第49話:赦せるものか、この世界と自分自身を──
牧島郁人の部隊を確認。七海遠音は自虐的な笑みを作り、屈伸をして迎え撃つ準備を始めた。
郁人の姿はまだ見えない。だが、郁人の部隊は凄まじい勢いで突進してきている。かなり強い。
前線に敷いた悪鬼達を物ともせずにこちらへと向かってくるのが見えている。だが、遠音に焦りの感情はない。
というよりも眼中にない。目的は郁人だけ。今日、全てを終わらせる為に──
「ま、余興と洒落込もうかね」
近くにあったコンテナを軽々と持ち上げ、遠音は獰猛に笑った。そのままコンテナを軽く上げ、回し蹴りをかました。
蹴り上げられたコンテナは空中で完全に壊れ、中に入っていた大量の剣型の魔具が広がった。
それら全てが、遠音の超動の制御下に置かれ、郁人の部隊目掛けて襲い掛かった。圧倒的な物量が
襲い掛かるが郁人の隊は一歩も引かない。
「進めぇぇぇっ!」
南野喜一が怒号と共に式神を引き抜き、その能力を発動。結果的に、遠音の魔具の群れは弾かれ、大地へと突き刺さった。
遠音はそれに笑うと、自身も走り出し、悪鬼を踏みつけて一気に加速。そして適当に近くにあった一本を引き抜き、
牧島部隊へと襲い掛かった。相手は、熟練した剣の式神使い達。それでも遠音は引かない。
超動と身体能力を駆使して一瞬その内の三人の背後に回ると、魔具の力を発動し、炎の斬撃をくらわせた。
更にもう一人に拳を一撃叩き込み、最後の一人を持ち上げて近くの人間にぶつけると、今度はそちら目掛けて走り出す。
「ははっ! おいおい、こんなモノかい? さっさと郁人を出してくれよ。──物足りないな!」
「では、副隊長が相手を──」
視界の端で蹴りの気配。遠音は体を曲げて避けると、その相手である南野喜一へと向き直った。
超動により一番近くにあった剣を手に取ると、喜一目掛けて襲い掛かる。喜一も前に出て、応戦。
遠音の猛烈な斬撃を全て受け止めるが、圧されている。当たり前だ。喜一は純血。力の差がありすぎた。
だが、遠音が渾身の一撃を振り下ろした瞬間、喜一はそれを避け、持っていた剣を遠音へと叩き付けた。
──が、遠音の腕によりその一撃が受け止められた。硬い。それでも喜一はめげずに、剣に力をこめた。
そして、喜一の式神の力が発動。遠音の腕に剣がめり込み、思い切りビルへと弾き飛ばした。
「副隊長、郁人さんは──?」
「まだだ。もう少し耐えるしかないみたいだね」
「ですが! 悪鬼の相手でも厳しいのに、あれが相手では副隊長が──」
「だが、七海遠音に勝てるのは郁人さんだけだよ。もう少し、頑張ろう」
そう言うと喜一は油断なく遠音を叩き付けたビルを睨みつけた。あの少しの戦闘でも疲労感が凄まじい。
一撃一撃を避ける度に、死にそうな程のプレッシャーが襲い掛かってくる。改めて、自分達の隊長はとんでもないと思う。
あれ程の相手と互角に戦ってのけるのだ。自分にはできなくはないが、死ぬ覚悟でやらなければ不可能だ。
そうこう考えている内にビルの瓦礫の中から再び七海遠音が現れた。深刻なダメージを受けている様子はない。だが、それでも──
「負けられないよな──」
再び遠音に向かっていく喜一。今度こそ、七海遠音に油断や慢心はない。気を引き締めて向かうが、
「悪いが、本気を出させて貰おう」
一瞬で、背後に回られた。
「っ──」
早すぎる。──裏拳が顔にめり込み、更に腹部へ三発。反応すら難しい。剣を振るうも、当らない。
