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第二十九話「淋しさ」〜第五十四話「星空の下で」 までのあらすじです。

 一越に戻った歩からは忙しさの余り連絡さえない日が続きます。未知はその不安を歩に代わってやってきた三原純也に打ち明けるようになります。三原は三原で、一越を辞めた理由が人妻との恋で、淋しさを未知に話し、同僚として、お互いを慰める関係に成ってしまいます。二人の間に恋心は無かったのですが、すれ違いばかりの未知に同情するうちに三原は、友達以上の気持ちを抱いてゆきます。そして、未知が歩に別れを切り出されたとき、ついに想いを告白。でも、どうしても歩を諦めきれない未知は、三原を振り切り歩の元へ……。
元の鞘に戻り、二人はシンガポールへ発つ前日、岡山の大山へデートに出かけ、未知は歩を待つ決心をするのでした。
契約社員物語
作:関なみ



第五十五話 結婚


「おはようございます!森野さん」
「おはよう!早いね、大森さん」

朝の相変わらず混んだロッカールームから出ると、家庭用品担当の大森さんと一緒になった。
「森野さん、二日連休だったんですね。珍しいですね」
「あ、そうなのよ。いろいろと有ってね」
「じゃあ、知らないですよね?」
「何かあったの?」
大森さんは、目線を上向きにして、口を尖らせた。
「私より若いのに浅田さん、結婚決まったみたいですよ。一ヶ月後、ここを辞めるって…。結婚準備に入るんですって!」
「ええっ!!」

突然の事で本当に驚いた。
「多田君が結婚……。へえ…」

当然といえば当然なんだが、つい先日の浅田さんの泣き顔を思い出して、信じられない気持ちだった。

「おお!無事、出勤したか!ミッチ!」
私は、通路をぼうっと歩いていると、三原に肩を叩かれた。
「おはよう! ありがとう三原! もう、抱きつきたい気分だ!」
「ほう!今日はテンション高そうだね。話ついたんだ、彼と」
「うん……」
少し、照れ臭かったけど、彼のお蔭で歩と元通りになれたんだ。

「幸せだったか?」
「うん、幸せだった……」

彼の優しい微笑が、暗くなりがちな心を包んでくれた。

「じゃーん!」
三原の目の前に、右手の甲を指を広げて見せた。
「うわ!指輪! 大矢さん、ついに魔よけの指輪を買ったか! これ、完全に僕除けだろ?嫌な奴!」
「ははは……。そうみたい。すごい気にしてたもん」
三原は、不機嫌な顔をして、私に顔を近づけて言った。
「こんなもんで、百戦練磨の僕を遠ざけようなんて、甘いって言っとけ」
「へえ?」
「ジョーダンだって。目は覚めてますよ!」

ここに帰ってくると、三原や、仲間達がいる。
歩と別れた後の淋しさは、結構癒されている気がした。


昨夜、漸く神戸に着いたのは、もう午前二時を回っていた。
私の部屋まで行くと言う歩と、きりがないからと車の中で別れた。
彼が朝の便で発つのは解っていたし、一緒に居れば居るほどまた泣き顔を見せてしまいそうだったから。
 
でも私は自分を褒めたい。
心はきりきりと痛んで叫びそうだったのに、歩の車を笑顔で、手を振って送り出した。

別れてからの辛さは、酷いものだった。
明け方まで、体から力まで抜けて一人泣き崩れていた。

「もう九時だね……」
と、ポツリと私が言うと、三原が私の方を振り返った。
「歩の乗った便、もう飛び立ってる頃だ……」
「そうか…。暫くは淋しくなるね……」

『遠距離恋愛』……。こんな言葉が脳裏を過ぎる。
暫くは、会いたくても会えない。淋しがる心を抱きしめて、会える時だけ夢見て、帰りを待っていくんだ。

「ミッチ……」
三原が、真面目な顔をして私をじっと見つめた。

「なあに? らしくない真顔で…」
「頼れよ! 辛い時は。友達だし……、いいね」
「うん……。ありがと……」

三原の優しい言葉に胸がつまった。こみあがる涙をグッと飲み込んで言った。

「さあ! 売り場に行こう!今日も忙しくなるよ!」
「OK!ミッチ」

今日も私は全開で頑張る!!


朝礼の後、葉山主任に呼び止められた。
「森野、今日三時から夏休みに向けて、各売り場のチーフ会議があるから会議室に集まれ」
「あ、はい。三時ですね」

「ところで、浅田君があと一ヶ月で辞めるの聞いたか?」
主任は少し困惑した様子で尋ねてきた。
「はい、今し方聞いたところです」
「ううん……。まさか、もう退職とは思ってなかった。文具については契約社員でありながらまかせっきりだったから、後任が思いつかなくってなあ。パートで廻すのもちょっと……。お前のところで持ってもらうと助かるんだが……」

主任の言葉に驚いた。それでなくっても、三原がやっと慣れてくれたから、なんとか遣っているのに!
私は少しムッとして答えた。

「主任、これ以上仕事が増えたら、三原が辞めちゃいますよ。きっぱりお断りします!」
「そうか…。じゃあ、募集かけるか……」
「そうしてください」
私は、ムッとしたままで売り場へ戻ろうとした。

「森野!お前は大丈夫だよな? 結婚とか言うなよ」
と、一言残して、葉山主任は、困った様子で頭を掻きながら立ち去っていった。
私は主任の思いがけない言葉に立ち止まった。

結婚……そうだ。もし私が歩と結婚したら、ここで仕事なんて続けてゆけない。

『俺が戻るまで、左手の薬指は空けて置けよ』

歩の言葉が妙に現実めいて思い出された……。

若い子なら許されることでも、様々に責任を負って然りの私の年代には、仕事はもちろん、結婚にだってそれ相応の責任がある。乗り越えるハードルは高くなっていく。
甘えや成り行きに流されないで、自分を見つめ直していかないと、仕事も、歩の事も悩むことになってくる。
私は、あらためて、この一年が至極大切な時であることに気付かされた。


「森野さん!」
文具売り場から、浅田さんが私を見つけて走って出てきた。
「浅田さん、驚いたよう。結婚するんだ、いよいよ……」
浅田さんは、ポッと赤くなってはにかんで、コクリと頷いた。
「それで、森野さん。よかったら今日、一緒に食事しませんか? 彰人が、久々に会いたいように言ってるんで」
「ええ?お邪魔じゃないの? 私は、嬉しいけど」
「じゃあ、帰りに待ってますね」

浅田さんは、まだ十代の、可愛い笑顔を浮かべて走り去った。

 多田君が懐かしかった。
私と歩の始まりを唯一知ってる人……。私の七年間を傍で見ていた人……。大矢歩を、公私共に知っている人。
私も歩のことを素直に心起きなく話してみたい。そうしたら、もっと気持ちが楽になるかも知れない。

浅田さんの誘いを喜びながら、私は、忙しい売り場へ戻った。





有り難うございます。更新遅くなりました。
少し考えながら、悩みながらなのでお許し下さい!
                (なみ)






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