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転生王子と白虹の賢者 作者:楠 のびる

第十一章

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第十一章 必然と血と喪失 その一



 シロは体中を稲妻が駆け巡っているような激痛に悲鳴を上げながら、自分の身体が人ではないものに造り替えられていくことがわかった。
 魔法陣により膨大な浮遊魔力が自分の身体に流れ込み、自分の器を満たしていく。普通の人ならあっという間に限界を越え、膨大な魔力が体を崩壊させただろう。だが自分の身体はその膨大な魔力を受け入れていた。

(本当に私は化け物になるのか?)

 痛みに悲鳴を上げる自分の中に、冷静にそれを見ている自分がいた。
 もう一人の自分は自嘲気味に笑う。

(今まで散々化け物と言われてきたんだ。それが本当になっただけで、今までとなにがちがう?)

 むしろ自分の意識は奪われヘーニルに操られる傀儡となれば、今までのように苦しまなくてもいいと思うと気が楽ではないかとも思える。

(それともこの手に入れた力で全てを破壊して回ろうか?)

 今まで散々虐げてられてきた世界だ。破壊してなにが悪い。
 生まれの違い、容姿の違い、能力が異質、その差異が狭ければ個性で済むのに、その差異が大きくなれば排除される。
 なぜ他人は許され自分は許されないのか。なぜこの世界はこうも辛く自分にあたるのか。 

 暗い感情が自分の中で広がっていくのがシロにはわかった。
 だが一つの声がその感情を止めた。

「シロは、貴方が大好きだったのに!」

 それはあの変わった王子の声だった。

(ハーシェリク?)

 金髪碧眼の王子。他の王子と比べなにもかも劣っているのに、それに劣等感は感じつつも卑屈にはならない。彼はいつも前向きだった。魔法を使えない魔力なしなのに、勉強にも意欲で知識に対し貪欲だった。いつしか彼との授業を楽しみにしている自分がいた。

「ノエル、見なさい。」

 体に残ったヘーニルの魔力が強制的に自分を動かす。

 光り輝く魔法陣の向こうにはヘーニルがいた。そして彼に捕えられた小さな体。
 ヘーニルの手に持った短剣が、彼の頬に一筋の傷をつける。そこから赤い血が流れ、彼の片頬を染めた。だが彼は決して一言も発しない。助けを求めることもしない。だがその瞳には諦めることも良しとはしていなかった。

 ヘーニルが短剣を持った手を振り上げる。その短剣でハーシェリクに突き刺す為に。

 シロの脳裏にハーシェリクとの日々がよみがえった。

 女性と間違えた事を謝罪する王子、熱心に魔法の勉強をする王子、どんなに無下に扱っても、気分を害することもなく話しかけてくる王子、自分の異端な能力をみても怯えるどころか、瞳をキラキラさせて憧れの感情を向ける子供な王子、かと思いきや自分の目的について決意を込めて口にする、年不相応な大きな存在にも思える彼。

「シロさん!」

 名前を告げないでいると勝手にそう呼び始めた。最初は嫌だったその名前もいつしか自然に受け入れていた。

 その存在が今、消えようとしている。

(やめてくれッ)

 シロの中で何かが砕けた。それが自分を縛っていた魔力だとわかる。自分の元々の魔力を使い、絶えず流れてくる魔力も含め全てを一瞬で全てを自分の支配下にした。

 シロは即座に魔法式の構築を始める。

(対象は自分、王子、ついでにあの女を除く生命活動を行っているもの全て。範囲はこの部屋内部。同時に周りに張られた結界の破壊……)

 補助の魔法具なしだと三十秒はかかる魔法式が過多な魔力を一瞬で消費し組みあがる。

 それが自分を人間とは別の者へと変化させたのだと思ったが、今はどうでもよかった。
 魔法式の完成と同時に発動させる。
 己の魔力を全て使い、強固な結界を一瞬で破壊し風の塊が対象者達に向けて疾走する。対象となった者達は風の魔法が直撃し壁に叩きつけられた。

