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学業は忙しくないのですが、
遊ぶ事に関して、色々イベントが多い季節なので投稿頻度が激減します。

現在の状況をお伝えしますと。

PASTは二話書き溜め分があります。
そこからの展開に少し迷っているので進み難いです。

Daysの方は

牧島郁人 3100文字
牧島竜胆 3100文字
御崎朱音 3887文字

まで書けてます。
この三本の短編は少し長くなりそうです。

というわけで、しばらくはスローペースでお付き合いください。

第8話:Innocent - Girl
 



 気だるそうな顔をした女はコツコツと靴音を立てて、長閑な高級住宅地を歩いていた。
 視線の先には、周囲とは明らかに異質な建物──念同の一族、七海の本家。
 女──七海遠音が此処に帰ってくるのは、十数年ぶりだった。だが、何一つ変わっていない。
 自分が妹と悪戯して破壊してしまった木も、相変わらずそこだけが不自然に無くなっている。

「見た目は、変わらないな。関係はここまで変わってしまったというのに」

 そう感傷気味に呟き、遠音は玄関へと足を進める。すると、門の扉が開き、ガラの悪い男達が現れる。
 滅多に人が近づかないこの屋敷に人が近づいているのだ。警戒の意味を込めて、男達は視線を遠音へと送った。
 そして、遠音がその視線に応えるように、かけていたサングラスを外すと、

「お嬢……」

「遠音様……」

 男達の表情が驚愕に染まった。大方、自分は死んだ事にでもされていたのだろう。
 "あの日"以降、家に帰っていないので当然といえば当然なのであるが、少し変な感じがする。
 









十数年前の今頃だったか、中学生だった七海遠音は、妹達と共にその頃敵だった勢力に誘拐された。
 気が弱かった奏は終始泣いており、一番下の神楽は誘拐されたという事実に気がついていない。
 頼れるのは長女の自分だけ。それを悟ってしまった所為か、遠音は泣かなかった。
 自分達が知らない所で、大人達は良くわからない会話を続けている。自分達はただの交渉材料でしかない。
 工場の小屋に閉じ込められて、泣き喚く奏と神楽を励ましながら遠音は逃げる算段を立てていた。
 だが、所詮中学生程度の発想。厳重に管理された小屋から出る事すら難しい。
 途中から遠音は思考放棄し、ただ流されるように一日中同じ事を繰り返した。 
 そして、ある日──

「出ろ」

 と短く告げられて男達に連れて行かれると、海を挟んで父と家の者達がこちらを睨んでいる。
 何の取引をしたかは知らない。だが、もうお互いに話し合いはついていたようで男達のリーダー格が声を張り上げ、

「二人選べ! 三人のうち、二人だけ解放しよう!」

 ドキッとした。そして、わかっていた。まず、自分が選ばれる事は無いだろうと。
 遠音は念動の力が弱く、妹達は式神を操っているのに遠音は式神の召還すらできていない。
 案の定、父が選んだのは優秀な奏と神楽。わかってはいたが、心が酷く痛んだ。
 遠音はそのまま男達と小型艇に乗せられ、離れていく家族を呆然とした目で見送る。

「嬢ちゃん。災難だったなぁ。ヒャハハハ」

 男が下卑た笑いを浮かべながら、遠音の体を弄った。だが、それすらもその時の遠音にとってはどうでもいい。
 遠音は黙って上空を見上げ、"迫ってきているミサイル"だけを直視し、現実を悟る。
 ──私ごと、殺すんだ。そう思った時には、視界が真っ赤に染まり、意識を失った。
 そして、遠音が次に目を覚ますと────








「っは……」

 突然、遠音は我に返った。辺りを見回すと、既にそこは血の海。首や腕が変な方向に曲がった男達が血を撒き散らして倒れている。
 遠音は偶々手に掴んで泡を吹いていた男を、一発平手で叩くと、

