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今回で、千島蒼威については、
自分の中で書きつくせたと思ってます。

ちょい暇がなくてブログの方で投稿日告知
出来ませんでした。すいません。
第38話:愛してるぜ、クソったれ共




 

 千島蒼威と十文字戒は、実に対照的な態度で向かい合っていた。蒼威はリラックスした体勢で、煙草を咥えてヘラヘラ笑っている。
 対する戒は、いつでも動ける体勢で、表情を引き締め蒼威の動きを一瞬でも逃さないようにと、集中している。
 二人がこう相対するのは、約十年ぶり。神々の黄昏事件の時以来だ。それを思い出したのか、蒼威は口を開き、

「久しぶりだな、十文字の坊ちゃんよ」

「ええ、本当に久しぶりだ。十年前も同じような光景だったな。周りには瓦礫ばかりで、俺とアンタの二人だけだった」

 戒がそう言うと、蒼威は我慢できなかったように噴き出し、

「ぶははっ! おい天音ぇ! お前、存在を忘れられてんぞ」

 少し離れた場所で瓦礫に埋もれていた天音へと声をかけた。それを聞いた天音は、恥ずかしさと
 蒼威の全くの緊張感の無さに、呆れを通り越した怒りを覚え、

「どうして貴方は一秒でいいから、真面目になるって事が出来ないんですか!?」

 と怒鳴り返す。

「うぉ。マジで怒るなって。……へいへい、真面目にやりますよーだ」

 そして、次の瞬間。蒼威が目にも止まらぬ速さで動き、戒へと接近。完全に虚を突かれた戒は、慌てて臨戦態勢に入るも
 緋眼使いである蒼威はその頃にはもう、回し蹴りのモーションに入っていた。何とか、ギリギリで受け止められるといった所。
 戒は魔具の膜を張って、衝撃を殺そうとするがその時にはもう既に、蒼威の式神、大我の剣が背後に迫っていた。
 迷ったのは一瞬。風の力を自分自身にかけて、戒は勢いよく空中へと飛翔。だが、蒼威もそれだけでは終わらない。
 すぐさま大我の足場を形成し、それを飛ばして同じく空中へ。戒もそれを予測していたのか、五指に火を灯し、巨大な火球を撃つ。

「はっ」

 蒼威の周囲に現れた五つの銀色の球体が、風呂敷のように大きく広がり、火球を完全に受け止め、或いは受け流した。
 その間に戒へと接近し、足場の二個の大我を翼へと変え、残りの二つを長さの違う剣へと変えた。
 戒も接近戦になる事を見越し、コートから大剣の魔具を取り出す。そして、ぶつかり合う刃。蒼威の連激にも戒は必死に
 くらいつき、攻撃の終点が見えると一気に薙ぎ払うような一撃。それと同時に衝撃波が発生し、蒼威にそれはぶつかった。
 だが、全く引かない。若干のダメージはあったようだが、蒼威はそれに耐え、戒へと接近すると、

「痛ぇな」

 と言い、袖口から隠してあった最後の大我を射出。銀色の球は戒の腹部を直撃。そのまま吹き飛ばし、
 
「まだまだァ!」

 更に蒼威の掛け声と共に、八つの大我があらゆる武器に変化しながら戒を追いかけて行く。
 戒は何とか空中で体勢を立て直すと、蒼威の大我の迎撃体勢を取る。縦横無尽に駆け回る武器達は
 非常に厄介だ。全力で行くしかない、そう判断し、森羅万象の力を一気に放出した。あらゆる属性の力が大我達に
 襲い掛かるも、蒼威もそれに負けないように全ての大我に意識を集中させて、戒の攻撃をかわしていく。

(っ……なんて式神だ)

 内心そう毒づく戒。大我という式神は、力という点で見ると普通の式神だ。属性の攻撃も無い。ただ、自在に変化
 出来るだけ。それでも、千島蒼威がそれを使うと最強クラスの式神となる。緋眼を使い、全ての動きが遅く見得る事に
 よる操作性の向上。更に、十数年培ってきた変化の早さ、奇抜さ、精密さ。そして、長年戦ってきた経験。 
 それら全てが揃った大我はあらゆる属性の力が使える戒の式神と同格以上。戒の心が急速に冷えていく。

