挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生王子と白虹の賢者 作者:楠 のびる

第五章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

12/34

第五章 シロ先生と歴史と魔法系統 その二


 シロの講師による魔法学の勉強が開始され早二ヶ月。週一回から二回の授業でハーシェリクはシロが教師の元、魔法学の基礎から勉強をして過ごした。

「魔法には系統がありまた個人の資質が左右する、でいいですか?」

 一通り魔法学の基礎を終え復習となった本日、ハーシェリクは今までの習ったことを纏めた紙を見ながら言う。

 魔法にはいくつかの系統がある。
 一般的に使われているのは属性系魔法と分類される魔法だ。
 文字通り、自分の魔力を炎や水、光、結界などの属性に変換する魔法であり、変換系魔法ともいわれる。
 自分の魔力を属性に変換するから、自分の得意な属性もあるし、苦手な属性もある。だから人によって性能も質量もまちまちになるそうだ。

「ああ、さらにいうなら個人の発想でいろいろな属性を複合して扱うこともできる。」

 シロは例えば、と続ける。

 演習場でシロが使った火球を閉じ込めた水牢の魔法。あれは水魔法と結界魔法の複合魔法。炎魔法を水魔法で消し去り結界で周辺への被害を抑えたのだ。

「結界だけじゃだめなんですか? 空気を遮断する結界を張れば中の炎は自ずと消えるのでは?」

 炎は空気がなくなれば消える。燃やす酸素がなくなるからだ。なら空気を遮断する結界魔法だけで十分だったのではないか?
 ハーシェリクがそう質問すると、シロは一瞬驚いたような表情をした。まだ学院に行っていない王子がする質問ではなかったからだが、その違和感に気が付きつつもシロは質問に答える。

「自然の炎や魔法の炎から燃え広がった炎なら、空気を遮断すれば消えただろう。だが、あの炎は魔力が変換された炎。空気が燃えているわけじゃないから、結界だけでは結界内に留まって魔力が尽きるまで燃え続ける。三人分の魔力が尽きるまで結界の維持は面倒だ。」
「なるほど。」

 この世界の魔法とは、自分の魔力を使用することにより発動する魔法。そもそも自然現象とは違うということだとハーシェリクは納得する。

「なら水とか空気とか、この場にあるものを利用して使う魔法とかないんですか?」

 前世で読んだ小説でもよくある設定。例えば水道からでた水をそのまま魔法と同じように使えば魔力の節約になったりしないのだろうか、とか。
 ハーシェリクの質問にシロはため息を漏らす。

「阿保か。」
「さすがにはっきり言われると凹みます。」

 容赦のないシロの一言にハーシェリクは反論する。自分で凹むといいつつその様子が一切ないのはハーシェリクらしいといえばらしい。
 その様子に再度ため息を漏らしつつシロは口を開く。

「魔力なしだから仕方がない。いいか、自然のものには少なからず浮遊魔力がある。つまり別の魔力があるんだ。前に合体魔法が難しいという話はしただろう。」
「自分以外の別の質を持つ魔力を扱うのは難しい?」
「そう。だから浮遊魔力を有する自然のものを利用するのは、自分の魔力を使用する魔法より難易度が高い。それを組み込んだ魔法式も立てないといけないからな。」

 だから浮遊魔力を易々と自分の魔力に変換できる自分やハーシェリクの懐中時計がどれほど特異な存在か、とシロは心の中で付け加える。

 ハーシェリクはあれからシロの能力を知っても特に態度を変えることはなかった。むしろ「え、じゃあ魔力切れがないっていうこと? 魔法チートじゃないですか!」とよくわからないことを言って感心していた。想定外の軽い反応にシロはあっけなく感じたものだ。

「だから魔法具で魔力の操作を補うというのがあの合体魔法の実験だろう。道具を使った三つ子達で成功が三割超えればいいほうだろう。」

 魔法具を使用し近い魔力を有しかつ感応能力を持つ三つ子でも成功率は三割。それほど合体魔法は難易度が高い。

「魔法式はどうして必要なんですか?」

 ハーシェリクは今度は別のことを聞く。

(意外となんでも聞いてくるんだな。)

 授業中の間はとても静かだった。質問はするがそれも一通り説明を終えてから。今は全ての事をまとめ復習をしているから、統括して疑問に思ったことをでてくるのだろう。

「逆だ。本来、魔法式を構築し魔言を発し詠唱することに発動させるのが魔法だ。」
「え? 簡単な魔法なら魔言だけでも発動するのに?」

 ハーシェリクでもできる光を付ける魔法は、魔法式を構築しなくても……そもそも魔法式というものがハーシェリクはわからないが、魔言を唱えるだけで簡単に発動する。

「発動はするが魔力の消費量が全くちがう。」

 シロの言葉にハーシェリクは首を捻る。

「お前は浮遊魔力を使っているからわかりにくいだろうが、本来人の魔力は有限だ。魔力を体力と置き換えて考えてみるといい。目的の場所までゆっくり歩いていくのと、走り抜けるのとでは到着時間を考えれば断然後者だが、疲れも後者のほうは多いだろう。」
「つまり魔法式を使わず魔法を使うと魔力を多く使うということ?」
「ああ。過剰な魔力が必要になる。それに短縮された魔法は精度が低い。魔法の精度を上がれば上がるほど、魔法式は複雑化し魔文は長くなる。」
「精度?」