隙を突かれて顔を二発。最後に蹴りが一撃入り、成す術もなく喜一は吹き飛ばされていく。胃の中の物があふれ出そうなのを
堪え、立ち上がろうとするも力が出ない。仲間達が喜一を助けようと迫るが、遠音の起こした超動と魔具の混ざった台竜巻に
吹き飛ばされ、呻いている。──七海遠音は強すぎる。絶対に勝てない。そう、自分達では。
「さっさと郁人を出してくれよ。いい加減、イライラしてきてるんだ」
「も……う少し、俺たちと遊んでけよ!」
「牧島部隊まだ終わってねーぞコラァ!」
そう挑発するも、遠音は興味なさそうに欠伸をすると、悪鬼達に手を上げた。遠音の指示に従い、武器を構えて
のそのそとこちらに近づいてきた。応戦しようとするも、遠音の攻撃が強力過ぎて立つのすら困難である。
だが、それでも諦めずに全員が立ち、攻撃を仕掛けようとしたときだった。
「フラガラッハ・改式完全起動完了。リンドウシステム正常。──郁人、準備おっけー!」
そう、声が聞こえた瞬間。視界が光に包まれた。圧倒的なエネルギーが周囲を埋め尽くし、悪鬼を跡形もなく消し去っていく。
その後、空中から降り立ったのは、牧島郁人。新しいフラガラッハを片手に持ち、何時もの黒いコートを着て遠音を睨みつけた。
二人の視線が絡み合ったのは、一瞬。遠音は猛然と飛び出し、持っていた剣を叩き付けた。が──
「フラガラッハ──」
郁人も遠音の剣にフラガラッハをぶつけ、一撃で遠音の剣を破壊。更に刀身に纏わりついていた反意思が遠音に襲いかかった。
爆発へと変化し、遠音を巻き込むがそれだけでは終わらない。郁人は更に一歩踏み出し、
「灼っ!」
従来までのフラガラッハとは違い、変形が存在しない。存在がブれた次の瞬間には形態が変わっていた。
刀身が巨大化し、噴出した反意思が回転。遠音へと刺突を放った。遠音はそれを拳で挟んで受け止め、
郁人は更に柄から反意思を噴出させ、高速で移動。ビルへと叩きつけるが、遠音の蹴りが郁人の腹部に炸裂。
だが、鉄のように硬い。よく見ると、郁人の体には紋様が浮かんでいる。竜胆が居ないのにのに何故──?
という疑問が湧くが郁人がその前に方向を変えた。天井の壁を何枚もぶち抜き、屋上にてようやく動きが止まると。振りかぶって一撃。
屋上へと叩きつけられる遠音。苦悶の声を漏らし、体勢を立て直そうとするが、
「竜胆!」
「あいよー。雷撃砲セットアップ」
何処からか竜胆の声が聞こえた瞬間、フラガラッハの形態が再び変わった。刀身が消えており、柄の先には砲が見えた。
そして、郁人の意思によって雷撃砲が回転しながら発射され、雨のように雷撃を遠音目掛けて降り注がせた。
だが、その前に大量の剣が現れ何本か爆発しながらも、遠音の身を守った。そして、遠音はゆっくりと立ち上がると、顔に手を当て、
「はははっ! いいねぇ、本気で私を殺そうとしていた。ははっ! それに、フラガラッハもまた変わったようだ。
君の式神がまさかフラガラッハの中に入っているとは、驚きだ。全く、私が使っていたフラガラッハとは遠くかけ離れてしまったよ」
「…………」
そう──神璽と由加が直したフラガラッハには新しい機能がつけられていた。先程二人に確認した所、どうやら
リンドウシステムと名前をつけたらしい。竜胆をフラガラッハの中へと吸収し、制御を全て任すことによる操作性の向上。
また、竜胆の奪った式神の郁人への付与をフラガラッハを介して一瞬で行えるようになったのだ。
(これで、一緒に戦えるねぇっ!)