 他の魔法士達同様壁へと叩きつけられたヘーニルは、遠のく意識の中で彼を見る。
 全ての魔力を支配下に置き、まるで女神のように美しく、煌々たる光を纏う、己の長年重ねてきた呪法を打ち破った存在。

(私の呪法を打ち破り、さらに魔法を使えるとは想定外……否)

 ヘーニルは思い直す。呪法もあるがノエルは自分に対して危害を与えることはできないはずだった。偽りだったとはいえ、ヘーニルは彼の育ての親なのだ。危害を加えるとしても躊躇はしただろう。
 だが躊躇もせず彼は育ての親より、たった数ヶ月共に過ごした王子をとった。自分でさえ彼の信頼を得るのに数年かかったのに、あの王子はいとも簡単に数か月でやってのけたのだ。

 自分があの王子を利用と考えた時点で、計画を確実にしようと欲をかいた時点で――――

「全ては、必然だったか……」 

 ヘーニルはそう呟くと意識を手放した。

 解放されたハーシェリクは、動かなくなったヘーニルを確認し、頬を伝う血を拭い振り返る。

「シロさん、ありがとう……シロさん!?」

 お礼を言ったハーシェリクが目にしたのは、呪法が解けてもその場で立ち尽くすシロと発動したままの魔法陣。

「なんで!? 魔法士は意識がないのに!」

 先ほどのシロが放った魔法で、ヘーニルを含め室内にいたハーシェリクとジーンを除くすべてのものは地面に伏し動かない。それなのに今だ儀式は継続中だった。否、室内はさきほどよりも光溢れ、風が吹き荒れている。

「ハーシェリク様!」

 ジーンがハーシェリクに駆け寄りつつ叫んだ。

「この魔法はきっと彼が核になっているんです。だからッ」

 その先は魔法を扱えないハーシェリクでもわかった。ハーシェリクが言葉にする前に、本人が口を開く。

「その女の言うとおり、私が完全に魔神となるか死ぬかそのどちらかでしか止まらない。それに制御していた魔法士が意識を失った今、無事に儀式が完了するかもわからない。最悪ここ一帯を巻き込み魔力が暴発する可能性もある。」

 自分の命がかかっているというのに冷静に分析するシロ。先ほどまで感じていた苦痛はなくなったが、魔法陣の作用でこの場から動くことができず、さらには膨大な浮遊魔力が、作り変えられつつある自分の器に流れ込み続けていた。
 先ほどは自分の魔力を使って蓄積された魔力を支配下に置いた為魔法を扱うことができたが、自分の魔力を使い切った後の流れ込んできている新しい魔力の制御は難しく、自分のモノにできずにいた。時間をかければできるだろうが、魔法陣が不完全なまま発動している状態をみると、その時間はないだろうと簡単に予想がつく。

 一体誰がこんな、現代の魔法知識にはない高度な魔法式、魔法陣をヘーニル達に与えたのかシロは興味があったが、今は関係ない。

 それよりも今はハーシェリクのほうに興味があった。短剣を突きつけられても決して表情を変えなかったハーシェリクが、動揺している事実。
 その表情をみてシロは満足する。彼だけがいつも自分を見ていてくれていた事実。自分の本質を受け入れてくれた人物だと確信がいった。だからやるべき事が見えた。

「ここから逃げるんだ。私が出来る限り魔力を封じ込めている間に……」
「封じ込めて、なにするの。」

 シロの言葉をハーシェリクは遮る。自分が震えているのがハーシェリクはわかった。決してシロが怖いわけではない。彼を失うかもしれない恐怖からの震えだった。

「自爆する、なんて言わないね!?」

 否定して欲しい言葉だった。だがそれもシロは否定をしない。
 ただ静かに、そして初めて彼が微笑みを見せた。男だというのに美の女神の微笑の如く神々しく、だが儚く笑う彼。

「……そんなこと許さない、絶対許さないからッ」

 初めての彼のデレに一瞬言葉を失うが、ハーシェリクは言葉を叩きつける。

 自分は最後まで諦めない。犠牲前提だなんて絶対許さない。そう言ったのだ。

(どうする?どうすればいい?)

