第4話:Brother - Strike
夕方の小学校。下校を知らせるチャイムが鳴り響き、ランドセルを背負った小学生達が下校している。
そんな中一人の少年が友達に手を振って小学生とは思えない速さで校庭を疾走していた。
陸上クラブの生徒達がポカンとした顔で見ているのを尻目に、少年は大きく跳躍すると、
そのまま学校の塀を飛び越えて外へ。少年は大した感慨も無く地面に着地すると、そのまま走り出す。
足には子供用の重り。そんな重さを感じさせない走りで、少年は商店街を駆けぬけていく。
少年の外見は至って普通。ただ一つ違うのはその目が緋色に染まっている事だった。
「おい」
突然声がして誰かが前に出た。少年は体重移動を駆使して、それを避けるが首を掴まれて
持ちあげられてしまう。手足をバタバタ動かすが、振りほどけない。
少年は緋眼を解くと、自分を持ち上げている人の顔を見て、笑った。
「お父さん!」
「よぉ、光希。お父さんにシカトぶっこいて帰るつもりだったのか?」
「違うよ―。今日は、お兄ちゃんとお姉ちゃんが帰ってくるから急いでたの」
「まぁ、ンな事だと思ったわ」
「お父さんはまたパチンコ? それとも本屋さんでエッチな本を買ってきたの?」
少年──千島光希は父である千島蒼威に問う。蒼威はそんな息子の全てを見透かしたような質問に
やや慌てたのを隠しつつ、光希の体を地面に戻してやると、
「光希、男にはな。色々あるんだ」
「だからお母さんを怒らせてもいいの?」
「……い、いや、お母さんを怒らせるのが日課なんじゃないぞ。怒ったお母さんが可愛いから
たまーにこうしてわざと怒らせるきっかけを作ってだな―。楽しく毎日を過ごすんだ」
「ふーん。お母さんを怒らせるのはわざとやってるんだー」
「ちょぉぉ! 変な所だけ脚色して理解しないで!」
「僕、子供だからわかんなーい」
「み、光希さん……? 今川焼きでも買って帰るか? お父さん奢っちゃうぞ」
「クリーム味ね」
「OK。任せなベイビー」
今川焼きを二人で食べながら家に帰ると、母親の千島遥が二人を出迎えた。
光希には微笑みの笑顔で、蒼威にはやや怒りの笑顔で。光希がランドセルを置いて手洗いうがいを
した後、リビングのソファーに行くと蒼威と遥はにこやかな笑顔で対面で座っている。
「光希、お父さん何買ったと思う?」
「またエッチな本?」
「ま、またってなんだよオイ!」
「今度はねー。またちょっとエッチなネットゲームの雑誌。お母さん、前に怒ったのにね」
「お父さんが言ってたよ。わざとお母さん怒らせて楽しんでるんだって」
「へぇ〜……」
「み、光希! 今川焼き奢ってやったじゃないか。それに、それはそういう意味じゃないんだって!」
「ふ〜ん。食べ物で口止めまでしようとしたんだ」
「あ……あ、ああ…………OK。遥ちゃん、話をしよう」
「問答無用」
四十を超えた今でもギャアギャアと騒ぎを続ける蒼威と遥を尻目に光希はノートを開くと
宿題を始めた。集中力があるのだろう、蒼威の悲鳴が響き渡っても気にせずに宿題をやっている。
そして数十分が過ぎ、再び光希が顔を上げると、ソファーに逆さになったボロボロの父の姿。
「お父さん……何やってるの?」
「裏切り者め……」
「お姉ちゃんが言ってたよ。お父さんがそう言うときは自業自得なんだって」
「遥緋のヤツ……」
「よし、宿題終わりーっと」
ランドセルへとノートをしまうと、光希は鼻歌を歌いながらテレビを見始めた。
蒼威はしばらく黙っていたが、やがて冷蔵庫からビールを取り出し、それを飲みながら
しばらく光希と共にテレビを見る。すると、玄関の開く音がして、スーツを着た人物がリビングへと入ってきた。
「あ、お兄ちゃん! お帰り!」
光希は顔を輝かせ、兄である千島蒼二へと抱きついた。蒼二は持っていたスーツケースを置くと、
しゃがみ込んで光希と視線を合わせ、
「久しぶりだな、光希。元気してたか?」
「うん! お兄ちゃんに言われた通り毎日特訓もしてるよ」
「おお、偉いぞ光希。後でにーちゃんがお小遣いやるからな」
「ありがとう」
そう言うと蒼二は光希の横をすり抜けて、いつの間にかリビングへ来ていた遥と、
ビールを相変わらずの表情であおる蒼威へと、少し疲れた笑顔を向けた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「おい、蒼二。命と蒼華と煉次はどうしたんだ?」
