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第十七話 初めての・・・
 あの後龍夜達はすぐに魔力視ができるようになって満足そうに帰っていき、今は早紀と家で二人きりで人目をはばからずにいちゃいちゃしていた。

 ちなみに、先ほどの海斗の教え方は教師であれば下を巻いただろう。素人とは思えない程に的確に物事を進めていき、あっという間に覚えさせた。

 すごいことをした、という自覚が相変わらず無い海斗は早紀と一緒に料理を作っていた。

 話題はもちろん、先ほどの練習のことである。

「海斗の魔力って優しい色してるよねー、海斗にとっても合ってると思うな♪」
 
 と早紀は先ほど感じたことをそのまま言った。海斗は少し気恥ずかしそうに頬をかきながらも片手でどんどん作業が進んでいく。本人は謙遜しているが、その料理の腕は確実にプロレベルだ。早くもっと上手になって海斗においしいものを食べさせてあげたいなーと思いつつ(自分が作るのが重要らしい)自分も手を動かしていく。

「ありがと。でも、早紀のは見ていてほっとするっていうか・・・ピンク色でかわいらしくって早紀らしいっていう色だったよ」

 早紀は海斗に満面の笑顔でありがと、と返して料理を続けていく。



 ほどなく出来上がった料理を食べ尽くして、今は入浴中だ。

 海斗は今、湯船に身を沈めている。一日の疲れを湯に流し、目を閉じて一日を振り返る。すると一番に浮かんでくるのはやはり早紀の笑顔だ。

 怒った顔や大人びた顔も十分にかわいいと思うのだが、やはり一番は自分にだけ見せる無邪気な笑顔だ。あの笑顔を見ていると、結構自信のあった精神力によって押さえている理性がことごとく揺らいでいく。

 龍夜達の前でも、きつく抱きしめてキスしたい、と思ってしまうので重症だな、と思って苦笑した。ついこの前までは町に降りてどんなにかわいい娘やきれいな人に出会っても心は一つも動かなかったのに、早紀の笑顔だけで心ががかき乱される。

 その笑顔を前にすればどんなに押さえようとしても頬が緩む。手が勝手に動く。まるで呪文にかけられたようだ、と考えてから思った。こんなにも心地の良いものならば一生だって浸かっていたい、と

 そこまで思った後に、脱衣所で気配がした。早紀が手でも洗いにきたのかな、と思って思考をシャットダウンさせて目を閉じた。それがいけなかった。海斗は早紀が向こうで何をしているのか完全に把握できなくなってしまった。

 かちゃん、と風呂場の音がしてはっと眼をあけた。そこにはタオルで体を隠した魅力的すぎる程の彼女の姿だった。



 どうしよう、海斗嫌がるかな・・・ううん、そんなことない。それに女は度胸。怖じけずに行こうっと・・・

 かちゃん、と風呂場のドアを開けると驚いたように目を見開いてこちらを凝視してくる海斗の姿があった。

「え・・っと・・・一緒に入ってもいいかな、海斗・・・」

 さすがに視線が恥ずかしくなって赤くなりながら勇気を出して言ってみたが、海斗は呆然としていた。

「だめ、かな・・・」

 いつまでも返事をしない彼に不安を覚えておずおずと問いかけると、ゆっくりとだが、首を横に振った。

 とたんに顔が笑顔になったのが自分でも分かった。海斗の動作すべてで自分は途端に悲しくなったり嬉しくなったりする。そして、彼と一緒に居るだけで心臓が高鳴り、体の芯に火が灯ったように体が熱くなり、とてつもない幸福感に包まれる。

 もう、彼の居ない生活なんて自分は考えられない、と思う。海斗の居ない生活なんていやだ。

 昔のようにただ男子に嫌悪感を抱いて女子には無視を決め込んで遠ざけて、夜は冷たいベットで一人で眠る・・・そんな生活、海斗の居ない生活を想像しただけでぞっとする。

 そんな想像をしてしまって慌ててかけ湯をして湯船につかった。今は一刻も早く海斗と触れ合いたかった。海斗の存在を感じて安心したかった。

 ちゃぷん、と音をたてて湯船につかると、彼の胸を枕にしてほっと息をついた。満足感を経たとたんに気恥ずかしくなって、えへへとはにかみながら海斗を見上げると、いきなり荒々しく抱きしめられた。