 ハーシェリクはヘーニルの解説、シロの言葉、そして少ない魔法知識を総動員して考える。

 この魔法はシロへ周りの浮遊魔力を供給するためのもだろう。その魔力を元にシロを魔神へと転化させる。ということなら彼に行くはずの魔力を、別の所に移せれば……

 ハーシェリクの中で光がひらめいた。
 ポケットから銀古美の懐中時計を取り出す。シロと同じ特殊な力を持つ懐中時計。
 これさえあれば、彼に集まっている大量の浮遊魔力を横取りできる。だがそれは賭けだ。成功するかわからない。魔力のない自分の身体が、多くの魔力に耐えられるかわからない。

 だけどシロを助けることができるのは、この方法しかない。

「ジーン、君は逃げて。」

 危険な賭けだった。だからジーンだけでもここから逃そうと思った。だけどジーンはその言葉に首を横に振る。

「いいえ、殿下。私はずっとお傍におります。」

 にっこりと微笑む彼女。その微笑みにハーシェリクは何も言えなかった。

「……ありがとう。」

 そしてハーシェリクは銀古美の懐中時計を握り占める。

「シロ、絶対助けるから。だから諦めないで。」

 魔法陣の中へハーシェリクは踏み出す。
 結界はさきほどシロが破壊したため、最初のように壁に阻まれることはなかったが、一歩踏み入れた瞬間、肌にピリっと静電気のような痛みが走る。

 一瞬ハーシェリクは眉を潜めたが、それでも一歩一歩シロへと近づいていった。シロがいる中心部に近づくにつれ、身体を走る電流が走るような痛みも強くなり、悲鳴を上げたくなるのを奥歯を噛みしめて耐え、脂汗が浮き上がり頬を伝う。ヘーニルに斬られた傷に汗が入り鋭い痛みを発した。

「やめてくれ……」

 シロが呟くように言った。だけどハーシェリクはそれを無視し、歩みを止めない。

「ハーシェリク、やめてくれ!」

 痛みに顔を歪めながらも確実に近づいてくる彼にシロが声を荒げる。

「おまえが傷つく必要はない!」
「断る!」

 シロの懇願をハーシェリクは跳ね除ける。そして彼を安心させるかのように笑って見せる。

「言ったでしょ。私は強欲なんだから、全部手に入れる。」

 シロ中心に風が巻き起こり光が氾濫が一層大きくなる。体が飛ばされそうになるのを堪え、ハーシェリクはさらに一歩を進めた。

「だから!」

 それを掛け声のように叫び、さらに一歩詰める。

「シロも私を信じて!」

 その一歩でシロとの距離がほとんどなくなり、ハーシェリクが手を伸ばせばシロに触れられる距離まできた。そして差し出した手には銀古美の懐中時計が握られている。

(お願い、懐中時計……クラウスッ)

 ハーシェリクの思いに呼応するかのように懐中時計が光り出す。それと同時に自分の中に魔力が流れ込んでくるのがハーシェリクはわかった。
 いつものように微量な魔力ではない。大量の魔力が自分の中を満たそうと、溢れだそうとしているのがわかる。

 クラリと視界が揺れた。貧血に似た感覚にハーシェリクはよろめくが、その体を支えた人物がいる。

「ハーシェリク様、お気を確かに。」
「ジーン……」

 ハーシェリクは首だけ動かし彼女を確認する。後ろから支えるジーンは顔色が悪いが微笑んでいる。そしてジーンは懐中時計を持つハーシェリクの手に自分の手を重ねる。その手首にはロープで絞めつけられた痕がはっきりと残っている。先ほどまで縛られていたはずなのに、自分で無理やりほどいたのがわかり痛々しかった。

「ありがとう、ジーン。」

 彼女の思いにも報えるためにも、ハーシェリクは懐中時計を再度強く握りしめる。
 大量の魔力が懐中時計を通じて自分に流れ込んでくる。魔力が激流となって自分の意識さえ押し流そうとしたが、ハーシェリクは決して流されない。

(絶対に諦めない!)

 魔法陣がいっそう光を集め、その光が音もなく爆発した。
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