
「あ、ハーシェリクは俺達のことしらないのか!」

 そういえばと思い出したようにレネットが手を叩く。セシリーとアーリアが言葉を引き継いだ。

「私達は三つ子だからか特殊な能力があるの。」
「感応能力と呼ばれている能力だよ。簡単に言うと僕たちだけの間なら頭の中で会話ができるし、お互いの大体の位置とか把握できるんだ。」

(感応能力、テレパシーみたいなもの? だから新年会の時もバラバラに探してたのにあっという間に集合できたのか。)

 魔法以外の能力がこの世界にあることはハーシェリクも書物で知っていた。
 この世界には魔法の他に特殊な能力があり、三つ子の持つ感応能力もその一つだ。前世にもそう言った話が真偽は兎も角あったため、魔法が跋扈するこの世界ではさほど驚くことではない。

「んで今日は新しい魔法具の実験を手伝うことになったんだ。」
「三人が必要な実験ってなんですか?」

 よくよく考えれば今日は平日で、王子王女という身分があるものの三人は学生でもある。そんな彼らが学校を休んでまで実験に参加していることは疑問に思えた。
 そんなハーシェリクの疑問に答える為に、セシリーが口を開く。

「私たちはね、三人で一つの魔法を発動することができるの。感応能力とか三つ子とか条件が揃っているからだけど。」
「一人じゃ難しい魔法も三人なら魔力も少ないていいんだ。それに単純な足し算じゃなく相乗効果で絶大な効果をもたらす可能性もあるんだよ。今回の新しい魔法具は僕たちの能力を参考にして作られたものだから、僕達も実験に協力しないといけないだ。」

 セシリーの言葉を引き継ぎアーリアが説明する。
 二人の言葉にふむふむとハーシェリクは頷きつつ、今一その研究がどれくらいすごいのかわからない。

(ゲームでいう所の合体魔法的なモノ?)

 前世でやったロールプレイングゲームではよくある魔法だ。
 複数のキャラが同じ魔法を実行し大ダメージ。ラスボス戦では大変お世話になったがこちらの世界では難しいことなのか、と魔法を扱えないハーシェリクは頷きつつ疑問に思う。その疑問を代弁するかのように後ろにいたシロが口を開いた。

「そんな魔法具、簡単には完成はしないだろう。」

 不機嫌そうにいう彼が、胡散臭そうに三つ子にいった。決して視線を合わせようとしない彼はとてもの不遜に見える。

「ハーシェリク、そういえばそちらの綺麗な女性は?」
「いえ、彼は男性なんです……」

 セシリーの言葉にハーシェリクはすぐ答える。既に遅いかもしれないが、自分の時の様な態度を三つ子の兄姉達にとったら大変だ。自分は気にしないが、それが王族全員の共通だとは思わない。

(マーク兄様あたりは気にしなさそうだけど。)

 むしろあの人は自分と近い気がする。ソースは自分の騎士オランジュ、そして筆頭魔法士のサイジェルだ。

 だがそんな気遣いもシロは気にせず鼻で笑うように言葉を続ける。

「複数の魔法士が一つの魔法を発動させることは、昔から研究されていたし理論的には可能とされてきた。だが魔法士の個々に違う魔力の性質を合わせること自体が難しく、過去何度も失敗している。二人でさえ成功するほうが稀なのに三人?」

 鼻で笑うシロに三つ子が各々眉を潜める。挟まれた形になったハーシェリクは互いの顔を見て焦りが募った。

(シロさん、サイジェルさんの時もそうだけど魔法に関しては饒舌になるな……というか魔法を合わせるのが難しい、どういうこと?)

 単純に合わせて発動させるだけではできない、ということがわかったがそれでも魔法に関しては知識が乏しいハーシェリクには解らない。ただ三つ子はその話が分かったらしく、アーリアが一歩前に進み出た。

「言いたいことは解ります。私達も三つ子という近い魔力の質と感応能力があっても成功率は一割未満です。魔法士達が自分達で調整するのは困難でしょう。だけど魔法具を使ってその当たりの細かい調整をすれば可能です。」

 三つ子の中で大人しいイメージを持つ彼が、面と向かって反論するとは思わなかった。それくらいこの実験に取り込んでいたのだろう。

「だがその調整だって難解だろう。どれくらいの魔法式を組むのか……」
「それは……」

 場所を憚らず議論しだす二人。どうにかハーシェリクが止めようとしたが、口を挟む前に腕を後ろに引っ張られた。見上げればレネットがうんざりした表情とぶつかった。

「ああなったアーリアはもう止まらないから諦めろ。」
「ええ、でも……」

 目の前ではアーリアとシロの魔法談義が白熱している。

「魔法に関してはアーリアは妥協しないし。」

 ため息をつきながらセシリーもレネットと並ぶ。
 すっかり諦めモードの二人をハーシェリクは交互にみる。

「だけど、実験はいいのですか?」
「あ」

 二人が異口同音で言った。それと同時に別の声が割って入った。

「セシリー姫、アーリア殿下、レネット殿下、そろそろ実験を始めたいのですが。」

 現れたのは白髪に豊かな白いひげを蓄えた翁だった。元々小柄なのか、それとも腰が曲がっているせいかハーシェリクより少し身長が高いくらいだ。目線は同じくらいのはずなのに、皺のせいか目が線で開いているかどうか怪しい。服装から局長の下、室長の役職につくものだろうとハーシェリクは予想をする。

