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二話連続投稿です
第46話:命を懸けるに、相応しい理由です──
 

 一之瀬凛は上空から冷静に状況を観察していた。
 現在、自分の守る塔にはユニオンでも最大級の戦力が雪崩れ込んできていた。対するこちらも、数は多い。
 統率された悪鬼の群れに加え、自分の空船が数百隻。守りは前線の船と悪鬼に任せて、凛は奥の方にある
 巨大な軍艦型の空船の中で待機していた。弾幕を張り、近づけないようにしているが、それも時間の問題。

「……仕方ありませんね」

 一度、目を閉じ楽しかったあの頃を思い出す。希と一緒にいた時間は、本当に幸せだった。
 優しい暖かさに包まれ、嫌な事は全て忘れられていたあの至福の時。だが、それを壊したのは自分自身。
 だから、もう一度会いたい。そして、大事な未希にもあの優しさを分けてあげたい。

「命を懸けるに、相応しい理由です──」

 ──凛の決意が固まった。ゆっくりと目を開けて再び戦況を確認。戦術を再び頭の中で組みなおし、

「全空船。前進しなさい」

 と命令を下した。

 

 
 対するユニオン側は気合で前進を進めていた。空船から発射される弾幕を潜り抜け、少しずつだが前進し
 強大な力を持つ式神使いが空船を各個撃破している。上空からは、梨香と狂、そして律。
 地上からは奏、莉王、時雨の三人を中心として攻撃を仕掛けている。空中組は狂と梨香を中心とした
 対を作りつつ、化け物じみた突貫力を持つ律が孤軍奮闘を繰り広げており、地上は暴れまわる莉王の
 フォローを奏と時雨と周囲の人間でフォローに回っているという感じだった。そして、一隻の空船に重槍を構え、
 特攻した律は、遠くにある一番巨大な空船を睨み、

「あの馬鹿……っ」

 と言葉とは裏腹に心配そうな口調でそう呟く。すると、自分から数メートル離れた甲板を突き破って、
 莉王の剣王の光り輝く刃が現れた。ジッとしてては巻き込まれる。そう判断した律は、慌てて筒を取り出し、
 
「風鬼」

 と口にした。次の瞬間、筒から反意志の光が溢れ出し、かつての太郎と色違い──緑色の鬼が現れ、
 すぐに律の体の中へと吸い込まれる。緑色の装甲が律の各所に出現し、風を纏って律は空船から飛び降りた。
 そして、重槍の力も発動。重力のかかる向きを、自身の直線状に設定し、律は重槍を構えて弾丸のように飛び出す。
 ──轟音と共に、一隻の空船が貫かれて破壊された。更に律はそのまま他の空船に取り付き、破壊を重ねていく。

「ちょ、律さん。先行しすぎですってばぁ!」

 後に続く梨香の遠距離攻撃部隊は、どんどん戦線を広げていく律に翻弄されていた。
 梨香個人でならついていけるのだが、今回連れて来ているのはまだ梨香の隊でも新人の域を出ない者ばかり。
 ある者は初めての実戦にまだ慣れてないのか緊張した面持ちで、またある者は、怯えが混じっている。
 仕方が無い。と梨香は軽く鼻を鳴らした。梨香自身も始めての実戦は緊張したのだ。

「仕方ないなぁ……狂さん。フォローお願いできますか?」

 と梨香はすぐ傍で下と連絡を取りつつ、風の障壁を発生していた狂へと声をかけた。

「いや、梨香さぁ。お前障壁張れねぇだろうが、俺がこいつらのフォローしとくから、お前が前線に出てくれ」

「うげっ!? わ、私女の子ですよ!」

「先行しているのも女の子だ。相性的にはお前が一番なんだ。陸人みたいに突っ込んでけよ」

「あの人と一緒にしないで下さいよ……。私、あんな馬鹿みたいな芸当できませんもん!」

 口ではそう反抗しつつ、梨香は渋々とだが前に出た。そして、狂は満足そうに後ろへと下がる。
 梨香のスキルアップを狙ったのだが、上手く行ったようである。やはり、梨香はあの陸人の娘だった。
 純血とは思えないほどの判断力と動体視力で、空船の弾幕を掻い潜り、律の死角に回っている空船を
 冷静に撃ち抜いていた。

