第三話 異世界
(私…死んじゃうんだ…)
「……………」
「……………」
「……………」
「…………………?」
ところが覚悟を決めたのに水の中に沈んでいく感覚が今だにこない。落下してる感覚もない。おかしい。
「あ…れ…?」
「!?」
目を開けるとそこには広大な草原。見渡す限りの草原。でも初めてきたはずのこの場所は、初めてきた感じがしない。寧ろよく知ってるような…
「ここ…私が夢に見た場所と同じ…。ていうかなんで!?私あの変な男に橋の上から突き落とされてそれからそれから…なんなのここ…。意味わかんない。私はただ母校を卒業するためにあの橋を渡ろうとしただけで…!!ああ!!もうっ!」
「………………。」
「やっぱりこれは夢なのよ!そうよ夢の続きなんだわ!だからこんなとこに…」
ギュウゥ…!!
ほっぺたをおもいっきりつねる。
「いだぁっ…!!!」
ああ…もう少し
「いたっ」とかかわいい悲鳴があげられないものかと自分で自分に問いかけて夢じゃないんだと知る。
「夢じゃない…んだ…………ははっ……。そうださっきのあの変な人!ここどこよ!説明してっ…!!………っていない…。」
もしかして私ひとりにされた…?夢と同じじゃない。こんな広い草原にひとりぼっち置き去りにされて…。誰かいる?って叫んでも返事が無くて、そのうち恐くなって…涙が……。
ポタッ…
「!」
「あ…あれ…?やだ…私本当に泣いて……うぅ………うっ………誰か…お母さん、お父さん…竜也ぁ………」
広い広い草原で私はひとりぼっち。誰もいないここでひとり。私は思いきり泣いた。
「おい…あの女変わった服着てるぞ。あの女が婆様が言ってた玉依姫か」
「おそらくな…。見た目は変わってはいるが神霊を宿してるのが分かる。間違いない。お探しの巫女様だよ」
「ならどうする?捕まえるか?」
「捕まえるなんて物騒な。お連れするんだ。婆様の元へ」
「はいはい。じゃあさっそく。………………………おい!そこの女!」
「!?」
突然のことにビクリとした。だってこんな草原に人がいるなんて。ていうか私もそうだけど…いきなり人が現れるから。
「お前あれだろ?巫女なんだろ?これから婆様のとこ行くからついてこい。」
綺麗な顔…。肌は健康的な感じに日焼けしてて…すっと通った鼻筋。きりっとした目。…じゃなくて!!ついてこいって…そんな見ず知らずの人についてくなんて…出来るわけない!!……と、言葉にはせず心の中で叫ぶ。
「おら、早くしろ!」
なにこの人怖い…。言葉が出ない。
「ほらほら…そんな言葉使ったって怖がらせるだけだろ。21にもなって。全くお前は…いつまでも子供だな。」
「うるせっ!」
「………あ…の…」
「はい?」
「ここ…どこですか?」
「この世界は中都国だ。性格には俺たち人間が住む国が中都国。」
「あの…ということは人間じゃない人も住んでるってことですか?」
「そう。ここは神と人間が共存している世界。でもお互い干渉しません。人間からすれば神なんて恐ろしいだけですから。」
「そうなんですか…」
「で?早く婆様のとこコイツ連れて行きたいんだけど。」
ムッ 態度悪い人だなぁ…さっきから
「失礼ですけど…あなたたちなんなんですか。名前くらい名のって下さいよ。」
「はぁ?さっきまでメソメソ泣いてたやつが偉そうに。人に名前を尋ねる時は自分から名乗る。常識だろ。」
う…確に。それにあれだけ泣いてたのに、この二人に会ってからいつのまに泣きやんでいた。
「わ…私は習志野 鈴音です。気がついたらここにいました。」
「鈴音か。わかった。俺は中都国を治める第一皇子、脩斗だ。」
「私は皇子の側近の榊です。どうぞよろしく。玉依姫」
「あの…!お二人はお偉い方だったんですねっ…!すみません。失礼しました」
「何を言います。あなたはあのたぐい稀な存在、玉依姫なのですよ。」
「あの…さっきからおっしゃってる玉依姫って……?」
「後でお話をいたします。とりあえず場所をうつしましょう。ここは危険ですから」
「は…はい…」
とりあえず何もわからない私は、脩斗と榊という二人に付いていくことにした。私の勘がこの二人は大丈夫と言っているから。
〜神の国〜
―龍宮―
『白銀、例の娘はどうした…?』
「あの者は中都国の中心、沙良草原におちました。」
『そうか…』
「今は中都国の皇子に保護されたようにございます」
