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今回は告知できなくてすいません。
第43話:だって愛してるから──
 三枝万里は、息を殺して物陰に隠れていた。ユニオンと十名家の戦いが始まって数十分。
 戒によって避難させられていた万里だったが、ようやく監視と護衛を振り切って、十文字特区へと帰ってきたのだ。
 傍目から見ても激しい戦いだ。何より、ユニオンは相当強い。下手をすれば、雨龍を始めとし、全員が
 やられてしまう。なら、どうすればいいか。──簡単な事、頭を叩いてしまえば良い。

(千島蒼二さえ倒せば……)

 頭を失えば、統率も乱れる。そして、こちらには六道の紡が居るのだ。瓦解したユニオンなんて彼女の
 頭脳の前にはほぼ無力も同然。「ふぅ……」と息を吐き、万里は布都御魂を抱えて、ビルの隙間を
 走り出す。──ユニオンの本陣は、先程ビルの屋上から発見した。距離は、そう遠くは無し。
 守りの布陣はザルに等しい。完全攻撃中心な布陣であった。

(でも、それが可能なのは。単独戦で強いからですね……)

 塔を守っているのは、遠音、紡、凛の三人だ。雨龍や千里前進組の防衛に当たっているのだと予測。
 だから、サイドには空きが多く見られる。慎重にいけば、本陣近くまではこういうのが得意な万里には
 余裕だ。だが、そこからが問題。本陣には護衛の隊員も居るだろうし、千島蒼二も居る。
 流石の万里でも、他の隊員を相手にしながら蒼二に勝つのは不可能だという事はわかっている。

(だから、三十秒。布都御魂を限界まで使って、一撃で致命傷を与える……)

 成功率はそこまで高くは無い。だが、やるしかない。万里は考えながら、移動していく。
 ビルの隙間と隙間を。なるべく体に負担をかけないように。そして、ついに本陣の一部が見えた。
 隙間から伺うと、本陣のすぐ前は既に戦場になっていて、悪鬼と人間。そして──

「うーちゃん……」

 二階堂雨龍が必死に戦っていた。多分きっと、自分の為に、そして戒達家族の為に。
 昔からそうだった。雨龍は、何時だって誰かの為に戦っていた。そして、万里はそんな雨龍を好きになった。
 今回の件だってそう。あんな酷い事を言われた理由も戒の電話を盗み聞きして知ってしまった。だが──

「ごめん。それでも私は、貴方と一緒に居たいんです」

 万里の背中に炎の翼が灯った。今こそ──激戦が続いている今こそ、動くときである。
 そのまま一気に上昇。狂乱の力も使い、身体能力も上昇。炎の翼をユニオン本陣に撃ち込みながら、
 万里は蒼二の姿を探し──見つけた。氷の盾で身を守っている。万里は一気に下降し、蒼二へと迫る。
 ユニオン側も万里の存在に気がついたのか、攻撃の方向が一斉に万里の方を向く。──それでいい。と
 万里は笑い、

「布都御魂ぁ!」

 鞘から刀身を引き抜き、布都御魂が光る。そして、布都御魂を中心に周囲一帯に風が吹き、全ての
 式神が消えた。誰も彼もが、突然起きた事態に困惑する。その間にも万里は加速し、接近していくが、

「応戦準備っ!」

 蒼二の一喝により数人は落ち着きを取り戻し、戦闘態勢へと入るも刀を持った万里の敵ではない。
 万里はユニオン本陣に降り立つと、布都御魂を一撫でし、

「布都御魂、第二形態」

 再び発光する布都御魂。刀身部分の存在が不鮮明となり、次の瞬間雷の刃として周囲一帯を襲う。
 鞭のような剣筋が稲光となって、周囲一帯を蹂躙。時に弾け、時に跳ねの斬撃によって、
 大半が昏倒していく中、予想したとおり、蒼二は緋眼を使って万里の攻撃を全て回避していた。
 布都御魂第一形態の効力は、残り十数秒。時間が無い、と万里は狂乱の力を使って走り出すが、

「うん。やっぱり、式神を消す魔具だったんだね。有効範囲は広域、持続時間は一分以内かな」

 上空からの声。聞いたことがある声。上を向くと、天美運命が落ちてくる所だった。万里はステップし、
 何とか上空からの砲撃を避けた。──冷や汗が、背中を伝う。もう、時間が無い。

「だったら、反意思で攻撃すればいい。ま、運命達みたいな鬼神限定の対抗手段だけど」

「っ!」

 万里が接近するよりも早く、運命の下半身から九尾が飛び出した。その先端に、変換された
 反意思の光が灯る。そして、九本の狐を模した狐砲が万里へと迫った。万里は直撃をのみ見切り、
 残りは布都御魂で弾く、が。

