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遭遇。

作者: 忍龍

「ぬぁにぃぃいいいいいっ?! それはまことか!!」


「は! 東の地に現れたと占術士らの報告がありましてございます

 いかがなさいましょうぞ、魔王さま」


「ぬぅぅ…幾多の魔王は、己の力を過信し、自ら赴くことなく城にふんぞり返っておった

 部下の者を勇者にぶつけた結果、それにより勇者共は徐々に力をつけ

 結果、己の首を絞めることとなった…

 しかし、我輩はそのような阿呆共とは違う!」


「と申しますと?」


「獅子は兎を狩るにも全力を尽くすと言う詞がある…」


「…つ、つまりっ」


「そうだ! 我輩自ら赴いて完膚なきまでに叩き潰してくれるわ!!」


「ま、魔王さま!! なんとご立派なお姿っ

 勇ましゅうございます! 爺は…っ爺は嬉しゅうございますぞ!!」



何でそんな言葉知ってんだよ、どこから仕入れてきたんだよ

などというささいな問題はさておき



「う…うぬぅ…っ!」


「魔王さまふぁいとですぞ!! がつんとやって下さいませ!」


「ぐぬぬ…っ

 お、おのれ勇者めっ卑怯な…っ!」



魔王はぷるぷるしながら恐る恐る指を差し出した

その指を、きゅっと握られる感触



「あぶぅ」


「ぐはァ!!」


「まっ、魔王さま!! 鼻から大量の失血が!

 おのれ勇者めぇぇえええ!!!」


「きゃうぅ」


「がふぅ!!」


「爺っ?!

 ぐぅぅ、おのれ 始めは処女の如く後は脱兎の如しとはこのことであったか…!」



だから、何でそんな言葉知ってんだよ

どこと交流をはかってんだおまえは、などという取るに足らないことはさておき

魔王は、某所から血を失いすぎてふらふらであった



「あぅだーっ きゃっきゃっ」


「ぬぅぅ、て、天使のような悪魔の笑顔…っ」



無垢な赤ん坊は何も分からず、魔王の指をぎゅっと握ってきゃっきゃと喜んでいるが

進退つけがたい事態に、魔王はもうどうしていいのか分からない

そのうち、かまってくれるわけでもなく難しい顔をしてハァハァと虫の息なんだか無言電話で伝わってくる変態の荒い息なんだかわからない息をつき、鼻血をぼたぼたと垂らす魔王の様子に、赤ん坊は癇癪をおこしそうになった



「あぅぅ」


「ぐぬ?! な、泣くなっ 泣くでない!!」


「ひぐ、ぁぁーんっ ふぇぇっ」


「ま、魔王さま、勇者はまだ首がすわっておりませぬっ

 その抱き方ではまずいことにっ」


「な、なにぃ?! くそっ、おのれ、こ、こうか? こうなのか?

 えぇいっ、これで満足かっ答えぬか!!」



なんだか分からないが魔王は負け、勇者は勝った

それ以降、世界は



「このようなもの離乳食に使えるかっ もっと柔らかいものはないのか!!」


「床を鏡のように綺麗に磨き上げるのだ!! ハイハイするときに危ないであろう!

 何を口に入れるか分からぬから目に付くもの全て滅菌処理せよ!!!

 呑み込めてしまうような小さなものは排除するのだ!!」


「玩具は木製で尖った部位の無い口に入れても問題の無いものしか認めん!」


「家具にコーナーガードクッションをつけるのだっ!

 ぶつかったらどうするつもりだ!!」


「転んでも安心なように特製の絨毯を敷き詰めろ!

 庭に芝を茂らせるのも忘れるでない!!」


「共学?、莫迦を申すなっ 学校は女子校以外は認めぬわっ」


「娘は絶対に嫁になどやらぬっ」


「娘が欲しくば我輩を倒してみろぉぉぉおおおオオオ!!!」




一部(魔王の心の平安)を除き、ワリと平和であった

おしまい。

知ってるとちょっと賢くなれるかもしれないコトバ

■獅子は兎を狩るにも全力を尽くす

 簡単にできるような易しいことにも油断せず、全力を尽して努力すること(南宋儒学)

■始めは処女の如く、後には脱兎の如し

 初めはおとなしく弱々しく見せて敵の油断を誘っておき、

 攻撃は見違えるほどすばやく動いて敵に防御する暇を与えないという兵法のたとえ(孫子)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  無駄に高等な知識が使われていて、その短編の内容とのギャップがメチャクチャ楽しいです。
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