クライマックス突入です。
ここらで一気に畳み掛けたいトコですが。
相変わらず、忙しいという現実orz
第35話:約束の空へ
──凛ちゃん。遊びにきたよ!
希は、とても心が綺麗な子でした。彼女を知っている人間なら、誰でもそれを知っている筈です。
悪意なんて持った事が無い、とっても綺麗な心。誰かが困っていれば、どんな人でも見捨てずに助ける。
正に、慈愛に満ちた少女でした。
──凛ちゃんー?
そんな希の事が私は大好きでした。家族よりも、大事だったと言えるでしょう。でも、心の奥底では
私は希に嫉妬していたんです。自分も、あんな美しい心が欲しい。あんな風に生きてみたい。
それは、希と関わった誰しもが一度は思う事ではないのかと、今ではそう思えます。
──あはっ。無視しないでよ。今日はね、プレゼント持ってきたんだよ。
希は全てを手に入れてました。暖かい家族。大切な恋人。そして──もっとも愛おしい娘。それもたった数年で。
それに比べ当時の私は──何も持っていませんでした。一之瀬史上、最も力が無い式神使いでした。
ある意味では私と戒は似ていました。戒は無能と決め付けられ、私はそのまま無能という事実。
──凛ちゃん? 泣いてるの?
私の式神は、戦闘能力が皆無に等しかった。手の平に金色の光を集めて、それでモノに触れるとそれを操作できる力。
正直な話。一之瀬の傀儡の力と殆ど変わりません。威力だけで考えてみると、傀儡の方が力強かった位です。
その事を、新しく入学した学校のクラスメイトに陰口を叩かれ、、私は一人落ち込んでいました。
曰く、同じ十名家なのに、九我山さんの方がずっと強い。そして、当時の私は、お世辞にも社交的とは言えませんでした。
逆に、律さんは馬鹿みたいに人気がありましたので、私は格好の標的だったのでしょう。女子校では日常的な事です。
──でも……悔しかった。何度、教室を抜け出して泣いたことか。もう、限界だったのです。
私はしつこく事情を聞いてくる希に、やけくそで全てを話しました。バカにしたいなれば、お前もすれば良いと言う感じで。
……思い返してみれば、私は愚かでした。私のこんな……こんな駄目な式神を初めて凄いと言ってくれたのが、希だったのに。
「何時か、でっかい飛行機を動かして、一緒にお散歩したいね」
それが希の私の式神を見た時の感想でした。その言葉に、どれ程救われたか。どれ程心が軽くなったか。
そんな事も全て忘れてしまっていた私は──
──凛ちゃんの式神は無能何かじゃないよ! 私が保証してあげるから! ね、元気出して!
──うるさいわよ……
──え……?
──貴女みたいな悪鬼に保証されて、何になるっていうのよ!? 人間じゃ無いくせに、知った風な口を利かないで!
その、最低な一言を発端に私は爆発してしまいました。あらん限りの言葉で、希を罵倒し、傷つけました。
どの位怒鳴っていたかは覚えていません。私が疲れて喋るのを止めると、希は何時ものように笑ってました。
その瞳に大粒の涙を溜め、悪鬼でごめんね。と笑うと、希は私の前から走り去って行きます。
呆然とする私に残されたのは、どうしようもない罪悪感と、希が私に持ってきたプレゼントの入った袋だけ。
「私は……」
取り返しのつかない事をしてしまった。だけど、希に会うのが恐い。あんな酷い事を言ったら流石の
希でも怒ると思っていた私は、ただ家の中で泣くだけでした。それが、そもそもの間違いだったのです。
式神は自分の根源なのです。存在の力だと私は解釈しています。こんな矮小な私に、強い式神が在るわけがないのです。
戒や遠音や四つ子ちゃん達は力が強い。それはある種の心の強さでは無いのでしょうか。あんな事があったわけですからね。
だから私だって──このままじゃ駄目でした。変わる必要がある。そして、今度こそ希に謝りに行こう。そう考えてた矢先、
「凛……希が……消えちまった……」