「実はよ。一緒に来る予定だったんだが、二人とも熱出しちまってさ。
蒼華は絶対じーちゃんに会いに行くといって聞かなかったんだが、流石に煉次が
酷くてな。結局、命と一緒に留守番してるって納得してくれたよ」
「そうか……残念だ」
「遥緋まだ着てねぇの? あいつが莉那か灼汰連れて来るだろ」
「莉那はお友達の誕生会があるから来れないみたいよ。あーくんも連れてくらしいし」
「あの姉弟はホント、仲良いよな……」
「その辺りは莉王君が徹底させてるみたい。ほら、あの子もお兄ちゃんと色々あったから」
「なるほどねぇ……」
「とりあえず、そろそろ遥緋も来るだろうから夕食の準備しちゃうわね。光希も手伝ってくれる?」
「うん。わかったよー」
そう言うと遥は光希を連れてキッチンへと行ってしまった。後に残った蒼二はネクタイを
緩めてリラックスした体勢でソファーに倒れこむように座る。
しばらく黙っていた蒼威と蒼二だが、やがて少し真面目な口調で蒼威が話を切り出した。
「仕事の方はどうよ?」
「まずまずだ。皆に支えられてもらって何とかなっている感じかな。やっぱ、力だけじゃ
誰もついてこねぇわ。やっぱ、人徳あってこその組織の長だって事を実感した。
後は時雨とか、八神と浅葱が結構サポートしてくれてるから、運営に支障は出てない」
「そか。俺の力が必要だったら何時でも言えや。まだまだ現役でいけるぜ」
「その時は、お願いするよ。とりあえず、学校の件は少し真面目に考えてみてくれ。
親父に憧れてるってヤツもウチの組織には結構多くてな。陸人さんとかも結構名前が挙がるよ」
「うはは。何せ、俺様は日本最強だったからよぉ」
「過去の話だけどな。やっぱり、時代ってのはよく動くよ。小さいガキでも恐ろしい式神
とか持ってるヤツをかなり見てきた。九我山の令なんて、下手すりゃ俺並みだぜ。
後はー……最近台頭して来た賞金稼ぎの連中も結構強いヤツ居たわ」
「ウチの光希も何時か恐ろしい式神使いになるのかねぇ……」
「アイツの式神って……確か未だに名前ついてないんだよな?」
「ああ、一応具象系らしく、変な玉の付いたグローブなんだけどよ。
陸人の爆轟見たいに爆破できるわけでも無く、何かの属性攻撃があるわけでもない。
幾つか試してみたんだけど、少し防御力の高いグローブってな感じかな」
「……へぇ。でも、それでもいいんじゃないか。別に光希に千島を強制させるわけでも、
俺達の世界へ無理矢理入れる気も無いんだろ? つか、入れる気だったら軽蔑するわ」
「当たり前だっつーの。とりあえず、元気良く育ってくれりゃ俺としちゃ満足だ」
「へぇ……」
と、二人が昔とは違う大人の会話をしていると玄関の戸が開く音がして、
続いて「ただいまー」という声。しばらく待っていると、勢い良く扉が開き、
キャリーケースを転がしながら蒼二の双子の妹──千島遥緋が部屋へと入ってきた。
「たっだいまー! お兄ちゃん、お父さん、元気だった?」
「……こいつ、酔ってやがる。久しぶりだな、旦那とは上手くやってんのかよ」
「ん〜……相変わらず変な人だからねぇ。ま、楽しくやってるよ。
とりあえず、お兄ちゃん。これ、報告書ね。これで、私の仕事は終わりだから休暇だぁ!」
「……代わりに俺の仕事が一つ増えたけどな」
「気にしない。気にしない。さて、光っちゃんは何処かなー?」
遥緋は光希を探して奥のリビングへと行ってしまった。相変わらず、バラバラだが繋がっている家族。
それに安堵すると蒼二は、長旅の疲れを癒すように少し眠りへと入っていった。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん」
「違うわよ、光っちゃん。おにーちゃん。おにーちゃんだよ」
「わかった。ヴぉにーちゃん! ヴぉにーちゃん!」
「そうそう。良くできましたー」
「えへへー」
そんな声が聞こえて、千島蒼二は目を覚ました。見えたのは見慣れないが数年前まで、
自分が住んでいた部屋。そして、私服に着替えた妹と年の離れた弟の姿。
蒼二は「うーん……」と唸ると、すぐそばに置いてあった目覚まし時計を見る。
──五時十七分。まだ早朝だ。何故この二人はこんなに元気なのだろうと思う。
「……何か用事か?」
「朝のランニング行こうよ! 久しぶりに競争しよ」
「そうだよ、お兄ちゃん。朝からダラダラしてるとお父さんみたいになっちゃうよ」
「それだけは、嫌だ」