「若いね」

 九本の反意思が形を変え、槍のように変化すると、万里の体をギリギリ避けるようにして
 四方から攻撃を仕掛けた。結果的に、万里の動きは封じられ、そして布都御魂の効力も限界を迎えた。
 運命は、阿修羅姫を再び顕現させて万里へと突きつけるが、

「運命! 油断するなっ!」

 万里はまだ諦めていなかった。炎翼を顕現させて、槍を焼き尽くし、再び飛翔。大規模な力を使ったので、
 布都御魂第一形態の力は数分は使えないだろう。だから、頼れるのは第二形態と己の力のみ。
 戦力を地味に削いだのが功を奏したか、式神による攻撃も先程までとは違い、苛烈ではない。
 だが──

「俺が出る。運命、暫く連絡と指示を頼む」

「わかった。あの子、相当強いよ」

「知ってる。狂乱の三枝の次女つったら、剣術においてはあの莉王も認めてた程だからな」

 千島蒼二が出てきた。氷の蛇が八頭を持つ氷の蛇が一瞬で顕現し、その一頭の上に乗って
 蒼二が上昇してくる。──そして、空中に足を一歩踏み出す、とそれに合わせて空中に氷の足場が顕現。
 並大抵の式神ではできない芸当だ。そして、更に一歩進むと蒼二の周囲一帯に丸く、広い氷のステージが完成した。
 万里と暫く見詰め合う蒼二。足場に靴をつくがつかないかの距離で浮いている。まず、動いたのは万里だった。

「──ふっ!」

 呼吸と共に炎翼が炎を吐き出し、加速。蒼二も構えを取った。そのまま布都御魂を一閃。鈍い音がして、
 ぶつかりあう修羅紅雪と布都御魂。──硬い。一度刃を放し、更に二撃、三撃と叩き込むも相手の顔は涼しい。
 そして、蒼二が今度は踏み込み、刃が万里を狙う。が、容易い。剣の技量ならこちらが確実に上だ。 
 だが、今は式神戦である。蒼二の刺突を紙一重で避けた万里だが、背後に違和感。炎翼の炎を噴出させ、
 蒼二の膝に足を乗せて一回転し、空中へと飛翔。次の瞬間、先程まで万里が居た位置の下から氷の蛇が
 巨大な顎を広げて足場をぶち破ってきたのだ。

「ま、剣術は上だってのは認めるわ。郁人が剣で潰しきれなかったのを、俺が潰せるわけねーしな」

「──っ」

「だが、戦いってのはそれだけじゃねぇって話だぜ。お嬢ちゃん」

 万里が訝しげな顔をしていると、視界の端に光が見えた。それも、二発。慌てて動こうとした時には
 既に遅かった。二発の光は、万里の炎翼だけを綺麗に打ち抜き、かき消すと共に、飛行能力が完全に削がれた。
 為す術もないまま頭から落下していく万里。

「相変わらず良い腕だな。庄屋さんは──」

 そう呟く蒼二の言葉から狙撃されたのだと万里は判断した。蒼二は、八頭を持つ氷の蛇を引き連れて落下していく
 万里を追いかける。何とか空中で回転して体勢を立て直した万里。その頃には炎翼の回復はギリギリ間に合う
 か間に合わないかといった所。やがて、地面まで数メートルまでと迫った時に万里は再び炎翼を顕現。
 全力で炎を噴射し、激突はどうにか防いだが、その頃には既に、八頭の氷の蛇が口を大きく開けていた。

「終わりだ」

 蒼二がそう呟くと共に、大量の氷柱が万里へと発射されるのが見えた。いかに狂乱を使おうとも、
 布都御魂を使おうとも、回避は不可能に近い。終わりゆく自分の人生が見えた気がした。そして、愚かだったとも。
 万里はお腹を一度擦り、

「ごめんね……私、馬鹿だった」

 雨龍の好意も、与えてくれた全てを万里は駄目にしてしまった。酷い女だ。醜い女だ。
 好かれなければ良かった。懐かなければ良かった。今まで、雨龍が傷ついてきたのは、自分の為だ。
 それをこうして最も最悪な形で奪ってしまう。雨龍との子も、自分自身も、雨龍が守ろうとした全てを
 万里は結局自分で奪ってしまうのだ。──ごめんなさい。ごめんなさい。心の奥底から感情があふれ出す。
 尻餅をつき、布都御魂にすがるようにして腹部だけは守ろうとしながら万里は涙を流し、呟く。