旅行へ行っていた筈の戒達がズタボロに打ちのめされて、一之瀬家へとやってきました。その直後です。
お父様達から戒達が一つの町を消滅させた事を聞いたのは。結果、戒達は身柄を拘束され、十名家会議へと出廷。
結果的に戒達は無罪となり、十名家の私達十文字派が金と権力に物を言わせ、全ての後始末を行いました。
その時の私はと言うと──抜け殻でしたね。朝から晩まで泣きじゃくり、希へと必死に謝り続けていました。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
どれだけの謝罪の言葉を述べようとも、彼女はもう帰ってきません。私達は、永久に喧嘩したまま終わったのです。
厭らしい私は、どうにか償いたくて未希の世話を率先して行いました。希にそっくりな未希に許しを請いたいのでしょうか。
よくわかりませんが、私は愛情を持って未希の世話に従事しました。未希の為なら、何だってしました。
お父様達から存在を疎まれても、一之瀬の仕事を投げ出してでも、これが私にできる唯一の罪滅ぼしです。
全てを失っても良いから、私は未希にだけ愛を注ごう。ですが、その内に遠音が退院し、十文字家に住む事になった
ので、段々と遠音に未希の世話を任すようになった私。それでも、出来るだけ未希に何かしたかったのです。
「凛。無理だけはするなよ……誰も、悪くないんだ。無理に自分を責めるのは良くない」
「わかってます……」
「私だって悔しい。希のお陰で、また笑えるようになったのに。生きる力を取り戻す事が出来たのに──っ!
その笑顔も、力も、希を守ってやれなかった。だったら、こんな笑顔と力に意味はあるのかと問う毎日だよ」
遠音も相当苦しいみたいでした。遠音の式神は希と一緒に召還したようです。ですが、その力を使えなかった。
希が与えてくれたのに、何も使えなかった。私だって──とまで思った所で、一つの事を思い出しました。
あの日、希がくれたプレゼントの中身は何だったのでしょうか。慌てて家に帰り、机の引き出しにずっと保管
していた包みを開けるとそこには──工具セットが入っていました。私がプラモデル用に欲しかったヤツです。
慌てて電話をかけて、戒にその事を聞くと、
「……大切にしてやってくれ。希が初めて、自分で稼いで買ったプレゼントなんだ」
涙が、零れました。安物ですが、希は私の為を思って、頑張ってこれを届けてくれたのに私は──
工具セットを抱きしめて、しばらく泣いていると、もはや迷いは無くなりました。
式神の力を発動させ、光を手に宿らせます。そして──その手に希の工具を持ち、心を込めてプラモデルを作っていきます。
一パーツ一パーツ心を込めて。そして、力を使って完成した始めてのプラモデルが後に私の式神名となる【空船】。
希と一緒に飛べるように。また希と一緒にそこでお話できるように。心を込めたら、式神はそれに答えてくれました。
そして今、私は──百隻以上の空船に囲まれています。全ては、この日の為に、と心をこめて作った傑作集です。
「希──約束、守るから。帰ってきたら、今度こそ一緒に飛ぼうね」
一番大型の空船に乗り込み、全ての空船と感覚を繋ぐ。それだけで、その周囲にあった小さなプラモデル達が
浮き上がりながら、次々と巨大化していき、私達の約束の空へと上昇していきました。
十文字家の屋上から、次々と空船が上昇していくのを見て、戒も森羅万象の力を使い、上昇。
現在の十文字家の周囲には、三つの柱が立っている。戒と四つ子達で作った、今日の為の魔具である。
それを見た後、もう一度周囲を確認。すぐ近くには、ボードに乗っている遠音。空船の先頭付近には、
黒龍。その背中の上には、雨龍と千里と颯太が乗っている。そして、自分達より更に前の場所には紡の姿。
此方の準備はほぼ万全だろう。後は、四つ子の作業を待つだけである。
