第二十九話 異変-2
「うぅ……ぁ……」
耳を塞ぎ、目を固く閉ざして震える彼女。
鈴音……
俺は彼女をぎゅっと抱きしめた。今の俺にはそれくらいしか思い付かなかった。
『死なない。誰も死んだりしないから』
だから俺の声を聞いてくれと懇願する思いで彼女に声かけをするが、耳を塞ぎ全てを遮断する彼女には一向に届く気配がない。
それよりか激しく苦しみ出した。
「うぁ……いやぁ〜!!聞きたくない!…もうやめてーーー」
『鈴音っ』
彼女の身におきてる原因が分からない。分からないが、このままだと彼女が壊れてしまいそうで、俺はすぐに白銀を呼んだ。
俺の焦った口調に気づき、直ぐさま白銀が現れた。
「曉様っ!これは一体何事です!?」
暴れ、泣き叫ぶ鈴音を押さえ付けるという構図に、白銀はそのただならぬ光景に目を大きく見開いた。
『俺にも分からない。鈴音が急に声が聞こえると暴れ出して……。とにかくあれを!!鎮静させる薬をもってきてくれ!!このままだと鈴音が壊れてしまう!!』
「はっ!!直ちに!」
俺の指示に従い、白銀は素早く姿を消した。
早く…早くしないと鈴音が…!!
俺はただただ焦った。
こんな鈴音みたときない。悲痛な叫び声をあげ、もがき苦しむ彼女の姿を見るのが辛い。
早く、いつもの鈴音に戻ってくれ。
お願いだから―――!
「あぁぁ……いや、いやぁーー!!」
首を激しく振り、聞こえてくると言った声を掻き消そうとするかのように体をよじる鈴音。
『鈴音…!!』
俺は耐え難くなってきて、どうにか鈴音に自分の声だけでも聞いてほしいと耳を塞ぐ彼女の細い腕を両腕で掴み引きはがした。
そしてすかさず彼女の後頭部に手を添えると、俺の胸に彼女を押し付けた。
『鈴音、俺の声を聞いてくれ…!!』
と、そこに白銀がパタパタと駆け付けてきて、部屋に入ると、まだ苦しそうにしている彼女に鎮静薬を飲ませようと試みた。
だが、抵抗が激しくなかなか飲んでくれない。
そこで俺は白銀から薬を奪いとると、薬を自分の口の中に含み、そのまま彼女の唇を塞いだ。
「うぅーー……う…」
叫び声をあげるほどの苦しみと、呼吸ができないという苦しみも加わり、彼女はハッと閉じていた瞳を開けた。
それと同時にコクンと彼女の喉がなる。
どうやらちゃんと飲んでくれたようだ。
あとは薬の効果でおさまることだろう。
俺は早速薬が効いてきたのか、暴れることをやめうつろいだ瞳で見てくる鈴音に少し安堵した。
良かった…。
あとはしばらく気を失って次に起きた時には治っているだろう。
ホッと胸を撫で下ろそうかと思った瞬間――――――――。
気を失う寸前に彼女が口にしたことは――
「…あなたのせいよ…」
『ぇ……?』
気づいた時はすでにおそし。振り向くと、彼女はすでに目を閉ざし、ぐったりと横たわったあとであった。
今、なんて………
【…あなたのせいよ…】
俺の…せい……?
どういうことなんだ………
教えてくれ…鈴音…
気を失う寸前に彼女から放たれた責めの言葉に、曉は横たわった彼女をただただ見つめることしかできなかった。
「曉様、奥方様を寝所に」
横たわる鈴音を見つめ、動かない曉に声をかけた。だが、聞こえていないのかぴくりとも動かない彼に白銀は怪訝そうな顔をする。
「曉様、奥方様を寝所に移動させましょう」
『…ぇ?あ、ああ…』
曉はハッとし、ぐったりした鈴音を抱き上げた。彼女のあの言葉の意味は……
先程の言葉が気にかかり、膨らむわだかまりが胸につかえて仕方がなかった。
今考えても仕方ないか……。
彼女が目覚めた時にでも聞こう。
曉は頭を振ってもやもやした気持ちを振り払うと、鈴音を横たわらせて布団をかけてやった。
「奥方様…苦しそうでしたね」
今はもう安らかに寝息をたてている彼女の顔を眺めていると、白銀が静かに呟いた。
『そうだな…』
彼女の顔からはすっかり恐怖の色は消え、曉はホッと胸を撫で下ろすと、彼女の唇にそっと自分の唇を重ねた。
軽く触れるだけの優しいキス。
『おやすみ…鈴音』
彼女を見つめる曉の瞳は、慈愛と不安に満ちていた。
そんな、彼女を見つめる彼の背中が切なく陰って見えて、白銀は胸が締め付けられる思いがした。
曉様は奥方様を本当に愛して………
そんな思いを胸に、二人は鈴音が次に目を覚ます時には彼女が元気を取り戻していることをただただ祈るしかなかった。
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