そろそろ忙しくなるので。
また週に一回か二回更新になります。
第3話:From - Sister
由加との話が終わった後、莉那と由加の強い勧めによって、四条家に一泊していく事になった。
莉那が太郎の事を恐れないか危惧していた令だが、意外にも仲良くなっていたようで
晩御飯が終わった後も、莉那と灼汰と紫と共にボードゲームへと興じていた。
令も誘われたのだが、一つ気になる事があったので、一人庭で携帯をいじっている。
それは──今日の合コンがどうなったかと言う事。午後六時から開始なので、
もう三時間も経っている。知らない面子も多々来るため、憧れの希恵ちゃんがどうなったかを
確かめるために、令は一番仲の良い友人、染谷へと電話をかけた。
「あ、もしもし? 俺だけどださ……」
「あ、令か。テメェ、いきなりドタキャンしやがってよ。今回は鳴神にバレなかったん
じゃないのかよ?」
「バレては無いんだけどね……ちょっと、家の方でゴタゴタがあってさ」
「あーなるほど。んじゃ、詳しくはきかねぇ。んで、合コンだがついさっき解散になったかな。
俺は元々付き合いで参加しただけだから、何人かとメアド交換しただけで終わったぜ」
「へぇ……お持ち帰りとかあったの?」
「あ、希恵ちゃん多分お持ち帰り。新田のダチの黒田って奴がお前の代わりに来てよー。
さんざん口説いて、今は新田と黒田と希恵ちゃんと設楽さんの四人でカラオケだってさ」
一瞬、眩暈がした。新田と黒田を後でどうしてやろうかと、頭の中で考えながら
令は短く笑うと、
「……わかった。悪かったね、いきなり電話して」
「気にすんなよ。希恵ちゃんの事は残念だったな」
「気づいてたんだ……」
「高校時代からの数少ないダチだ。それぐらいはわかるよ」
「あはは。まぁ、元々憧れみたいなモノだったし。今度は絶対出るからまた誘ってよ」
「おう。ってーか、お前よぉ。鳴神と付き合っちまえばいいじゃねーか。大学でも
いつも一緒に居るしさ。それに、同じ家に住んでるんだろ?」
「いや、それだけはないね。紫ちゃんは、家族みたいなモンだし」
「ん、そうか。んじゃ、ゴタゴタ終わったら連絡くれ。飲みにでも行こうぜ」
「うん。ちょっと時間がかかるかもしれないけど。連絡するよ」
そう言って、令は電話を切った。「ふぅ……」とため息をついて、夜空を見上げる。
ムカつくぐらい綺麗な、満天の星空。隣に希恵ちゃんが居てくれたら……と思うが
現実は、白いコートの男が立っているだけだった。
「空しい、空しいよ…………って! 莉王兄ちゃん何してるの!?」
「やっと気づいたか」
何時の間にか隣に立っていたのは、白いコートを着込んだ四条家頭首、四条莉王。
子供が出来てから黒く染めた髪を撫で付けながら、莉王はニヤリと笑うと、
「女々しいな。女を取られて一人夜風に吹かれるか」
「遥緋さんにブン殴られて、惚れたマゾの莉王兄ちゃんよりはマシだよ。
っていうか! 何で殴られて惚れるの!? お姉ちゃんもお母さんもお父さんも
妙に納得してたしさ。何かあの時、僕だけ家で一人アウェーな気分だったんだよ!」
「男と女なんてそんなモンだ」
「何で遥緋さんが莉王兄ちゃんと結婚したのかがわからない……」
「ふむ……確かに、それは俺も思った。本当に、何でだろうなぁ……」
「知らないのっ!? 結婚して五年以上経つよね!? ……ああ、もう!