フラガラッハを持ってから確かに郁人は強くなった。逆に、竜胆はどんどん必要なくなってしまったのだ。
最近ではもはや足手まとい。遠音に自分を壊された時から竜胆はそう感じていた。自分は、式神なのだ。
郁人の力になりたい。郁人を守りたい。郁人を愛したい。それが竜胆の願い。神璽と由加はその力を与えてくれた。
「ああ、──行くぞっ!」
「あいよぉ!」
灼形態を解除し、通常形態に戻すと遠音へと再び迫る。遠音は、ダーインスレイヴを手に取り、郁人を迎え撃つ。
一瞬の攻防、身体強化コンセプトのお陰で遠音の早さにもついていける。上段からの一撃を捌き、わき腹へ。
遠音はそれを左腕でガード。空いている足で郁人の腹を蹴り、勢いを利用して後方へと跳び、
「ダーインスレイヴ!」
ダーインスレイヴを腰溜めに構えて、突く。巨大な黒の刀身が郁人目掛けて襲い掛かるが、郁人は冷静だった。
「フラガラッハ・煉!」
フラガラッハが細身の剣へと変化し、ダーインスレイヴの黒の刃にぶつかると、その存在を吸収し始めた。
白いフラガラッハの反意思の光と黒のダーインスレイヴの光が螺旋状に渦を巻き、刀身に固定。
郁人はフラガラッハの柄の部分を折り曲げ、銃剣形態にすると大地を思い切り踏みしめ、発射トリガーを引いた。
「っ──まさか!」
螺旋の弾丸が凄まじい勢いで遠音に迫る。あまりの速度に遠音も焦った。だが、何とか回避し
一瞬動きを止めた瞬間──
「コンセプト、"Thunder"セットアップ──対象、フラガラッハ・郁人」
「了解」
郁人の体とフラガラッハに一瞬雷光が迸ったかと思うと姿が消え、次の瞬間には遠音の眼前に存在していた。
フラガラッハの斬撃がダーインスレイヴを襲い、柄に仕込まれたダーインスレイヴの核が、フラガラッハに叩き潰された。
「くっ──」
後ろへと跳躍する。──が、郁人の体が再び雷光を発し、またも遠音の目の前に突然現れた。
力任せにフラガラッハを振り、その一撃を遠音は自身の腕で受け止めた。鈍い音が響き渡り、若干の亀裂が入る。
振りぬかれた一撃によりそのまま吹き飛ばされたが、超動を使い、何とか勢いを殺して停止。
「自らを雷にするとはね……恐れ入ったよ」
そう、郁人はコンセプト、"Thunder"を自身とフラガラッハに付与し、自らが雷になったのだ。普通、そんな事はできない。
だが郁人の場合は違う。竜胆が全ての式神を制御し、同じ式神としてその全ての力を使い方を感覚で
操作出来ているからこその芸当だ。──だが、遠音は笑った。これこそ、自分の最期に相応しい相手だ。それに、遠音
自身にまだ隠し玉はある。
「さて、じゃあ私も本気を出そうかね。──本当に、これが最期だ」
遠音の目つきが真剣な物に変わり、そして全ての感情が抜け落ちた。人形のような表情になった遠音の体から
黄色のコンセプトが現れ、その体全体を紋様が優しく包む。服の一部が裂け、遠音の黒い手と足の部分が変化し、
鮮やかな黄色の装飾が成され、若干フォルムが刺々しくなると、変化が終わった。
「神威……ですか」
「ああ。紡が教えてくれてね。この中じゃ、私と他に数人が使えたのかな。じゃ──行くよ」
遠音が大地を蹴って加速した。速度はさほど変わっていない。再びフラガラッハを構えて迎撃体勢をとる。
郁人から一メートル程の距離で着地、その勢いを利用して遠音のハイキックが郁人の顔目掛けて走る。
それをフラフガラッはで受け止めるが──重い。威力が先程とは段違いだ。手が衝撃で痺れるが、それを無視
して郁人はフラガラッハを横薙ぎに振った。紙一重で遠音は屈んでそれを避け、大地が爆発させるような勢いで地を蹴り、
その勢いのままアッパーを放つ。──こんなのをくらったら、頭が吹き飛ぶ。
「っ……」
フラガラッハの刀身でギリギリ受け止め、その勢いのまま郁人と遠音は上昇。先に体勢を立て直したのは、遠音。
体を回転させ、回し蹴りを空中で放った。直撃はしなかったが、郁人は左腕を蹴られ、吹き飛ばされていく。
だがしかし、これで遠音と距離を取れた。一度体勢を立て直そうと、吹き飛ばされた先の半壊した民家の屋上に着陸。
遠音はあのまま一度着陸したはずだ。
「郁人! くるよ!」