 再度ハーシェリクが首を傾げた。

「……例えば、肉を焼くとする。私はどちらかといえばしっかり火を通したほうが好きだ。おまえは?」
「僕は普通な焼き加減が好きです。」
「では同時肉を焼くとして、魔法式はあまり考えず魔法を発動する。すると同じ火加減でしか焼けない。だがしっかりと魔法式を組めば……」
「同時に別の火加減のお肉が焼けるってことですか?」
「そういうことだ。ただこの魔法式を組む場合は、同じ火加減の魔法式の三倍の時間がかかる。」

 ハーシェリクはなるほど、と再度頷いた。

(シロは例えがうまいな。)

 魔力がない自分でも想像しやすいよう的確なたとえ話をしてくれる。彼は意外と教師の才能があるかもしれない。

「魔法式って難しそう、というか僕は使えないですけど。そういえば以前シロさんが魔法を使った時にあった光の帯っぽいのはなんですか?」

 演習場での事故でシロが魔法を使った時に、シロの周囲に現れた光る帯。魔法が終えると同時に霧散し消えた。

「厳密にいえば違うがあれが魔法式だ。簡易的な物なら脳内で処理ができるが、複数属性や精度の高い魔法を使う場合は視覚化した分処理が上がる。」

 つまり魔法士が複雑な魔法式を組むと起きる現象ということか。

「……なるほど?」

 言葉とは逆にハーシェリクじゃ首を傾げる。

「今のはわからなかっただろ。」
「ゴメンナサイ。ワカリマセン。」

 シロにじろりと睨まれハーシェリクは素直に謝る。何度目かわからないため息をつくシロ。それでも粘り強く彼は教えてくれる。

「簡単な足し算引き算なら暗算できるが、難しい問題は書いたほうが解りやすいだろう。それとおなじだ。」

 つまりあの光の玉的なモノは、メモということかハーシェリクは無理やり納得する。解らないモノを時間かけて理解するより、そういうものなのだと覚えたほうが早い。

「素早く魔法式を構築する、効率的な魔法式を組む、そして効果的な魔法を作り出す。そのあたりは個人技だ。他人が作った魔法式で同じような魔法ができるともかぎらない。」

 思った以上に魔法とは個人の素質や実力が反映されること知り、ハーシェリクは認識を改める。

「あれ?じゃあ魔法道具は?」

 属性魔法の道具は解らないが、スキャナ的な魔法道具は誰でも使用できたはずだ。

「魔法道具は魔力がある人間なら一定の効果を得られるよう魔法式が組み込まれている。ちなみに正確にいうなら、魔法士の魔法を補助するものを魔法具、生活などで使うものを魔法道具と一般的には言い分けている。さらにいうなら大きさで魔法設備や兵器ともいう道具もある。」

(魔法は料理人が作る料理、魔法道具はインスタントフードということか。)

 ハーシェリクはなるほどと自己流にアレンジし覚える。

 昔から自分に覚えやすいようにアレンジしていた。学生時代の受験勉強は解らない単語や問題を、勝手に脳内擬人化し目くるめくストーリー仕立てで覚えたものだ。今思えばあの頃は勉強でどこか壊れていた。

「属性関係はわかりました。後は神癒系魔法と操作系魔法……神癒系魔法はなんとなくわかります。」 

 神癒系魔法に類されるのは治癒魔法と浄化魔法。治癒魔法は体を癒す魔法。浄化魔法とは動物の亡骸に魔力が蓄積し動き出すアンデット化の解除、本来現世に存在できない死んだ人や動物の魂が心残りで悪霊化したモノを癒し浄化する魔法だ。ただこの神癒系魔法を使用するにはヘーニルように魔力の素質が必要であり、その素質を持つ人間が少ない為、使い手も少ない。
 ただ使い手が少ないというだけで、この世界には医学も存在する為、治癒魔法が絶対的な力を誇っているわけではない。

(医学があってよかった……)

 もしこの世界で治癒魔法が絶対的な存在だったら、神癒系魔法をほぼ独占している教会が絶対的な権力を持ってしまうということだ。人間、命が一番大事なのだから。

「あとは操作系魔法……これは今一よくわかりません。」
「操作系魔法か。」
「はい、なんだか聞くだけで怖い魔法みたいで……」

 操作系魔法とは魔力を別の属性へ変換して使う属性系魔法とはちがって、魔力をそのまま操作して扱う魔法だ。精神攻撃や操作魔法、傀儡魔法、呪法が分類される。

 精神系魔法は魔力で相手の精神を攻撃し精神の破壊、及び操作をする魔法。
 傀儡魔法は浄化魔法とは逆に、死体や無機物に魔力を吹き込み、意のままに動かす魔法。
 そして呪法は文字通り呪いだ。言葉や物、契約を媒介にし己や対象者の行動や精神、生死を縛る。