莉王兄ちゃんと会話してると、いつも僕だけがツッコミ役に回っちゃう」
「相変わらず、無駄にテンション高いな」
「誰の所為だよ!」
「まぁいい。そろそろ寒いので中に入ろう。莉那と灼汰にお土産を渡さなくては」
莉王はいそいそと歩き出し、屋敷の中へと向かった。令も納得いかないような顔でそれに続く。
玄関に入ると、暖かい空気が流れホッとした雰囲気になり、二人は靴を脱いで広間へと向かう。
取り留めの無い会話をしながら広間の近くまで来ると、突然広間の襖をぶち破って太郎の体が廊下へと飛び出した。
体が帯電している所から見て、大方紫に殴られたのであろう。そして、襖の奥から現れたのは殴った張本人、鳴神紫。
紫は涙目で太郎の体をゲシゲシと蹴ると、ようやく莉王と令に気づいてようで、
「お、兄ちゃん久しぶりやん」
「相変わらずだな、紫。今度は一体何なんだ?」
「あたしが、折角令との子供作ってな。これから養育費やら色々かかるゆーてるのに、
太郎があたしから根こそぎお金奪ったんよ。あたし、所持金0円やで!
どうやってこれから働かない夫と子供育てていけばええんかわからなくなって、つい……」
「令、貴様……紫を孕ましておいて、働かないだと……?」
「僕の名誉の為に言っとくけど。紫ちゃんが言ってるのはボードゲームの話ね。
なーぜか、僕が旦那さん設定になってるけど、実際はありえないから」
「うわー。令、マジでつまらんわそのリアクション。やっぱ関東人はだめやね」
「駄目で結構」
そんな言い合いを続けていると、奥の広間から莉那と灼汰が不思議そうな顔をして出てきた。
そして、父親の姿を見つけ、顔を輝かせると嬉しそうに二人は抱きつく。
莉王も莉王でそれが嬉しいようで、少し令達の手前、恥ずかしそうに顔を赤らめると、
「ママが居ないのに、一緒に居てやれなくてすまなかったな」
「別にいいよー。由加おねえちゃんが居てくれたし、令くんたちもきてくれたからね」
「それよりもパパ! お土産はあるのー?」
「うむ、あるぞ。お前達の為に特注で作らせたチョコレートケーキだ。由加に切って貰いなさい」
「わーい」
「あーくん。危ないから、おねーちゃんと一緒にもってこ」
「うん」
莉王からケーキの入った箱を受け取ると、莉那と灼汰は仲良さげにケーキの箱を持って台所へと向かった。
それを見届けると、莉王は令と紫に改めて向き直り、
「良し。これからどちらか酒に付き合え。由加も交えて久しぶりに飲むぞ」
「んじゃ、僕付き合いますよ。莉王兄ちゃんにいくつか話すこともあるしね。
というわけで、紫ちゃん。明日の運転よろしく。後、太郎君を布団に運んであげて」
「へーい。あたしはりー達からケーキ分けてもらったら、もう寝るわ」
「じゃあ、また明日」
「うん。おやすみー」
紫は太郎の足を持つと、そのまま引きずりながらキッチンの方へと向かう。令はそれを
ヤレヤレと言った顔で見送ると、莉王と一緒に部屋へと向かった。
翌日の昼頃、莉王と由加と共に明け方近くまで飲んでいた為、令はフラフラになりながら、身支度を整えていた。
朝まで一緒だったにも関わらず、しかも自分よりかなり多く飲んだ筈の由加と莉王は、ケロッとした顔で立っていた。
大学の友人の中でも一、二を争うほどの酒豪である令だが、上には上がいる事を悟った。
そして、全ての荷物を積み終えると、
「それでは、お世話になりました」
「うむ。困った時は、いつでも来い。四条はお前達を永遠に歓迎する。
それで、これからお前たちはどこへ行くのだ?」
「とりあえずー。反応が下の方なんで……近さで言うなら浅葱方面やね」
「……何の事かさっぱりだが、まぁ頑張るがいい」
「わーってるよ。兄ちゃん。由加さん、また報告入れますわー」
「うん。止めは私ね」
「わかっとりますよ」
(ああ、今度こそ神璽さん殺されちゃうかもな……)
由加と紫の会話を聞きながら、一人冷や汗をかく令。特に、紫が本気を出す事になれば、自分にも被害が来る。
