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恐ろしい事に、四ヶ月ぶり…!
予定より多く、三話連続でいきます。
第51話:愛しく、忌まわしき過去と決別する為に──








 六道紡は戦いを始めてからずっと目を瞑っていた。隣に居る颯太も、特に話しかけてくる事は無い。
 反意思を散布して周囲の状況を伺ってみるが、状況はかなりの劣勢。ほぼ全員が追い込まれている。
 だが、紡の所にはまだ誰も来ていない。散布した反意思を介して、状況を確認すると、適当に仕掛けてみた底なし沼
 のトラップに神璽が物の見事に引っかかっていた。しかも、由加も一緒に巻き込んでいる。

「……それはないだろ……常識的に考えて……」

 ぎゃあぎゃあと喚きながらお互いに責任を擦り付け合う神璽と由加。颯太も千里眼で見ていたのか、
 呆れたような顔をしている。──と、バイクのエンジン音が聞こえた。何処かで聞いた事のある音だ。
 颯太に尋ねてみようと顔を向けると、珍しく焦りの感情が浮かんでいた。冷や汗も見える。
 ポケットからハンカチを取り出して、拭ってやると、颯太がぽつりと一言。

「……舞香が来た」

「はいはい。妹なんだから嫌わないであげなよ」

「嫌いじゃない。愛してる。勿論、家族として。でもあいつ怖い。すぐ怒る。子供の頃からずっとそう」

(舞香も素直じゃないなぁ……)

 紡の知っている五月舞香は重度のブラコンだ。颯太の前ではツンツンしているが、兄が他の女と会話
 しているだけで相手を始末しようとする危険人物。数年前にあったとある事件の時も、何回も襲いかかってきた。
 それも、本気で。理由は簡単なもの。颯太が紡に惚れているから。だから、殺す。どんな理屈だよと当時は思った程だ。

「三年ぐらい会ってないんだろ? 偶には心温まる兄妹の会話でもしてあげなよ」

「うん……」

 そうこうしている内に、舞香の乗った赤いバイクが、颯太達の目の前に止まった。状況から察するに、
 ユニオンと足並みを揃えるわけではないらしい。バイクから見て、章介と来たのだろうと予測した。

「やぁやぁ、舞香。久しぶりだね、そのバイクがあるって事は、章介も一緒かな?」

「話しかけないで下さい穢れます不浄です同じ空間に存在しているだけで不愉快です殺します。
章介がよろしくと言っていましたが、ええ、多分あの世の貴女のお父様によろしくって事でいいわけですね殺します」

 機械的にそう言い、式神を発動させようとする舞香。相変わらずだ──と紡は笑みを漏らす。
 それが余裕と感じ、舞香の怒りが更に上昇。だが、その前に颯太が一歩前に出た。

「舞香。酷い事を言うの駄目。紡可哀想」

「お兄ちゃん。何言ってるの? ちょっと話にならないからすっこんでてくれる?」

「駄目。紡に謝る!」

「殺した後で謝る。それでいいじゃない」

「紡、お前の義姉になる!」

(ああ……愚かで鈍感な颯太君……地雷を踏んだな……)

 舞香の目に涙が一瞬浮かんだ。だが、それはすぐに消え去り、明確な殺意を持った目に変わった。
 その怒りに呼応して式神が発動。同時に、大地がめくれ上がった。舞香の式神の効果だ。
 ──【神ノ手】。それが、舞香の式神名。何本もの舞香だけに見える手の式神が一斉に、颯太と紡に襲いかかる。
 無双バットを顕現し、それを迎え撃つ颯太。それでも、一度に飛ばせるのは数本。

「舞香! 何を怒ってる!」

「お兄ちゃんの……バァァァッカッ!」

 怒声と同時に、更に手が増殖。あらゆる大きさの手が、颯太を無視して全て紡へと突っ込んでいく。
 それに紡は不適な笑みを返すと、足の裏に反意思を集中させて、加速。無数の手を同じく反意思を付与した
 手で器用に弾くと、舞香のすぐ傍にまで接近した。その速さたるや、颯太でも驚く程であった。

