第47話:信じれば、素晴らしき未来はここに在る──
「ふははっ。ふはははははっ! ユニオン四条部隊、総攻撃開始っ!」
ユニオンの地上部隊の式神の力が一気に発動し、上空の空船へと襲い掛かった。既に地上の悪鬼は
七海神楽の広範囲式神攻撃により討伐がほぼ完了していた。それだけではない──
「んじゃ、こっちもやっかね」
上空に居た狂の部隊が地上の攻撃と交差させるようにして、式神の力を解き放った。
交差した力の群れが空船を蹂躙し、その船体を一気に消滅させていく。当然、空船達は凛の命令にて
力を避けるように分散した。上下左右に分散されては、式神の力も追えない。分散した空船はすぐに反撃に
転じ、上方、下方の逃げた空船はシールドを展開すると特攻するようにして地上部隊と空中部隊に
特攻するようにして襲い掛かろうとしたが、
「行かせないよ──」
真ん中辺りの半壊した空船に乗っていた神代章介がそう呟き、式神の力を発動──。
両手を一度に振り下ろし、章介のグローブから粒子が飛び出した。それはすぐに空船の前面にまで
散布されると光の線へとなった。これが章介の式神の能力。光を操り、任意の場所や形に物質化させる力。
形成された数本の線は、そのまま空間に固定され空船達はそれにそのままの勢いで突っ込み、切り裂かれた。
そして、左右に散開していた空船は後方から砲撃していたが、
「神威……っ!」
梨香がそう呟くと、周囲に飛び交っていた梨香のコンセプトが穹蒼に貼りつき、その形を変化させた。
穹蒼の形が更に大きくなり、鋭角的なデザインへと変化した。それと同時に、暴風が吹き荒れ、梨香はそれを
冷や汗をたらしながら何とか制御下においた。そして、手に巨大な風玉が顕現し、
「っ……っと!」
それを弦にひっかけ、発射。巨大な風玉は数メートル先まで飛ぶと、通常の三倍近い、数百発の矢へと変化した。
その全てが梨香の制御下に置かれ、梨香はそれを二つに分ける、とその二つを左右の空船へと全てぶつけた。
風の矢に貫かれ、成す術ももなく空船は欠片も残らないぐらいまでに破壊されてしまった。
そして、最後に残ったのは巨大な一隻の空船。全長で軽く一キロはありそうなほど巨大な空船だ。
「流石に……でけぇな」
「ええ。近くで見ると、より巨大さがわかりますね……」
章介は梨香とそう会話すると、自分の乗っていた空船を一度手を振り、真っ二つにすると最後の空船へ
光の線を繋げ、その上を走り出した。その間に梨香は下方を向いて状況のチェック。それと同時に
耳にさしていたイヤホンから莉王の声が聞こえ、
「梨香。こちらは準備完了だ」
「はい。では、今から誘導しますね!」
「じゃ、俺も行くぜ。今度は令のプラントの状況確認にいかねぇと」
部下を引き連れて飛んでいく狂に手で挨拶をすると、梨香は神威を解除する事なく、
風玉をもう一度練り上げると再び弦に引っ掛けて、地上に向けて発射。今度は矢に変化しない。
風玉のまま地上に放たれ、這うようにして地上を移動した。
そして、地上に居た莉王、時雨、奏、神楽を風の中に取り込むとそのまま上昇を開始し、空船上空で風を解除。
「はっははは! 久しぶりだなぁ、凛よ!」
「ちょっとはテンションを抑えなよ……」
「莉王様、相変わらずですのね……」
「何というやら、私。もう疲れましたよ……早く善に会いたいです」
空船に向かって落下していきながらぼやく三人と一人テンションの高い莉王。そして、空船の一部分の着地
すると莉王は剣王を抜き放ち、周囲を伺う。時雨と奏と神楽も同時に周囲を伺う。その内に梨香と章介も
空船に辿り着き、莉王達と合流した。
「敵の最後の一隻だというのに……やけに静かですね。クソ興ざめですわ」
「うむ。──それは俺も思っていた。何より、心眼を最大まで上げているのに、凛の感情が全く聞こえん。
それと神楽……貴様も相変わらずだな。クソをつけるのはやめなさいと言っただろうが」
「クソ無理ですわ、莉王様。式神使った後は特に……うふっ。あっ、またテンションが……」
「ああ、もう。でも、何か府に落ちないね……もしかして……」