「仕方ない……か」

 元より、ユニオンを完全に潰すという事はしたくなかった。ユニオンが生まれてからは、十名家の日本管理の
 負担もずっと減り、内輪でのしょうもないいざこざも少なくなっている。十名家を束ねるものとしては
 負担が減るのは嬉しいし、教会のような海外の大勢力も数年前とは違い、おいそれと手を出せなくなっている。
 だが、自分の邪魔をするのならもう容赦はしない。殺して、殺して、二度と立ち向かえなくしてやる。と戒は決意。

「森羅万象」

 蒼威への攻撃を一時中断し、戒は右手に炎の力を宿す。そして──

「出て来い、魔具」

 周囲の反意思を集めて、数十ものナイフ型の魔具を作成。そして、右手をナイフにかざして炎を灯す。
 森羅万象の力がナイフに宿り、次の瞬間。戒の命令に従って、蒼威目掛けて燃え盛りながら襲い掛かる。
 当然の事ながら、蒼威は燃え盛るナイフを睨みつけると、大我を一つ剣に変えて、ナイフへと接近。
 緋眼を使い、数本のナイフの斬撃を楽々と避けると、一本ずつ破壊しようとした──
 
「なっ──!?」

 ナイフが突然爆発。莫大な森羅万象の炎が蒼威へと襲い掛かった。だが、それだけでは終わらない。
 更に蒼威の四方に今度は槍の魔具を作成し、今度は森羅万象の電撃を纏わせて、炎の中へと射出。
 一瞬の鈍い音の後に、炎の中に電撃が迸った。続けて、風の斧。氷の剣。四つの属性の武器が全て蒼威を
 殺す為に襲い掛かっている。これが、十文字が最強と呼ばれる理由。式神プラス魔具という反則的なまでの威力。
 流石にアレをくらっては自分自身でもひとたまりが無い。と、戒は自分の力の威力に、少しの戦慄を覚えた。

「ふん……」

 そして、コアを回収しよう。そう思い、ゆっくりと地上へ降りていこうとする戒。その時、

「おい、コラ! 勝手に終わらせてんじゃねーよ」

 軽口の後に、銀色の丸い形をしたモノが四つの属性の中から現れた。表面は焼け焦げ、斬撃の後が
 痛々しいほどに残っている。そして、その丸い物体は二つにぱっくりと割れると、その中からは無傷の千島蒼威の姿。
 流石の戒もこれには開いた口が塞がらなかった。蒼威の大我という式神の耐久力の異常さが信じられないといった感じである。
 
「アンタ……あれを耐え切ったのか?」

「おう。結構面白かったぜ。氷の力なら、ウチの息子の方が間違いなく威力は高かったけどな」

「化け物め……」

「そりゃ、お互い様だ。さて、反撃行くぜぇ!」

 再び蒼威は緋眼を発動し、今度は戒へと接近。十個の大我のそれに続く。二つは蒼威の飛行をサポートし、
 四つは攻撃用に、後の四つは蒼威の身を守る為に、といった布陣だ。まず最初の二つが一気に戒へと襲い掛かり
 おとりの役目を果たす。様々な武器に変化し、絶え間なく襲い掛かり、思考する隙を与えない。
 そして残りの二つは、守りの四つと結合し、三対三力の割合で、二つに分かれると、近くにあった巨大な残骸二つへと
 球体から線のようなものを飛ばして、残骸へと巻きついた。そして、蒼威は一気に距離を詰めて戒と近接戦へ。
 攻撃していた大我を手に取り、斬撃を戒へと浴びせる。戒も魔具製の炎の剣を振り回して、身を守るが蒼威の方が
 剣の腕は上だった。次第に追い詰められていった戒は、一度距離を取ろうと、十指に炎を灯して、全力の炎を解き放った。
 流石の蒼威でもこれは耐え切るのは厳しいので、一瞬で移動して何とか炎の範囲から逃れる。戒もそれを確認すると、
 距離を取ろうと後ろを振り向くと──

