挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
片道15分の恋人 作者:桜庭かなめ

恋人編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

31/75

5月2日(金)-③-

 午後十二時半。
 今から会いに行くという旨のメールを栞に送り、僕は亜実と一緒に潮浜線に乗って鏡原駅に向かう。僕だけでも良いんだろうけど、亜実にしっかりと謝らせるべきだと思い天羽女子へ一緒に行くことにした。
「天羽女子の昼休みは一時半までだって」
「そうか。じゃあ、間に合うな」
 亜実に天羽女子にいる協力者に昼休みの時間を訊くよう頼んでおいたのだ。授業中に行ったら申し訳ないし、少しでもゆっくりと話すには昼休みが一番良い。
 教室いるときと比べて亜実の顔は幾らかスッキリしているように見えた。少しずつ心の整理がついていきたのかな。
「ねえ、悠介」
「どうした?」
「……あたし、こんなに酷いことしちゃったけどさ、悠介はその……これからもあたしと友達でいてくれる? あたしが言える立場じゃないと思うけど」
 元気なく亜実はそう言う。きっと、けじめをつけたいんだろう。
「亜実がしたことは酷いけれど、だからといって僕は亜実を突き放すようなことをするつもりはないよ。これまでと変わらず、友人として宜しく」
「……うん」
 ようやく、亜実も心が晴れ始めたようで……少し嬉しそうに笑った。亜実が何よりも恐れていたことは、僕を自分の彼氏にできないことではなくて、僕との関係自体がなくなってしまうことだったかもしれない。
「栞にしっかりと謝るんだぞ。協力してくれた女の子にも栞に謝っておくように言っておくんだ。分かったな?」
「うん、分かった」
 何だか、子供を叱るお父さんになった気分だなぁ。叱る相手がある程度素直だから良かったけれど。
 栞からの返事は……ないな。放課後ではないから、会いに行くっていうメールを見てもきっと信じられないのだろう。
『間もなく、鏡原、鏡原』
 もう鏡原駅か。時刻は十二時四十五分。天羽女子までは徒歩で十分もかからないので、昼休みが終わるまでには充分間に合う。
 鏡原駅で電車を降り、改札を出る。
 周りを見ると八神高校の制服を着た生徒がちらほらいる。明日から四連休ということもあって遊びに来ているのかな。この前、ボーリング場やカラオケ店があるのを見たし。
「さてと、ここから天羽女子だけど……」
「あっ、あたし学校説明会で一度行ったことがあるから、行き方分かるよ」
「じゃあ、頼む」
「まあ、あの高い建物が天羽女子の校舎なんだけど」
「えっ?」
 亜実の指さしたところは確かに高い建物だけど、天羽女子高校ってそんなに凄いところなのか。あの建物の屋上から見る景色はかなり良さそうだ。
「栞って凄いところに通っているんだな……」
 随分と目立つ男子禁制の高校だ。よく考えたら、亜実と一緒に行くのは正解だったな。家族じゃない限り、男一人で行ったら校門で追い返されるだけだろうから。
「よし、行くか」
 僕は亜実の案内で天羽女子高校に向かう。
 七、八分歩いて到着するが、また目の前で見ると随分と立派な高校だなぁ。これなら女子は入学しようかどうか一度は考えるというのも納得。
「いやぁ、凄いところだ」
「凄いよね。あたしの同級生も何人かここに進学してる」
「僕の知り合いの女子も何人かここに通ってるよ」
 今は昼休みということもあり、校舎から出ている女子生徒もちらほら確認できる。他校の生徒が珍しいのか、僕達のことを見ている生徒も。
 看守のおじさんに目的を聞かれたけど、友人に届けたい物があると言って通してもらった。入校許可証を首から提げる。
「……しまった。栞のクラスが何組か分からない」
「ちょっと訊いてみるね」
 この口ぶりだと、協力者は栞のクラスメイトなのかな。校舎も結構大きそうだし、下手したら昼休みが終わってしまう恐れも。
「一年二組だって」
「ありがとう」
 女子校ということもあって、天羽女子の生徒から結構注目が集まる。時折、黄色い声も聞こえるけれど……あぁ、男がいるなんて信じられない! って感じかな。亜実がいなければ心が折れそうだ。
 そして、ようやく一年二組の教室の前まで辿り着く。扉の前に亜実のことを見て手を振る黒髪の女の子がいるから、彼女が亜実の協力者かな。
「せっかくここに来たんだ。栞のことを驚かせてやろう。栞は教室にいる?」
「は、はい。栞ちゃんは一番前の席です」
 中を覗くと協力者の女の子が指さす先に栞が座っていた。一人でお弁当を食べている。
「じゃあ、行ってくるかな」
 僕が教室に入り、しーっ、とサインを送ると空気を読んでくれたのか、それまでの騒ぎが収まっていく。
 栞に気付かれないように栞のすぐ後ろまで行き、僕は後ろから目隠しをする。
「だーれだ」
「ふえっ」
 驚いた栞は持っていた箸を机に落とす。
「その声は……悠介君?」
「正解」
 こちらに振り向いた栞の表情は嬉しいものではなくて、今にも泣き出しそうな寂しいものだった。目尻が赤くなっているから、相当泣いたのかな。
「どうして、ここに来たの? 後ろに口づけした女の子がいるのに」
 やっぱり、栞の心の中に見せられた写真が刻み込まれているのか。
「栞に会いたいからここに来たんだ。それに、亜実とは口づけなんてしてない。あれは僕が亜実の眼に入ったゴミを取ったときに撮られた写真なんだ」
「……ほんと?」
「本当だよ。栞のことが好きな気持ちは全然変わってない。だから、僕はずっと栞に会いたいっていうメールを送ったし、昨日も鏡原駅で六時くらいまで待ってたんだ」
「そうだったんだ……」
 そう言うと、栞の目から涙が溢れ出す。きっと、それは今まで流した涙とは全然違うものだろう。
「昨日、鏡原駅で悠介君を見つけたけど、あの子がいたから諦めたの。でも、悠介君に会いたい気持ちはなくならなくて。好きな気持ちも全然消えることなんて、なくて……」
 栞は立ち上がって、僕に抱きついてきた。
「寂しかったよ……」
 そう言って泣き出す栞のことを僕は優しく抱きしめた。
「ごめんね。もう大丈夫だ」
 栞の抱いた寂しさは相当なものだったと思う。それを消すために必要なのは僕から感じられる温もり。だから、精一杯抱きしめる。
 僕も寂しかった。もう会えないと栞からメールを受け取ったときはどうしようかと思った。だからこそ、僕はまた栞に会うことができて、一緒にいられるようになって嬉しい。そして、これまでと変わることなく栞のことが愛おしい。
「栞、好きだ」
「……私も。悠介君のことが好き」
 僕等のことを周りの生徒はどう思っているかは分からない。でも、僕と栞が恋人同士であることは確かな事実なのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