「ハーシェリク殿下、初めまして。魔法研究室の室長をしておりますブラドと申します。殿下が演習場にくるのは珍しいですね。」

 三つ子と同様なことを言われハーシェリクは内心泣きたくなる。だが仕方がない。魔法が使えないハーシェリクにとって魔法の練習をする演習場など来ても意味がないのだ。

(そういや国家機密だったらまずいかも?)

「ブラド様すみません。サイジェルさんの勧めで客人をお連れしたのですが、だめだったでしょうか?」

 シロが国と不干渉の教会の者だとしても、外部の人間を易々と実験の場につれてっていいものかと今更ながらハーシェリクは気が付く。いくらサイジェルが勧めたとしても、まずは上に話を通しておくべきだったかもしれない。

「本来ならお断りしますが……」

 そういってブラドはシロを上から下までみる。

「なるほど。あの変わり者のサイジェルが寄越し、かつアーリア殿下ともお話できるくらい魔法にも魔法具にも精通していらっしゃる様子。むしろこちらからお願いし、実験にもご指摘して頂きたい。」
「いいのですか?」

 ハーシェリクの言葉にブラド翁は線な瞳の目じりをさげ、口端を上げほっこりと微笑む。

「我々は研究者。研究の成功は幾多の失敗も必要ですが、多種多様の意見を聞き取り入れる度量も成功につながります。」
「ありがとうございます。」

 お辞儀をするハーシェリクにブラド翁はほほほと笑う。まるでサンタクロースみたいだとハーシェリクは思った。

「ただ危険ですので演習場には入らないように。必ず結界の外での見学をお願いしますぞ。」

 ブラド翁の言葉にハーシェリクは深く頷いたのだった。



 準備が進められる演習場を結界の外側からハーシェリクはシロと共に見学していた。
 建物の構造は簡単にいえばドーナツのような作りだ。真ん中にぽっかりと演習場があり、その周りを楕円形の建物が囲っている。演習場の周りは渡り廊下のようになっていてどこからでも演習場内部の観察はできるが、渡り廊下と演習場の境界には三重の結界が張られている為、一定の手順を踏まねば内部には入れないつくりとなっている。

 そんな演習場の中央で三つ子達は、研究者でもある魔法士達といろいろ打ち合わせをしているらしい。

(……少しでも魔法が使えたら、私も役に立てたかな。)

 未成年だというのに大人たちと真剣に打ち合わせる姿はとても頼もしく見えた。自分はどうだろうか。決して自分が無能だとか役立たずだとは思わないが、時折やるせなさが自分を襲う。

 少しでも戦闘能力があれば救えたものがあるかもしれない
 少しでも魔力があればもっと多くの事を知ることができたかもしれない
 自分を卑下しているわけではない。嘆いているわけでもない。だが、力があればもっとできる事があるのではないか、とも思う。毎日自分ができることを探し、実行しても、ふとそんな気持ちが自分を襲う。

「……劣等感、か。」
「何かいったか?」
「ううん、何でもないです。」

 零れ出た言葉をシロに指摘されハーシェリクは誤魔化すように曖昧に笑う。

(そんなのは感じたことがなかったのにな。)

 前世の世界で涼子は劣等感とはほぼ無縁だった。
 例えば結婚。職場の後輩が寿退社をしていく中、特に何も思わなかった。妹達が結婚をした時も喜びしかなかった。仕事も自分よりも後に入社した男性社員が、あっと言う間に出世した時もなにも思わなかった。
 自分にとって大切な領域は限られていて、それさえあればよかった。だけどこの世界にきてその領域が増えた。

 劣等感とは、自分に足りないものを欲する欲求ともいえるとハーシェリクは思う。

(私も貪欲になったなかも。)