「うぉ!?」

 何時の間にか巨大な瓦礫が背後から迫っていた。その瓦礫に巻きついているのは、弦のようにしなやかで、常識では
 考えられない強度をもった銀色の線。大我だ。ピンと張られて、奥の方にある回転している大我に振り回されているのだ。
 更に横からも気配。もう一つ、同じような瓦礫が戒へと迫っている。式神では今から十分な威力は出せない。
 咄嗟に手の平から爆弾の魔具を作成し、二つの瓦礫目掛けて投げつけた。数瞬後に爆発が置き、瓦礫は破壊したものの
 今度はその爆発の中から、先ほどの二本の線が延びてきて、戒へと巻きついた。

「しまった……」

「ちゃーんす!」

 思うように身動きが制限された戒へと蒼威が迫り、まずは顔面に一撃。更に、ボディーへと拳を二発。
 前のめりになった戒の頭を掴み、大我の勢いも使った膝蹴りを叩き込むと、空中用の二個以外の大我を全て
 集めて、右腕へと集中。巨大な拳を作り、戒の体を地面へと叩き落とした。どうにか、魔具の膜を張って
 地面への直撃を避けた戒は大地にめり込みながら、空を見た。遠くはなれた上空では、仲間達が必死に
 Gateを守っていた。全ては、戒と、希と、未希の為に。──こんな所で間誤付いている暇は無い。
 再び闘志が燃え上がり、戒は痛みを堪えて立ち上がると、ポケットに入っていた転移用の魔具を投げ捨てた。
 すると、自動で魔具達は戒の周りを囲うようにして、地面へと突き刺さり、起動を始めた。

「おいおい、逃げんのかぁ?」

 蒼威はゆっくりと戒の正面へと降り立ち、不満そうに口を尖らせる。戒はその言葉に、ふっと笑いをこめると、

「十分だ。それで、アンタと決着をつけてやる」

「上等!」

 時間が惜しいとばかりに、蒼威は緋眼を発動させて駆け出した。そして、再び始まる猛攻。
 先ほどまでとは違い、地上戦。大我は全て違う形の武器に変化し、蒼威の周囲へと漂っている。
 だが、それが厄介。目にも止まらぬ速さで蒼威は武器を掴み、様々な攻撃をしかけてくる。
 それに対し、戒は正面から挑まなかった。靴を魔具製のローラーへと変え、機動力を上げ、蒼威の猛攻を凌ごうとする。
 だが、蒼威もそれでは終わらない。緋眼の昇華型、終式を使い、更に速度を上げて戒へと接近。
 大我を一つ、槍の形に変化させると、戒の腹部へと突きを一撃。次に、柄の部分で頭を勢い良く殴りつけた。
 戒はそれを紙一重でかわし、自分の肌に先端が刺さるのも気に留めずに、槍を掴むと、魔具の力を発動。

「これは、初めてだろう!」

 大我の表面に小型の装置が出現し、だがそれは一瞬にして大我へと飲み込まれると、次の瞬間に爆発。
 大我の一つが跡形も無く飛び散り、蒼威は式神が破壊されたダメージが本人にフィードバックし、顔を顰める。
 が、それでも引かない。大我を四つほど操作し、それらは空中から戒を襲う。

(む……)