「私は、今何をした?」

「ぁ……が……頭首様に捕獲……命じ……られて、お嬢が……ぁ……殴って」

「そうか。すまなかったね」

 男を投げ捨てると、遠音は七海の本家を見据え、十数年ぶりの対応がこれかと、薄く笑いながら門を蹴破る。
 庭に入ると、何人もの七海が拳銃を構えて念動で威力と精度を上げた弾丸を正確に急所へと撃ち込んできた。
 だが、遠音の【超動】にはかなわない。全ての弾を弾き返すと、男達は悲鳴をあげる間も無く沈黙。
 周囲に目をやると、屋根の上に式神使いらしいのが数人。大地を蹴り、一飛びで屋根までたどり着くも、
 その余りの速さに式神使い達はついてこれていない。それもそうだろう。自分の速さは人間を超越している。
 超動を再び発動させ、あらゆる方向から力をかけ、式神使い達の全身の骨をへし折ってやり、

「ふぅ……」

 と一息つき、力を溜めて叩きつけるようにして屋根に拳を打ちつけた。轟音が鳴り響き、屋根だけでなく家屋全体に亀裂が走る。
 そこまでしてしまえば、後は超動を使い瓦礫を竜巻のように激しく動かすと、残りの七海目掛けて瓦礫を叩き付けた。
 悲鳴と轟音が鳴り響き、後に残ったのは静寂。遠音は、軽く跳躍して地面へと降り立った。

「お久しぶりですね。父様」

 と屋敷の廊下で目を見開いている父へと向かって言い放った。

「遠音……お前、体は……」

「見ての通りですよ。貴方に吹き飛ばされても、しぶとく生き残ってやりました」

 最大限の嫌味を込めて、遠音は笑いながら言うと、七海惣一は疲れたように息を吐き、

「私を殺したいなら、殺せば良い。お前を殺そうとしたんだ。当然だろう」

「……私は別にそれには怒ってないよ。その後について、私は腹を立てている。
 そして……これから娘に殺されるかもしれないというのに、貴方に何の輝きも見えないのもね!」

「輝き……?」

「……はぁ、もういいや」

 遠音は悪態をつき、ずかずかと家の中に土足で踏み込もうとした。だが、足が動かない。
 何かに固定されるようにそこから一歩も動くことが出来ない。
 ハッとしたような表情で、視線をとある一方に向けると、そこには悲しげな顔をした妹──七海神楽。
 
「やぁ、神楽か。驚いたよ、綺麗になったね」

「姉様……そのお体はどうされたんですか? 確か、姉様のお体は──」

「フフフ、秘密だ。私は、謎の組織に拉致され、改造人間として仕立て上げられてしまった
 とでも言えば信じてくれるのかい?」

「私は真面目に聞いているんです! 私が、お姉様やお父様がどれだけ心配したか!」

 神楽の悲痛な叫び。その言葉により、遠音の顔から笑顔が消え、感情の無い表情だけが残った── 












 目を覚ますと、何もかもが無くなっていた。今まで当たり前のようにあったもの。
 その全てが見当たらない。体を動かそうと思っても、上手く動かない。手が無い。足が無い。
 見えるのは巻きつけられた包帯のみ。腕は肘から下が無く、足は膝から下が無い。
 最初に襲ってきたのは空虚。何も考えられない。何も考えたくない。ただ、涙が零れたのだけはわかる。
 それからの遠音は、喋る事が無くなった。家族は一度窓から様子を見に来ただけで、会話をする事なく、帰ってしまった。
 それでも何時か──何時か迎えにきてくれる事だけを信じて、遠音は自分に出来る事を精一杯はじめた。
 義手と義足を念動で動かす。それも、元の体を使うのと同じような感覚で。
 一月が過ぎた。半年が過ぎた。そして、一年が過ぎた。だが、家族は迎えに来ない。
 それでも遠音は一日中、殆ど休む事無く念動を使い続けた。そしてその力はいつしか、念動を超えた他の力。
 遠音の血の滲むような努力と才能が合わさって新しくなった、後に【超動】と呼ばれる力。
 その名をつけたのは遠音ではない。七海でもない。その病室のドアを、最初にノックした客人だった──