「舞香。悪いが、これが今の私と君の差だよ」

「──ッ!」

「それと、颯太君はウチにお婿に来たいみたいだ。だから、六道颯太になるって事だね」

「ふざけるなっ! それは、掟破り! 混血同士が子供を作っちゃ……!」

 舞香の平手打ち。だが、紡にそれが当たるわけがなく逆に腕を取られて羽交い絞めにされた。

「我々は六道だ。掟なんかに従ってては研究なんかできない。それに、誰にも文句を言わせる
つもりも、私達の子を研究対象にさせる気もない。私と颯太君で、六道を変えるんだ!」

 断固たる口調でそう言い、紡は手から反意思を放出すると、舞香を囲って球形の反意思の檻を作成。
 中で物凄い勢いで暴れまくる舞香。それでも、檻はひび割れる気配すら見えない。音すらも聞こえない。
 颯太も状況を見守っていたが、やがてすごすごと紡の傍までやってくると、

「実家に送り返す。姉達に後任す」

「ふむ。妙案だね。では、無双バットで打ってやってくれたまえ。座標の修正は私が行うから」

「わかった」

 話を終え、無双バットで檻を打ち、舞香は東に向かって飛んでいってしまった。
 それを何処か安堵した目で見つめてから、紡は小さく、だがはっきりと聞こえる声で呟いた。

「さて、出てきなよ。亜矢子ちゃん」

 近くにあった瓦礫から斧が投げられ、同時に由加が飛び出した。紡は笑い、颯太は無表情のまま
 戦闘体勢に入った。紡は緋眼を発動させ、颯太も千里眼を発動し、油断無く由加へと迫る。
 由加は低く腰を落として前進。まずは颯太の懐まで一瞬で移動。颯太が無双バットを振ると共に、
 触らないように避け、颯太の右足を蹴り上げてバランスを崩させる。背後からは、紡が拳に反意思を集中させ
 迫ってきていた。

「っふ!」

 だが、それよりも由加が放った拳の一撃の方が早かった。拳が紡の肩に命中し、拳に溜めていた反意思を解き放つ。
 ──爆発。紡が痛みに顔を顰め、バックステップで後退。その頃既に、由加は紡の方を見ては居なかった。
 体勢を崩した颯太が、そのままもう一度無双バットを振ったのだ。狙われているの膝の部分。バックステップでかわし、
 足元に領域を顕現。領域から飛び出した闇色の腕が颯太の足を掴み、放り投げたが、颯太は受身をとって事なきを得た。

「流石、亜矢子ちゃんだ。純粋な格闘戦でここまで上をいかれるなんてね」

「同意。由加は強すぎる。でも、俺達負けない」

 同時に駆け出す紡と颯太。由加も再び腰を落として構え、二人を迎え撃とうとする。まずは、颯太から。
 無双バットを振りかぶ──った所で、紡が違和感に気づいた。そうだ。何故、由加一人なのかと。

「颯太く──っ!」

「つーちゃん。珍しく考えなかったね」

 足元から異質な振動。戦闘によるものとは明らかに違った。颯太が異変に気づいた時には、もう既に遅かった。
 地中から闇色の光が溢れ出し、颯太を巻き込んで上空へと消えていった。寸前で半身だけ避けたが、颯太の体からは
 煙が噴き出しており、痛みに肩を抑えて耐えていた。そして、穴からひょっこり顔をだしたのは、榛名神璽その人。

「よぅよぅ。良い空気になってるみてぇじゃんかよ!」

「勇一君……」

「どうよ、つーちゃん。君が仕掛けた落とし穴からここまで穴を掘って進んできたんだぜ!」

「予想もつかなかったよ。罠にかかったふりをして、そこから私と千里眼の索敵範囲外である
地中から強力な一撃。君の私生活の態度からも、今までの戦闘スタイルからも外れた、最良の一手だ」