竜胆の警告の声が響く。そう、七海遠音はまだ空中に居た。不自然に空中に止まり、足の辺りの空間が何かおかしい。
何かが就職しているような気配。再び、遠音が足を振るう。何かが足から撃ち出された。──風だ。
凝縮された旋風が郁人目掛けて襲い掛かってくる。
「フラガラッハ・囚」
フラガラッハの刀身が消え、光の刃が顕現した。そのまま、数メートル伸び、上空で枝分かれすると、
凝縮された旋風から郁人を守る盾として機能し、直撃した風を霧散させた。そして、郁人は形態を解除し、
再び遠音の姿見据えようとするが──居ない。咄嗟に背後を向くも、居なかった。
「こっちだっ!」
上空からの声。何も考えずに横っ飛びで移動すると、先程まで郁人の居た場所に遠音の足がめり込んだ。
その勢いから遠音は止まらずに、郁人へと連続攻撃を仕掛けた。上段中段下段。拳や蹴りと、バリエーションが多い。
冷静に一撃一撃を弾きながら、郁人はジッと遠音を見た。よくよく見ると、遠音の顔には披露が浮かんでいた。
息も荒い。何より、顔に血の気がなかった。
(まさかこの人──っ)
遠音の蹴りを力を込めて弾き飛ばし、郁人は左腕で遠音の腹部を殴りつけた。だが、それと引き換えに痛みを
我慢したまま繰り出された遠音の拳が郁人の胸を打ち、その威力にアバラが何本か変な音を立てた。
そのまま後ろへ飛ばされるも、何とか堪え遠音を睨みつけると、
「やっぱり……」
遠音が血を口から吐き出していた。苦しそうに何度も咳き込み、更に吐血。だが、目だけは死んでいない。
ギラギラと戦う人間の目で、相変わらず郁人への警戒は続けていた。それに耐え切れなくなったのか、
郁人は悲痛な顔を作ると、感情のままに怒鳴った。
「何でだよ……何でそこまでするんだよっ! アンタ、神威に体がついてこれてないじゃないか!」
「……それが、どうした。君に勝つ為なら、この命なんて惜しくない」
「──何でっ!」
「……赦せるものか、この世界と自分自身を──。この命は、私のものじゃない! 希のものだ!
希が居たから……今まで生きてきた! 希がいなかったらもう、とっくに私は自殺でもしてるさ!
郁人、君ならわかるだろう。この世界で力がない事の絶望を。ただの、負け犬だ! その中でも両手両足の
なくなった私はもう人間扱いされなかった! でも、彼女だけは──希だけは言ってくれたんだ!
私と友達になりたいって! 私の傍に居たいって! だけど──だけど私は──っ!」
更に咳き込み、血を吐きながら遠音は郁人へと走り出した。その目からは、涙が零れている。
一瞬油断した郁人は、反応が遅れ、遠音のタックルを正面からくらった。咄嗟に後ろへととび、威力を
殺すがそれでも衝撃は大きい。更に二回跳躍し、郁人はようやく止まると、
「何だよ、これ──」
周囲に突き刺さって居た全ての魔具が雨のように郁人一人目掛けて降り注いでいた。
このタイミングでは回避できない。雷化しても確立は低い。郁人は決意を固め、正面から魔具を迎え撃とうとする。
遠くには絶叫しながら、遠音が走ってくるのが見えた。見ているのすら辛い。やはり、遠音と自分は似ていると思った。
過去の自分がフラガラッハを手に入れてなかったら、あんな風になってしまったのかもしれない。
がむしゃらに。目的のために。大切な人のために。自分の身を犠牲にして──。
(郁人、大丈夫だよっ!)
(竜胆……)
(郁人ならきっとできるよっ!)
竜胆の一言が、郁人に力をくれる。当ても無い。可能性も低い。だが、それでもやれそうな気がするのだ。
ずっとそうだった。竜胆が応援してくれたから、何時でも一緒に居てくれたから、郁人はここまでこれた。
(だから、呼んでよ! アタシとフラガラッハの名前を! 信じてよ! アタシとフラガラッハの力を──)
竜胆の言葉に郁人は目を見開き、やがて口の端を上げて笑うと、
「──ああ、疑った事なんかねぇよ。」
そう言いフラガラッハを正面に構え、優しく撫でると、
獰猛に笑い、その名を呼ぶ。愛しき人と、最高の相棒の名を──
「さぁ、行くぜっ──フラガラッハ・竜胆っ!」
緋色の眼シリーズキャラ投票
筆者のブログ
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。