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ファイナル投稿!
第54話:総力戦(前編)


「ユニオン総員に告げる! ──十文字派を援護し、鏑木教会連合を叩き潰せ!」


 由加が高らかにそう叫んだ瞬間、戦闘が再び始まった。
 蒼威を回復施設まで戻すのを終えた遥緋は、再び自分の隊へと合流していた。緊張で、冷や汗が伝う。
 教会と戦った事は何回かあったが、得体のしれない力を使うのだ。だから、全力でやるしかない。
 ロッドを強く握り締め、緋眼を発動。敵の守備ラインに踏み込むために、猛然と走り出す。

「撃てぇぇ!」

「殺せぇぇぇっ!」

 鏑木側の式神の攻撃が迫り、遥緋は輪廻転生を解除。コンセプトを盾のように顕現させ、全ての攻撃を死滅。
 スピードは落とさない。目標は、雑居ビル郡。そこに数十人の鏑木が陣形を張っている。
 相手の顔が恐怖に染まるのを遥緋は見た。瓦礫を跳び越え、ロッドを手加減無く顔面に叩きつける、と同時に
 ベルトにつけていた小物入れに手を突っ込み、破片を取り出すと近くに見える窓に投げ入れた。
 ピンを外した手榴弾を分解した破片だ。輪廻転生の力により、元の形が再生され、次の瞬間には爆発が走った。

「突っ込んで!」

 遥緋に続いていたユニオンの隊員達が怒号を上げて一斉に突っ込んできた。油断せず、遥緋は更に先に進む。
 すると、拳銃の式神を構えた数人が陣形を組んで遥緋を待ち伏せていた。一瞬、判断に迷う。
 終式で一気に殲滅するか、それともコンセプトで防御か。だが、ある事に気づいた遥緋はスピードを落とさず、
 瓦礫に飛び乗ると、上目掛けて跳躍。銃口が空中の遥緋へと向かう。

「ふむ。以心伝心とはこの事だろうか!」

 刹那、遥緋の背後から光があふれ出した。一直線に向かってくるのは、光の刀身。四条莉王の式神だ。
 巨大な光の刃の一撃に巻き込まれ、大爆発が舞い起こる。遥緋は瓦礫を上手く避けて、莉王の剣の上に着地。

「莉王さん!」

 心眼で遥緋の言わんとしている事をすぐ理解した莉王は剣王を振り回して、近くにあった高層ビルを斬った。
 直前で再び空中に跳び、落下していた遥緋は二発の斬撃の後、再び刀身に乗って崩れていくビル目掛けて走り出す。
 
「敵、七!」

 輪廻転生の死滅を発動。すれ違い様に三人の体に拳の一撃を叩き込み、殴られた箇所は死滅して使い物にならなくなった。
 絶叫が響き渡るも、遥緋が更に奥へ行こうとした瞬間。銀色の閃光が視界をよぎった。

「っ──!」

 体中が切り裂かれる感覚。ロッドで防御したものの、殆ど意味がなかった。だが、再生を発動した遥緋にダメージはない。
 一度退避しようとするも、不意に近づいてきた小さな影に蹴られ、遥緋は空中へと投げ出された。
 最後に見たのは──

「子供──?」

 まだ小学生ぐらいの女の子が、中指を立てて笑っていた。緋眼を発動させてどうしたものか、と考える。
 一方、地上から遥緋が落下するのを見ていた莉王は、特に心配はしていなかった。あの程度の事では、死なない。
 そんな信頼がある。それと同時に、不穏な気配を感じていた。

「…………」

 賞金稼ぎに囲まれている。だが、心眼を発動させているのに心が読めない。それも、囲んでる五人全員から。
 と、全員が動き出した。見ている限り、大した使い手ではなさそうである。まずは、一人の首を刎ねようと、剣王を
 振った。だが──斬った感触に違和感。相手の首は吹っ飛んでいる。それと同時に、背後から殺意を感じた。
 振り向く。何もない。岩が転がっているだけ。

(莉王さん。正面、銃口──!)