「どうみてもアイツと同じくらいの芸当かましてるじゃねーか……」

 やはり蛙の子は蛙だと判断し、狂はヤレヤレとため息をつくと下の方で奮戦している奏へと通信を飛ばした。
 

 上空から狂の通信が来た。嬉しさが奏の中に込みあがってくる。だが──その通信が取れない。
 絶え間なく迫りくる悪鬼に念同と地神の攻撃を継続している為、意識が外せない。
 周りにいる式神使いも頑張ってはいる。だが、十名家たる自分達と比べると若干力が弱いのも事実。
 それに、ここまで忙しいのは総大将である一人の男が原因でもあった。

「ふっははははっ! 楽しい、楽しいぞぉ! 感情の波が乗ってくる! ははっ! もっと来ぉい!」

 四条莉王が単独突撃し、地上の悪鬼と大抗戦を繰り広げていた。その為か、悪鬼達は指揮系統が
 分断され、防御ではなく攻撃主体の構えでこちらに迫ってきている。当初は、時雨の考えた作戦の下、
 回りこんで挟み撃ちという方法をとりたかったが、開始数秒で莉王がこの様の為続行不可能。

「し、時雨さん。どうしましょう……」

 と奏が振り返ると、そこには対戦車ライフルを構えた八神時雨がニヤニヤ笑いながら立っていた。
 瓦礫によじ登り、重場の力を応用してかかる負荷の分散を設定すると、発射。悪鬼が粉々に砕けて
 更に貫通した弾が他の悪鬼をも引き裂いていく。それに満足する事なく、時雨は次弾を発射。

「し、時雨さん……?」

 尋常ではない時雨の様子に恐る恐る話しかけると、時雨は一度撃つのを止め、達観したように笑うと、

「戦略なんざクソっくらえだよね! うははは! もういい、奏ちゃん後は任せた。僕もあの馬鹿を見習うとする」

「え……?」

 何かストレスでも溜まっていたのか、時雨は気持ちよさそうにライフルを連射していく。ユニオンの部下達も
 困惑しているようだが、忙しさがそれを許してくれない。悪鬼と必死の表情で交戦していた。
 奏もふと振り返ると、ゴリラみたいな野太い腕をした悪鬼が石の斧を構えて奏に振りかぶっていた──

「あ──っ」

 慌てて念同を発動させ、一瞬動きを止めると地神の力を発動。大地から勢い良く岩石を発射させて
 悪鬼を吹き飛ばし、何とか事なきを得る。──いよいよ本格的にまずい。一度体勢を立て直す必要があった。
 こそこそと奏が最前線から身を引こうとしてると、

「あら。お姉さま。どちらへ行かれますの?」

 正面に七海家の面々を引き連れた妹の七海神楽が立っていた。奏の心にぱぁーっと光が差していく。
 七海神楽は自慢の妹だ。それこそ、七海を一人で任せても良い位に出来る子な妹である。
 本音を言うと、奏は自分が一番無能だという事は理解していた。人間的に上な姉に、力の強い妹。
 それに挟まれて生きてきたのである。だが、そんな事は億尾にも出さずに奏は優しい笑顔を作ると、

「この有様だから、一回体勢を立て直そうとね。でも、かぐちゃん達が来てくれたから安心だわ。
お姉ちゃん。ちょっと、上空にいる狂さんと通信したいから、暫くこの辺りお願いできるかな?」

「構いませんよ。その為の私達ですから。後、先程五月の舞香から連絡がありまして、こちらに
来るそうです。颯太さんが敵に回られたから、五月は大忙しらしいですよ。それでも、風香さん達は
二日酔いで寝てるらしいのですが」

「舞香ちゃんかぁ……なんていうか、颯太さんの悪い所と、風香さん達の悪い所を煮詰めて
ちょっと優しくしたような子だからねぇ……私、三年前のお正月にはお餅を口に詰め込まれたし……怖いな」

