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レポートを幾つか提出したのでその合間に投稿。
次々回位からPASTのクライマックスな展開に入ります。
第33話:全ては、ほんの些細な願いから
 


 希の葬式は行わなかった。ただ、希の着ていた洋服だけを埋めた墓を作っただけ。
 凛は墓にすがりついて泣きじゃくり、クールな千里も大声を上げて泣いていた。戒も泣いた。
 四つ子達は泣きながら自分を責めて、責めて、ずっと責め続けた。

「僕が旅行に行こうなんて言ったから──」

「あの時、買い物についていけば──」

「私が体調悪くしたから──」

「無理に旅行に誘わなければ──」

 毎日、十文字家には涙だけが流れていた。それでも、彼らが立ち直れたのは未希の存在があったから。
 希の面影を持つ未希を大切に育ててあげよう。自分達の所為で失った母の代わりをしてあげよう。
 それだけが彼らの生きる理由だった。未希から絶対に笑顔を絶やさないようにする。そして、いつか純血に復讐を──と。
 しばらくすると、遠音が退院して十文字家にやってきた。その手足に希と一緒に召還した式神を携えて。
 凛は自分を相当責めているのか、前にも増して十文字家に来るようになった。未希の世話を率先して行い、未希の望む事なら何でもやった。
 やがて、未希が保育園に入る頃には、何かの行事があるとすぐに駆けつけてきた。一之瀬での立場、仕事の全てを投げ捨ててでも。
 そしてその頃に、戒は保育園に入ってまもない未希にある日、真剣な表情で一つ問うた。

「未希。毎日が楽しいか? 今の世界が好きかい?」

 未希は無邪気な笑顔で、楽しいと答えた。保育園からの報告によると、中々良い人間関係を築いているらしい。
 その事に安堵した戒達は、純血への復讐をやめた。未希が今の世界を楽しんでいるなら、それでいい。
 だから──ラグナロクには滅ぼさせない。潜伏していた千春と千夏に連絡し、ユグドラシルの動力部を爆破させ、
 自らも仲間を引き連れて、鬼神達の討伐へと向かった。鬼神達には少し悪いと思いつつも、
 未希の幸せを脅かすような存在を生かしておくわけにはいかない。そして、戒の思惑通り、ラグナロクの夢は絶たれた。
 やがて、未希が保育園を卒業し、全員から愛されながら晴れて小学校へ入学する事になると、

「俺は反対だ。未希を純血の多い普通の小学校に入学させるだと? 遠音、流石の俺でも怒るぞ」

「だが、未希は保育園の友達と同じ小学校に行きたいと言っている。それは、お前のエゴだぞ。
 重要なのは、お前の感情じゃないんだ。未希の好きな道を選ばせてやれ。それが、親だろうが!」

 ぶつかり合う遠音と戒の意見。戒は純血が怖くてしょうがなかった。未希も希のように殺されてしまうのではないか。
 苛められて、自殺に追い込まれてしまうのではないか。未希がもし居なくなってしまったら、
 もう戒は何にすがって生きていけばいいのかわからない。遠音もその辺りの気持ちはわかっているようではあるが、
 何時までもそれでは駄目だという事を薄々と感づいていた。未希を溺愛してしまう余り、
 戒は偶に未希の幸せを妨げるような事を無意識の内に取ってしまう事がある。
 自分達はそのストッパーと、心を鬼にして、遠音は続けた。

「それにな。そういう娘のピンチを支えてやるのが、家族ってものだろう。私が言うと皮肉にしか聞こえないがね」

「…………いや、俺が悪かった。うん。ここは未希の選択に任せるのがいいだろう」

 そんな小競り合いが幾つかあったが、それでも十文字家はかつての幸せを取り戻しつつあった。
 戒はひたすら未希の世話に従事し、千秋と千冬は十文字特区の管理、十名家の管理を戒から引き継ぐ。
 そして、希が消えてしまってから数年。未希はすくすくと成長し、家族に幸せを振りまいた。
 運動会には十文字家だけでなく、遠音や凛や千里や万里も駆けつけて未希を応援した。
 バレンタインデーには、未希に好きな人でも出来たんじゃないかと戒や千秋、千冬はドキドキしながら見守り、遠音や凛に呆れられた。
 また、遠足にこっそりと魔具を使いついていき、頭と勘の良い未希に一瞬で見破られ、怒られた事もある。 

 ──それでも、再び笑顔が戻ってきていた。

 そして、未希が小学校を卒業する少し前、学校から一つ課題が出された。それは、卒業式に渡す父親と母親への感謝の手紙。
 未希は戒の分は書き上げたらしい。思春期なのか、最近距離を置かれていた戒は、遠音からそのような事を聞いた。
 だが、母への手紙は白紙だった。無理もない。未希には、希の話は殆どしていなかった。病気で死んでしまったと嘘をついただけ。
 そろそろ全てを話すべきか。それとも、成人するまで待つか。戒はしばらく決断に迷ってしまっていた。
 自分が集め、編集した反逆の十文字事件の資料を見ながら物思いに耽る毎日。何時か、これを見せながら説明してあげなくてはならないからだ。
 そして、そのまま卒業式も終わってしまったある日。戒が十名家の話し合いの仕事を済ませ、一度家に帰宅すると、誰も居なかった。
 千春と千夏と遠音は買い物。千秋と千冬は遠出し、監査。未希の姿を探してみるも、何処にもいない。

