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転生王子と白虹の賢者 作者:楠 のびる

第七章

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第七章 ジーンと毒と動き出す者達 その三



 ジーンは城から帰宅した深夜、屋敷の隠された書斎に入った。ここは屋敷内でも一部の人間にしか知らされていない秘密の部屋。密会の場であったり、表には出せない資料や本が置かれてあったりする場所だ。ハーシェリクに飲ませようとした毒も、この部屋の本に記されていた手法だった。

 できるかぎり音を立てないように、ジーンは書類の山を漁る。手元には最小限の光の玉を出現させ、書類を漁った。だけどハーシェリクの役に立つような情報は見つからない。

(殿下が必要な情報……)

 ジーンは考える。
 やはり父の犯罪の証拠となるものだろうか、と。

(違う。もっと殿下には必要な情報があるはず。)

 すぐに考えを改める。
 この場所には確かに父が行ってきた後ろ暗い事の情報はある。
 だが、決定的な証拠というと否。

 ジーンは父のことをよく見てきた。見ていなければ生きてこられなかった。

 父は用心深い。自分が破滅するような証拠を秘密の場所とはいえ、複数の人間が知る場所に置いておくとは思えなかった。それにそういう危険なモノは配下の貴族に持たせ、自分に火の粉がかかることを防いでいた。
 そして己の利益と損失を天秤にかけ、いざとなったらその貴族ごと処理をし徹底的に自分への被害を最小限に抑える。
 それがこの国を牛耳っているバルバッセ侯爵家の当主だ。

 そんな父が自分に見つけられる範囲での証拠を残しているのか……

 ジーンは小さくため息を漏らすと立ち上がる。
 場所を変えようと歩き出した時、ふと足音に微かな違和感があった。しゃがみこみ絨毯をめくると、そこには他の床とは違った床があった。床は女のジーンでも簡単に外せ、中には金庫があった。

(これは……)

 結界が張られていない金庫。一瞬裏金かとジーンは思ったが考えを改める。結界の利点はその防御と破られた時の警報の役割だ。だが魔法を感知する者からしたら、逆にその場に重要なものがあるという目印にもなる。結界を張られた金庫は総じて重要なモノが入っている可能性があり、結界が張られていない金庫は重要性が乏しいと思われ狙われることは少ない。
 だが裏の裏を読めば、結界の張られていない金庫を視覚的に隠してしまえば、結界という目印がない為発見される可能性は低くなる。

 ジーンは逸る気持ちを抑え金庫に耳をあてダイヤルを回す。
 花街に住んでいる時、手癖の悪い母の常連さんがいた。その常連さんは自分にこっそりいろいろと教えてくれた。その中で金庫の開け方もあった。カチリと音がして錠が開く。
 開くといくつもの書簡が出てきた。ジーンはそれを手に取り開くと光に近づける。そしてその書簡の内容確認し、ジーンは瞠目し一度瞳を閉じる。

(お父様、あなたはやはり……)

 ジーンは金庫に入った複数の書類を全て取り出し、作業を始める。
 そして全ての作業を終えると金庫の中に全て戻し、床と絨毯元通りにすると部屋を後にする。

(殿下に早くお伝えしないと。それにヴィオを……)

 走りたい衝動を抑え廊下を進む。だがその行く手を遮る者がいた。

「なにをしている?」
「……お父様。」

 ジーンは内心焦る。この時間に父に会う可能性は低い。それなのに会ってしまったのは運がなかったとしかいえない。

「……王子は消したか?」
「いいえ。ですがまだ機会はあります。」

 そういつも通り事務的に答える。努めて平常心を保ち怪しまれないように。

「そうか。そういえば一つ頼まれてくれないか、小鳥を。」
「はい。」

 ジーンはいつも通り父に答えた。





 ヴィオレッタは首を傾げる。

「お姉様はどこ?」

 誰に聞いても希望する答えは返ってこない。
 最後に姉にあってから三日経った。部屋を覗いても帰っている様子はなく、こんなに姉に会えないことは初めてだった。
 最終手段で父に聞こうと父の書斎に向かっているところだった。

 ヴィオレッタは父が苦手だった。あの大きな体格と存在感がなんとなく怖いとかんじ、自分から会おうと思わなかった。

 だが今回は別だ。大好きな姉の所在を知る為なら、父が苦手ということは小さな障害にしかならない。

 廊下の角を曲がるとすぐそこが父の書斎。既に執事から父がいることは調査済みだった。
 だが書斎の扉の前まで来て、ヴィオレッタは歩みを止める。扉はほんの少し隙間が空いていて、そこから父とは別の声が聞こえたからだ。

(来客中かしら?)

