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片道15分の恋人 作者:桜庭かなめ

恋心編

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4月17日(木)

 今日もいつもの場所で、午前7時30分発八神行きの電車を待っている。
 一夜が開けても、告白するか否かの答えは出なかった。告白するにしても、満員電車でしか会えないのでどうやればいいのか思いつかなかったし、まだ告白しないと決めるのも癪だった。何時しか思考ループにはまってしまい、昨日はあまり眠れなかった。そのせいで今は欠伸ループから抜け出せない。
 そんな僕のことを無視するかのように、定刻通りに八神行きの列車がやってくる。
 扉が開くと今日も彼女が僕の方を向いて立っていた。彼女は僕の顔を見るなり、笑顔で手を振ってくる。
「おはようございます。今日もお話ができますね」
「また明日って毎日言っているじゃないですか」
 僕がそう言うと、彼女は少し悲しそうな表情をする。
「ご、ご迷惑でしたか?」
 まずい。僕の言葉が悪かったのか、彼女が申し訳なさそうにしている。ここはきっぱり否定しておかないと。
「そんなことないですよ。その……嬉しいです」
 それが僕の素直な気持ちだった。彼女を見ているだけだった日々が、今はもう彼女から毎日「また明日も話したい」と言ってくれるのだから。
 この流れで告白しても良い気がしたが、ここは満員電車だ。好きだ、と声に出せば絶対に周りの客に聴かれてしまう。僕にはまだそこまでする勇気はなかった。
 彼女の顔を今一度見てみると、彼女は微笑んでいた。
「……良かった」
 そして、今日も八神へ向けて発車した。
 しかし、その瞬間である。急に眠気が襲ってきて不意に欠伸が出てしまう。
「寝不足ですか?」
「……ええ、今日提出の課題に時間がかかっちゃって」
 あなたに告白するかどうか考えていたから、とは言えない。今日提出の課題があるのは本当だけど、すぐに終わるような内容だった。
「私はまだ課題が出されたことはないなぁ」
「羨ましいです」
「八神高校は結構な進学校ですもんね。難関大学にも合格しているんですよね。そんなところだと、スタートダッシュも凄いんですね」
「それは特進クラスの話ですよ。僕のいる普通クラスはそんなに厳しくないですって」
 八神高校には特進クラスと普通クラスが存在する。特進クラスは勉強一本で、それこそ厳しいプログラムになっているけれど、僕の所属する普通クラスは厳しいという言葉が似合わないくらいに平和である。
 偏差値も特進クラスだとうちの方が上だけど、普通クラスだと天羽女子の方が良かったような気がする。
「へえ。眼鏡をかけているので、てっきり特進クラスの方だと思いました。勉強できますって感じがしますから」
 意外と彼女って見た目で物事を判断するのかな。まあ、僕も眼鏡をかけている人を見ると勉強できる奴だと一度は思う。
「そういえば、部活はどこか入ってますか?」
「……ど、どこにも入ってないですね。仮入部期間に面白そうな部活を回ったんですけど、どこも入る気にならなくて」
「そういう人もいますよね。私のクラスでも何人かいますよ」
「そうなんですか」
「ちなみに私は茶道部に入部しています」
 茶道部、という言葉が耳に入った瞬間に和服姿の彼女を思い浮かべる。黒髪で大和撫子って感じがするし、結構似合いそうだ。
「茶道部ってことはお茶を実際に点てるってことですか?」
「そうですね。茶道に興味があったのと、あとは……甘いお菓子が食べられるのに惹かれちゃって」
 そう言って、照れた表情で笑う彼女がとても可愛らしかった。甘いお菓子に惹かれるのは大いに結構だと思うけど。
「……何時か飲ませてください。あなたの点てたお茶を」
 気付けば、そんな言葉を口に出していた。彼女に変に思われなければいいんだけれど。
「去年の文化祭で茶道部がお茶を出していたので、きっと今年の文化祭でも飲めると思いますよ」
「……そうですか」
 今の言葉が地味にショックだった。本当は明日にでも飲みたい気分なのに。文化祭というとあと半年くらい待たなきゃいけないのか。
 だけど、その嫌な想いが彼女に告白する気持ちを強くした。
『まもなく、鏡原、鏡原。お出口は左側です』
 今日も彼女との別れの時間が迫っていた。
「あっという間ですね、本当に」
「そうですね。明日もお話ししましょう」
「……うん。そうしましょう」
 そして、電車が鏡原駅に到着すると、彼女は反対側の扉から降りていった。
 一人になり、僕は決意する。
 ――明日、彼女に告白しよう。
 問題はその方法だ。普通に告白しては彼女にも迷惑がかかるかもしれない。満員電車の中だけしか会えないけど、まるで二人きりのときに告白するような方法を考えないと。
 終点の八神駅まで、僕はそのことについてずっと考えていたのであった。
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