「遊びにでもいったのかな……?」

 小学校が十文字特区内に無かったので、偽装のマンションを一軒借りてある。そちらで友達と遊んでいるのではないか。
 と思い、電話してみると出ない。警備会社に連絡して探させてみても居ない。一度、戒は部屋に戻ってみる事にした。そして──

「あ……」

 自分の部屋のパソコンがついていた。しかも、戒の集めたデータが開かれた形跡がある。
 そして、パソコンの上には置手紙が置いてある。小学生とは思えない、丁寧な字でそこにはこう書いてあった。

 ──お母さんに会って伝えたい事があるの。方法も大体わかったので、しばらく旅にでます。
  
 ついに、恐れていた事が現実になってしまった。未希の式神の特性上、捕まえるのは不可能に等しい。
 だから、戒は決めた。未希が何か危険な方法をとらない内に、自分自身の手で希を取り戻そうと。
 少し家の中を調べてみると、未希がどのようにして希と会いに行くかはすぐにわかった。
 倉庫にあった、かつての十文字が「時を越える魔具」を作ったという文献が何度も、何度も読み返された形跡がある。

「そんなに、会いたかったのか……」

 未希は生まれてから一度も母親に会いたいと言った事が無かった。だけど、それは強がりだったのだろう。
 未希がどんな思いで、この文献を読んでいたか。それを考えるだけで、涙が零れてきた。
 だから──自分で作ろう、時を越える魔具を。構成の目処は頭の中で考えるだけで、すぐに立った。
 だがそれには莫大な量の反意思が必要になってしまう。──戒は、仲間や家族に助けを求めた。

「私は私の用事も同時に進めたい。それなら、協力させてもらおう。あの時の約束どおりね」

 六道紡は、相変わらずの笑みでそう答えてくれた。

「わかった。何でもやってやる──その代わり、今から俺の話す計画にお前の力を貸してくれ」

 二階堂雨龍は、何時もとは違う真剣な表情で協力してくれた。

「私も雨龍と同じく、協力させてもらうわ。未希の幸せの為だったら、何でもやらせて貰う……そして、万里も救ってあげたいの……」

 三枝千里は計画を殆ど話していないのに、未希と万里の為にとすぐに快諾してくれた。

「私の力は何の為にあると思と思ってるんだ?──君達家族の為だろうに。今更頭なんか下げるな。阿呆」

 七海遠音は、自分を叱り付け、笑った。

「……やります。また会えたら、あの時言った酷い事を謝って、約束を果たすから」

 一之瀬凛は、決意を込めた瞳で戒を見据えながら言った。

 そして、その計画の第一弾として、九我山特区が紡によって襲撃されたのだ。
 もう──止まれない。ユニオンと敵対関係になる事は、その頃にはもうわかっていたが、止まらない。
 
「邪魔をするなら──潰す」

 全ては、母親に会いたい。誰もが願うほんの些細な願いから、この国を分断する争いはこうして始まったのである。














 ユニオンの本部ある、巨大な講堂。普段は殆ど人気が無いその場所には、今日は500人程の人間が集まっていた。
 陳列された椅子に座り、制服を着たユニオンの人間達が何が始まるかを待っている。制服を着ているといっても、大半が改造されている。
 式神や戦闘スタイルによっては、制服というのは邪魔になるからだ。大体が、慣れた服に制服を引っ掛けているというのがユニオンの基本。
 前面に設置された幹部席には、一つの空き。牧島郁人がいつも座っている席だけが空席となってしまっている。
 ユニオン最強の剣士と言われた郁人が式神と愛剣を破壊され、鬱状態に入ってしまったというのは有名な話。
 それでも、郁人の隊は統率が特に乱れているようには思えない。南野喜一を中心として、黙って全員が席についている。
 やがて──時間がきたのか、中央の椅子に座っていた千島蒼二が立ち上がった。それに伴い、話し声がどんどん無くなっていく。
 蒼二は壇上に上がり、マイクを二回叩くと、

「──十文字の狙いがわかった」

 とまず口にした。一瞬で、ざわめきが起きるもすぐにそれは消え去り、再び蒼二は喋りだす。

「敵は十名家の十文字派の直系。莉王や律と同じ世代の奴らだ。本家に問い合わせてみたが、
 ほぼ全員が家出扱いとなっているらしい。ま、当たり前だわな。本来は、十文字の下の家だし。
 あいつらの狙いは、反意思を集めて──あの反逆の十文字事件を無かった事にする事だ」