 淑女としてはあるまじきだが、ヴィオレッタはこっそりと聞き耳を立てる。どうやら中には父と複数の客人がいるようだった。

 なにやら難しい話をしていて、父の声が聞こえた。

「今夜、騎士団や警邏は抑えておけそうか?」
「既に手回しはしております。」
「ふん、教会め。何を考えているのか……だがこれであの目障りな末王子を消せると思えば安い。」

 臣下としてありえない発言にヴィオレッタは息を飲む。そして声が漏れぬよう慌てて口を押えた。
 父の言葉に同調した客人が頷く。

「あの王子には我々も痛い目をみましたからね。しかし候、よろしかったのですか、ご息女を。」
「娘とはあのジーンとかいう小娘のことか? 本当に私の子供だと確証がないのに? 騒がれると面倒だからヴィオレッタの相手や有用に使っていたがそれもそろそろ潮時だ。特に惜しいとも思わん。」

 ヴィオレッタは姉が異母姉妹だとは知っていた。だが、自分と同じ色の瞳を持つ姉が、本当の姉ではないとは疑ったことは皆無だ。それに血がつながっていなくとも、仕事ばかりで食事も一緒にとらない父より、いつも見下すような視線を送ってくる長兄より、どこにいるかもわからない次兄よりも、自分といつも一緒にいてくれた姉のほうが何十倍も大切だ。

「王子共々教会が始末してくれるだろう……だが今後のことに備えて我らも準備をしておこう。この国は我らのものなのだから。」

 言い切った父の言葉にヴィオレッタは口を押えたまま数歩下がる。末王子、とは間違えなくハーシェリクの事だろう。そして父の言葉が本当なら姉も一緒に消すつもりだ。

(そんな……)

 ヴィオレッタは音を立てないようその場から離れ、早歩きで自分の部屋に戻る。

(どうすれば、どうすればいいッ?!)

 鼓動が早かった。考えがまとまらず混乱する。だが頭の中に思い浮かぶのは一人だ。

(ハーシェリク様ッ)

 ヴィオレッタは外套を掴むと部屋を飛び出した。誰にも見つからぬよう裏口からでて城へと向かう。

(どうにかしないとハーシェリク様とお姉さまがッ)

 だが子供の身で城に入れるか。いつもは姉が一緒にいってくれて手続きも済ませてくれた。バルバッセ候の娘だといっても父に連絡がいってはダメだ。

 大通りを人に紛れて進む。いつも馬車で移動していた為気が付かなかったが、城まではかなりの距離がある。

 ふと人込みが割れた。見ると後方から馬車が着ている。城下町の人々は高貴な人物が乗る馬車が通る時は、不敬にならぬよう道を開けるのだ。もちろんヴィオレッタが乗っていた馬車も皆が道を開けた。

 向かってくる馬車を見る。そしてその意匠を見てヴィオレッタは人の壁から、開かれた道へ飛び出したが、途中躓き地面に転がる
 人影に御者が気づき慌てて手綱を引く。馬が文句を言うように嘶き、歩みを止めた。

「小娘、この馬車に乗る方々が誰かと知っての狼藉か!」

 飛び出してきた影が少女と知り御者が怒鳴る。だがヴィオレッタは引かずに上半身を持ち上げ叫んだ。

「助けて下さい!!」
「何を言っている、道を開けろ!」
「お願いです、助けて下さい!」

 その場に地面に頭をこすりつけるように平伏する。御者はいらだって馬車から降りるとヴィオレッタをどかそうと手を伸ばす。

「待て、泣いている女の子が、国民が助けを求めているのに無体を働く気か?」

 馬車の扉が開き、中から現れた少年が厳しい視線を向け御者を止める。

「ですが……」

 御者が困った顔で振り返る。その横を二人が通り過ぎ、ヴィオレッタを助け起こした。

「大丈夫?」
「さあ、涙を拭いて?」

 通り過ぎた二人の内の一人、少女がハンカチを渡す。だがヴィオレッタが受け取らないので、自ら濡らした頬の涙と土を服の袖で拭う。

「あれ、君は……」

 二人の内のもう一人の少年が首を傾げた。彼女をみた覚えがあったのだ。
 そしてヴィオレッタも御者を叱咤した少年も、自分を助け起こしてくれた二人も知っていた。

「お願いです。ハーシェリク殿下に合わせて下さい!」

 ヴィオレッタは立ち上がり頭を勢いよく下げる。その様子に馬車から降りた三人、グレイシス王国の三つ子、王女のセシリー、王子のアーリアとレネットは顔を見合わせたのだった。



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