と呟いたのと同時に空船が大きく振動し、前部分と後ろ部分に大きく分かれた。前部分に居た莉王達が
ポカンと見上げる中、後半部分の空船はそのまま前進し、ユニオン本陣の方へと向かおうとしている。
すぐに莉王達は式神を再召喚し、後ろ部分の空船へと攻撃しようとしたが、
「ぬぅ……」
莉王達の居た前面部の甲板以外の建物の屋根が全て爆発し、その中からは改造された数体の巨大な
鬼型の悪鬼が現れた。その全てが完成作であろう、魔具を携えている。中々に厄介な敵であった。
莉王は舌打ちし、剣王を構え、神楽も再びギターを担いでいる。大地が無い奏は式神が使えないので
時雨がサポートする形になってしまった。章介は無言で拳を上げ、梨香も同じように構えた。
「あ、梨香。ウチの嫁さん何処に行ったかしらないかな?」
「律さんでしたら……気になる事があるといって何処かへ行ってしまいましたが……」
「ふむ。律は凛の親友だからな。──ヤツならこれを読めていたのだろう。だから、ここは俺様達で相手をしようか」
そう言うと莉王は戦闘を始めてしまい、それを皮切りに乱戦が始まった。時雨は心配そうに空船の
飛んでいった方向を見上げると、
「全く、僕も連れてけって話だよ……バカ嫁め」
何とか莉王一派を撒いた凛だが、空船の中で俯いていた。散々空船を破壊された為か、体に式神の
ダメージがフィードバックし、痛みに呻き続ける。全身の震えを何とか堪えると凛は一度立ち上がり、
モニターに映ったユニオン本部を睨みつけ、自分を奮い立たせる。まだ、まだ終われない──
ここで全て諦めるわけにはいかないと──
「の……ぞみ……」
無意識に手を伸ばしても、何もない。かつて、手を取ってくれた彼女はもうこの世にはいない。
これ以上式神で戦うのは不可能だった。あれ程の数の空船を召喚したのだ。当たり前だ。
だが、ユニオンの大多数の足止めはできた。後はもう、戒や仲間達に任せるだけだ。
自分の役目は、後一つで終わり。──もはや前進する事しかできない空船を、本部にぶつける事だけ。
「ごめん……ごめんね……」
本来あるべき幸せを壊してしまった原因は全て自分にある。希を傷つけ、そこから始まった。
あの日、自分を受け入れていたら。希を最後まで信じていれば。空船はこんな戦場の十文字特区
ではなく平和な十文字特区の上を飛んでいただろう。凛と希と未希で空の散歩をしながら
お茶を楽しんでいたのかもしれない。だが、それは二度と叶えられない願い──
「未希……と、……幸せ……にね……」
未希はとても良い子だった。希の面影を残し、戒の才能を完璧に受け継いでいる優しい子。
凛だけではなく希の関係者全員に愛された希望の子。希の笑顔の為なら、凛は命だって惜しくない。
人並みの幸せは要らない。未希と一緒に居る時にだけ感じるささやかな幸せだけで十分過ぎた。
薄れ行く意識を必死に繋ぎ止めていると、空船のセンサーが音を立てた。誰かが、空船に向けて
式神を構えている。凛は目を見開き、モニターをチェックすると、正面のビルに人影を見つけた。
そして、それを見た瞬間。意識が完全に覚醒し、思わず声が漏れてしまう。
「律さん……」
拡大すると、八神律が仏頂面で空船の事を睨んでいるのがわかった──
八神律は腕を組んで高速で飛んでいる空船を睨みつけた。一之瀬凛の事は良くわかっている。
追い詰められた時の凛は何時でもひたむきで、直情的だった。それは学生の頃から、ずっと変わっていない。
それが好きでもあったし──今ではとてもそれが律を苛立たせている。
「何をやっているんだお前は……」
目的はユニオン本陣への特攻であろう。莉王達を撒いた後に、地上部隊から攻撃を受けてもはや空船は
ほぼ操縦不能になっているように見える。兎に角、真っ直ぐユニオン本陣に向かう事に特化していた。
自分が最後の砦──そして、律はゆっくりと目を瞑り、
「お前達、出て来い」
律の腰に吊るされていた筒から粒子が飛び出し、隠形鬼、風鬼、金鬼が現れた。
律に寄り添うようにして顕現した鬼達は一度咆哮し、飛び上がると律の鬼憑の力によって変換。