「また、ヤってしまったか……。クソ、今日はなんて日だ」

 また物思いに耽ってしまったようで、何時の間にか地面には妹と父が倒れている。確かに、神楽の念動は強力だった。
 他の念動が児戯に見えるぐらいに。だが、遠音の肉体と超動はそれを凌駕する。
 それに負けるわけにはいかない。大切だった人が、素晴らしい力だと褒めてくれたこの力は、自分の誇り。

「つ……強すぎますよ、姉様」

「……これが、お前と私の差だよ。努力したのはわかった。でも、私はもっと努力した」

「見捨てた私達を殺す為ですか……?」

「違うよ。その逆だ」

「?」

「まぁいい。それより、私はさっさとここに保管されているコアを貰っていくとするよ」

「だ、駄目ですよ! アレは……来年、ユニオンに」

「だから、貰っていくのさ。来年じゃもう遅いんだ」

「ね、姉様達は何をしようとしているんですか……?」

「もう一度、会いたいのさ」

 そう言うと、遠音はポケットから機械のような物を取り出し、屋敷を歩き回った。その画面上には一つの点。
 その点を目指して、面倒なので家の壁を破壊しながら遠音は進む。すると、不自然な階段が地下へと向かって続いている。
 昔住んでいたときには見なかった階段。降りて行くと、無駄に広い地下室に黒の点、コア。
 コアに向かって機械を押し付けると、コアはその中に吸収されるように消えて行き、

「これで、また一歩」

 満足したように遠音は機械をポケットにしまうと、再び地上へと戻った。そして、ふと違和感。
 倒れていた七海はおろか、妹と父の姿も無い。代わりに、一人の男が立っていた。
 あの時と同じように、男が──










「よぉ」

 初めてのノックの後に入ってきたのは、見知った顔だが、一番意外な人物──十文字戒。
 家のしがらみで一年に一回は顔を合わせ、また年が同じな為に、よく話をする男の子。
 ここ一年ほど顔を見ていなかったが、病弱だった前とは違い、精悍さが漂っている。

「お前が入院してるって聞いたからさ……ちょっと、紹介も兼ねて来て見た」
 
 戒の視線の先には見た事の無い女の子がモジモジしながら立っていた。この部屋に入っていいのかがわからずに、
 困っているような少女に、遠音は久しぶりに口を動かすと、

「入って良いよ」

「……ぁ」

 嬉しそうに部屋に入ってくる少女。だが、戒の隣に座ったまま顔を赤くして俯いてしまう。
 戒はそんな少女の肩を愛おしそうにポンポン叩くと、

のぞみって言うんだ。仲良くしてやってくれ」

「戒の彼女?」

「そんなようなもんだ」

「生意気、まだ中学生なのに」

「中学生が彼女作っちゃいけねー法律なんてねーだろ?」

 そう言いながら戒は笑った。それに釣られて遠音も笑い、希も小さな声で笑う。
 これが、遠音の全ての始まり。自分の人生を変えた日でもあった──





「よぉ」
 
 目の前に居たのは、十文字戒ではなく、秋月狂。遠音も名前と顔ぐらいは知っていた。
 かつて日本を震撼させた死罪六神という組織の二位にして、秋月罪歌の双子の弟。
 そして、風の噂で聞いた程度だが、自分の義弟となった人物。

「はじめまして……かな? 奏と結婚したらしいね。うん、おめでとう」

「ありがとよ。義姉ちゃん?」

「遠音で良いよ。……いや、ここは遠姉ェとかかな? うん、やっぱ何でもいいや」

「そーかい。ま、例え義姉でもよォ。神楽ちゃんとお義父様やられちゃ、黙ってるわけにもいかねーから。アンタを捕まえるぜ」

「出来るものなら、どうぞ?」

 そう言い終えると、遠音は大地を蹴って移動すると、狂の背後へと回った。
 常人では視認出来ないほどの速さ。そう、常人なら。だが、狂は緋眼使い。それも、緋眼の始祖の直系。
 遠音の動きを全て捉えていた狂は、背後からの手刀による一撃を、屈んで避けると、
 