 四つの斬撃を風の力を使い、かわすと戒は一つの事に気がついた。それは、十年前に戦っていなかった
 ら気がつかなかったと思える事。明らかに、あの時と戦いのスタイルが違うのだ。千島蒼威は非常に強かな
 戦い方をする。勝負を急がないタイプだ。猛攻の間にもじっくりと戦術を練って次の展開を考えているような男だったと
 記憶している。だが、今は違う。獣のように荒々しい。十年前と、今と。何が違うのか。そして、答えは出た。
 森羅万象の中でも余り使うことの無い、大地の力を使い、地面を蹴ると、蒼威目掛けて大量の石礫を浴びせかけた。
 蒼威はそれにすばやく反応し、大我で全て防御。その瞬間を、戒は見逃さなかった。今の一瞬の中で、蒼威が一番最初に
 守った場所。そこから今の状況を比較してみると、一つの事実が浮かび上がった。戒は足を止めて、魔具の剣を抜くと、
 蒼威を迎え撃たんと構えをとる。蒼威も両手に剣と刀。更に斧や特大ナイフを引き連れて戒へと接近。

「ハッ! よーやく、やる気になったか」

「フン……」

 やはり正面からでは勝ち目は薄かった。緋眼の速さに戒がついていけるわけもなく、一瞬で全身を切り裂かれ、
 戒は血を撒き散らして、吹き飛ばされた。殺すつもりはないのか、致命傷には至っていない。
 それが、蒼威の敗因。この勝負、自分の勝ちだと戒は確信して、こっそりと仕掛けてあった魔具の力を発動。
 大地から鉄アレイに似た魔具が飛び出し、蒼威の足目掛けて襲い掛かる。だが、それを蒼威は避けた。
 無理矢理足を曲げて、器用に魔具をかわすも、魔具は音波のような衝撃を蒼威の足目掛けて放った。
 一瞬の痛み。だが、蒼威はそれを堪えると、大我をハンマーの形に変えて、魔具を一気に叩き潰した。

「ふぅ……危ねぇなァ!」

 そして、体勢を立て直した戒に再び襲い掛かろうと走り出した瞬間、蒼威の破れたズボンの隙間から鮮血が噴出した。
 それを待っていたとばかりに、戒は魔具の剣を振り上げ、蒼威の胸を正面から切り裂く。だが、紙一重の所で
 かわされて傷口が浅い、剣を投げ捨て両腕を突き出すと、森羅万象の力を使い、燃え盛る氷を顕現。
 そのまま燃え盛る氷は、無防備な蒼威の胸元へと直撃し、蒼威はボールのように勢い良く、瓦礫を破壊しながら転がっていった。
 それを見届けると、出血箇所を魔具で何とか応急処置をしながら戒は歩き出し、語る。

「アンタは確かに最強の式神使いだよ。正直、十年前にあのままやりあったら負けていたのは俺だった。
 だが、今はアレから十年経った。……十年って長いよな。俺の大切な娘は、来年度から中学生だ。
 ようやく、希に会わせてやれる。長かった、本当に長かった……」

 蒼威の返事は無い。血に塗れた瓦礫にもたれ掛かったまま動かない。そして、戒はもう一人。
 蒼威の部下らしき女に目をやるが、完全に状況についてこれないようで、口を開けたまま硬直している。
 あの様子なら問題はない。と結論付け、戒は更に語りだした。

「……アンタの緋眼は確かに強力だ。ある状況下では、魔具よりもよっぽど強い力だろう。
 だが、強い分負担も大きい。紡によると、昇華型もあるそうだな。あの極限の速さがそれなんだろうが。
 今回はそれが、勝敗を分けた。────アンタ、もう緋眼に体がついてこないんだろ?」

 いかに蒼威が異端であろうとも、歴代の千島の中でも最高の力を持っていたとしても、年には勝てなかった。
 五年程前から、前のように蒼威は緋眼を使うのが難しくなっていた。医者にも、もう数年以内に緋眼に体が
 ついていかなくなるとも言われた。だが、千島蒼威という人間はそんな小さな事は気にしない。
 守るべき者の為ならば、たとえ数十分でも戦える体に仕上げ、後の事は全く考えない。そういう生き物なのだ。

「元々アンタは体格がそれほど良くない……よく、今まで戦ってきたと思うよ。
 ……ああ、認めよう。最強の式神使いは、俺なんかじゃなく、間違いなくアンタだよ。千島蒼威」