「皆。こっちは準備完了。──そ、そろそろ、ゲートを開けるよ?」
千春の少し震えた声が、周囲一体に響き渡る。その言葉に、戒達は緊張した面持ちで無言の肯定をした。
譲れない思いがそれぞれにはある。ユニオン側もそうであろう。だが、こればかりは負けるわけにはいかない。
全てを奪われ、唯一の娘の些細な願いですら叶えられない世界なんて認めない。戒は息を軽く吸い込み、
「皆、行くぞ──っ! 希を、世界から取り戻すんだ!」
そして、空中に魔具で作られた巨大な門が現れた。それはゆっくりと開き、その奥の風景、ユニオン本部を映し出す。
凛の空船を先頭に、次々と仲間達がその門を通り抜けて、ユニオン本部付近へと空間転移をした。
戒もすぐに速度を上げて、門を潜りぬける。一瞬の眩暈の後、すぐに景色が変わり、かなりの量の式神の力が襲い掛かってきた。
「流石に、読まれていたか……」
目標の結晶及びコア輸送トラックが先程確認した時とは違い、停車していた。そして、その付近には既にユニオンの布陣がひいてあった。
何人もの式神使い達が次々と攻撃してくるが、戒にとってそれは大した脅威では無かった。ゆっくりと腕を振り、森羅万象を発動。
五指に炎が灯り、それはすぐに五つの巨大な火の玉として、地面へと叩きつけられる。──直後、怒号と悲鳴。手加減したとはいえ、
何人かの式神使い達が爆発によって地面へと倒れ付していた。だが──数が少なすぎる。もっと居たはずなのに、と思っていると、
「お久しぶりです。戒さん」
遠くから声が響き、それは一瞬にして接近してきた。大気を切り裂いて、九我山令が拳を構えて疾走してくるのを視認。
すぐさま、けん制として雷撃を放つが、令はそれを軽々と避ける。──速い。今までの令とは段違いの速度だった。
「令か。また、成長したようだな」
「お陰様で──色々と考えさせられましたよ」
一瞬で戒に接近し、拳を乱打する令。だが、それは戒の着ていた魔具製のコートがすばやく反応し、全て弾き返した。
だが、令は全くひるんだ様子が無い。戒の空中での回し蹴りを軽く回転してかわし、そのまま戒の肩を掴んで、
回転するように地面へと投げつけた。
「──っ!」
「碧ちゃん。行くよ!」
「……うん!」
令は落下する戒目掛けて勢い良く下降すると、手甲のついた右腕を振り下ろした。──直後、令の右腕が何倍にも巨大化し、戒へと命中。
これが碧の式神【打出ノ拳】手甲型の式神であり、腕の部分とそれに触れたモノの大きさを好きな大きさに変えられる力。
通常の何倍もの太さの腕で殴りつけられた戒だが、魔具製のコートを着ていた為に、骨は折れていないようだ。
そして、それでも何とか会は空中で姿勢を建て直し、大地へと着陸する。だが──
「しゃああああああッ! 派手に行こうぜ十文字さんよォ!」
上級悪鬼の火鬼──太郎が燃え盛る巨大な剣を振り下ろしながら、上空より攻撃を仕掛けてきた。
戒はそれを紙一重で避け、転がりながら太郎から距離を取り、体勢を立て直そうとする。
だが、攻撃はまだ終わっていなかった。太郎の影から新たな敵影。──紫が無駄に放電しながら、戒へと迫る。
接近戦しかない。戒はそう判断し、懐から魔具製の短刀を取り出し、腰を落とす。
「残念やったな!」
戒の射程に入る直前、紫が大きく飛び上がり戒を大きく飛び越した。そして、その後ろには見た事が無い
小柄な少女。紫の放電は少女──碧の存在を隠す為の放電だったのだ。碧は、戒の放った斬撃を紙一重で避け、
その腕を掴むと、小柄な体を活かして、下段から顎を跳ね上げるような蹴りを見舞う。
幾ら最強の式神使いといわれる戒でも、肉体は生身の人間と大差無い。何とか魔具の膜を作り、少しは防御した
ものの、頭がクラクラして膝をつきかけてしまう。
「……太郎ちゃん、行くよ」
「ちゃんをつけんな、ちび!」
太郎と碧の風と炎を纏った拳の一撃が戒に炸裂し、戒は近くにあった木々をなぎ倒しながら転がっていった。