「あれはお姉さまが悪いのです。泥酔して、颯太さんに介抱なんてされますから。
舞香はああ見えて重度のブラコンですからね。章介さんが現れてからは若干マシになりましたが……」

 章介──その名前を聞いて、奏はそれ以上の話題を続けるのを止めた。今でこそ、普通だが。
 件の男、神代章介が発端となった数年前の事件の際には舞香と神楽は若干心の傷を持っている。
 奏はそれを少ししかしらない。本人達だけが知ってればいいと思い、これからも聞く事はないだろう。
 ただ、あの事件の際に初めて妹の涙を見た奏としては姉としても個人としても色々と複雑なのであった

「と、とりあえず……私は狂さんと連絡取りますから、少しの間時間稼ぎをお願い」

「ああ、はい。わかりました──皆さん、行きますよ」

 そういうと神楽が右腕を掲げた。同時に、七海の人間が式神を構えて駆け出していく、何時もどおりに。
 神楽の正面を空けて、左右に散会するように戦線を張った七海に神楽は満足したように頷き、

「式神召喚を致します。皆様準備はよろしくて?」

 そう言うと大きな返事が返ってきた。神楽は一礼をして、式神を召喚。すると、肩にエレキギターが現れた。
 それを抱えると、下部についていたシールドが地面へと勢い良く突き刺さった。
 神楽は弦を弾いて、音の調整をしていく。──自分好みの音になるまで、世界から切り離されたかのように。
 そして──

「ロックンロール、ですわ」

 神楽の演奏が始まった。荒々しく、自分好みの音を紡ぎ出し、やがてそれはシールドを介して大地に伝わり
 神楽の望む任意の場所に強大な音の衝撃波として吐き出された。轟音が一瞬響き、悪鬼の体が
 バラバラに砕け散っていく。段々とテンションが上がってきたのか、神楽の頬が赤く染まり、

「あはっ。あはははははっ! くれじぃふぉーゆーっ!」

 その発言を皮切りに、神楽の歌が始まった。破壊の衝撃波が周囲を蹂躙し、悪鬼が悲鳴を上げている。
 ライトハンド奏法まで始めた妹の姿を見ながら、奏は暫くぽかんと口を開け、やがて思い出したように
 通信無線を取り出すも、妹が五月蝿すぎて会話にならない。

「か、かぐちゃ──も、もう少し、静か──」

「へーい! 本日はお日柄も良く、ファッキン・グッドですわねー!」

 神楽の念動も発動し、文字通り、大地が踊った。念動によって周囲の瓦礫や、破壊された悪鬼の破片までもが
 跳ね上がり、ぶつかり、ライブ会場のような激しい踊りとなって神楽の周囲を囲んでいた。
 神楽お付の七海はそれをわかっていたかのように、そそくさと陣形を変え、再び悪鬼を殲滅していく。

「……あら?」

 神楽の音のトーンが若干下がった。奏は今しかない!と判断し、通信機を使って狂へと連絡を取った。
 話したい事もあったが状況が状況なので下と上との連絡事項だけを事務的に報告しあう。
 その間神楽はボーっと遠くを見ていた。見たくは無い。だが、見てしまう。戦闘音の隙間に、バイクのエンジン音。
 赤い一台のバイクがこのような荒れ果てた大地を物ともせずに、疾走している。

「……遅いですわよ。この、クソ野朗共」

「え? え? な、何ですか彼らは?」

 突然現れた赤いバイクに驚きを隠せない奏を尻目に、神楽はゆっくりと微笑を作った。
 対する赤バイクに乗っている二人組も軽く手を上げ、運転していた方が上空を指差し、神楽は一度頷く。
 これだけで、意思の疎通が出来るのだ。それが、嬉しくて、今はとても悲しい。そして、走り出す赤バイク。
 神楽も再び正面を向き、ピックを構えなおすと、