「いやまぁ、落とし穴はガチで気づかなかったんだけどね……」

 ヘラヘラと笑った後、神璽は急に表情を変えた。滅多にみれない真面目な顔になり、仲間の由加も驚いた程だ。

「じゃ、戦おっか。俺もユニオンの幹部だからさ。俺達の王が、この戦いを止めたがっている。
──戦う理由と命を懸ける理由はそれで十分。だから、俺達の本気の技でつーちゃんを倒すよ」

 紡は外面はヘラヘラ笑っているが、内心冷や汗をかいていた。あの榛名勇一が本気になっている。
 何時もヘラヘラしているムードメーカーの彼が、本気を出す。それに敢えて、紡は笑顔で応えた。

「恨みっこなしだよ。私には、遠音ちゃん達のような、希ちゃんへの深すぎる思いはない。友達だったけどね。
だけど、未希は大事な生徒なんだ。とても優秀で、優しい子なんだ。私は、彼女の答えを見届けねばならないんだよ。
それが、あの子に色々余計な知識を与えてしまった、私自身としても、教師という立場からの責任でもあるからね」 

「つーちゃん。じゃあ、行くよ」

「来たまえ!」

 神璽は集中すると、由加に手を差し出した。それだけで、由加には神璽が何がしたいのかがよくわかった。
 手を繋ぎ、自身の体にある結晶と相手の体にあるコアを感覚器官を通して認識させ、それを共有させる。
 半分に分かたれていた九尾と九尾の意思を反意思と共に外に巡らし、自分達の体をすっぽりと包み込ませた。

「ハハハ……流石に、これには油断が出来ないな」

 紡と颯太に目の前に現れたのは、三頭を持つ銀色の九尾の狐だった。九尾は、口を開けて一度大きく咆哮した。
 大気が揺れ、それだけで統率されて由加と神璽の部下と戦っていた悪鬼達が怯んでしまう程に。
 流石に、これは油断できない。紡は領域を広げて颯太を乗せると、空中へと飛翔。地中から幾つもの蛇の砲門を
 顕現させ、蛇砲を九尾に向けて放ったが、更にもう一度の咆哮で全て捻じ曲げられてあらぬ方向へと飛んでいってしまう。

「っ!」

「紡、防御俺。攻撃お前!」

「了解した!」

 颯太の体から緑色のコンセプトが発せられ、無双バットへと纏わりついた。神威である。
 無双バット本体が巨大化し、無数のトゲが取り付けられただけで、変化は終わったが、問題はその威力だった。
 トゲの一本一本。無双バット本体の大きさは次々に変わり、九尾の放った狐砲に触れると、その全てを弾き返した。
 九尾はすぐさまその巨体からは想像できない速さで移動すると、狐砲を難なく回避。だが、追撃として狐砲は撃たなくなった。

(颯太……っ!)

(流石に、強い)

 そうこうしている内に、紡と颯太は目と鼻の先まで来ていた。そして──、

「バジリスク、解放」

 紡の全身を暗黒の反意思が包み、蛇の形を作った。蛇は三又に別れ、三つの頭部へと成ると、九尾へと噛み付く。
 九尾の絶叫。蛇は絡みつき、九尾の体を完全に押さえ込むと自身の体と共に、九尾も元の反意思化させていき、
 球形を形作っていく。堪らず神璽と由加と九尾は合体を解除して、反意思を全て吸い込んで元に戻した。

「っ!」

 バジリスクの球体の中から無数の蛇の頭が飛び出し、蛇砲を神璽と由加目掛けて一斉発射。
 空中を飛んで避けるも、あまりにも数が多すぎた。そして、こちらから攻撃しようにも、球体の上にはバットを構えた颯太。
 
「神璽」

「ああ、防御は任せな」

 神璽と由加は足に反意思を溜めて加速すると、バジリスクの球形を目指して飛翔。無数の蛇砲が襲うが、
 前面に反意思の膜を張った神璽により、上手くいなされていった。流石に不味いと思ったのか、颯太が前に出た。
 それでも構わない。神璽と由加はそのまま特攻。紡がバジリスクの顕現を解除し、通常形態に戻った。
 だが、顔色は芳しくない。遠目に見ても、疲弊している事は明らかだった。