『…。とりあえず無事というわけか。……あの娘は我が妻となる者。必ず我が手中に』
「仰せのままに」
―――――――――――
その頃、鈴音は中都国の宮殿に案内された。
広い廊下がどこまでも続き、その両わきに部屋があるが、一体何部屋あるのだろうか。その部屋の襖のひとつひとつに極彩色で模様が描かれている。天井は高く、そこにまで綺麗な絵が描かれていた。花だったり見たときもないような鳥の絵だったり、変な模様だったり。まじないかなにかかなと思っていると、前を歩いていた脩斗と榊がピタリと立ち止まった。
どうやら最奥の部屋に行き着いたようだ。
「鈴音。ここは謁見の間だ。」
「ここに王様がいるの?」
「まぁそうなる。でもお前が会わなきゃならないのは父上じゃなく婆様だ」
「ねぇ、婆様って誰なの?」
「会えばわかりますよ。さ、入りましょう」
ガラ…
扉が開かれた。
一瞬目を疑った。
その部屋は学校の体育館ひとつぶんくらいあるんじゃないかと思われる程広く、壁は金箔をはってあるのか光輝ききらびやかだった。さらに真ん中の通路の両脇にはざっとかぞえて百人くらいの人が通路に向かい合って座っていた。その奥には玉座があり、あれがおそらく脩斗のお父さんであり、この国の王なのだと思った。
「行くぞ」
脩斗にうながされて玉座の前まで歩きだす。あたりは静まり、脩斗と私と榊の三人の足音がするだけ。私は緊張しすぎて手に汗をかいた。だんだんと玉座に近づいていく。脩斗は玉座の手前までくると片足を床につき、騎士がお姫様に忠誠を誓う時に使うような体勢をとった。
「王…玉依姫をお連れいたしました」
「うむ」
今までの汚い言葉しか発しなかった脩斗の口からそれはそれは綺麗な言葉が次々に出てくる。
なんだ、敬語しゃべれるんじゃん、とか心の中で棘を刺す。
私も簡単にお辞儀をして挨拶すると、脩斗に腕を捕まれながらさらに奥の部屋へと連れてかれた。奥の部屋も和室になっていて、ただ違うのは他の部屋よりこじんまりしていたことだった。そしてそこにいたのは一人のお婆さん。髪は真っ白な白髪で一つにまとめ、そんなに派手じゃないが、それなりに良いものなのだろう桜の柄が綺麗に入った着物を上品に着こなしていた。
「あなたが玉依姫、巫女ね」
「あの、私っ玉依姫とか巫女とかじゃなくてただの高校生の習志野鈴音です。」
そう言って軽く会釈する。すると目の前のお婆さんは優しく微笑んで鈴音を見つめた。
「あなたのことはよく知っていますよ。今日も本当は学校という所へ行くはずだったのでしょう?」
「え!?はっはい。そうです。なんでわかるんですか?」
「婆様は夢占の力を持つ。だからお前のこと知ってて当然なんだよ。」
脩斗が口を挟む。その口の悪さに少しムッとするがここでさらに言い返すと話が進まなそうなので我慢する。
「脩斗、おやめなさい。失礼よ。ごめんなさいね鈴音さん。あ、自己紹介が遅れてしまったわね。私はここで夢占をしている霞乃と言います。あなたを、玉依姫を探していたのよ。」
「あの…玉依姫って巫女ってなんなんですか?どうして私をそう呼ぶのですか?」
「玉依姫とは、神霊の魂をもつ巫女のことを指すの。玉依姫はその清らかなる稀な魂を神に好まれ、代々玉依姫として生まれた娘には神に輿入れすることになっています。。あなたは先代の玉依姫の生まれかわりなのですよ。」
「へぇ……玉依姫ってそういう意味…………………………って何で私!?神様に輿入れって!?」
頭がパニックになる。
すると霞乃はそんな鈴音を落ち着かせるようにゆっくりと話し始めた。
「もう一度言うけど、あなたは千年前の巫女の生まれかわり。人格はあなたと全く違うけど、魂はあなたと同じ。命のおおもとが一緒なの。あなたに自覚はないと思うけど、それが真実。今あなたがこの世界にいるのは紛れもない証拠よ。」
「…でも…私は自分の意志でここにきたんじゃありません。変な…銀髪の人に川に落とされたかと思ったらここにいたんです。」
「!銀髪……?」
「はい。あの…お知り合いなんですか?」
「いいえ。違うわ。」
「……?」
「…話を戻すわ…あなたは先代の巫女の生まれかわり。清らかなる魂を持った稀な存在です。」
「それで…つまり、私がその生まれかわりだから、神様のところにお嫁にいけってことですか…」
「ええ。早い話がそうなるわ。」
「神様のところにお嫁に行くと、なにか利益があるんですか…?」