「令……これが、私なりの九我山への答えだ!」
粒子化した鬼達はそのまま律の中に入るのではなく嵐のように吹き荒れ、近くに居た十文字側
の悪鬼を巻き込むとその存在を粒子の変換し、嵐のようにビルを包み込んだ。上級悪鬼である
四鬼達の命令には流石に操られた悪鬼も抗えなかった。これが、律と令の最大の違い。
令は対等に存在を認め、力を得る。律の場合は、上級悪鬼と契約を結ぶ事でその下の悪鬼をも操る力だ。
どちらも同じ力の範囲だが、令の方が九我山の意思を体現している。だから──律には神憑が使えないのかもしれない。
そんな事をふと思った。令は物心ついた頃から太郎と紫が当たり前のように居た。だが、律は違う。
それ故の契約と共存の差。だが、それでも律は自分を否定しない。この力が間違っているとも思わない──
「来い、お前達! 私が全て受け入れてやろう!」
粒子の嵐が律を中心に収束していき、そこに残ったのは闇色の仮面と軽装という出で立ちの律の姿。
重槍を顕現させ、空船を仮面の下から睨みつけると律の体がふっと浮き、次の瞬間急速に空船へと上昇。
空船も律の存在に気づいていたのか砲門を開き、律へと砲撃を開始。律は敢えて避けなかった。そのまま
正面から突っ込み、砲撃を弾き飛ばした。金鬼の能力である。更には、拳に闇色の光を蓄積させると、
数瞬後にそれを解き放ち、空船の前面部分に大穴を開けた。船体が大きく傾いたが、それでもすぐに
体勢をユニオン本陣側へと向けた。律はそれに舌打ちすると、更に上昇し、空船へと取り付いた。
「凛っ! おい、凛っ!」
律が大穴を見て怒鳴りつけると、そこに居たのは頭部から出血をしながらも律を睨んでいる凛の姿。
そして、ゆっくりと破壊された空船の内部を歩き、二人は相対した。こうして、敵意剥きだしに向かい合う様は
学生の頃に戻ったかのよう。律と凛は同時にそれを感じ、律は微笑を。凛は口の端を苦々しげに曲げた。
「懐かしいな。高校の頃もこうだったね。どちらかが喧嘩を売って、こうして良く屋上で向かい合ったものだよ」
「ええ……。ですが、今回だけは負けるわけにはいきません。貴女を殺してでも、私は目的を果たします」
「……相変わらずだな。いや、"僕"の一番嫌いな出会った頃の一之瀬凛に戻ったか。全部手に入れようとして!
全部犠牲にして! 本当に大事な物に気づかず、一人ぼっちでよく屋上で泣いてたあの時の一之瀬凛と一緒だよ」
「貴女に……貴女なんかに! 私の気持ちがわかるものですかっ! 私がどんな思いで生きてきたか。
あの日、希を傷つけたから……! 戒も、皆も、未希も……不幸になっちゃった。私が希を信じていれば……
親友だったのに! 誰よりも愛してたのに……っ! 私なんかがいなければ……」
涙を流しながら律への気持ちを吐き出していく凛。だが、律はそれを冷たい瞳で見据え──
「バカか、お前は──」
「──っ!?」
「お前の気持ちは正直、事情を殆ど知らん僕にはさっぱりだ。お前がどんな思いで生きてきたかもわからない。
でもな、凛。私は今、猛烈に怒っている。これ程の怒りは久しぶりだ。何故だかわかるか……?」
「そんなもの、わかるものですか……っ!」
「お前が、私の仲間の命だけではなく──」
「うるさいわよっ! もう、黙って! 貴女なんかに……貴女なんかにィィィィっ!」
声を荒らげて、ヒステリックに凛は叫ぶと律へと襲い掛かった。手には、魔具製の短剣。
突進してくる凛をに膝蹴りを叩き込み、更に一撃加えようとすると、虚空から光輝く一隻の小さな空船が現れ、
律へと突撃。思い切り壁へと叩きつけられ、思わず咳き込んでしまう。その隙に凛は立ち上がり、
魔具から電撃を放出すると、律の顔が苦痛に歪む。だが、律もそれで終わらない。すぐに立ち上がり、
凛の胸倉を掴むと、
「説教するつもりはないがな……凛、お前は間違っているぞ!」
「間違ってなんかいません! 何がおかしいんですか! 母と子を会わせてやる事の、何が悪いんですかっ!」
「ああ、それもいいじゃないか……。だがな、お前のやり方は最低だ。何だ、今の特攻は!