 遥緋の心が流れてきた。その瞬間、体が勝手に動き、岩目掛けて剣王を振るう。

「痛っ!」

 甲高い声。岩から出血が見えたと思えば、次の瞬間には、岩が何時の間にか拳銃を持った少年の姿になっている。
 背中には今、自分がつけた斬り傷。背中に刺青をいれている少年は傷口を気にしながらも、莉王に一枚のカードを投げた。

「ぬ!」
 
 カードではなかった。手榴弾だ。剣王の光の刀身を最大限にまで広げ、莉王は身を守った。
 直後、爆発。すぐに、光の刀身を解除し、様子を伺うとそこには何もなかった。少年の姿も。残りの賞金稼ぎも。
 それどころか、爆発した形跡すら見当たらない。

「マツリ! こっち!」

 遠くの方で、女の子に手を引かれて逃げていく先程までの少年の姿が見えた。あれが、賞金稼ぎの鏑木。
 あんな子供までもが、戦いに参加している。しかも、自分の意思で。明確な殺意を持って。

「舐めてると、痛い目を見そうだ……」







 秋月狂は仮設拠点に戻り、中隊規模の指揮を行っていた。
 戦況は勢いだけは完全にこちら向きだが、このままではあまりよろしくはない結果に向かっている。
 こちらは何時間も十文字派との抗争を行ってきたのだ、精神的にも体力的にもかなり厳しい状態だ。
 
「因幡隊。桂木隊。損害拡大。救援要請がきています。四条分隊も包囲され、防戦状態です」

「敵、式神砲撃七──来ます!」

「障壁展開!」

 轟音と共に、隊員の式神による障壁が張られ、今回の砲撃も何とか防ぐことが出来た。
 本当に、あの戦艦は厄介だと狂は舌打ちした。空船以上の防御力と火力を誇り、常に小型、中型艦隊も
 排出してくる。それが、戦場全体に大きさは違えども四隻。どうにかして、潰さなくてはならない。
 自分が全力で特攻すれば、沈められる自信がある。だが、指揮官としてここを離れるわけにもいかないのも事実。

「狂さん! 誰かが一人、大型艦に向けて攻撃をしています!」

「はぁ?」

 バカか。あの大型艦にたった一人で勝てるわけがない。蒼二達幹部連なら別ではあるが、一介の隊員にそのような
 事は不可能だと判断し、狂は部下が空中に投影した映像を見た。そこには、一人の女性が映っている。
 
「あ。これ海山っすよ。俺の同期で一人、めっちゃ強かったヤツなんすよ」

 部下の一人が声を上げた。

「海山……? あー、何か聞いた事があるな」

 確か──とまで、思い出しかけると、映像の中の女性。海山天音は動き出した。




 海山天音はイラついていた。
 何故かはわからない。教会に対しても、鏑木に対しても、特に敵意というものは持っていなかった。
 だが、今ははっきりと断言できる。こいつらは、ムカつく。嫌なヤツで、最低のクズ共だと。
 先程のシャボン玉の少女の件で、大体天音はこの事件が何だったのかを理解した。つまりは、母を助けたかった。
 天音だって、過去は変えたい。何度も、あの人達とまた会いたいと思っている。

「だけど──」

 彼女は、それを命への冒涜だと言った。あんな小さな子供が。
 何処かでそれと自分を重ねているのだ。天音は唇の端を吊り上げ、

「お前達はそれに対し、何をしたんでしょうかね」

 問答無用の暴力。それは、天音が一番嫌うもの。二階堂特区で掃いて捨てるほど見てきた。
 天音は走った。全力で。鏑木と教会側の攻撃が迫る。

「ナナシ──篭絡!」

 カードを一枚手に取り、闇色の剣を取り出し、指で弾く。篭絡から発せられた音が周囲に残っていた十文字派
 の悪鬼に届き、天音の支配下へと入った。鏑木側に攻撃を仕掛けされると共に、天音の盾としても使った。
 ──一瞬。第一包囲網を突破。

「御崎暁──霹靂!」

 天音の両腕に雷が灯った。篭絡と霹靂の力が重なり、巨大な雷の刃を作り出す。間髪おかず、天音は雷の
 刃を横薙ぎに振るった。一度振るい、すぐに手元に引き戻すと共に、

「っは!」

 刺突。篭絡から雷の刃が矢となって放出され、大型艦の側面に激突した。轟音と共に、大型艦が大きく揺れる。
 流石に、これには教会側も油断や慢心は無くなった。大量の小型や中型艦と共に、両者の戦力が天音に集中。
 だが、天音は不適に笑った。