「……ちびじゃないもん。碧だもん」
碧のローキックが太郎に炸裂し、痛みに飛び上がる太郎。その合間を紫と神憑した令が走っていく。
腕にはレールガン。放電しながら、コンデンサへと電力を送っていき、その照準を戒へと合わせた。
「厄介なコンビネーションだ。何時の間に、こんな強くなったんだか」
戒がそう言いながら起き上がり、コートの袖から鎖分銅を射出した。完全に射撃体勢に入っていた
令はそれを避ける事が出来ない。胸の中心に鈍い痛みが走り、吹き飛ばされてしまう。
その間に戒は碧と太郎が接近してくる前に、力を練り上げる。先ほどまでとは違い、一つの属性ではなく
複数の属性の力を構成。結果、燃え盛る氷。放電する炎といった常識では考えられない力が発生。
「これが、森羅万象の真骨頂だ」
その一つ一つの力のレベルが高い。──いや、高すぎた。直撃したら確実に命が無いと判断した。
令達はすぐに防御体制に入るが、間に合うかどうか微妙な所。──その時だった。
上空で何かが光る気配。上を向くと、無数の狐を模した光が戒目掛けて流星のように降り注いでいく。
「あ……さ、運命さん!」
着弾した付近に猛烈な爆風。そして、令の目の前に天美運命がゆっくりと着地し、
「助っ人に来たよ、令。ユニオン関係じゃないのに…………ってあれ?」
運命は、令ではなくその隣に居た碧を見て硬直した。碧も碧で一瞬呆けたような表情で固まる。
そして──令の中から紫が慌てて飛び出してきて、運命を驚きを隠せない顔で見据えると、
「ば、ババァ! アンタ、何でこんなトコにおるんや!」
「……運命、人間嫌いだった筈」
それに一番困惑したのは、令だった。何故、この二人が運命の事を知っているのだろうかと思う。
「あれ……紫ちゃんと碧ちゃんは、運命さんと知り合いなの?」
「知り合いというよりも、この二人は昔九尾の狐に属してた鬼神。その時に、運命と喧嘩して出て行ったの」
「ふ、フン! あたしは謝る気はないで。 アレはババァの方が悪いかんね」
「……私も。あれは運命がくーちゃんを苛めたから悪い」
どうやら深い因縁があるようで、紫と碧は敵意をむき出しにして令の後ろへと隠れた。
……威勢が良いくせに運命の事が恐いようである。自分も姉や梨香から聞いた程度だが、昔の運命は
兎に角恐かったらしい。令が出会った頃には穏やかな人物となってはいたようだが。すると運命、持っていた阿修羅姫を
地面に突き刺し、頭を下げ、
「あの時は、確かに運命が悪かった。ごめんね、紫、碧。運命は凄く反省してるから許して欲しい」
その言葉に今度は度肝を抜かれたような表情になる紫と緑。それもその筈。二人の知っている天美運命とは
絶対に自分の非を認めない我が侭の権化のような存在だったのである。その運命がこうやって素直に反省して
頭を下げている。本当にこれが天美運命なのかと思ってしまうほどに、運命は変わっていた。その光景を見ていた令は、空気を読んだのか、
「ほら、謝ってるよ。──僕の言いたい事がわかるね?」
と二人を嗜めるような視線を向けて言い放った。
「あ……ああ、も、もうええよ。ウチらかて二十年近く前の事を何時までも怒っておらんし」
「……私もいい。くーちゃんとやまちゃんはまだ生きてるの?」
「生きてるよ。空我と大和はなんだっけ……女の子を喜ばせるお店を初めたから、最近は全然会ってないけど」
その言葉に大きく反応したのは碧だった。ドス黒いオーラを撒き散らし始め、何やらブツブツと呟き始める。
少しだが、和やかな雰囲気が流れた。紫と運命は照れくさそうに、お互いの視線を合わせようとしない。
そして──完全に蚊帳の外に置かれていた太郎が、ため息とともに令達に告げた。
「おい。十文字戒はとっくに行っちまったぞ」
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