「秋月の緋眼、ナめんなよ?」

 遠音を囲むように全方位から、圧縮した風の玉を放つ。流石の遠音もそれは避けれないようで、
 腕で顔と胴体を隠すようにしてガードを固めた直後、無数の風の玉が遠音を襲った。
 無数の打撃音のようなものが響き渡り、遠音の着ていた衣服は次々と破れていく。
 そして、破けた遠音の服の腕の部分から見えたのは、人の手では無い。

「お前……その体」

「……!」

 遠音の手は真っ黒で無機質な物体で作られた義手のような物。足も同じ材質でできているらしく、
 履いていたジーンズの隙間からも、同じように黒い義足が見えていた。
 これが、あの異常な身体能力の正体だと一瞬でわかった。故に、言葉にし難い。

「……見たな」

 遠音の目が据わった。それと同時に、猛烈な殺気が狂を襲う。
 さっきまでとは全くの別人。これまでの強さは本気ではなかったらしい。狂の背中に冷や汗が伝う。

(仕方ねぇ……アレ、やるか)  

 狂は心を落ち着けると、遠音を正面からジッと見据えた。遠音の小さな動きも見逃さないように、ただ集中力を高めた。
 それに呼応するようにして、狂の右目が緋色を超え、緋色の光を帯びるように発光し始める。
 今までの緋眼とは明らかに違う。そう気づいた遠音は、全力で大地を蹴り、一瞬にして狂へと距離を詰める。
 だが、何かがおかしい。狂の発光する緋眼と至近距離で目が合った瞬間、何かが変わった。

「緋眼、零式」

 これが秋月の緋眼の昇華型の緋眼、零式。その名の通り、自分の速さが零になったかのように錯覚させる緋眼である。
 緋眼が発している光は、遠音の目から直接脳へ届くと、その身体能力を鈍らせる働きがある。
 そして狂自身も、千島の緋眼の昇華型終式と同じ程度の速さまで速度を上げる事で、
 遠音自身が動けなくなったかのような錯覚を与える事が出来るのであった。

「──ッ!」

 狂の風を纏った一撃が、遠音の胸を貫こうと迫った。これは、くらったらマズい。そう判断した遠音は、
 超動の力を無理やり自分の体に使うと、ギリギリのタイミングでヒットポイントをずらした。
 だが、完全に避けきれた訳ではない。右肩を狂の手刀が貫き、激しい痛みが走る。
 更に超動を使った遠音は、一気に狂から体を引き剥がすと、大きく後ろへと飛んでいった。
 
「流石に……どん底から這い上がってきた者は強いね」

「まぁな。だが、今のを避けられるとは思ってなかったぜ」

「この力は私の誇りだ。そう容易くは破らせんよ」

 と会話を終えると、服についていたポケットから一枚の板を取り出すと、それを思い切り地面に叩き付けた。
 すると、板はスノーボードへと変化する。右肩の出血を抑えながら、遠音はそれに乗ると、
 
「今回はこれで退かせて貰うよ。妹達によろしく伝えてくれ」

「……へいよ。次は、最初から本気でやるぜ」

「それは私もだ。今度は、君のどん底からの輝きを見せてもらいたいものだね」
 
 そう軽く、狂に笑いかけると、超動の力を使いスノーボードを操る事で空へと消えていった。
 追いかけても良かったのだが、七海の怪我人を病院へ運ぶのが先決。それに、零式の後遺症もある。
 
「とりあえず、嫁さんに連絡しなきゃな」

 酷だとは思ったが、狂はまず、自分の愛する妻へと電話をかけ始めた。


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