 一瞬硬直しかけたが、その荒々しくも、優しさが残る包容にすぐに体から力を抜いて体重を預ける。

 そしてもう一度顔を上げるとすぐさま唇が奪われた。

「んっ・・・」

 すぐに目を閉じてその感覚に目を閉じた。後頭部を優しく押さえつけられ、腰を引き寄せられる。

 それだけで体の奥では火が灯る。しかしそのうちにいつものキスではなく、激しいものに変わっていく。

「んっ・・・あっ・・・ふっ・・・ちゅ・・・」

 深く、頭の芯が蕩けるような接吻に何も考えられなくなってその心地よい感覚に身を任せていく・・・

 そのまま数十秒とも、数分とも思える時間は不意に終わりを迎えた。海斗が名残惜しそうに唇を離した。二人の間に銀のアーチができたが、それもすぐに消えた。

「ふにゅ・・・」

 そんなため息とも喘ぎ声とも聞こえる声に海斗の体はぴくん、と反応した。

「・・・ごめん。その、大丈夫か?・・・」

「・・・なんれ、海斗が謝るの?」

 なぜ海斗が謝らなければいけないのかが分からなくていまだぼ〜っとした頭で少し舌足らずに問いかけたが、返事はなかった。代わりに

「ごめん、もう上がるな」

 ともう一度謝って海斗は風呂場を後にした。

 早紀は切なくなりながらもその背中を見送った。



 危なかった。正直にそう思った。

 あの時の早紀は尋常じゃない程に魅力的だった。あれは危なかった。理性が崩壊する一歩手前でなんとか押さえ込んだが、後一分でもあそこに居れば早紀を押し倒していただろう。

 心ではもうやってしまえ、とかいう声も聞こえる。実際そう思っているのだろう。だが、もし怯えた目で見られたら、拒絶されてしまったら、と思うと後一歩が踏み出せない。

 自分にもこんなところがあったのか、と苦笑したが、すぐにその顔が緊張で固まった。

 いま海斗は自室のベットに居る。なぜ海斗がいままで早紀と一緒に寝るのを夜は拒否して朝は快く受け入れていたかと言うと、朝はともかく、夜は自分の理性が持ちそうになかったからだ。

 だから、夜は自分の部屋に来ないように言ってあるのだが、早紀は自分から入ってきた。

「・・・海斗・・・」

 そのいまにも泣き出しそうな声にはっとなり、あわてて駆け寄った。さっと早紀の体を確認する。どこにも怪我とかはないが・・・

「どうしたんだ?早紀・・・どうかしたのか?どこか痛いなら・・・「ちがうの」・・・え?」

 ついにはぽろぽろと瞳から涙をこぼしながら抱きついてきた早紀に海斗は困惑する。だが、それ以上に彼女をなんとかしてあげたい、と思った。

「何が違うんだ?」

 と努めて優しく聞くと、嗚咽まじりの問いかけが来た。

「・・・っ、海斗は、あたしのこと、っ、嫌い?」

 あわてて首を横に振る。どうしてそんなふうに思われるのだろう。こんなに好きで好きでたまらないのに、どうしようもなく惹かれて、めちゃくちゃにしたい程なのに、何で・・・

「・・・じゃ、っ、ぁ、好き?」

「あたりまえだろ?」

 ぴくんと体を震わせた彼女は少し嬉しそうになったが、すぐに不安そうな表情を見せた。自分は、彼女をこんな不安にさせる行動をとったか、とったのならばそれはいつ・・・と考え始めてすぐに思いついた。

「でも、さっきは、さっきは・・・」

 そう。さっきは早紀にあれほど情熱的なキスをした。でも、そこからいきなり何も言わずに出て行かれたら、早紀としたら何か嫌われることをしたんだろうか、ということになる。

 海斗はすがりつくように抱きついてくる早紀の頭を優しく撫でた。

「さっきはごめんな、早紀がちょっとかわいすぎて、ちょっと自分が抑えられなくて・・・」

 と、言葉を紡ぎ終わる前に海斗は後ろのベットに押し倒され、キスをされていた。

 いきなりのことで戸惑ったが、すぐに体の力を抜いて早紀の頭をゆっくりと、安心させるように撫でた。

「・・・あたしって、魅力ないのかな?」

 唇を離した早紀が悲しそうに言ってきた。

 それはないだろう、と海斗は心の中で突っ込んだ。現に海斗の理性はその魅力でズタボロにされ、崩壊寸前なのだ。海斗でなければ、あの志乃大好きな龍夜でもとっくに落ちているだろう。

 そんなことない、ときっぱり言うと早紀はやはり不安そうに言葉をつなげた。

「でも、あたしがどんなにアプローチかけても、海斗は全然、その・・・」

 顔を真っ赤にさせて黙り込んでしまった彼女を見て海斗は納得した。いままで幾度となくアプローチをかけても、気付いてもらえなかったというのはどれほどの衝撃なのだろうか、どれほど不安にさせたのか。すぐさま自責の念に駆られそうになった海斗だったが、いまはそんな時じゃない、と気分を改める。

「・・・いいのか?」

 肩をつかんでそのきれいな瞳を覗き込んで確認の意味でいうと、顔を真っ赤にしながらもこくん、と頷いた。

 もう一度、優しくキスをしながら早紀をベットに押し倒した。





 次の朝、ベットに寄り添うように眠る早紀の顔は幸せそうに微笑んでいた。まるで、これ以上の幸福はない、というように・・・







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