ただ、全力で攻撃しなかったとはいえ、相手はあの榛名神璽だ。死線を潜り抜けた数が違う。
もしかしたら、本当に紫の本気を見る事があるかもしれないのも事実。
(とりあえず……一回捕まえないとな)
会話も終わったようなので、令は助手席へと乗り込み紫も続いて運転席に乗り込んだ。
太郎は昨日の気絶が長続きし、まだグッタリとした感じで後部座席に収まっていた。
莉王と由加に手を振って挨拶をすると、紫は車を発進させる。
姉の影響を受けている所為か、紫もかなりの車好き。ガンガンとスピードを上げて、
四条家から出て行くと、後は感覚に任せてその方向へと進む。
「紫ちゃん。次はどの辺り?」
「ん〜……近さで言えば、浅葱家がある辺りや。何で、あないなとこ向かってるんやろ?」
「わからないよ。それにしても、神璽さん。ユニオン関係の場所ばっかり回ってるなぁ」
「……ユニオンって何や?」
「ゆ、紫ちゃん……九我山関係なのにユニオン知らないの?」
「千島の蒼二さんが作った草野球チームだっけ?」
「違うよ! 鬼神、純血、混血を区別しない世界を目指す組織の事だよ。まだ、完全には発足してないけど。
実際動き出すとなると、十名家の十文字派と渡り合えるぐらいの戦力を持ってるんだよ」
「ふぅん……そら、どえらい組織やねぇ」
そう言うと、紫の目が細められた。これは、もうその話は聞きたくないという紫のサインのようなもの。
長い付き合いだからわかる。紫が今、何を考え、何故この話を聞きたくないのかが。
だが、それは口にだす必要が無いので、令は軽くシートを倒して、横になった。
しばらく無言が続き、スピーカーからラジオが流れる音だけが車内に響く。
三時間ほど経っただろうか、令が眠気にまどろんでいると、令の携帯がメロディーを奏でた。
「誰だ?」と眠そうにディスプレイを見つめると、そこに表示されていたのは「お姉ちゃん」の文字。
一瞬で眠気が覚めた。震える手を抑えながら、電話を取ると、
「も、もしもし?」
「ああ、令か。私だ、久しぶりだね。紫と太郎とは上手くやってるかい?」
「うん。ぼちぼちね。お姉ちゃんの方も変わりは無い?」
「ああ。北斗も南斗も洒落にならないぐらい元気だし、時雨はカッコいいし」
「相変わらず、義兄さん大好きなんだね」
「心から愛してるよ。さて、ここからは真面目な話だ。
お前達が九我山から出てるのは莉王からさっき聞いたよ。今は浅葱に向かってるそうだね?」
「うん。そうだけど……何か浅葱に用事でもあるの?」
とりあえず、コアの事がバレていない事に安堵の息をつく。紫もさっきからビクビクしながら
こっちを見ているため、サインで大丈夫と示すと、再び会話に集中。そして、律が言ったのは、
「浅葱が他勢力から襲撃を受けている。至急、浅葱本邸へと向かってくれ」
「ええ!? それ、本当?」
「ああ、さっき梨香から救援要請が届いた。"あの二人"が向かったから心配ないと思うが、
一応の保険として、お前達も手伝いをしてやってほしい」
「ん。わかった。じゃあ、全力で向かうから一旦電話切るね。報告はそれだけでしょ?」
「ああ、無事を祈っているよ」
令は電話を切ると、紫に目配せを送る。会話の内容は聞こえていたのだろう。紫も表情を引き締めて、
車の速度を上げ、突然窓を開けると上空をにらみ始めた。
「……どうしたの?」
「何か、キナ臭い話になりそーやね。令、上ちょっと見ててみぃ」
紫がそう言うと、上空のとある一転に紫が放ったであろう、雷が迸った。すると、景色が歪み、
一瞬だけ見えたのは、空を飛ぶ白い船。それには見覚えがあった。
同じ十名家に所属する、傀儡の一族一之瀬家の長女、一之瀬凛の式神【空船】
「あの一之瀬が居るなんてね……どうやら、もう一悶着ありそうだね」
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