「……。ここ、中都国にとっては、神に玉依姫となった娘を捧げるとそのかわり、神の加護をうけることができるのです。」
「…………。私いやです!なんで私がそんな犠牲にならなくちゃいけないんですか!!!私、元の世界に帰ります!!」
「!これがこの国の、この世界のしきたりなのです。だから鈴音さん、この国のために…どうか神に輿入れして欲しいのです!勝手なことを言っているのは分かっています。でも神は…今ものすごくお怒りなの。先代の巫女は、神に輿入れできずに殺されてしまったから。」
「!?殺された……?どうして…?」
「…千年前の巫女は、神の妻となるべきはずの娘は、あろうことか人間の男と恋仲になってしまったのです。」
鈴音はどこかで聞いたような話に似ていると思う。
「その巫女は…もしかしてその人間の男の人に殺されたんじゃ…?」
「!ええ。そうです。鈴音さん…何故それを?」
「私の住んでる所でちょっとした昔話があるんです。昔龍神様がいて、一人の巫女をみそめました。龍神様はすぐに巫女に妻になるよう言いました。相手は神様のいうことです。逆らえるはずもなく、巫女は神様の妻になることを決意しました。けれど、その時巫女には一人の愛した男性がいました。名を弥太と言いました。弥太は巫女を愛し、巫女も弥太を愛しており、結婚する約束もしていたのです。弥太はそんな愛する巫女が神に嫁入りするのを猛烈に反対しました。どうにか巫女だけはやめてくれと頼みましたが、その思いも虚しく、とうとう巫女が嫁入りする日がやってきてしまったのです。弥太は愛する女性を奪われるくらいならと、最後に一目会いたいと言って巫女を呼び寄せ、巫女の胸を鋭い刄で一気に貫いて殺してしまったのです。それを知った龍神は怒り狂い弥太を殺し、周りにいた人間たちも殺してしまいました。たくさんの命が消えてしまった瞬間でした。龍神は怒りがおさまると今度は巫女の死を悲しみ、涙をこぼしました。やがてそのおさまることのない涙は泉となり、川となって今も流れつづいているのです。…ってお話です。」
「!何故それを」
「弥太は千年前の巫女の恋人の名そのまんまです。鈴音さん、その話は一体誰から聞いたのですか。」
霞乃さんも脩斗も榊もひどく驚いている様子だ。私がこの話を知ってるのは良くないことだったのだろうか?私の住んでる地域なら子供の頃からよく聞かされる話だったから話したのだが。
「あ…の…?」
「…どうやって伝わったのかは知りません。…ですが鈴音さんのその話はほぼ真実です。さっき神はお怒りだと言いました。あれは千年前、輿入れするはずだった巫女が弥太に殺されたからなんです。それから千年、神は私たち人間をお怒りになられています。だから私たちはもし先代の巫女が生まれかわったら、今度こそは神に巫女を捧げようと決めたのです。それが先程話したしきたりができた理由です。…………鈴音さん、もう一度お願いします。私たちは今までずっと神に供物をささげてきましたり、祈りを捧げたりとあれこれ手をつくしましたが神はなかなかお許しになりません。どうか、私たちを…この国を助けて下さい!」
霞乃が頭を深々と下げてくる。
するとそれを見た脩斗と榊も鈴音に頭を下げてきた。
鈴音はとまどった。
知らない世界に落ち、自分がこの世界について全くの無知でも、相手はこの国のトップだということは分かりきっている。
この宮殿につれてこられた時や、謁見の間に入った時にかなり高い身分なのだということは身をもって思い知ったから。
鈴音は迷った。
相手はかなり困っている様子だし、助けたいという情が少しもわいてこないわけじゃない。
だが、自分が子供のころに聞かされた昔話の悲劇のヒロインが実在し、自分がまさにそれなのだと言われると複雑な気分になる。元の世界に帰りたいという気持ちも交差して、気持ちに整理がつきそうにない。どうしようかと考えていたが帰る術もないし、今回の自分の運命はこうなのだと諦めて来世に期待することにした。
「……分かりました…。私…その神様にお嫁にいきます。本当はやだけど…。」
「本当ですか鈴音さん。ありがとうございます!」
霞乃がまた深く頭をさげた。鈴音はそれを慌てて制すると、これから待ち受けている自分の運命に思いをはせた。
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