この問題はお前が死んでどうにかなるものなのか!? お前がユニオン本陣に特攻した所で、
私達は絶対に勝つぞ! それこそもう手段を選ばん。全身全霊を持ってお前達を殺す!」
「そ、んな事……」
「だがね。過去から彼女を取り戻しても、そこにお前が居なきゃ、意味がない。この戦いは、お前達側
の誰を殺しても、根本的解決にはならないんだ。だから、僕……うーん。いや、私はお前達
を殺そうとはしていない。きっと、他で戦っている連中もそれがわかっている筈だ。
ウチのバカ弟なんかはその辺考えてなさそうだがね。まぁいい。兎に角私が言いたいのはだな……」
と一つ咳払いをし、
「過去は取り戻せない──もう、あの子はお前が幸せにしてやるしかない。逃げるなよ、一之瀬凛。
過去もお前の罪も受け止めて、償えよ! お前が奪った分を、お前が与えてやるしかない」
「そんな事……簡単に……貴女に……」
「希ちゃんに報いたいのなら、希ちゃんが一番喜ぶような方法でやれよっ!
一度しか会ってないが、私にだってわかるさ。彼女が、君が死んで喜ぶような人間ではないって事ぐらいはな!」
律は凛の体を壁に叩きつけ、そう怒鳴った。律のその剣幕に凛は一瞬怯み、やがて──
「わかってます……でも……でも、未希が……未希が……希に会いたいって……」
「……私からは何も言えない。難しい問題だよな。私も息子が今は二人も居る。北斗と南斗って名前なんだ。
この世界で時雨と同じぐらい愛しい存在だ。子供の願いは叶えてやりたいよな。その気持ちはわかるよ……」
律は凛の泣きじゃくる凛の手に頭を乗せた。凛はそれを拒んだが、何度でも律は手を乗せ続けた。
そして突然、空船の船体が大きく振動をした。凛の力がついに限界を迎えたのか、墜落しているように感じる。
凛は細かい呼吸をしながら目を細めていて反応しない。意識が限界に近いのだ。脱出しようにも墜落の勢いに
体が船体に釘付けされているのと、凛を抱えていては流石の律も満足に動けない。
「お、おい凛。しっかりしろ──」
「………の…………………ね……………」
「遺言のつもりか、おい? 信じてみろよ──素晴らしき未来を。私の読みではウチの旦那様がギリギリ助けて
くれてその後、アレだ。私はお前の前で時雨とキスするんだ。そうしてエンディングを迎え─っておい!」
どんどん加速していく空船。やがて、地上が見えてきた。最悪なことに、住宅地のど真ん中だ。このままでは
流石の自分でも死んでしまう、と律が珍しく焦りかけた時、不意に勢いが緩んだ。目を凝らすと、近くの民家の
屋根の上には最愛の人の姿があった──そう、八神時雨がボロボロの格好で式神の力を使っていた。
疲れたような顔だが、律に気づくと何時も笑みで手をこちらに振ってきた。律はそれに仮面を外し、
満面の笑みで答え、凛の頬を二回ほどペシペシ叩いた後に一言。
「ほら見ろよ、信じれば、素晴らしき未来はここに在る──それにわかったろ? 私の旦那様はな、世界一かっこいいんだ」
緋色の眼シリーズキャラ投票
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