「八神村雨──紅椿」

 刀が顕現されると共に、血の霧が周囲を満たし、天音の姿が見えなくなった。血の霧の中を、天音は走る。
 制御下にある血が教えてくれる。相手が何処に居るのかを。紅椿を使い、一人ずつ斬っては、紅椿に血を吸わせる。
 その度に紅椿は血の霧を更に深くし、天音の存在を隠すどころか、大型艦まで飲み込もうとしていた。
 大型艦は一度上昇。そして──

「主砲っ!? おいまだ、仲間が──」

 鏑木側の誰かが悲鳴を上げた。教会側は、仲間諸共天音を吹き飛ばすつもりらしい。
 流石の天音もこれは危険だと判断し、霧を一旦解除し、自分の周囲に集めて巨大な血の盾を作った。
 何千層にも及ぶ凝固した血の盾だ。一撃くらいは持ってくれるかもしれない。その時だ。巨大な風玉が大型艦に
 ぶつかると共に。仲間達が──ユニオンの隊員たちが一気に、大型艦へと攻撃を仕掛けた。
 天音がそれを呆けた顔で見ていると、一人の男が目の前に降り立った。名は知っている。秋月狂。

「……お久しぶり、というべきでしょうか」

「そうかもな。まさか、剣菱達が大事にしていた君が、ユニオンに居るとは思わなかった」

「竜胆に誘われたので。ただ、それだけです」

 天音は狂から目を背け、再び大型艦を見つめた。

「戦うのか? その、あいつ等から受け取った力で」

 狂が後ろから声をかける。

「受け取ったんじゃありません。奪ったんです。それに戦うのは、私の意志です」

「──そか。なら、俺は何も言わねぇよ。ただ、君は俺の大切な仲間達が大切にしていた子だ。
何かあったら俺を頼って来い。それぐらいは俺にだって出来るし、あいつ等もきっと喜んでくれると思うよ」

 そう言うと狂は天音の頭の上に手を置き、普段の落ち着いた笑いとは違い、昔のように獰猛に笑った。

「さぁ、行くぜ。遅れんなよ!」

「はい!」

 風が舞い起こり、天音と狂は空中へと投げ出されるように加速した。狂の絶妙な力のバランスにより、
 天音は自在に空中を移動し、大型艦の正面へと回った。同時に、狂の瞳が緋色に染まり、

「極点神舞……!」

 四本の巨大な風の槍が、大型艦隊を押さえつけると共に、ユニオン隊員たちは距離をとって攻撃を開始。


──剣菱お兄ちゃん。

──暁お兄ちゃん。

──村雨おじちゃん。

──ナナシ君。


「私、後悔してないよ。皆は怒るかもしれないけど、多分私の居場所は、戦場しかないだろうから」 

 先程までの三人の式神を顕現。両腕に霹靂の雷。片手には霹靂と紅椿が握られている。
 そして、最後に一つ──。

「真砂剣菱──天照!」

 紅椿と篭絡を合わせ、雷と熱線の刃を作り出した。大型艦が攻撃してくるが、全て周囲に散布した
 血と悪鬼によって天音に攻撃が届くことは一切無い。そして、

「見せてやれよ、天音。かつて、裏の世界を恐怖に染めた、四人のバカ野朗共の力を!」

「言われなくても!」

 一閃。光の刃を振り下ろし、大型艦を真っ二つに天音は断ち切った。轟音と共に、大爆発。
 下の方から喝采が上がった。誰もが、天音を見て声を上げている。久しぶりの感覚だった。
 それを聞いて、天音は誰にも聞こえないように一言呟く。

「でも、意外と悪くない場所なのかもね」





 ビルの屋上で、未希達は黙って状況を静観していた。
 全員が、ユニオンの行動に驚いていた。まさか、自分達と共闘する道を選ぶとは思わなかったからだ。
 沈黙が場を支配し、そしてそれを破ったのは全ての始まりの人物。未希だ。

