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転生王子と白虹の賢者 作者:楠 のびる

第九章

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第九章 旧友とフラグと懐かしき人 その一


 涼子は学生時代の数少ない異性の友人との再会に、男性の腕の中にいることも忘れ目を見開いた。

 いかにも仕事が出来る風体のこの男性は、高校時代の同級生の小鳥遊悠斗。
 彼は涼子の高校時代の明るく人気者でクラスのリーダー的な存在だった。もちろんその頃からイケメンで好青年だったので、同学年だけでなく先輩や後輩の異性からからも告白を受けていたが、彼女一筋だったのが涼子にはとても好印象だった。

「懐かしいなー!」

 そう言って笑う彼には高校時代の面影があり、涼子は目を細める。彼はその頃からオタクだった自分にもこうして分け隔てなく話してくれた。だからだろう、自分のいたクラスはグループの垣根が低かった。真面目な学生も騒がしい学生も、運動部も文芸部も、リア充もオタクも、彼がいつも間に立ってくれた為楽しく過ごすことができたのだ。
 その頃から涼子は彼の事を少女漫画のヒーローみたい、といつも思っていた。

「本当に。元気してた?」
「仕事ばっかりだよ。忙しくて同窓会にもいけないし……」

 そう言う彼に涼子はくすりと笑う。自分も仕事の都合がつかず、ここ数年は参加していなかったし、世代的にどうしても結婚や子供の話になり行きにくいという理由もあった。

「……で、そろそろ離してもらってもいい?」

 さすがにいつまでもこの密着した状態はよろしくない。涼子は離れようと後退するが、それを彼は止めた。

「早川待った。ちょっとこれ持っていてくれ。」

そう小鳥遊は言うと涼子に傘を押し付ける。反射的に傘を受け取った涼子を確認すると彼は傘から離れ雨の中車を確認し、横断歩道を渡ったかと思うとすぐに帰ってきた。その手には涼子の折り畳み傘が握られている。

「はい、傘。」

 そう言って差し出された傘を涼子は慌てて受け取りつつ、持っている傘の下に小鳥遊を招き入れる。相合傘となってしまったが、学生じゃあるまいしこの程度で動揺する年でもない。

「ごめん、ありがとう。でも自分で取りに行ったのに……」
「別にいいから。それより傘は使えそうか?」

 涼子は傘を確認すると骨組みが折れてしまい不自然に曲がっていた。破れていないから雨除けにはなるが、骨が変に曲がってしまい折りたためない折り畳み傘と化している。
 その惨状に涼子はため息を漏らす。

「高かったんだけどなぁ。」

 ブランド物で値段は高かったが、絵柄が気に入り即決で買ったのだ。涼子は特にブランドにこだわりは持たないほうだが、気に入った物は値段関係なく購入する。
 この折り畳み傘も一目ぼれして購入し、長年愛用していたのだ。
 落ち込む彼女に小鳥遊は元気付けるよう肩を叩く。

「残念だったな。というか本当に気をつけろよ? 目の前でスプラッタなんてトラウマもんだぜ。」
「ホラーゲームを喜々とやる小鳥遊君に言われても、説得力皆無だけど。」

 学生時代の涼子と小鳥遊の接点はゲームだった。その頃の涼子はどっぷりのオトメゲームユーザーだったが、同時にアクションゲームやロールプレイングゲーム、育成ものからダンジョンものなども一通りやっていた。
 毎月のお小遣いもバイト代も全てゲームに消えていたが、とても満足している学生時代である。

 小鳥遊は涼子ほどのオタクではなかったが、ゲームの話でよく盛り上がった。特に彼はアクションゲームが好きで、某ゾンビ系のヤツはやりこみがすごかった。ちなみに涼子はホラーゲームのみ全般的に無理なので、彼から誘われても全てお断りしていたが。