「確かにこれだけなら怖くかんじるだろう。だがものは考えようだ。」

 そう言ってシロは言葉を続ける。

「例えば精神系魔法。攻撃だと考えれば怖いが精神は心だ。過去トラウマを負った人間がいて、精神魔法でそのトラウマを克服するように仕向ければその人間は救われると考えられないか?」

 それにとシロは言葉を続ける。
 傀儡魔法は生命を終えたもの、または生命がないものを自在に操る魔法。生身の人間がいけない場所に傀儡魔法で操る物を行かせれば危険を最小限にできる。呪術も願掛けや暗示も同じことが言える。

「要は魔法を使用する者の問題、ということなんですね。」

 ハーシェリクは頷く。
 剣を持つ者が殺人犯ではないのと同じように、操作系魔法を使う人間が邪悪なわけではない。使い手側の問題なのだ。
 ハーシェリクの言葉に頷きつつ、それにとシロは付け加える。

「他の魔力が存在すると難易度は跳ね上がる。操作系魔法は総じて扱い難く成功率が低い上、緻密な魔法式が必要だし、さらに魔力の消費も激しい。」

 精神魔法は相手の魔力や精神状態によって成功率は変わる。傀儡魔法は対象が魔力を有していれば操る事も難しいし大量の魔力を必要とする。呪術はそもそも効果が低い。

「それにそういう魔法から防ぐために王城や重要施設は結界が張られているだろう。」

 その言葉にハーシェリクはほっとする。
 精神魔法で父親や兄達が操られたりしたら、自分はどう対処したらいいかわからないからだ。

(そもそもそんな便利な魔法があったら、あいつらが使うか。)

 ただハーシェリクは思う。あいつらはそんな魔法を使わずとも父を傀儡のように扱っている。
 ハーシェリクはぐっと拳を握る。その呪いを早く解かねば、この国が進む未来は破滅だ。
 だからハーシェリクはなんとかしないといけない。

 ふと黒板の文字を消していくシロが目に入る。
 約二か月の間、彼はまったく態度が変わらなかった。いつもツンツンして不機嫌そうな顔をしている。嫌なら来なければいいのに、きっちり時間を守って彼は授業をしてくれた。
 それに魔法の事を話している時だけは彼は不機嫌ではなく比較的デレている。

「シロさんは魔法が大好きなんですね。」
「は?」

 ハーシェリクの唐突な言葉にシロは眉間に皺を寄せつつ服についたチョークの粉を叩き落とす。そして珍妙な動物を見るかのようにハーシェリクを見た。

「いきなり何を言っている?」

 不機嫌そうに顔をしかめる彼。だがそれはなんとなく照れ隠しなのではないかと最近わかるようになってきた。

「だって魔法の事を話してる時は、眉間の皺なくなってますよ。」

 ハーシェリクの指摘にシロは反射的に眉間を押え、さらに不機嫌な顔になり睨んだ。美人に凄まれるのは怖いがこれも最近は慣れてきた。

「……私には魔法しかない。」

 呟くようにシロは言う。

 化け物と言われた自分
 実の親にも捨てられた自分

(だけど……)

「……魔法があったから、あの人に出会えた。」
「あの人ってヘーニル様?」

 シロの無意識に出た言葉をハーシェリクが拾い上げる。また睨まれたがハーシェリクは気にも止めない。

「シロさんは魔法だけじゃなくヘーニル様も大好きなんですね。」
「……ふん。」

 ハーシェリクの言葉をシロは否定しなかった。ただ彼から視線を逸らしたのだ。ただ彼の耳がほんのり赤く染まっていた為、それが照れ隠しだとバレバレである。

「……ヘーニル様がいたから私は生きてこられた。魔法の勉強もできた。ただそれだけだ。」

 それだけ、という割にはシロの言葉はとても重く聞こえた。ハーシェリクがその意味を問おうとしようとした時、ノックの音が室内に響いた。シロへと問いかけは中断し、ハーシェリクが促すとクロが入室する。

「ハーシェリク様、そろそろお時間でございます。」
「え、なんだっけ?」

 ハーシェリクは首を傾げる。そんな様子の主にクロは表情を崩さずに言葉を続ける。シロの前だから彼は完璧な執事を演じているが、いなかったらため息をつかれていただろう。

「バルバッセ侯爵のご令嬢方がお見えです。」
「ああ!」

 ハーシェリクは慌てて勉強した机を片づけ始める。今日のスケジュールは、午前はシロと午後はバルバッセ侯爵の姉妹と会う約束をしていたのだ。

「では私は……」
「あ、待ってシロさん!」

 そう言って退室しようとするシロをハーシェリクは引き留めた。

「シロさん午後時間ありませんか? よろしかったら僕達とでかけませんか?」

 ハーシェリクの言葉に、シロは面倒くさそうな表情を向けたのだった。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