「皆……私、お父さんに会いに行くよ」

 近くに居た遠音は何も言わなかった。ただ、黙って紡を見つめる。暫くその視線を受けていた紡は、
 観念したように笑うと、指を二回振った。それだけで、紡が守っていた塔の魔具が真っ二つに折れ、
 十文字本家を覆っていた結界はついになくなった。

「未希。覚悟を決めたね?」

「……うん」

 未希はビルの屋上から自分の家を見つめた。楽しい思い出が詰まっていた場所は、今戦いの傷跡で
 殆ど原型を留めていない。庭にある闇色の穴が見える。ふと横を見ると、光希が近づいてきていた。
 未希はため息をつき、

「貴方って、本当に物好きね」

「えへへ」

 光希の手を握り、式神の力を発動。未希と光希の体が消えて、二人は魔具の穴の中へと入っていく。
 残された遠音達は、

「あの子が答えを出したんだ。私達も、答えを出そうじゃないか」

 その遠音の一言に、全員が頷いた。紡は遠音に駆け寄り、回復概念を反意思に命じて体の復元を行う。
 雨龍と凛と千里はビルから離れ、ユニオンの援護へ。万理はここで、体の回復が完全でない遠音の護衛。
 四つ子達も回復したそれぞれの式神を率いて、ユニオンの戦列に加わった。
 それを遠音は黙って回復を受けながら見ている。既に、腕の復元は行われた。残りは失った体力だけ。

「なぁ……紡」

「何かな?」

「私は、戒の事が好きだ。愛してる」

「……うん」

「だけど、今なら思える。それでも、希は私の事を許してくれると。これは、馬鹿女の自分勝手な思い込みかな?」

「そうかもね。──だけど、私も同意見なんだ。希ちゃんは、結局君を嫌う事なんて出来ないと思うよ」

 ──体力がようやく戦闘を行えるレベルにまで戻ったのを遠音は感じた。ゆっくりと立ち上がり、戦場を見る。
 全ての幸せが詰まっていた十文字特区のこの有様を。自分達がしてきた事の結果を。

「謝るのはこれで最後だ。私は約束を守り、未希を死ぬまで守るよ。だけど、その代わりに私は過去の君から、戒を奪う。──ごめん」

 跳躍。圧倒的な身体能力で空中に跳んだ遠音は、中型艦の一つに降り立った。高速でステップを踏み、
 鏑木を次々と殴り倒していく。心が幾分か軽くなったからか、体が非常にスムーズに動く。と、超動で体を曲げ、
 急遽着地位置を変更した。そして、同時に本来の着地位置が大きくひしゃげてへこみ始めた。

「教会の執行者か。噂には聞いてたけど、本当に居たのか」

 遠音の目の前に一人の屈強な男が立っていた。男は一度手を組み、

「trance」

 と呟くと目を見開いた。筋肉が膨張し、体全体に紋様が走る。それと同時に全身を鎧が覆って行き、
 頭からつま先まで全て包まれると、変化が終わった。これは、油断できない。そう判断し、遠音も集中を高める。
 ステップを踏み、一歩で相手の懐まで。向こうは突きを繰り出すも、紙一重で避け、腹に一撃。
 轟音と共に、男が吹っ飛んでいくがそこまでのダメージは無いようである。飛ばされながらも、空間から槍を
 取り出して、そのまま受身体勢へ。更に遠音は速度を上げて走った。だが──

「ぐっ!」

 背後から一撃。何時の間にか、もう一人鎧の大剣持ちが遠音を攻撃していた。体勢が崩れ、甲板の上を
 転がっていくも、すぐに立ち上がったが

(早いな)

 既に男二人は攻撃態勢に入っていた。現在、遠音の武器は己の肉体のみ。魔具は全て郁人に壊されてしまった。
 打つ手なし。だが、それでも一人は倒そうと遠音が拳を振り上げた瞬間、

「どーん、ですわ」

 遠くから凄まじい勢いでギターが吹っ飛んできた。器用にギターは男二人に直撃すると、くるくると回転して
 甲板の隅に居た七海神楽へと戻っていった。その隣には、姉の秋月奏も立っている。