「おいおい、ああいうのはゲームだから面白いんであって現実であっちゃ笑えない。」
「だよね。ごめん、気を付ける。」

 本気で心配しているらしい小鳥遊に涼子は頷く。確かにさっきは危なかった。死にたくないので今度は絶対しないと誓う。

「お、雨がやんだみたいだな。」

 そう言う小鳥遊つられ、涼子も見上げる。先ほどまでとは嘘のように雨はやみ、雲の切れ間には星が見えていた。本当に通り雨だったようだ。

 小鳥遊が傘をたたみ、涼子も折り畳み傘を無理やり閉じる。途中嫌な音が鳴り、折り畳み傘のご臨終を告げていた。その音にため息を再度漏らす。そんな様子の涼子に小鳥遊が話かける。

「急いでいたみたいだけどどこか予定があった? あ、待ち合わせ?」
「ううん、ちょっとこの先のゲーム屋に……あ。」

 傘の事のほうが気になり何も考えず返答する。だが、三十を超えた女がゲームショップに通っているということを白状した事実に気が付き、少しばかりバツが悪い。

「その年になってもゲームかよ。」

 案の定笑われ、涼子は羞恥で赤くなる顔を誤魔化すためにしかめっ面を作る。

「なに、悪い?」
「いや、変わってないなーって安心した。」

 不機嫌な顔をする彼女に小鳥遊は首を横に振った。その返答をどうとっていいかわからず、涼子はしかめっ面のまま彼から視線を外した。



「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」

 お礼をいいつつ涼子は店員に差し出された袋を受け取った。場所は行きつけのゲームショップで、店員は涼子が学生時代からお世話になっている女性店員だ。十年以上の付き合いがあり、店員さんは姿が変わらず一体何歳だろうと思っているが、それを質問する勇気はない。

「……涼子ちゃん、男連れでこんなゲームを買いにくるなんてお姉さんはいろいろと心配だな。」

 そう言って彼女がちらりと視線を向ける先には、小鳥遊が珍しそうに棚を見ている。中古の販売を兼ねている為、丁度彼がみているエリアは懐かしいゲームが並んでいる場所だ。
 彼女の意味深な視線に涼子は苦笑を漏らす。

「男連れって……たまたまあった高校時代の友人ですよ。」
「そう?なんかフラグ立ってる気がするんだけどなー。」
「ないない。ありえないです。」

 にやりと笑う彼女に首と手を振り否定する涼子。若干目が泳いでいる彼女に、店員は見逃さず人の悪い笑みを浮かべたので、さらに否定しようと涼子が口を開こうとした瞬間、話題の元となる小鳥遊が割って入った。

「早川、すごく懐かしいゲームあったぞ。」

 そう言って小鳥遊がみせたのは某アクション系ゲームだ。敵を倒しアイテムを集め武器を強化していくゲームで、プレイヤーにレベルという概念がなく、装備と己のテクニックが反映されるそのゲームは当時とても人気があった。かくいう涼子も時代の波にのって遊んだのでよく覚えている。

「それ、新機種で新作出ているよ。」

 爆発的なヒットをしたそのゲームは、今も代を重ねつい最近新しく発売された。涼子はまだ購入していないが、売り切れ店続出入手困難の今季のナンバーワンゲームにも選ばれていたはずだ。

「どれ?教えてくれよ。」
「売ってるかなぁ。人気で品薄って聞いてたけど。」

 そう言っていそいそと新作エリアにいく小鳥遊。
 そして二人で店を出る時は運よく入荷したばかりのゲームとそのゲーム用の機器、さらには攻略本まで買っていた。

「やー楽しみだわ。最近仕事が落ち着いてきて、部下も育ってきたから余裕できたのはよかったんだけど、残業も減って一人だと暇を持て余していたんだよね。」

 そういう彼に涼子は首を傾げる。

「あれ、奥さんは? 彼女と結婚したんでしょ。」

 彼には相思相愛の彼女がいたはずだ。大学も同じところを受けて将来は絶対結婚するんだと思っていたが……
 涼子の言葉に小鳥遊は表情を曇らせる。

「してない。彼女とは別れた。」

 曰く、大学卒業までは順調だった。彼女は卒業したらすぐに結婚したいといったが、小鳥遊は就職し生活の基盤が出来るまでは待ってくれと言った。

 それが彼女は不満だったらしい。だが小鳥遊は彼女の気持ちには気づかず、朝から夜遅くまで働いた。丁度会社の転換期だった為、毎日残業で休みもつぶれてしまうこともあった。ただ仕事は小鳥遊が希望した職だった為、仕事が嫌になることはなかった。
 そうやって仕事にのめりこんで行った小鳥遊は、すっかり彼女を放置してしまった。