 そう言うと、戒は踵を返して転移の魔具を起動させようとした。蒼威は、傍にいる女が助ければ何とかなるかもしれない。
 だが、死ぬかもしれない。戒にとってはどちらでもいい。だが、これだけ凄い。と思える男を自分で殺すのは
 なんとなく気分が乗らないのだった。そして、反意思を散布し、いよいよ転移の魔具が活動を始めたときだった──

「おい……」

 いきなり襟を掴まれ、一気に戒は引き寄せられると顔面を一発殴られた。そう、戒を殴ったのは
 信じられない事に、今も体中から出血を続けている千島蒼威だった。

「なんだと……?」

「まだ……決着はついてねぇぞ……」

 と威勢の良い事をいうも、蒼威の体は満身創痍。立っているのも辛そうなほどだ。

「……っ。何故、立ち上がった」

「まだ、終われねぇんだ……何もわかってねぇバカが、まだ立っていやがるからな……」

「アンタにだけは言われたくないな……」

 戒がそう言うと、蒼威は先ほどまでとは違い、真面目な顔で一つ、話を切り出した。

「人生の先輩として……一つ教えといてやる。今日の……テーマは、親と子についてだ……。
 俺ぁよ、子供の力ってスゲェと思う。今回のテメェらが起こした事件だって、お前の話しぶりから察するに、
 お前の娘の為だそうじゃねーか。はっ……! スゲェな。……親にこんな大事件起こさせるんだからよ」

「そう、全ては、あの子の為だ。幼くして、母を理不尽な理由で、奪われたんだぞっ!?
 あの子がどれだけ辛かったと思う! どれだけ、母親に会いたかったと思う!
 良い子だからな。あの子はそんな事を億尾にもださなかった。ずっと自分を殺して、生きてきたんだ!
 だから、俺はこの世界に再び反逆する。理不尽には理不尽で! 反意思を使って! あの子のあるべき幸せを取り戻す!」

「気持ちはわかるぜ……そりゃ、親は子供の為なら何だってできるよな。生憎、俺は少し前にそれを自覚したわ……
 全てを与えてやりたい。幸せにしてやりたい。今だってそう……息子や娘の為に、俺は戦ってんだ……」

 蒼威はそこで一旦区切ると、口から血の塊を吐き出し、語気を強めて再び喋りだした。

「だけどなァ! ……間違ったモンを子供にやっちゃぁよォ! 本当の幸せなんざ……一生こねェぞ!
 お前は戦士としちゃ、一流だが……親としては二流だ! ホントに、これで全部幸せなんて思ってんのか!?
 親がこんなバカな争いをしてるってのが、本当の意味で、テメェの娘の幸せに繋がると思ってンのかよっ!」

「アンタに……何がわかる……っ!」

「わかるさ。俺だって……人の親だ」

「……っッ! バカにするなァ!」

 戒は怒りのままに、蒼威を殴りつけた。腹部に一撃、顔に三発。最後に思い切り瓦礫に叩きつけて、
 大きく肩で息をする。蒼威の言葉の意味がわからない。あの事件さえなくなれば、希も生きている。
 反逆の十文字事件も起こらない。自分達が殺めてしまった人間達もまだ生きているのに。と頭の中で
 正当化の理由を並べていく。心の奥底では戒もわかりたい。だが、蒼威の言葉を正面から聴いてしまっては
 全てが台無しになってしまう。体を張ってくれている仲間も、未希の幸せも、どんどん遠のいてしまっていくのだ。

「何が悪いってんだよ……娘を幸せにするのが……そんなに悪い事なのかよ……」

 そう、吐くように呟くも蒼威は再び立ち上がると、バカにしたような顔を作り、

「はっ……。お前、娘の事何にも考えちゃいねーよ……そこにあるのは、正当化したいテメェの心だけだ。
 俺だったら……もし、嫁さんが……死んじまってて……ウチの次男坊が会いてぇって言ったら、正面から向き合うね。
 話して、話して、お互いが納得できるまで話して……んで、母親の分もいっぱい愛してやるさ! 嫌になるぐらいなァ!」