「だっ、だっ、だっ、だっー。だっだっだだー!」

 そう歌いながら、コードを弾いていく。増幅された衝撃がシールドを伝って、大地を揺るがす。

「だっだっだっだっだー!」

 神楽の瞳から零れ落ちる一粒の涙。同時に、赤バイクが車体を空中目掛けて構えた。
 そして、二つの式神の力が同時に発動。バイクにかかる神楽の衝撃波から守るようにして一つの力が発動。
 車体が一気に空中へと投げ出され、ぐんぐんと上昇していく二人を乗せた赤バイク。やがて、その高さが最高点に 
 達した所で、運転していた男が車体から身を投げ出す体勢を整え、後ろに座っていた女がすぐにハンドルを取る。

「じゃ、紡先生によろしく。……まさかとは思うけど、大義名分を振りかざして殺す気じゃないよね?」

「──さぁ? その時の気分次第ですわね」

 男の方はその答えにため息をつくと、車体を大きく蹴って跳躍。そのまま、空船の一つへと乗り移った。
 女の方は落下していくが、何か式神の力を使っているのか何の衝撃も無く地面に着地し、走り出してしまった。
 それを見て一息つき、男は被っていたヘルメットを脱ぎ捨て、

「さて、かぐちゃんからのお願いだ。──きっちり覚悟決めないと」

 男──神代章介の両腕にグローブが現れ、軽く左腕を振った。途端に、真っ二つに切り裂かれる空船の一群。
 更に右腕を大きく振り、広範囲に渡る空船が真っ二つにされ、地上へと落下していく。
 それに満足し、頷いていると不意に接近する気配を感じた。その方向を向くと、槍を携えた軽鎧に身を包んだ女性の姿。

「む。君は何処の子だい? 先程下に落ちて行ったのは舞香っぽかったんだが、知り合いかな?」

「あ、はい。あ、あの、俺。神代章介って言います。かぐちゃんと舞香に命令されて、ここまで着たんですけど……」

 そう章介が自己紹介すると、軽鎧の女性──律が目を見開いた。

「ほぉ……君が、あの寄生型鬼神事件の。成る程、弟達から話は聞いていたよ。私は、八神律だ。
君が出会っている筈の太郎と九我山令の姉に当たる。令の話が本当なら頼もしい増援だ。協力してくれるかな?」

「も、もちろんです。俺に出来る事なら……」

「私はアレだ。あの奥にあるあのばかでかい空船見えるだろ? あそこに一人どうしようもない馬鹿が居てな。
 ぶっ飛ばしに行きたいんだが、生憎あの小心者が大量に罠を仕掛けていてね。中々近づけないんだよ」

「はぁ……」

 章介も目を凝らして状況を分析してみたが、中々近づけなさそうである。空船の数が圧倒的であるし、
 魔具製の罠が仕掛けられているのも確認。唸る律と章介。良い手が思い浮かばない。
 すると、上空から二人の乗っている空船の甲板へと、梨香が降り立った。警戒したように、私服の章介を見ると、

「この子、誰ですか?」

「神代章介君だ。ほら、あの寄生型鬼神事件の……と、昔の話を蒸し返すのは失礼だな。悪かった」

 梨香もあの事件の事を思い出したのか、気まずそうに章介の事を見た。だが、二人の目にはあの事件への同情の
 色は無かった。ただ純粋に過去の話を蒸し返した事を謝罪している。それに章介は曖昧な微笑を返し、
 
「いいんですよ。俺はあの事件を悔いていませんし。この神代という名が、貴方達にどんな意味を持とうとも。
あの事件を受け入れ、仲間達と一緒に神代章介として歩んでいくと決めましたから……」

 章介の目には強い決意が備わっていた。梨香と律はそれ以上何もいう事なく、ただ前を向いた。
 すると梨香の無線に連絡が入った。地上に居る莉王からだ。そろそろ遥緋が心配なので、決着をつけたいと。
 そして提案される莉王からの戦術の提案。梨香の顔に笑みが浮かび、章介もその作戦を承諾した。だが──

「……一つ、不安がある。すまないが、ここは梨香と章介君に任せていいかな?」

「え……? まぁ、私は平気ですけど」

「俺もです」

「じゃあ、任せたよ」

 章介と梨香のそのまま手を振ると、律は風を纏い空中へと舞った。この不安が現実ならなければいいと思いながら──




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