蒼二は目を擦って立ち上がると、服を着替えて三人で玄関へと降りていった。
家を出ると外はまだ冬場な為、やや暗いし寒い。蒼二は着込んだジャージを動かしながら
軽く走り出すが、前の二人は違う。最初から全速力──しかも緋眼を発動させての。
物凄いで駆けていく遥緋と光希に追いつくために蒼二も仕方なく発動。
朝っぱらから全速力とは体に悪いなぁ……と思いつつもすぐに体が温まったので、
とりあえずの寒気は解消された。そして、二人に追いつくと今度は速度を緩めて、何やら会話をしていた。
「……らんらららららーん。時雨お兄ちゃん」
「らんらららららーん。実はマゾ。ちゃんちゃん。梨香ちゃん」
「らんらららららーん。男日照りー。ちゃんちゃん。由加姉ちゃん」
「らんらららららーん。ツンテレ。ちゃんちゃん。陸人さん」
(なんだこいつら……)
遥緋と光希は妙に仲が良い。今もこうして、二人しか意味がわからないようなゲームをよくしている。
今ではこうして懐いてくれているが、物心付いてない時の光希は兎に角蒼二が嫌いだった。
近づけば、泣き。話しかければ、逃げ。酷い時は、部屋に入ってきただけで泣く始末。
だが、今ではこうして懐いてくれている。それだけは、嬉しい。遥緋ほどではないが。
「おにーちゃんも一緒にやろうよー」
「遠慮する」
「光っちゃん。あの人根暗だからこういうの苦手なのよ」
「根暗ってなぁに?」
「ジメジメとした。男の中でも最低ランクの男の事よ。光っちゃんはそうならないようにね」
「うん!」
「遥緋テメェ……後で覚えとけよ」
「うっ……い、嫌だなぁ。冗談に決まってるじゃん」
そんな話をしながら、三人は人気の無い山の中へと辿り着いた。都会の喧騒から離れた
静かな場所だが、段々と開発が進み自然が少なくなってきている。
数年前はもっと緑があったのになぁ、といった思いに駆られつつも蒼二は口を開き、
「よし、光希。お前の式神見せてみろ。にーちゃんがちょっと相手してやる」
「えー。僕の式神。あんま強くないしなぁ」
「まぁ、とりあえず出すだけ」
説得に折れたのか、光希はため息をつくと渋々式神を顕現させた。それは、黒いグローブ。
甲の部分には無色の玉がついており、後は手をすっぽり覆っている以外変哲が無い。
何かを念じても炎が出るわけでもなく、触っても何ら変化がおきない。
「光希、何か頭の中に情報とか入ってこないか? 声が聞こえたりとか」
「無いよー。最初、出した時にね。頭の中に何個か難しい漢字が出ただけだよ」
「それ、どんな形かかけるか?」
「僕子供だもんーわかるわけないじゃん」
「そうか……」
「それよりもさ、お兄ちゃんの久しぶりに見せてよ。あのカッコいい氷の剣」
「……まぁ、少しなら」
そう言うと蒼二は修羅雪を召還し、神威状態へと持っていく。黒かったチェーンソーは、
白鞘の日本刀へと成り、周囲に浮か白の紋様が、それに触れて装飾付けていく。
名は修羅紅雪。九年前とは違い、もうほぼ完全に制御できていると言って良い状態。
「ちょっと、実戦やってみるか? 峰打ちにしてやるから」
「じゃあ、僕緋眼使うけど、お兄ちゃんは無しでね」
「仕方ねぇな。んじゃ、それでやろうぜ。遥緋、ちょっと見張り頼む」
「はいはーい」
遥緋は少し離れた場所へと駆けて行き、周囲の状況をチェック。早朝な為か、人は居ない。
遠くから手で合図を受け取ると、光希が一瞬で緋眼を発動させて、蒼二へと走った。
九歳児と言っても、光希は蒼威を始め、様々な熟練者から訓練を受けている為、基礎はできていた。
更に、身長も低いので体を落として走られると、蒼二のような長身からは見難くなる。
「へぇ、やるじゃん」
修羅紅雪を一振り、光希はそれを簡単に避けると背後に回り、拳を打ち付ける。
蒼二はそれを足ではじき、光希を下がらせると更に一振り。今度もそれを避けた。
だが、刃が刺さった部分から地面が凍りつき、一気に足場が滑りやすくなる。
「うわっ」
派手に光希が転倒し、蒼二はゆっくりと光希目掛けて修羅紅雪の刃を振り下ろした。
右腕を地面についていた光希は、とっさに左腕を突き出してつけていたグローブでガード。
その瞬間、光希の頭の中に幾つかの漢字が見えた。だが、読めない。そして──
「嘘だろ……」
蒼二の手から修羅紅雪が消えていた。
緋色の眼シリーズキャラ投票
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