「…………っ」

「結局テメェは娘の気持ち理解できてんのかよ! 幾ら自分のためにしてくれるとはいえなぁ……!
 ……父親がこんな人殺しの種振りまいてるの知ったら、お前の子は、どんな気持ちになると思ってんだよ!」

「何も……何も知らない癖に……」

「知らねぇよ! 知ってどうする! 同情しろってか!? いよいよバカな親だな! テメェも!
テメェは本当に娘の事をきちんと考えたのか? 目先の未来だけじゃねぇ、これからずっと生きていく未来を!
喜ばせてやるだけが、親じゃねぇんだよっ! 右も左もわからねぇ子供に、道を示すのが本当の親じゃねぇのかっ!?」

「何も……何も知らないくせにッ!アンタが勝手に未希を語るなぁァァッ!」

 全力で撃った。森羅万象の四つの属性を。まともにぶつかれば、ただではすまない威力で。
 だが、蒼威はそれを半分くらいながらも、自身の血塗れの拳を振りかぶり、戒の顔面を殴りつけた。
 よろめいた戒は、まだ威力の余韻が残っている手で、転移用の魔具に手を突いてしまう。そして、鳴り響く警報。
 転移用の魔具が不安定な動作を起こし、周囲一体が光り輝き始める。そして──一瞬の閃光の後に、
 戒は自分の家の近くで、へたり込んでいた。周囲には、ユニオン本部にあった瓦礫と、半分壊れた転移用の魔具。
 蒼威の姿は見えない。一緒にいた女の姿も見えない。何か、幽霊をみたような気持ちで、フラフラと戒は自分の家へと歩き出す。
 先ほど蒼威が怒鳴っていた言葉がまだ耳に残っている。それから逃げるように、戒は次第に走り出していた。





 戒から離れること数十メートルほど、千島蒼威は先程よりも酷い怪我で、瓦礫に半分体を埋もれさせていた。
 体がピクリとも動かない。体がどんどん冷たくなっていく。これが、死期か、と自嘲気味に笑い、煙草を吸おうとするも
 指の一本すら動く気配がしない。仕方がないので、千島蒼威は何かを考えることにした。
 すると、一番古い記憶が蘇ってきた。これが、走馬灯かとまた笑う。だが、出てきたのはロクでもない記憶ばかり。
 言いたい事も言えない。無視され、空気のように扱われる少年が居た。そんなある日、聞こえてきた荒々しい自分の声。
 その日から何かが変わった。最低でも最高なバカが二人。魔女のような女。女顔でエロい先輩。常識外の生物。
 大人しい女の子。皮肉気な声。大人びた可愛い子。名は遥。強いけど根暗なバカ三号。そして、
 何よりも嬉しかった双子の娘と息子。まだ幼い男の子。それからも続く、様々な顔。
 ──悪くは、なかった。最低でも、最高で、何時も、何時も、バカみたいに傷だらけだった一生だったが、それでも良い。

「──────も」

 伝えたいことはまだあったが、ここでもう自分は終わりだろう、と笑う。
 最後の最後で蒼威は意地の張り合いに負けたのだ。それよりも、今は気になる事がある。
 遥は許してくれるだろうか。蒼二はちゃんとユニオンを運営していけるだろうか。遥緋は病気になったりしないだろうか。
 光希はまともに育ってくれるだろうか。陸人は離婚しないだろうか。森羅は子育てがちゃんとできるだろうか。
 それと同時に心配事も多い。まだまだ、自分が居てやらにゃ駄目だと思うも、もう、限界が近い。
 唯一誇れるのは、自分は父親を超えたという確信がある事。子供が笑えない千島ではなく、笑える千島を作れた。
 静かな会話の無い家庭じゃない。騒がしくてトラブルも多かったが、笑いの絶えない家庭を作れたのだ。素直に誇れる。

「──愛してるぜ、クソったれ共」

 もう一度同じ言葉を呟き、蒼威は笑ったままゆっくりと目を閉じた。







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