 反逆の十文字事件と聞いて、全員の表情が強張った。それ程までに忌々しい事件だった。
 罪の無い沢山の人間が殺され、当の十文字はのうのうと生きている。
 文句は言えない。相手は最強の十文字。その場でこちらが殺されてしまう。だからこそ、苛立ちが募っていた。

「あの事件で、一人の少女の命が、俺達人間によって奪われた。
勘違いで済ませられれば、それですむのだろうけど、実際はそうじゃないと思う。
俺だって──まともじゃ居られなかった。世界を恨み、人を恨み、その結果。運よくここに立っているわけだけどな」

 そういうと、蒼二は一呼吸おき、

「俺達ユニオンの幹部連の全員の見解はこうだ。──これ以上、十文字の好き勝手にはさせない。
もうそろそろ日本の各所に保管して貰っていたコアが全て届く。
 その後、十文字はそれを狙ってユニオンに攻めこんでくるだろう。また、戦いが始まるんだ」

 蒼二は一旦喋るのを止めて、隊員達の反応を見た。ユニオンの中には戦いを好まない者も多い。
 話し合いで解決させようという意思を持つ者が居る。蒼二だって出来れば、そうしたい。
 すると、遠く離れた場所で一人の隊員が手を上げた。蒼二は彼に目をむけ「どうぞ」と発言を促す。

「俺、反逆の十文字事件で姉が顔に大怪我を負ったんです。今でも、その傷は残っています。
 もし、十文字が反逆の十文字事件を無かった事にしてくれたら。姉ちゃんの傷も無くなるって
 事ですよね? それなら──俺は、十文字を応援しちまいそうです。
 あの傷で、姉ちゃんがどれだけ苦労してきたかを全て知ってる俺としては……なんていうか……その」

「いい質問をありがとう。確かに、君の言うとおりだと思う。それに、十文字を止めるって言うのは、俺達幹部の意思ってだけの話だ。
 君が戦いたくないのなら、戦わなくていい。俺達はそれを強要する気は全く無い。迷いのある奴は、死ぬだけだからな。
 ただ、俺達が止めたいって思うのは、そこに理由があるんだ。考えてみてくれ。
 君のお姉さんは確かに苦労したのかもしれない。その傷もコンプレックスだろう。
 たださ──あの事件が本当に無くなったとしよう。そしたら、"現在"は無いんだ。
 君や君のお姉さんがその傷と向き合ってきた全ての思いも、時間も、今意見した君の気持ちすらも消えてしまう。
 だから、ここで全員に聞きたい。──君達は、"現在"が好きか?」

 蒼二の質問に、誰もが口をつぐんでしまった。現在が幸せ。本当にそうなのだろうか、と考えてしまう。
 あの事件が無かったら、どんな未来になっているかは、誰にもわからない。
 そのわからない未来と、現在を比較し考えてみるも、答えを出すのが難しい。それをわかっている蒼二は更に続けた。

「反逆の十文字事件を消すっていう事は、あの事件の犠牲者や残された遺族の今までの状態を消すって事と同義だ。
 彼らの涙も、思いも、傷も全てが無に帰るが、もしかしたら犠牲者が帰ってくるかもしれない。はたまた、何処かでまた死んでしまうかもしれない。
 だけど、俺達は十文字のやり方が気に入らない。愛する人を助けるだか何だか知らないが、あいつらは自分達の罪を無くそうとしている。
 全ての人の悲しみを踏みにじって、世界を変えようとしているんだ。どれだけ、大切な人を失うのが悲しいと思う? 俺は世界を滅ぼしたかった。全てが憎かった。
 それでも嫁さんを貰って、二人の子供に恵まれたんだ。俺は今、とっても幸せだよ。あの時、諦めずに死ななくて良かったって素直に思える。
 そして、気づいたんだ。失った人は二度と帰ってこない。命は一度しかない。だから、人は生きていけるし、頑張れる。命を大切に出来る。
 ──さて、此処でもう一度問おう。俺達はあいつらの都合で一方的に攻撃され、尚且つ今この大切な現在を無くされようとしている。君達はこれについてどう思う?」
 
 ────嫌だ。と誰かが小さな声で呟いた。それは徐々に広がっていき、やがて大音量へ。
 中にはまだ迷っている者も居る。だが、大半の人間が手を上げて、思い思いの言葉をを叫んでいた。

「なら、戦おうか。怪我人も出るだろう。下手すれば、死人も出るかもしれない。これも、暴力の一つだからさ。
 それでも、俺は戦う。あいつ等の恨みも、罪も全て背負うつもりだ。俺達は正義の味方なんかじゃない。
 むしろ悪だ。あいつらの恨みや全てを背負える者だけが戦いに望んでほしいと思う。
 俺たちは俺たち自身の現在と明日を守るために──争いという悪を行う、また変わらない"何時も"を迎える為に!」

 蒼二がそう言うと、一際大きな拍手が鳴り響く。その時、自分がユニオンの長として認められた事を、蒼二は初めて実感した。
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