「ごめんなさい……み"んな"……ごめんな"ざぃ……」

 現実は容赦なかった。氷柱がもう既に近くまで迫っている。狂乱を使っているからこそ、知覚が遅い。
 かといってこの量では全て避けるのは不可能に等しかった。後、数メートル。後、ほんの少し──

「──り……──万──っ!……里──万里ぃっ!」

 ──声が聞こえた。必死な声だ。感情が声に乗っている。何かが弾ける音。大地を蹴る音。それも一緒に聞こえた。
 良く知ってる声だ。そして、久しぶりに聞く声。ずっと昔から、何時も一緒に居てくれた人の声。
 最後まで分かり合えないと思っていた人の声。そして、万里の眼前で光が一閃。巨大な光──姉の式神の光だった。
 全力で放たれた乖離の光は、蒼二の氷柱を全て断ち切り、乖離の名の下に、力の結びつきが離れた。 
 離れ離れにされた力は不安定となり、だが存在はそのままに断たれたまま万里を避けるようにし、地面へと突き刺さる。

「あ……」

 無数の氷柱が世界を覆い、何も見えない。ただ、氷柱の透明な輝きと、姉の悲しそうな顔だけが見えた。
 よくよく見てみると、姉の体は傷だらけだった。返り血なのか、自身の血なのかわからない程に汚れている。
 服の破れた場所からは変色した肌。ここまで来るのに、どれ程千里は傷ついてきたのだろうか。万里にはわからない。
 ふらふらと、何とか布都御魂にすがって立ち上がり、千里と向かい合う。正面きって、向かい合うのは久しぶり。
 やがて、千里が手を動かす気配。殴られても仕方が無い、と思っていた万里は大人しく目を瞑る──

「え……」

 が、抱きしめられていた。千里の体全体が震えているのがわかる。暖かい、懐かしい匂いと感触がした。
 
「もう……止めてよね。こんな危ない事をするの……どうしてっ!? どうして避難してなかったのよ……っ!」

「ごめんなさい……。一緒に居たかったから。全部無くなったっていい。うーちゃんとお姉様が居なく
なったら、私もうどうしていいかわからなかったんです。だって、愛してるから──何よりも大事だったから……」

 千里の問いに万里も本心を告白した。人殺しだっていい。普通の生活なんて送れなくたっていい。
 一生二階堂に屈して生きても良かった。雨龍と千里さえいれば。雨龍と千里さえいれば、何があっても辛くない。
 それをぽつぽつと語っていく。千里は震えながら、そして黙ってそれを聞いた後に、やがて一息つき──

「……私達ったら本当に馬鹿ね。私たちのエゴを、貴女に押し付けていただけだったのね……」

 一番重要なのは万里の気持ちだったのだ。それを、雨龍と千里は無視していたような気がする。
 勝手に決め付けて。勝手に万里の気持ちをわかった気になって。千里はずっと勝手だった。
 かつて八つ当たりをした時も。今救おうとした時も。だが、もう気持ちは伝わった。千里は、万里から体を離し、

「……ずっと、ごめん。色々言いたいけど、これだけは今伝えたいから」

「……は、はい!」

 二人は分かり合えた。今はもう、何も言う事はない。二人は、同時に式神を顕現して、一気に氷を吹き飛ばした。
 氷が晴れ、広がった世界ではまだ戦火が続いている。驚きに目を見張った千島蒼二の姿も見えた。
 万里と千里は同時に駆け出し、蒼二へと迫る。流石の蒼二も、真剣な表情になって万里と千里目掛けて走り出した。
 蒼二の式神からコンセプトが抜け落ち、黒い二本の小型チェーンソーへ。万里と千里の呼吸を合わせた一撃を、
 二本で同時に受け止めるが、狂乱の力は凄まじい。流石に二人の狂乱使い相手では力では分が悪いようで
 蒼二は近くにあった壁へと叩きつけられる。

「蒼二!」

 本部の建物の上に立っていた運命が九つの狐砲を放つが、千里は乖離にオーラを集中させて、九つの砲撃を
 全て叩き斬ってしまった。万里も、炎翼を展開して炎の羽のけん制を放つ。その間に蒼二は体勢を立て直し、
 再び修羅紅雪を顕現。だが、何かがおかしい。力が──とまで思った所で千里はその違和感に気づいた。
 下を向き、その瞬間氷の蛇が地面を突き破って現れ、千里の体へと激突。

「あ……お、お姉さまぁ!」

 轟音を立てて空中へと勢い良く吹き飛ばされた千里。だが、その体は空中で何かによって受け止められた。
 黒い鋼を合わせて作られた一匹の龍。その上に、怒りに顔を歪めた二階堂雨龍が千里を抱えて立っていた。





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