「おーよしよし。ディック。良い働きですわね」 

「かぐちゃん。お姉ちゃん、ものを投げるの感心しないな」

「ディックが投げて欲しいと言ったんですもの。クソ仕方ありませんわ」
 
 言い合いを続ける神楽と奏に対しても、何の反応を見せない男二人は黙って、神楽と奏に襲い掛かった。
 高速で迫る男達に対して、神楽は笑顔のままギターを振り上げ、

「せっかちなクソ殿方達ですわね。ディック。女性の扱い方というものをクソ教えて差し上げては?」

 念動の力も合わせて、一人の男の顔面目掛けて振り下ろした。轟音が鳴り響き、男の上半身が甲板に
 めり込んだのを確認すると、神楽はすぐ自らの体を回転させ、ディックのボディを思い切りもう一人の男に叩き付けた。

「がァッ!」

 吹き飛んでいく男に対し、ディックのシールドが伸びてその体に突き刺さると、

「うん。クソ良い音で鳴いて下さいませ」

 神楽がギターをかき鳴らすと同時に、男の鎧がはじけとぶと、血飛沫を撒き散らして甲板に転がった。
 それを見て、遠音は微笑を浮かべた。あの何時も奏と自分の後ろに隠れていた妹が、随分成長したと。

「お礼を言うべきかな? 妹達よ」

「いいえ。一応、血の繋がった姉妹ですから。一時のわだかまりは忘れて、助け合いましょう」

「わだかまり、か。私は特にお前達の事を嫌いになったわけじゃないけどね。もっと、大切なものが出来たんだ」

 遠音の言葉に、奏は微笑を返し、

「私もです。今度、我が家に遊びに来てください。お姉さまの甥っ子をご紹介します。
それと、かぐちゃんも確か今、彼氏が来てるんでしたよねー?」

 そう言うと余裕の笑みを浮かべていた神楽の顔が耳まで真っ赤になり、動揺し始めた。

「ち、ちちち違いますわ! 章介さんは……そんな……その……まだ……」

 章介。覚えておこう。と遠音は心の中にひっそりと名前を刻み、やがて動揺する神楽の肩に手を置くと、

「お姉ちゃんから一つだけ、アドバイスだ。恋愛成就の秘訣は、その人を想い続ける勇気。これが重要だと思うね」

 と言い、久しぶりに姉としての優しい笑顔を作った。










 ユニオン本陣。医療テントの外で浅葱陸人と神埼森羅は手当てを受けながら戦況を見守っていた。
 気持ちでは明らかに勝っている。だが、まだ状況は五分五分だ。気合はあるが、まだ敵の数の暴力が強い。
 それでも陸人と森羅は動かなかった。ここで、待つべき者が居るからだ。

「…………」

「…………」

 無言で立ち続ける二人に、周囲の者は声をかける事ができない。二人とも、真面目な表情で戦局を見守っていた。
 そして、暫くすると医療テントの中が騒がしくなった。誰かが言い合いをしているようだった。
 暫くすると、医療班の人間を引きずるようにして出てきたのは、タバコを咥えて、何時ものように笑ってる千島蒼威。

「ちょ! ちょお! 蒼威さん。まだ無理ですってば! 貴方、ちょっと前まで死ぬ寸前だったんですよ!?」

「悪いな。だが、行かなきゃならねぇんだ。てゆーかしつこいぞ。えいっ」

 ボコっと首筋に手刀を入れて気絶させると、ずるずると引きずってテントの隅に隠し、蒼威は何事もなかった
 かのように陸人と森羅の方を見た。

「さァ、いくぜ。準備はできてっか?」

 それに、陸人は満面の笑みで答え、森羅も微笑を返した。

「今まで暢気に寝てたヤツがそういうか。コンディションは最高に決まってんだろ。なぁ、陸人?」

「お、おうよぉ! コンビーフって結構美味いよな!」

 「違ぇよ馬鹿」、と蒼威は笑いながら呟き、森羅が呆れた目で陸人を見ながら後に続く。
 陸人も腕を組んで頭を抱えたまま、それに続いた。その間に通信機を持った蒼威は全てのチャンネルを
 オープンにして無差別に語りかけ始めた。

「おい、お前らァ! 俺様が復帰したぞ! すぐに状況ひっくり返してやっから、もう少しだけ気張れやァ!」

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