「つーちゃん!」

「……同情するなよ。今は、勝負の時間だ」

 紡の目は死んでいない。言葉をかけた由加は顔を引き締め、頭の中に居た疲労している紡の存在を消した。
 相手は、万全。そう考えるべきだ。紡は荒く呼吸して、無理矢理体を引き締める。だが、それでも落ち着かない。
 今にも崩れ落ちそうだ。そんな紡の背中に、優しく颯太は手を当てた。

「紡、勝ちたいんだな?」

「お見通しか」

「俺、本気でやる。殺すつもりで。お前を勝たせてやる。この命かけて」

「颯太君。一つ間違っているな」

「?」

 紡は颯太の腕を握り、

「私は、君と二人であの二人に勝ちたいんだ。──愛しく、忌まわしき過去と決別する為に!」

 そう言うと颯太は感動に打ち震え、間近に迫っていた神璽と由加に迫った。お互いが、射程距離に入った。
 紡は最大限の反意思を練り上げ、球体を作るとそれを颯太目掛けてトスした。それを、颯太は無双バットで打つ。
 全力で打たれた球を神璽が正面から受け止める。その手には、消滅概念を命じた反意思。濃度の濃い破壊の反意思
 を消滅させ、自分達の総ての反意思をその上から由加がかぶせ、制御下におく。

「────っ!!!」

 絶叫を上げ、紡と颯太が神璽へと迫った。だが、それよりも早く制御下においた反意思を二人は望む形へと変えた。
 それは、一振りの巨大な大剣。その柄を二人で持ち、

「つーちゃん」

「悪いけど、私達の勝ち!」

 振り下ろされる大剣。紡は逃げなかった。まだ、二人で勝つ事を諦めてはいなかった。
 颯太が前に躍り出て、神威状態の無双バットで大剣を弾き返そうとする。そして、二つの大きな力が拮抗。
 ──負けたのは、無双バットの方だった。式神が破壊され、気絶する瞬間颯太は無理矢理神璽と由加から
 大剣をひったくり、あらぬ方向へと投げ捨てた。そして、意識を失い落下していくのを紡の領域が拾う。
 
「流石だ。愛してる!」

 紡が距離を詰め、神璽と接近。神璽の右腕に残り少しの反意思が集中したのを感じた紡は、
 その右腕に自分の拳を当て、反意思を流し込んだ。更に溜め込んだ反意思の波長を狂わせ、暴走させてやる。
 神璽の右腕から鮮血が噴き出し、更に爆発してゆっくりと神璽は地上へと落下していった。
 後に残ったのは、紡と由加だけだった。お互い、浮いている力すらも弱ってきているのか段々と下降している。

「最後に残ったのは、私と君か」

「うん。決着つけよ」

「ああ」

 由加が拳を握って固め、振りかぶる。紡も残りの反意思を総て集中させた。
 お互い、下降したまま動かない。機を伺っている。攻撃力で劣る紡は、笑顔を見せて由加へと話しかけた。

「亜矢子ちゃん。過去は、果たして変えてはいけないものなのかな?」

「私は、認めない。この世界は、皆で積み上げてきた過去によって、成り立っている。誰か一人、過去を変えたら
もう、私の今大好きなこの世界は、違う世界になっちゃう。皆辛い。皆悲しい。だけど、それが世界なの。
自分ひとりが悲しいからって、過去を変えるのは、他の人の過去を否定すると一緒。だから、私は認めない!」

「成る程。……正論だっ!」

 紡が加速して拳を振りかぶった。遅れて由加も拳を振るう。由加と目が合った。その瞳は揺るがない。
 筋力の問題ではなかった。反意思の問題ではなかった。先に届いた拳は、由加の拳だった。
 一瞬の躊躇。それが紡の敗因となってしまったのだ。痛みに意識が薄れ、落下していく前に、紡は呟く。

「まさか、私と同じ気持ちとはね……どこまで私達は似てるんだろうね……」
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