 自分に芽生えた新しい感情、それがいい事か悪い事か今のハーシェリクには判断ができなかった。

「そういえばシロさん、できたら教えて欲しいですが。」

 まだ打ち合わせは続いていて、始まるまで時間がかかるようだ。なのでハーシェリクはふと疑問に思ったことを聞いてみることにした。

「なぜ今から行う魔法は難しんですか?」

 一瞬、シロの目がそんなことも知らないのか? という呆れた風になったが、ハーシェリクはその視線を受け流す。書物は読んでも知識と実技の差は天地の差があるのだ。

「……魔力は個々に性質が違う。違う性質の魔力を使って一つの魔法を使うのは難しい。正確にいえば合わせるのが難しい。」
「合わせる?」

 首を傾げるハーシェリクにシロは言葉を続ける。

「人の魔力を水だと思えばいい。人によって甘い水だったり、冷たい水だったり、軟水だったりちがう。違いは差異になり魔法の発動や効果を上げたり妨害するんだ。甘い飲み物を作ろうとしたのに、苦い水を入れては最悪だろう?」
「なるほど。」

 つまり個々に違う魔力を統合するのが難しいのだ。兄弟で三つ子である彼らは、近い性質と感応能力により成功させることができる。

「ありがとう。シロさんは教えるのがうまいですね。」

 お礼を言いハーシェリクは視線を動かす。シロが何か言おうとしたが口をつぐんだ。ハーシェリクの視線の先には、兄達が自分に手を振っているとを見て降り返した。

「そろそろ始まるみたいです。」

 最初は風の魔法の実験だった。三つ子達が並び魔法具を手に魔言を唱えると、すぐ前方で魔法が発生する。風の魔法は前方で竜巻を発生させ、それをしばし維持し解除される。三つ子達は各々研究員に報告し、そしてまた別の魔法具を見につけ魔法を詠唱する。

 属性を変え何度も同じ作業をこなす。ハーシェリクから見て発動しなかったものは失敗だとわかったが、その他の実験の成功や失敗の違いはわからなかった。だが、横でシロがぶつぶつと成功や失敗等々独り言をつぶやいているので、なんとなく実験の結果がわかった。

 実験が続く中、三つ子達も続けて魔法を使ってはさすがに疲れるらしく、他の魔法士達も三人一組となって入れ替わり実験をしていた。ただシロの説明通り、三つ子と比べ中々成功はしない。そんな中、おかしな現象が現れた。

「なんか、炎の形がおかしい……?」

 素人のハーシェリクから見てもおかしかった。三人の魔法士達の前に現れた火球は不安定に大きさをかえ、そして風船が膨らむかのように今までの実験にはないくらい巨大化した。だが異変はそれだけではない。魔法を使用する魔法士達に別の者が慌ただしく駆け寄り話しかけている、というよりは怒鳴っている。

「失敗?」

 そうハーシェリクが呟いた時、火球にさらなる異変がおきた。三人の魔法士が糸の切れた操り人形のように倒れたのと同時に、縦は成人男性の身長三倍はあろうかという火球が放たれた矢の如く、ハーシェリク達の場所に向かってきたのだ。

 だがハーシェリクは驚きつつ逃げようとは思わなかった。演習場である実験会場と、自分のいる場所の間には三重の結界が張られていると説明を受けていたからだ。

 その火球は最初の結界で綺麗に霧散する。誰もがそう思った。


 甲高い、硝子が砕け散るような音が響く。

「え?」

 ハーシェリクが確認するよりも先に、また同じように硝子が砕け散る音が響いた。
 そして目の前には轟々と燃える火球が迫る。結界越しに肌を焼くような熱風を受け、ハーシェリクは反射的に両腕を顔の前にだし熱風から身を守ろうとした。
 すぐにでもその場を離れなければいけないのにハーシェリクは動かない。否、動けないでいた。足が地面に縫いつけられたように動けない。両腕を前にかざしているのに、目の前に真っ赤な炎が迫っていることがわかった。

「ちっ」

 隣で面倒くさそうな舌打ちが聞こえたかと思うと、肌に感じていた熱風がなくなった。遮ら腕の隙間から見ると目の前ではローブと純白の髪が熱風に煽られ踊り狂っていた。

(シロさん!?)

 ハーシェリクは反射的にシロのローブを掴む。だがシロは気にも留めず、金と銀のブレスレットが嵌った腕を付だし魔言を唱え、魔法式を構築し始める。

 シロを周辺に青と薄い水色の二色の光の帯が現れ、彼の周りを踊る様に回り始める。
 それと同時に彼自身にも変化が現れた。ハーシェリクの目の前で純白だった彼の長い髪が、青空のような水色の輝きを放ったのだ。

 シロが魔言を唱え続けると同時に腕に嵌めれたブレスレットが各々の宝石色に光り輝き、彼の周りを踊る光たちも輝きを増す。

 彼が魔言を唱え終えると同時に一際彼が輝いた次の瞬間、火球が直進をやめた。否、正確にいうと火球は突如現れた水牢に封じ込まれたのだ。まるで透明な箱の中に閉じ込められた火の玉である。
 更にシロが再度魔言を重ね、突き出された手を横に一閃すると水牢が消滅すると同時に炎の玉も消失、彼の周りで踊っていた光の帯も霧散した。

 辺りには少し湿った温風と人々の静寂だけが残された。

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