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片道15分の恋人 作者:桜庭かなめ

恋心編

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4月9日(水)

 昨日、鏡原駅近くの高校を調べると、彼女が天羽あもう女子高等学校に通っていることが分かった。鏡原市や潮浜市では、天羽女子に目指す女子生徒も多い。僕の出身中学からも天羽女子へ進学した女子がいたな。
 天羽女子って県内では有数の女子校だし、それ以前に女子校に通っているだけで上品なイメージがある。高嶺の花、というか。それに、女子校ってことは、学校では男子の存在が一切なし。これは僕にとって朗報だ。
 そして、今日も7時30分発の八神行きの電車に乗る。彼女の前では、今のようにニヤニヤしてはいけない。
 扉が開くと、天羽女子の制服を着た彼女が乗っていた。バッグを両手で持っている。
 今日は彼女の前に立つ。なので、彼女の姿を見ることができない。
 彼女のことが見られないのは残念だけれど、彼女が正面を向くと僕だけが見えると思うと嬉しくなってくる。
 鏡原駅では反対側のドアが開くから、今日はずっと外の景色を眺めることになるかな。
 だが、それも束の間だった。
 発車してから7、8分。鳴瀬駅から2つ目の駅、新淵駅に到着する。新淵駅は反対側の扉が開く。ここでは降りる人よりも乗る人の方が多く、その時は前に押される形となる。今日もいつも通り軽く前に押されると思っていた。しかし、
「きゃっ」
 僕のすぐ後ろから彼女らしき声がした直後、僕は勢いよく後ろから扉に向けて押され、そのせいで額を扉にぶつけてしまう。
 そして、それと同時に背中に感じる柔らかい感触。
 こ、これはもしかして……む、胸なのか? 感触のある高さといい、僕の背中に当たっているものは彼女の胸なのか?
 きっとそうだよ。だって、その柔らかい感触のすぐ近くに別のものが触れているから。これはきっと、彼女の手だ。
 やべえ、彼女の胸が当たっていると思うと急に鼓動が早くなってきた。未だに当たっているから、ドキドキしているのがばれないかどうか心配だ。互いに向き合っていたらどうなっていたことか。あと、今更だけど彼女の声凄く可愛かった!
 さっき悲鳴を上げたし、僕の背中に手を添えているわけだし、大丈夫かどうか訊いた方がいいのかな。訊くんだったら、できるだけ早い方がいいよな。
 でも、まずはとにかく平静を保たないと。彼女だって、今のこの体勢は恥ずかしいと思っているだろうし、こっちが動揺していたら彼女に申し訳ない。それに、気まずくなって、明日からここに乗らなくなるかもしれない。
 心の中で深呼吸をして、少し落ち着いてからちらっと後ろを見る。
「……あの、さっきは大丈夫でしたか?」
 僕がそう訊くと、彼女はゆっくりと顔を上げて、上目遣いで僕のことを見てくる。凄く可愛いな。
「私は大丈夫……です」
 と言いながら、彼女は少し頬を赤くして僕から目を逸らす。胸が当たっているし、これだけ密着していればそれも当たり前か。恥じらう彼女も乙である。
「それよりも、あなたも大丈夫ですか? さっき、凄い音がしましたし……それに、おでこがちょっと赤いので」
 そういえば、押された衝撃で額が扉に当たっていたんだ。彼女の胸が当たった衝撃の方が大きくて、痛みなんて全く感じなかったよ。
「このくらい、大丈夫ですよ」
「……そうですか、良かったです」
 そう言って、彼女は僕のことを見て優しく微笑んだ。
 その微笑みに嬉しくも思ったけれど、それよりも心が温かくなった。彼女の優しさに触れた気がしたから。
 顔の向きを元に戻し、再び車窓から外の景色を眺める。
 彼女と密着できて、彼女と話すことができて、彼女に微笑まれて。今日という日は物凄く良い日だ。今もまだ、彼女と密着しているし。
 鏡原駅に到着し反対側の扉が開くまで、彼女は一切僕から離れることはなかった。 
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