 そして二十五を過ぎた頃、彼女は焦りと寂しさから浮気にしてそして破局。浮気のきっかけは彼女が小鳥遊に対する不安を職場の男性に相談したところ、あれよあれよと言う間に………

(なんというベタな展開。)

 涼子はよくある昼ドラのようだと呆れる。

 確かに彼女を放置してしまった事は問題があるだろう。結婚を切望したのに待ってくれと言われ、放置され、そこに優しい異性が現れたら靡いてしまっても仕方がない。男性はいくつになっても結婚できるだろうが、女性にはタイムリミットがある。恋愛は別としても子供は若いうちに産まねば身体に大変負担がかかる。そのことを考えれば彼女が焦ってしまうのもしょうがない。涼子自身明日三十五になる身としては、すでにあきらめの境地だが、そういった部分に関しては理解ができた。

 ただ小鳥遊のことも涼子は理解できた。生活の基盤をしっかりしたい、とは言い替えれば彼女に苦労をさせたくない、ということだ。それは彼の誠意であり実質プロポーズと変わりない。それに彼女は働く男性に言ってはいけないことを言った。

「私と仕事、どっちが大切なのよ。」

 よくドラマに出てくるメジャーなセリフだが、そんな二択に答えらえるのはフィクションの中だけだと涼子は思う。

 彼女が大切だから、苦労させたくないから仕事を頑張る。では彼女を選んで仕事を疎かにし、結果彼女に苦労させることになったら彼女はなにも思わないのだろうか。答えは否と涼子は思う。

(お互い、言葉が足りなかったのかな。)

 年齢を重ねた人間ならそう思うだろう。ただ、当時二人は若く意思の疎通が不十分だった。だから結果破局になった。どちらが悪い、とも言えない。ただ女としては浮気という一線を越えた彼女は少々不愉快に感じた。
 なんだかんだで、少女マンガのような恋愛をする彼らに涼子は憧れていたのだ。

「大変だったね。」

 歩きながら聞き終えた涼子はそう一言言った。ここで説教染みたことなど彼も言ってほしくないとわかっていたし、それに彼女が悪いから気にするな、という励ましも言う気にはなれなかった。

「そういう早川は? あ、旦那いるならまずくないか?」
「ふ、私が結婚できると思う?」

 小鳥遊の言葉に涼子は胸を張って答える。涼子の答に小鳥遊は吹き出した。さきほどの辛そうな表情がなくなり、涼子はほっとする。

「胸張っていうところじゃないな。んじゃ今度遊ぼうぜ。あと食事行こう。」
「何? デート誘ってんの?」

 身長差から見上げることとなった涼子。社交辞令だと簡単に予想がついた。だがその予想は簡単に裏切られる。

「誘ったら乗ってくれるか?」

 小鳥遊は意味ありげににやりと笑う。その笑い方が先ほどまでとちがって、異性の雰囲気に涼子はどきりとした。だから視線をそらすしか対処が解らなかった。

「……考えとく。」
「じゃこれ連絡先。今度は信号気をつけろよ。」

 涼子の言葉に小鳥遊は素早く名刺を取り出し、裏になにかを記入し渡すとその場を去った。

 会社名を見て涼子は目を見開く。自分の会社とも取引がある、重要顧客の一つだ。最近成長が著しいその会社の部長と名刺には書かれていた。自分と同い年の彼が大手企業の役職もちだったとは。そういう涼子も大手企業の本社勤務だが、事務員と役職もちとは責任の重さが違う。

 名刺の裏を返せば個人のだろう電話番号と携帯のメールアドレスが書かれていて、初めての経験に涼子は数分間その場に立ち尽くしたのだった。


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